2018(04)
■1年ざっくり労ってね
++++
「塩見さーん、具がお肉しかないみたいなんですけど、これでいいんですか?」
「ああ。後はミヤがネギを持ってくる。今日やるのは魯山人風のすき焼きっつーヤツだからこれでいいらしい」
「お肉とネギだけ…?」
「心配すんな。お前が食うことを前提に飯は炊いてある」
「ありがとうございます」
連休に入ったということで、今日は塩見さんの家ですき焼き大会。今回呼ばれているのは俺と伊東さん、それから社員の高沢さん。今は俺と塩見さんで準備中、とは言っても大体塩見さんがやってくれてるんだけど。
魯山人風のすき焼きをやりたいって塩見さんに提案したのは伊東さんなんだって。それがどんなすき焼きかっていう画像を塩見さんが見せてくれたけど、本当に肉とネギだけだなあ。輪切りにしたネギを立てて、その周りを肉で囲んでるだけ。
「オミさーん、葱が来ましたよー」
「何だネギが来たって。まあ、上がれや」
「お邪魔しまーす。あっ、葱の支度しますねー」
「圭佑、そんなトコ突っ立ってないでお前も上がれよ」
「急で悪いんですけど1人参加者増えて大丈夫ですか? その分の食材は買って来てるんですけど」
「まあ、いいんじゃねえか」
「それじゃあお邪魔します」
高沢さんの後ろからひょっこりと顔を出したのは、朝霞くらいの身長をした男の人。サラサラの黒髪で、体格は、がっちりでもないけど華奢すぎない。でも細身っちゃ細身かな。彼は塩見さんの部屋が物珍しいのかきょろきょろと辺りを見渡している。
「万里、この人が俺の先輩の塩見さん」
「こんにちは。圭佑君の……続柄って言うか関係って何になるの?」
「幼馴染みでいいんじゃない?」
「圭佑君の幼馴染みの越野万里です。今は紅社の大学で物流や輸送についての勉強をしてます」
「塩見拓馬だ。で、こっちがウチのバイトの大石千景」
「万里と大石君はタメだよ。大学3年、21歳で」
「わー、そうなんだー。改めまして俺は大石千景。よろしくー」
台所では伊東さんがひたすらネギの輪切りをザクザク作っていて、本当にこれだけ全部食べるのって感じのネギの山が出来ている。でも、他に具がないからネギを食べるしかないんだもんなあ。味が染みて美味しいそうだけど、ちょっと不安にはなるよね。
人数分のコップもちゃんと用意する。俺は歩いて帰れる距離だからお酒もちょっと飲むけど。高沢さんは車だからお茶だろうけど伊東さんはどうかな。うん、確認したら塩見さんと伊東さんはビールだし高沢さんはお茶だった。
「越野くんは何飲むー?」
「何ある?」
「お茶とジュースとビールとチューハイがあるかな」
「じゃあ、ビールで」
「はーい」
さすがにサーバーのあるお店のようには行かないけれど、缶ビールの上手な入れ方というのも一応は頭にある。ビールの人の分を順番に入れている間に肉とネギの準備も出来たようで、卓上コンロの上に土鍋がセットされた。
写真で見たように輪切りのネギが鍋の中心に立てられていて、その周りを肉が囲っている。これが魯山人風のすき焼きらしい。匂いは普通のすき焼きだけど、どうなのかなあ。言い出しっぺの伊東さんは楽しそうだけど、他の人は「これでいいの?」って目が隠せない。
でも、白いご飯を用意してもらったのは塩見さんの温情だなあ。本当にありがたい。焼肉に行っても肉以外の物を挟むのは邪道だって言う塩見さんが、まさかご飯を挟ませてくれるだなんて。俺は絶対肉とネギだけじゃ満足しないもんなあ。
「よーし、煮えるのを待つだけだな」
「あっ、人数分飲み物入りましたー」
「おっ、さすが千景。注ぐの上手いな」
「お粗末様です」
「それじゃあ乾杯すっか」
今年の仕事はあと1週間残ってるけど、とりあえずは忘年会扱いということでかんぱーいとグラスを合わせる。塩見さんの飲みっぷりはいつ見ても凄い。グラスの半分くらいを一気に行くもん。
「あ、各自ちゃんと食えよ。鍋は戦争だからな、誰かが取ってくれることを期待するな。……つかお前何見てんだ」
「何か、塩見さんて髪色凄いしピアスじゃらじゃらだし、会社員って言うよりヤンキーかバンドマンみたいっすね。すごい仕事出来るっていうのは圭佑君から聞いてるんですけど」
「実際元ヤンで現バンドマンだからな」
「バンドは趣味なんすか? それともメジャー目指してるんですか?」
「微妙なトコだな。メンバーとの熱量にはちょっと差があるかもしれねえ」
「ちなみに楽器とかパートって」
「ベースボーカルだ」
「へー、カッコいいっすね! あっ、友達にギターやってる奴とドラムやってる奴がいるんですけど、ベースの人って初めて会うんで。えっ、ライブとかあるんですか? 日が合えば行ってみたいです」
「あ、アタシも興味ありますオミさんのライブ」
「年末に1本あるけど、内輪の集まりっぽいし外部の人間が入れるのかは知らねえぞ。ネットで生配信するらしいけど」
……とみんなが塩見さんのバンドの話に夢中になってる間に俺は俺でお肉とご飯を食べる。塩見さんがいる食卓は基本戦争だから、こういう時に食べておかないと。あっ、ネギも思ってたより美味しいなあ。甘くって。
って言うか越野くんに既視感があるなあと思ったら、ステージに関わらない朝霞っぽいんだ。人に対する好奇心が強いと言うかグイグイ来るところがそれっぽい。ちなみに塩見さんのライブは1回行ったことがあるけど、何か……うん。多くは語れない凄さがあったよね。
end.
++++
倉庫すき焼きの回です。ここにこっしーが加わって来たけどしれっと名前が夏からちょこちょこ出て来てる高沢さんの関係らしい。
で、安定の姉ちゃんはネギ要員。話の中では語られてないけどこれは姉ちゃんが自前で栽培したヤツですね。甘くておいしい冬ネギ。
そして初対面の人にこうまで切り込む越野万里の度胸である。確かにちーちゃん的には既視感を覚えるやろなあ
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「塩見さーん、具がお肉しかないみたいなんですけど、これでいいんですか?」
「ああ。後はミヤがネギを持ってくる。今日やるのは魯山人風のすき焼きっつーヤツだからこれでいいらしい」
「お肉とネギだけ…?」
「心配すんな。お前が食うことを前提に飯は炊いてある」
「ありがとうございます」
連休に入ったということで、今日は塩見さんの家ですき焼き大会。今回呼ばれているのは俺と伊東さん、それから社員の高沢さん。今は俺と塩見さんで準備中、とは言っても大体塩見さんがやってくれてるんだけど。
魯山人風のすき焼きをやりたいって塩見さんに提案したのは伊東さんなんだって。それがどんなすき焼きかっていう画像を塩見さんが見せてくれたけど、本当に肉とネギだけだなあ。輪切りにしたネギを立てて、その周りを肉で囲んでるだけ。
「オミさーん、葱が来ましたよー」
「何だネギが来たって。まあ、上がれや」
「お邪魔しまーす。あっ、葱の支度しますねー」
「圭佑、そんなトコ突っ立ってないでお前も上がれよ」
「急で悪いんですけど1人参加者増えて大丈夫ですか? その分の食材は買って来てるんですけど」
「まあ、いいんじゃねえか」
「それじゃあお邪魔します」
高沢さんの後ろからひょっこりと顔を出したのは、朝霞くらいの身長をした男の人。サラサラの黒髪で、体格は、がっちりでもないけど華奢すぎない。でも細身っちゃ細身かな。彼は塩見さんの部屋が物珍しいのかきょろきょろと辺りを見渡している。
「万里、この人が俺の先輩の塩見さん」
「こんにちは。圭佑君の……続柄って言うか関係って何になるの?」
「幼馴染みでいいんじゃない?」
「圭佑君の幼馴染みの越野万里です。今は紅社の大学で物流や輸送についての勉強をしてます」
「塩見拓馬だ。で、こっちがウチのバイトの大石千景」
「万里と大石君はタメだよ。大学3年、21歳で」
「わー、そうなんだー。改めまして俺は大石千景。よろしくー」
台所では伊東さんがひたすらネギの輪切りをザクザク作っていて、本当にこれだけ全部食べるのって感じのネギの山が出来ている。でも、他に具がないからネギを食べるしかないんだもんなあ。味が染みて美味しいそうだけど、ちょっと不安にはなるよね。
人数分のコップもちゃんと用意する。俺は歩いて帰れる距離だからお酒もちょっと飲むけど。高沢さんは車だからお茶だろうけど伊東さんはどうかな。うん、確認したら塩見さんと伊東さんはビールだし高沢さんはお茶だった。
「越野くんは何飲むー?」
「何ある?」
「お茶とジュースとビールとチューハイがあるかな」
「じゃあ、ビールで」
「はーい」
さすがにサーバーのあるお店のようには行かないけれど、缶ビールの上手な入れ方というのも一応は頭にある。ビールの人の分を順番に入れている間に肉とネギの準備も出来たようで、卓上コンロの上に土鍋がセットされた。
写真で見たように輪切りのネギが鍋の中心に立てられていて、その周りを肉が囲っている。これが魯山人風のすき焼きらしい。匂いは普通のすき焼きだけど、どうなのかなあ。言い出しっぺの伊東さんは楽しそうだけど、他の人は「これでいいの?」って目が隠せない。
でも、白いご飯を用意してもらったのは塩見さんの温情だなあ。本当にありがたい。焼肉に行っても肉以外の物を挟むのは邪道だって言う塩見さんが、まさかご飯を挟ませてくれるだなんて。俺は絶対肉とネギだけじゃ満足しないもんなあ。
「よーし、煮えるのを待つだけだな」
「あっ、人数分飲み物入りましたー」
「おっ、さすが千景。注ぐの上手いな」
「お粗末様です」
「それじゃあ乾杯すっか」
今年の仕事はあと1週間残ってるけど、とりあえずは忘年会扱いということでかんぱーいとグラスを合わせる。塩見さんの飲みっぷりはいつ見ても凄い。グラスの半分くらいを一気に行くもん。
「あ、各自ちゃんと食えよ。鍋は戦争だからな、誰かが取ってくれることを期待するな。……つかお前何見てんだ」
「何か、塩見さんて髪色凄いしピアスじゃらじゃらだし、会社員って言うよりヤンキーかバンドマンみたいっすね。すごい仕事出来るっていうのは圭佑君から聞いてるんですけど」
「実際元ヤンで現バンドマンだからな」
「バンドは趣味なんすか? それともメジャー目指してるんですか?」
「微妙なトコだな。メンバーとの熱量にはちょっと差があるかもしれねえ」
「ちなみに楽器とかパートって」
「ベースボーカルだ」
「へー、カッコいいっすね! あっ、友達にギターやってる奴とドラムやってる奴がいるんですけど、ベースの人って初めて会うんで。えっ、ライブとかあるんですか? 日が合えば行ってみたいです」
「あ、アタシも興味ありますオミさんのライブ」
「年末に1本あるけど、内輪の集まりっぽいし外部の人間が入れるのかは知らねえぞ。ネットで生配信するらしいけど」
……とみんなが塩見さんのバンドの話に夢中になってる間に俺は俺でお肉とご飯を食べる。塩見さんがいる食卓は基本戦争だから、こういう時に食べておかないと。あっ、ネギも思ってたより美味しいなあ。甘くって。
って言うか越野くんに既視感があるなあと思ったら、ステージに関わらない朝霞っぽいんだ。人に対する好奇心が強いと言うかグイグイ来るところがそれっぽい。ちなみに塩見さんのライブは1回行ったことがあるけど、何か……うん。多くは語れない凄さがあったよね。
end.
++++
倉庫すき焼きの回です。ここにこっしーが加わって来たけどしれっと名前が夏からちょこちょこ出て来てる高沢さんの関係らしい。
で、安定の姉ちゃんはネギ要員。話の中では語られてないけどこれは姉ちゃんが自前で栽培したヤツですね。甘くておいしい冬ネギ。
そして初対面の人にこうまで切り込む越野万里の度胸である。確かにちーちゃん的には既視感を覚えるやろなあ
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