2017(02)

■offer a sacrifice

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「日曜日に勝つのは最高なんですッ! 試合のない月曜日もウキウキしていられるんっす!」
「やァー、その気持ちはわかりヤす。でも奈々、昨日の対戦チームはどこだったンすかねェー」
「悪いことは言わないからサークル室が闇に包まれる前にその話は終わった方がいい」
「はっ…!」

 政治・宗教・野球の話はNGだとよく言うけれど、それはサークル社会でも同じなのだと僕は思う。
 MMPというサークルでは、野球の話になることも多々ある。今日は見るからにウキウキしている奈々に、渋い表情の野坂とりっちゃん。ここまではまだいい。問題は、今にも世界を混沌の渦に飲み込まんとする菜月さんだ。
 彼、彼女たちにはプロ野球のリーグに特定の贔屓球団があるらしい。僕はスポーツにそこまで興味がないからあまりよく知らないのだけど、その勝敗や試合内容などに一喜一憂しては酒が美味いとか何とかと、楽しんでいるようだ。

「その様子を見ていると、奈々の応援している球団に菜月さんのそれが負けたのかな?」
「圭斗先輩、菜月先輩の応援しているチームは今大変なことになっているんです」
「一種のオカルト説まで飛び出てるンすわ、1回勝つごとに1人いなくなるとかナントカ。ま、オカルトすけど」
「いなくなる?」
「主力がケガするンすわ」
「菜月先輩の好きな選手もケガで登録を抹消されまして、その頃からさらに暗黒面の力が増幅されたように思います」

 菜月さんはよくスポーツ新聞を読みに図書館に入り浸っているようだけど、最近ではそれをすることもやめてしまったらしい。好きなチームが勝てばそれは嬉しいけれど、好きな選手はいないから少し複雑とかなんとか。
 今では野球の話になる度に菜月さんの魂が黒く淀んで浮遊しているようにも見える。自軍の勝利に浮かれていた奈々も菜月さんを励まし始める始末。

「菜月先輩元気出してくださいッ! こないだエースが1軍に戻って来たじゃないですかッ!」
「そうですよ。2軍で実戦復帰している選手も少しずつ出て来ていると聞いています」
「……そ、そうだな」
「まァ、菜月先輩の好きな選手は当分ムリっつー事実に変わりないスわ」
「うう……」
「律! お前は何てことを!」
「りっちゃん先輩それはダメっす!」
「僕には菜月さんの絶望は想像出来ないんだけど、僕にもわかるように例えてくれないかい?」

 すると、野坂とりっちゃん、それから奈々がどう例えれば僕にもわかるのかを考え始めた。りっちゃんに急所を突かれた菜月さんは相変わらず死んでいるし、かつてここまで死んでいる菜月さんを僕は見ただろうか、いや、ない。

「インターフェイスの前対策委員と定例会の先輩がとうとう不調の高崎先輩と満身創痍の朝霞先輩しか生き残ってない、くらいな感じスかね」
「あー、ぽい。高崎先輩が不調なところがポイントだな」
「ええと、それは何の例えかな?」
「チームの顔のスター選手の例えスわ。体が動いてる時点でありがたいンすけど、それまでの成績と比較すると物足りないっつー感じスかね」
「なるほどね。ところで僕や菜月さんはどうしたのかな」
「圭斗先輩は選手会長的なポジションかと思われますので、最初からいません」
「菜月先輩は夏風邪を拗らせていなくなッたっつー体にしヤしょう」
「あー、それだ」

 あまりよくわからないのだけど、相当ヤバいことだけはわかった。インターフェイスで高崎が不調で菜月さんも僕もいないとか。誰が技術的なところで一本締めるんだ。誰がスポンサーの企業サマと話をするんだ。

「ん、菜月さんの気持ちはほんの少しだけ察することが出来なくもないけれど、7月に入っているしあまり野球の話を引き摺ってもらうのも困るんだよ。作品出展の事もあるんだ」
「ナ、ナンダッテー!?」
「それでなくてもウチは三井が好き勝手なことを他所様に言っているからハードルが上がってるんだ。菜月さん、戻ってこい」
「……三井をボコって生贄にすればいいのか?」
「ん、それはどういう発想かな?」

 今の菜月先輩にリーチの長い物を持たせると死人が出るぞ。そう野坂が呟いたのは聞かなかったことにして、僕は少し強引にでも話をサークル活動の方にぶん投げることにした。


end.


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久し振りにMMPの野球事情のお話。菜月さんが死んでいる模様。反論する元気もないぞ! 奈々はうっきうきだよ!
圭斗さんはスポーツ全般に興味が薄く、多分野球だろうとサッカーだろうとどういうチームがあるのかも知らないし、それで盛り上がれるのも不思議に思ってるような人。
そして作品出展についてさらりと触れる定例会議長サマである。作品出展……お話の上でやるの?w

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