2018(04)
■しらたきは主食かおかずか
++++
「菜月さん、それは何だい?」
「見ての通り、結びしらたきだけど」
「すごい量だね」
「そうか? これくらいなら余裕で食べるだろ」
MMPおでん大会当日。サークルはまだ活動しているけど、僕と菜月さんは会場となる僕の部屋に前乗りしていた。このおでん大会の本題は、先に購買の抽選会で菜月さんが当ててきた米の消費にある。菜月さん宅の炊飯器は5合炊き。しっかりと活躍してもらわないといけない。
だけど、米を炊くという目的とは別に菜月さんが持って来た袋だね。その中には、結構な量の結びしらたきが入っていた。確かにしらたきはおでんの具としてオーソドックスだけど、バランスというものも考えていただきたい。菜月さんの食の嗜好は極端だ。
「この量を土鍋に入れるとなると、他の具が入らないんじゃないかな」
「いや、土鍋に入れなくても、別枠でしらたき用の鍋を作ればいいんじゃないかと思って」
「ん? 何を言い出したのかな?」
「だから、台所にしらたき用の鍋をスタンバっとく的な?」
「ちなみに、台所には追加用の寸胴を置いてあるんだけど?」
「お前の部屋のコンロは2口あるじゃないか」
ああ言えばこう言う。菜月さんはしらたきを手に僕に迫る。菜月さんは決しておでんの他の具が食べられないというワケではない。むしろちくわやはんぺんといった練り物は好きな部類だし、彼女のリクエストに則り卵もたくさん用意してある。
菜月さんとおでんにまつわるエピソードで強烈だったのは、大学に上がるまで大根を食べたことがなかったという物だね。サークル後に先輩方と夕飯を食べに行ったときのこと。プレハブのラーメン小屋で冬になると解禁されたおでんメニューを眺めていたんだ。
みんな、とりあえず大根という感じでそれを注文した。もちろん僕も。だけど、菜月さんは大根を注文しなかった。その店の大根は本当に味が染みていて、箸でスッと切ることが出来るし理想的な大根だったんだ。美味しいのにどうして食べないんだとみんなで彼女に訊ねた。
すると、大根が好きじゃないと。おでんの大根は中まで味が染みてないし言うほど柔らかくないから、と。最初に食べたときの経験をそのときまでずっと引きずっていたんだ。僕たちは、怖くないから1回食べて見たらいいよと言ってようやくひとつ食べさせた。
結果、うまーと大根を食べていたんだけど、その時もこんにゃくを食べていたなあと今になって思い出す。菜月さんのこんにゃく好きは今に始まったことではないらしい。コンビニでおでんを買うときもその買い方がヤバいとはよく聞く。
「僕は熱燗を飲みたいんだよ」
「熱燗のためにコンロは埋まっていると」
「まあ、そういうことだね」
「それと、一応聞いておくけど大根はちゃんと柔らかくなってるだろうな」
「その辺はご心配なく。僕を誰だと思ってるのかな」
「何でも形から入りたがる似非本格派の松岡圭斗さんです」
「言い方」
とりあえず、準備の本題は炊飯器のセット。僕は菜月さんの話を聞きながら、預かっていた米の袋に切り込みを入れていく。今回使うのは菜月さんの炊飯器だけ。カレーパーティーなら3合炊きの僕の物も動くことになるんだけど、おでんだしね。
菜月さんはしらたきを手に体育座りで嘆願を続ける。しらたき用の鍋を作るかおでんの土鍋にしらたきコーナーを作るようにと。しかしまあ、しらたきが好物だなんて菜月さんは本当に変わっているよね。ダイエット目的などじゃなくて、普通にこんにゃくが好きだって言うんだから。
「まさかとは思うけど、しらたきと卵だけ食べ続けるわけじゃないんだよね?」
「もちろん他の具も食べるぞ。と言うか、うちがしらたきを食べ尽くして他のメンバーにしらたきが行き届かなくなるのを防ぐための心配りじゃないか」
「心配り、ねえ」
「実費だぞ!」
「それはどうも。だけどね、しらたきをそこまでみんな食べるかと言えば、これまでの話を聞いているとそこまででもないんじゃないかと思うんだよ」
「それは圭斗の推測だろ? それに、他のメンバーがそこまで食べなくてもこれくらいの量ならうちが食べるし問題ない」
「そうですか」
ひとまずしらたきは預かり、寸胴の中に入れておくことに。寸胴の中ならここからしばらく放置で何となくつゆが絡むだろうし。あとはまたサークル室に戻って、連中を拾いに行く。神崎の車は軽四だから三井以外の全員を乗せて来れないのがちょっと面倒なんだ。
「菜月さん、寸胴がとろ火になってるから一応火を見ていてもらえるかな。僕は一度サークル室に帰るし」
「わかった」
「まさか、これ以上しらたきを増やそうとは考えてないよね」
「さすがにもう持ってないぞ」
「それじゃあ行ってきます」
「いってら」
end.
++++
いつかのカレパの時にも圭斗さん宅で前乗りをしていたっけか。そんな菜圭のお話。しらたきを手に迫るぞ!
と言うか圭斗さん熱燗飲むって言ってるけど帰りもメンバーを送らなきゃいけないんだからパーティー中は飲めんやんけw
おでんでのご飯消費に関して言えば菜月さんは戦力にならんけど、ノサカがまあ食べるか。心配要らんかった
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「菜月さん、それは何だい?」
「見ての通り、結びしらたきだけど」
「すごい量だね」
「そうか? これくらいなら余裕で食べるだろ」
MMPおでん大会当日。サークルはまだ活動しているけど、僕と菜月さんは会場となる僕の部屋に前乗りしていた。このおでん大会の本題は、先に購買の抽選会で菜月さんが当ててきた米の消費にある。菜月さん宅の炊飯器は5合炊き。しっかりと活躍してもらわないといけない。
だけど、米を炊くという目的とは別に菜月さんが持って来た袋だね。その中には、結構な量の結びしらたきが入っていた。確かにしらたきはおでんの具としてオーソドックスだけど、バランスというものも考えていただきたい。菜月さんの食の嗜好は極端だ。
「この量を土鍋に入れるとなると、他の具が入らないんじゃないかな」
「いや、土鍋に入れなくても、別枠でしらたき用の鍋を作ればいいんじゃないかと思って」
「ん? 何を言い出したのかな?」
「だから、台所にしらたき用の鍋をスタンバっとく的な?」
「ちなみに、台所には追加用の寸胴を置いてあるんだけど?」
「お前の部屋のコンロは2口あるじゃないか」
ああ言えばこう言う。菜月さんはしらたきを手に僕に迫る。菜月さんは決しておでんの他の具が食べられないというワケではない。むしろちくわやはんぺんといった練り物は好きな部類だし、彼女のリクエストに則り卵もたくさん用意してある。
菜月さんとおでんにまつわるエピソードで強烈だったのは、大学に上がるまで大根を食べたことがなかったという物だね。サークル後に先輩方と夕飯を食べに行ったときのこと。プレハブのラーメン小屋で冬になると解禁されたおでんメニューを眺めていたんだ。
みんな、とりあえず大根という感じでそれを注文した。もちろん僕も。だけど、菜月さんは大根を注文しなかった。その店の大根は本当に味が染みていて、箸でスッと切ることが出来るし理想的な大根だったんだ。美味しいのにどうして食べないんだとみんなで彼女に訊ねた。
すると、大根が好きじゃないと。おでんの大根は中まで味が染みてないし言うほど柔らかくないから、と。最初に食べたときの経験をそのときまでずっと引きずっていたんだ。僕たちは、怖くないから1回食べて見たらいいよと言ってようやくひとつ食べさせた。
結果、うまーと大根を食べていたんだけど、その時もこんにゃくを食べていたなあと今になって思い出す。菜月さんのこんにゃく好きは今に始まったことではないらしい。コンビニでおでんを買うときもその買い方がヤバいとはよく聞く。
「僕は熱燗を飲みたいんだよ」
「熱燗のためにコンロは埋まっていると」
「まあ、そういうことだね」
「それと、一応聞いておくけど大根はちゃんと柔らかくなってるだろうな」
「その辺はご心配なく。僕を誰だと思ってるのかな」
「何でも形から入りたがる似非本格派の松岡圭斗さんです」
「言い方」
とりあえず、準備の本題は炊飯器のセット。僕は菜月さんの話を聞きながら、預かっていた米の袋に切り込みを入れていく。今回使うのは菜月さんの炊飯器だけ。カレーパーティーなら3合炊きの僕の物も動くことになるんだけど、おでんだしね。
菜月さんはしらたきを手に体育座りで嘆願を続ける。しらたき用の鍋を作るかおでんの土鍋にしらたきコーナーを作るようにと。しかしまあ、しらたきが好物だなんて菜月さんは本当に変わっているよね。ダイエット目的などじゃなくて、普通にこんにゃくが好きだって言うんだから。
「まさかとは思うけど、しらたきと卵だけ食べ続けるわけじゃないんだよね?」
「もちろん他の具も食べるぞ。と言うか、うちがしらたきを食べ尽くして他のメンバーにしらたきが行き届かなくなるのを防ぐための心配りじゃないか」
「心配り、ねえ」
「実費だぞ!」
「それはどうも。だけどね、しらたきをそこまでみんな食べるかと言えば、これまでの話を聞いているとそこまででもないんじゃないかと思うんだよ」
「それは圭斗の推測だろ? それに、他のメンバーがそこまで食べなくてもこれくらいの量ならうちが食べるし問題ない」
「そうですか」
ひとまずしらたきは預かり、寸胴の中に入れておくことに。寸胴の中ならここからしばらく放置で何となくつゆが絡むだろうし。あとはまたサークル室に戻って、連中を拾いに行く。神崎の車は軽四だから三井以外の全員を乗せて来れないのがちょっと面倒なんだ。
「菜月さん、寸胴がとろ火になってるから一応火を見ていてもらえるかな。僕は一度サークル室に帰るし」
「わかった」
「まさか、これ以上しらたきを増やそうとは考えてないよね」
「さすがにもう持ってないぞ」
「それじゃあ行ってきます」
「いってら」
end.
++++
いつかのカレパの時にも圭斗さん宅で前乗りをしていたっけか。そんな菜圭のお話。しらたきを手に迫るぞ!
と言うか圭斗さん熱燗飲むって言ってるけど帰りもメンバーを送らなきゃいけないんだからパーティー中は飲めんやんけw
おでんでのご飯消費に関して言えば菜月さんは戦力にならんけど、ノサカがまあ食べるか。心配要らんかった
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