2018(04)
■ギブミー・ギフト
++++
「はー……」
石川が眉間を抑えて溜め息を吐いている。割とよくある光景だが、眼精疲労がいつにも増してしんどいのだろう。オレも目は割と酷使する方だからその辛さはよくわかるのだが、石川の方がいくらか重症のようだった。
立ち上がった奴は、タオルを水で湿らせそれを電子レンジで加熱し始めた。蒸しタオルを作っているのだろう。原始的な手法ではあるが、一時的な癒しをもたらすにはそれでも十分効果的なのだ。どうやら余程しんどいらしい。
「あー……」
「眼精疲労か」
「それもあるけど肩腰もしんどい。そろそろマジでアリナミンに手を出そうか考え始めている」
「と言うか、まだ手を出していなかったのか」
「ここまでしんどいことはそうなかったからな。原稿とゲームと課題が重なるのはダメだ」
「一度ゲームを始めると27時間は余裕でぶっ通すからな、肉体的に疲弊するのはわかるが」
「いや、さすがに丸1日以上ぶっ通すことはしないけど」
原稿とゲームと課題。見事に目や肩に負担がかかりそうなコンボだ。こんなとき、趣味が同人活動だったりすると季節ごとに原稿に追われて大変なことになる。石川は割と律儀に夏冬の季節に合わせて精力的に活動をしている。それでなくても冬になって気温が下がると冷えが来る。
この研究室は冷暖房をあまりガンガンにかけることをしない。夏は冷え過ぎを防ぎ、冬は暖め過ぎを防ぐ。暖め過ぎると乾燥して喉を傷めるなどの不調をきたすゼミ生が多いことが発覚し、それらの使用はほどほどにしようということになっているのだ。
「美奈か」
「……徹は、何を…?」
「眼精疲労が酷いらしい。それから、肩と腰がどうとか」
「……徹は、ぎっくりも持ってるから……」
「コイツ、何気に全身ズタボロなんだな」
「うるせえ」
美奈は冷え性が強いようで、ゼミ室では夏でも冬でもひざ掛けを使用している。夏はともかく冬はひざ掛けだけでは足りんようで、カイロや湯たんぽなどを使用して寒さを凌いでいる。それなら空調を強めればいいのではないかと思うが、暖め過ぎれば頭も動かなくなるのだ。
「肩こりには、アーモンドのはちみつ漬けがいい……そう、聞いたことがある……」
「あー、俺も何か聞いたことがある。作るか…?」
「それこそアリナミンでいいのでは」
「いい値段するからな、いいアリナミンは。仕方ない、密林の欲しい物リストに入れておくか」
「信者に貢がせる気か」
通販サイトの欲しい物リストを公開するとそれを見た第三者がそのリストから買い物をしてくれて、欲しい商品がリストを公開した者に届く、ということらしい。オレはそのような使い方をしたことがないから本当に来るのかは知らんのだが。
アリナミンの他にも欲しいものを次々と欲しい物リストに入れていく石川だ。もちろん貢がせるだけではなく備忘録として入れている物もあるそうだが、安価帯のチョコレートなどが増えているような気がするのは貢がせる気満々ということか。
「貢がせる…?」
「石川のようにウェブ上で名の通っている者であれば、投げ銭の箱を用意しておけばある程度小遣いが入るし、欲しい物リストを公開すれば希望した商品が届いたりする。場合によっては商品の交換コードがDMに届くこともあるらしい」
「……クリエイターへのお布施…?」
「まあ、そのようなことだろう」
「うるせえ。俺に頑張れと言って投げ銭をするのは自由だ。さあ来いアリナミン、それが高ければチョコか蒸気のアイマスク」
こちらの想像以上に貢がせる気満々だった。それでなくてもLINEの着せ替えなどもちょこちょこ売れているようだし、細かいところで小遣いを稼いだり節約をしているらしい。しかし、絶え間なく作品を作り続けなければならん。尤も、それで食っていくワケでない限り、使命感に駆られる必要もないだろうが。
「ふう。少し楽になった」
「またすぐ酷使するのだろう」
「酷使しなければならない時期だからな。でも、アーモンドのはちみつ漬けは本当に作ろうかな」
「……食べる量は、1日10粒ほど……」
「とりあえず、アーモンドとはちみつも欲しい物リストに入れておくか」
「それくらい自分で買え」
「自分でも買うけど、もしかしてに期待して」
そう言って石川は席を立ち、もう一度蒸しタオルを作り始めた。そんなにしんどいなら原稿とゲームと課題、どれかひとつくらいやめてみればいいものを。しかし、簡単には手放せんからこその趣味なのだろう。課題は学生としての責務であるからともかくとして。
「目は蒸しタオル、肩はアーモンドでしばらく凌ぐとして、腰はどうしよう」
「……病院が、無難かと……」
「湿布でも貼っておけ」
「あまりしんどかったら一度電気でもかけてもらうか」
とは言え、かく言うオレもゲームをやり込んでいたら肩などがしんどくなることはある。オレもアーモンドのはちみつ漬けを始めてみようか。机の上に置いておけば食べたいときに摘まめそうであるし。
「石川、初回のアーモンドとはちみつは折半せんか。オレも食おうと思ってな」
「まさかお前から折半という単語が出て来るとは思わなかった。だが折半してもらえるなら大容量の物を買うか」
「美奈、お前はどうする」
「……私は、漬ける前のアーモンドをいただきたい……折半に協力する……」
end.
++++
星大組は何かとディスプレイとにらめっこをする機会が多いので、目肩腰がしんどいようです。
イシカー兄さんは何気に全身ズタボロ……エコさんの都合でぎっくりをやらせたり寝違えさせたりするしなあ
リン様から折半という単語が出て来るだなんて書いていて本当にビックリしたというのは内緒の話
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「はー……」
石川が眉間を抑えて溜め息を吐いている。割とよくある光景だが、眼精疲労がいつにも増してしんどいのだろう。オレも目は割と酷使する方だからその辛さはよくわかるのだが、石川の方がいくらか重症のようだった。
立ち上がった奴は、タオルを水で湿らせそれを電子レンジで加熱し始めた。蒸しタオルを作っているのだろう。原始的な手法ではあるが、一時的な癒しをもたらすにはそれでも十分効果的なのだ。どうやら余程しんどいらしい。
「あー……」
「眼精疲労か」
「それもあるけど肩腰もしんどい。そろそろマジでアリナミンに手を出そうか考え始めている」
「と言うか、まだ手を出していなかったのか」
「ここまでしんどいことはそうなかったからな。原稿とゲームと課題が重なるのはダメだ」
「一度ゲームを始めると27時間は余裕でぶっ通すからな、肉体的に疲弊するのはわかるが」
「いや、さすがに丸1日以上ぶっ通すことはしないけど」
原稿とゲームと課題。見事に目や肩に負担がかかりそうなコンボだ。こんなとき、趣味が同人活動だったりすると季節ごとに原稿に追われて大変なことになる。石川は割と律儀に夏冬の季節に合わせて精力的に活動をしている。それでなくても冬になって気温が下がると冷えが来る。
この研究室は冷暖房をあまりガンガンにかけることをしない。夏は冷え過ぎを防ぎ、冬は暖め過ぎを防ぐ。暖め過ぎると乾燥して喉を傷めるなどの不調をきたすゼミ生が多いことが発覚し、それらの使用はほどほどにしようということになっているのだ。
「美奈か」
「……徹は、何を…?」
「眼精疲労が酷いらしい。それから、肩と腰がどうとか」
「……徹は、ぎっくりも持ってるから……」
「コイツ、何気に全身ズタボロなんだな」
「うるせえ」
美奈は冷え性が強いようで、ゼミ室では夏でも冬でもひざ掛けを使用している。夏はともかく冬はひざ掛けだけでは足りんようで、カイロや湯たんぽなどを使用して寒さを凌いでいる。それなら空調を強めればいいのではないかと思うが、暖め過ぎれば頭も動かなくなるのだ。
「肩こりには、アーモンドのはちみつ漬けがいい……そう、聞いたことがある……」
「あー、俺も何か聞いたことがある。作るか…?」
「それこそアリナミンでいいのでは」
「いい値段するからな、いいアリナミンは。仕方ない、密林の欲しい物リストに入れておくか」
「信者に貢がせる気か」
通販サイトの欲しい物リストを公開するとそれを見た第三者がそのリストから買い物をしてくれて、欲しい商品がリストを公開した者に届く、ということらしい。オレはそのような使い方をしたことがないから本当に来るのかは知らんのだが。
アリナミンの他にも欲しいものを次々と欲しい物リストに入れていく石川だ。もちろん貢がせるだけではなく備忘録として入れている物もあるそうだが、安価帯のチョコレートなどが増えているような気がするのは貢がせる気満々ということか。
「貢がせる…?」
「石川のようにウェブ上で名の通っている者であれば、投げ銭の箱を用意しておけばある程度小遣いが入るし、欲しい物リストを公開すれば希望した商品が届いたりする。場合によっては商品の交換コードがDMに届くこともあるらしい」
「……クリエイターへのお布施…?」
「まあ、そのようなことだろう」
「うるせえ。俺に頑張れと言って投げ銭をするのは自由だ。さあ来いアリナミン、それが高ければチョコか蒸気のアイマスク」
こちらの想像以上に貢がせる気満々だった。それでなくてもLINEの着せ替えなどもちょこちょこ売れているようだし、細かいところで小遣いを稼いだり節約をしているらしい。しかし、絶え間なく作品を作り続けなければならん。尤も、それで食っていくワケでない限り、使命感に駆られる必要もないだろうが。
「ふう。少し楽になった」
「またすぐ酷使するのだろう」
「酷使しなければならない時期だからな。でも、アーモンドのはちみつ漬けは本当に作ろうかな」
「……食べる量は、1日10粒ほど……」
「とりあえず、アーモンドとはちみつも欲しい物リストに入れておくか」
「それくらい自分で買え」
「自分でも買うけど、もしかしてに期待して」
そう言って石川は席を立ち、もう一度蒸しタオルを作り始めた。そんなにしんどいなら原稿とゲームと課題、どれかひとつくらいやめてみればいいものを。しかし、簡単には手放せんからこその趣味なのだろう。課題は学生としての責務であるからともかくとして。
「目は蒸しタオル、肩はアーモンドでしばらく凌ぐとして、腰はどうしよう」
「……病院が、無難かと……」
「湿布でも貼っておけ」
「あまりしんどかったら一度電気でもかけてもらうか」
とは言え、かく言うオレもゲームをやり込んでいたら肩などがしんどくなることはある。オレもアーモンドのはちみつ漬けを始めてみようか。机の上に置いておけば食べたいときに摘まめそうであるし。
「石川、初回のアーモンドとはちみつは折半せんか。オレも食おうと思ってな」
「まさかお前から折半という単語が出て来るとは思わなかった。だが折半してもらえるなら大容量の物を買うか」
「美奈、お前はどうする」
「……私は、漬ける前のアーモンドをいただきたい……折半に協力する……」
end.
++++
星大組は何かとディスプレイとにらめっこをする機会が多いので、目肩腰がしんどいようです。
イシカー兄さんは何気に全身ズタボロ……エコさんの都合でぎっくりをやらせたり寝違えさせたりするしなあ
リン様から折半という単語が出て来るだなんて書いていて本当にビックリしたというのは内緒の話
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