2018(03)
■Walking Work
++++
「さあ圭斗、散歩の時間だぞ」
「……何もこんな日を選ばなくてもいいんじゃないかな?」
「早くしろ! 年末特番が完成しないじゃないか!」
菜月先輩と圭斗先輩がバトっていらっしゃる。早く席から立って外に出るぞと煽る菜月先輩と、絶対外になんか出たくないと駄々をこねる圭斗先輩だ。今日はこれからMMPの年末特番・ブラケイト企画の収録なのだけど、一向に進みませんね。
「やァー、この程度の寒さで収録は止められないンすよねェー」
「ほら、りっちゃんPもこう言ってるぞ!」
「菜月さんとりっちゃんを基準に寒さを語られたら僕は死んでしまう。今日の豊葦の最低気温は見たかな? マイナス5度だよ? 最高気温は8度。わけがわからないよ」
「あ、自分マイナス7度から出て来てるンで」
「うちの地元も最高気温が5度だぞ。こっちは8度もあるんだから余裕じゃないか」
「山羽はもっとあったかいんだ……」
「えー、水を差すようで申し訳ございませんが、圭斗先輩のご実家がある山羽エリア湖西市の本日の最低気温は0度ちょうど、最高気温は9度ですので豊葦とはさほど変わりませんね」
「野坂てめえ! 本当に水を差しやがって!」
気温が2桁にならないと僕は外に出ない! そう宣言されて、圭斗先輩はロートルの赤外線ヒーターの前に立て籠もってしまった。これには菜月先輩と律も呆れ顔。まあ、言ってこの2人はMMPの中でも寒さにどちゃくそ強いからなあ。
それに対して寒さにどちゃくそ弱いのが圭斗先輩だ。圭斗先輩曰く、山羽エリアは温暖な気候で、冬でも割とぽかぽか陽気。晴れの日が多いし雪なんか降った日には積もらなくても新聞の一面を飾るそうだ。で、先程醜い争いを繰り広げていた今日の気温だ。
圭斗先輩にお叱りを受けてしまうのは非常に辛いのだけれども、俺には圭斗先輩が優雅にお散歩をされる姿を後世に記録するという重大な使命がある。ここは何としてもお散歩をしていただかなくてはならないのだ。と言うか普通にノサカDなどと呼ばれて録音スタッフだしな!
圭斗先輩とアシスタント役の奈々が一緒に散歩をして、それを元に律Pと菜月先輩がナレーション用の台本を書いてくれる。台本はこーたが検閲して、三井先輩に声を入れてもらうという感じのフローは出来上がっている。とにかく、散歩をしなければ始まらないのだ。
「やだよう、寒いよう」
「日中はあったかいスよ」
「晴れてるから十分あったかいぞ」
「もうヤダ! 誰のことも信用出来ない! あったかいなんて言う割に菜月さんもりっちゃんもダウンなんか着こんでるじゃない!」
「言って圭斗先輩のダウンも相当いいモノのはずスけどねェー」
「うちは生足だぞ」
「こんな季節にショートパンツとか意味がわからない」
「圭斗先輩、それは野坂のヤツすわ」
「いや、圭斗先輩に使っていただけるならむしろ本望」
「お前が出て来るとややこしくなる。あ、そうだ」
ごにょごにょ、と菜月先輩から耳打ちをされる。しかし耳元で囁くように喋られると破壊力が凄まじい。死んでしまうかもしれない。それはそうと、菜月先輩からミッションを受けてしまったので、それを密かに遂行する。ポチッとな。
「やァー、そろそろ観念して外に出てもらわないと困るンすわァー」
「やだ、やーだ! おうちでぬくぬくしたいんだい!」
「いくら圭斗先輩でも成人男性の駄々っ子は殺意しかねーンで、まあ百歩譲って締め出しヤしょーか」
「圭斗、りっちゃんがガチでキレる前に大人しく締め出された方がいいぞ」
「ええ、俺も菜月先輩の意見に賛成です。律はあの麻里さんをも唸らせる第9代MMPが誇る黒幕です。と言うか、割とマジでスケジュールが押してるので俺からも本当にお願いします」
「まァ、自分的にはこのまま駄々をこねてもらって? 日が落ちてグッと冷え込んだ中に放り出してもいーンすよ。それこそ氷点下の中を歩いてもらって」
ヤバい、俺が思うより律がキてるぞこれは。
と言うか元々律は同級生以上の男に対しては辛辣極まりない奴だ。しかも、圭斗先輩は権威も持ち合わせていらっしゃるから、より律のラブ&ピースと書いて抹殺ブレーキが破壊されていてもおかしくない! それでなくてもアナウンサーとしての圭斗先輩に対する恨み辛みは募っているはずだ!
「やあみんな、おはよー」
「遅いじゃないか三井、何やってたんだ。それに、何だその一斗缶は」
「今日はさあ、みんなで焼き芋しようと思ってサツマイモ買って来たんだよね。アルミホイルもあるよ」
「と言うか、今日はブラケイトの収録だぞ」
「あ、それじゃあ焼き芋やってるところに圭斗が来たっていう体にすればいいじゃない。それで、本家みたくサツマイモか焼き芋のうんちくを紹介してさ。どっちにしても外には出るんでしょ?」
「それはいいんだけど、この男が寒いから外に出たくないと駄々をこねてるんだ」
いつものように少し遅れてやってきた三井先輩は、ちょっと呑気に焼き芋だなんて言っているし。でも、焼き芋自体にはみんな割と乗り気。寒いし、絶対美味いヤツだよな。
「焼き芋、いーじゃないスか。やりヤしょー」
「あっ、りっちゃんも賛成?」
「そしたら圭斗先輩、自分らみんな焼き芋してくるんで留守番お願いしやーす」
「ん、それはちょっと酷くないかい?」
「えェー? 外に出ないって言ってたのは圭斗先輩じゃないスかァー」
「置いてけぼりにされるのもまた空しいじゃないか」
「じゃ、散歩しヤすね?」
「……はい」
律の圧勝! こうして、ブラケイトは焼き芋をやってるだけの番組になり、俺の手の中にあるICレコーダーには駄々をこねる圭斗先輩の音声が残された。ちなみに菜月先輩の指示で録音していたこの音声は、もう1本作るMMPの1年を振り返る方の番組で火を噴くそうです。
end.
++++
今回の三井サンは悪くない方の三井サンだ! もしかしたら今季初かもしれない……
というワケでブラケイトのロケ日ですが、思いっ切り寒くなりましたね……一方その頃緑ヶ丘では(物騒なアナウンス)
そして第9代MMPは安泰なようですね。ラブピの使者・りっちゃんがいる限り!
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「さあ圭斗、散歩の時間だぞ」
「……何もこんな日を選ばなくてもいいんじゃないかな?」
「早くしろ! 年末特番が完成しないじゃないか!」
菜月先輩と圭斗先輩がバトっていらっしゃる。早く席から立って外に出るぞと煽る菜月先輩と、絶対外になんか出たくないと駄々をこねる圭斗先輩だ。今日はこれからMMPの年末特番・ブラケイト企画の収録なのだけど、一向に進みませんね。
「やァー、この程度の寒さで収録は止められないンすよねェー」
「ほら、りっちゃんPもこう言ってるぞ!」
「菜月さんとりっちゃんを基準に寒さを語られたら僕は死んでしまう。今日の豊葦の最低気温は見たかな? マイナス5度だよ? 最高気温は8度。わけがわからないよ」
「あ、自分マイナス7度から出て来てるンで」
「うちの地元も最高気温が5度だぞ。こっちは8度もあるんだから余裕じゃないか」
「山羽はもっとあったかいんだ……」
「えー、水を差すようで申し訳ございませんが、圭斗先輩のご実家がある山羽エリア湖西市の本日の最低気温は0度ちょうど、最高気温は9度ですので豊葦とはさほど変わりませんね」
「野坂てめえ! 本当に水を差しやがって!」
気温が2桁にならないと僕は外に出ない! そう宣言されて、圭斗先輩はロートルの赤外線ヒーターの前に立て籠もってしまった。これには菜月先輩と律も呆れ顔。まあ、言ってこの2人はMMPの中でも寒さにどちゃくそ強いからなあ。
それに対して寒さにどちゃくそ弱いのが圭斗先輩だ。圭斗先輩曰く、山羽エリアは温暖な気候で、冬でも割とぽかぽか陽気。晴れの日が多いし雪なんか降った日には積もらなくても新聞の一面を飾るそうだ。で、先程醜い争いを繰り広げていた今日の気温だ。
圭斗先輩にお叱りを受けてしまうのは非常に辛いのだけれども、俺には圭斗先輩が優雅にお散歩をされる姿を後世に記録するという重大な使命がある。ここは何としてもお散歩をしていただかなくてはならないのだ。と言うか普通にノサカDなどと呼ばれて録音スタッフだしな!
圭斗先輩とアシスタント役の奈々が一緒に散歩をして、それを元に律Pと菜月先輩がナレーション用の台本を書いてくれる。台本はこーたが検閲して、三井先輩に声を入れてもらうという感じのフローは出来上がっている。とにかく、散歩をしなければ始まらないのだ。
「やだよう、寒いよう」
「日中はあったかいスよ」
「晴れてるから十分あったかいぞ」
「もうヤダ! 誰のことも信用出来ない! あったかいなんて言う割に菜月さんもりっちゃんもダウンなんか着こんでるじゃない!」
「言って圭斗先輩のダウンも相当いいモノのはずスけどねェー」
「うちは生足だぞ」
「こんな季節にショートパンツとか意味がわからない」
「圭斗先輩、それは野坂のヤツすわ」
「いや、圭斗先輩に使っていただけるならむしろ本望」
「お前が出て来るとややこしくなる。あ、そうだ」
ごにょごにょ、と菜月先輩から耳打ちをされる。しかし耳元で囁くように喋られると破壊力が凄まじい。死んでしまうかもしれない。それはそうと、菜月先輩からミッションを受けてしまったので、それを密かに遂行する。ポチッとな。
「やァー、そろそろ観念して外に出てもらわないと困るンすわァー」
「やだ、やーだ! おうちでぬくぬくしたいんだい!」
「いくら圭斗先輩でも成人男性の駄々っ子は殺意しかねーンで、まあ百歩譲って締め出しヤしょーか」
「圭斗、りっちゃんがガチでキレる前に大人しく締め出された方がいいぞ」
「ええ、俺も菜月先輩の意見に賛成です。律はあの麻里さんをも唸らせる第9代MMPが誇る黒幕です。と言うか、割とマジでスケジュールが押してるので俺からも本当にお願いします」
「まァ、自分的にはこのまま駄々をこねてもらって? 日が落ちてグッと冷え込んだ中に放り出してもいーンすよ。それこそ氷点下の中を歩いてもらって」
ヤバい、俺が思うより律がキてるぞこれは。
と言うか元々律は同級生以上の男に対しては辛辣極まりない奴だ。しかも、圭斗先輩は権威も持ち合わせていらっしゃるから、より律のラブ&ピースと書いて抹殺ブレーキが破壊されていてもおかしくない! それでなくてもアナウンサーとしての圭斗先輩に対する恨み辛みは募っているはずだ!
「やあみんな、おはよー」
「遅いじゃないか三井、何やってたんだ。それに、何だその一斗缶は」
「今日はさあ、みんなで焼き芋しようと思ってサツマイモ買って来たんだよね。アルミホイルもあるよ」
「と言うか、今日はブラケイトの収録だぞ」
「あ、それじゃあ焼き芋やってるところに圭斗が来たっていう体にすればいいじゃない。それで、本家みたくサツマイモか焼き芋のうんちくを紹介してさ。どっちにしても外には出るんでしょ?」
「それはいいんだけど、この男が寒いから外に出たくないと駄々をこねてるんだ」
いつものように少し遅れてやってきた三井先輩は、ちょっと呑気に焼き芋だなんて言っているし。でも、焼き芋自体にはみんな割と乗り気。寒いし、絶対美味いヤツだよな。
「焼き芋、いーじゃないスか。やりヤしょー」
「あっ、りっちゃんも賛成?」
「そしたら圭斗先輩、自分らみんな焼き芋してくるんで留守番お願いしやーす」
「ん、それはちょっと酷くないかい?」
「えェー? 外に出ないって言ってたのは圭斗先輩じゃないスかァー」
「置いてけぼりにされるのもまた空しいじゃないか」
「じゃ、散歩しヤすね?」
「……はい」
律の圧勝! こうして、ブラケイトは焼き芋をやってるだけの番組になり、俺の手の中にあるICレコーダーには駄々をこねる圭斗先輩の音声が残された。ちなみに菜月先輩の指示で録音していたこの音声は、もう1本作るMMPの1年を振り返る方の番組で火を噴くそうです。
end.
++++
今回の三井サンは悪くない方の三井サンだ! もしかしたら今季初かもしれない……
というワケでブラケイトのロケ日ですが、思いっ切り寒くなりましたね……一方その頃緑ヶ丘では(物騒なアナウンス)
そして第9代MMPは安泰なようですね。ラブピの使者・りっちゃんがいる限り!
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