2018(03)
■ネイビーのハンガーポール戦争
++++
「いい? いいなと思った物は袋に入れてから考えて。確保しとかないと、いい物はすぐなくなっちゃうから」
「はーい」
今日は、人づての人づてに誘われて、スポーツブランドのファミリーセールというものにやってきた。事の発端は、大石が幼馴染みのあずさちゃん(三井が学祭頃に惚れてたあの子)を誘ったんだけど、その日は都合がつかなくて、美奈を誘ったんだって。
それというのも、9月に買った美奈とお揃いのポーチだ。あのポーチのブランドも出るからもし興味があれば、という感じで。で、美奈からお誘いがあったのがうちだ。自分よりもうちの方がスポーツブランドには明るいからって。それで現在に至る。
大石からは今日という日を戦い抜くコツを少し教わった。大きなカバンは持ち込めないこと。手が塞がっていると不便なのでショルダーバッグなどがおすすめなこと。それから、人が多くてのぼせるので上着は脱ぎ着しやすい方がいいことなんかを。
人が本当に凄いんだ。今日は会社の関係者しか入れないそうなんだけど、それでも本当に凄い。うちは立っているブランドの幟を目印に人混みをかき分けていく。これは本当にはぐれそうだし波に浚われそう。
「凄いな、何が欲しいかな」
「あっ、なっち! 向こう凄いよ!」
「ちょっと待て大石!」
「……向こうに、何が…?」
とんでもない人だかりになっていた先には、ネイビーの固まり。ハンガーポールの上には「大特価! ダウンジャケット6000円!」の文字が。6000円でも十分高いよなあと思うけど、大特価なんだそうだ。
とりあえず、どんな物かなと思って適当なそれに手を伸ばす。Mサイズ。人だかりから抜け出して、鏡の前で羽織ってみる。ぴったりだ。軽いし、あったかい。さすがブランド物だけあってという感じか。
「大石、もみくちゃでとんでもないことになってるぞ」
「やったー、俺も何とかゲット出来たよ。メンズのLサイズ以上は少ないもん。今日はこれだけでも大勝利だ。なっちも買うんだね」
「うちは羽織ってみただけだけど」
「え、買った方がいいよ。この値段じゃ普段絶対来ないよ」
「でも6000円だろ?」
「俺の社割利くから4800円だよ」
「えっ!?」
「なっち、タグ見た? 定価31000円が4800円にはなかなかならないよ」
「え、定価31000円が4800円って何割引だ?」
「大体85%オフ」
「意味が分からない」
思わずノサカの汎用セリフが出てくるくらいには意味が分からなかった。85%オフって。って言うかそこまで落ちたら下手な店でダウンジャケットを買うより安いじゃないか。そしてうちは何気に風を通さないアウターを持っていない。
袋の中がもふっとしたところで、別の物も見に行くことに。さっきのジャケットのコーナーはすでに全部剥かれてつんつるてんになっていた。なるほど、すぐになくなるとはこういうことか……。よかった、ゲット出来て。
「でも何かこのダウンに既視感がある」
「……BJが好きなブランド……」
「そうだよね。高崎って何気にベストとジャケットで揃えてるよね。ちなみに高崎のはこれよりもうちょっとお高い品番だね」
「ああ、それでか。えっ、そしたらアイツ何気にめっちゃいいの着てるんだな。金持ちか」
人をかき分けながら進んでいくと、靴が大量に積まれたワゴンコーナーにたどり着いた。登山用の靴やスニーカー、ランニングシューズにブーツまである。特に目を引くのは山のように積まれた白いスニーカーだ。
「あ、俺スニーカー買おう。現場用の靴がボロボロだし」
「……少し前に流行った、白のスニーカー……定価は15000円……」
「えっと、3000円だから2400円だね。普段用にも1足買おう」
「美奈、15000円が2400円って何%オフ?」
「ええと……」
「84%」
「大石は頭に電卓でも持ってるのか?」
「……私も、靴を……」
「美奈、3000円のは基本汚れ品だから、普段履きにするならどこがどう汚れてるのかはきちんと見た方がいいよ」
「はい、先生……」
大石の計算の速さにドン引きしながら、買い物は続く。美奈は薄手のウインドブレーカーに興味があるようで、ピンクと黒のツートンカラーのそれを羽織って具合を確かめる。うちはポンポン帽をひとつ袋に足した。
別のブランドにも回れば医療機器と書かれた肌着のような物もある。着圧でむくみや血栓を予防するとか、磁力の仕込まれた肌着で凝りをほぐすとか。いろいろあるなあと感心していたら、思いがけず美奈が真剣に見ていた。石川に需要がありそうって。
「あ、ごめんねー。お待たせー」
「何を見てたんだ?」
「あのねえ、水着とか、水泳のグッズだよー」
「へえ、冬でも水着は売ってるんだな」
「温水プールもあるし、水泳は年間を通じた趣味に出来るからね。それじゃあお会計しよっかー」
「はーい」
結局、うちは例のダウンとポンポン帽、それからネックウォーマーを買った。トータル6500円。美奈は白いスニーカーとウインドブレーカー、それからセーターを1着買っていた。大石はとにかく買い込んでいた。ここで紹介しきれないくらいには。
「まさかダウンジャケットを買うとは思わなかった」
「いいものだから、なっちの実家で雪が降ってても十分活用出来るよ」
「大石君は、毎回こんなに買い物を…?」
「普段あまり買わないからね。年に3回の楽しみなんだ。私服もほとんどここで買ってて」
「……何気に、ブランドで固められてた…?」
end.
++++
恒例となりつつあるちーちゃんのファミリーセール戦記。今回はナツミナがご招待されました。
美奈は多分スポーツブランドの物でもうまくファッションにあわせるんだろうなあ。菜月さんは元々合いそう。
そう、そしてちーちゃんの持ち物は何気にブランド物で固められているのです。安く買ってるけどな!
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「いい? いいなと思った物は袋に入れてから考えて。確保しとかないと、いい物はすぐなくなっちゃうから」
「はーい」
今日は、人づての人づてに誘われて、スポーツブランドのファミリーセールというものにやってきた。事の発端は、大石が幼馴染みのあずさちゃん(三井が学祭頃に惚れてたあの子)を誘ったんだけど、その日は都合がつかなくて、美奈を誘ったんだって。
それというのも、9月に買った美奈とお揃いのポーチだ。あのポーチのブランドも出るからもし興味があれば、という感じで。で、美奈からお誘いがあったのがうちだ。自分よりもうちの方がスポーツブランドには明るいからって。それで現在に至る。
大石からは今日という日を戦い抜くコツを少し教わった。大きなカバンは持ち込めないこと。手が塞がっていると不便なのでショルダーバッグなどがおすすめなこと。それから、人が多くてのぼせるので上着は脱ぎ着しやすい方がいいことなんかを。
人が本当に凄いんだ。今日は会社の関係者しか入れないそうなんだけど、それでも本当に凄い。うちは立っているブランドの幟を目印に人混みをかき分けていく。これは本当にはぐれそうだし波に浚われそう。
「凄いな、何が欲しいかな」
「あっ、なっち! 向こう凄いよ!」
「ちょっと待て大石!」
「……向こうに、何が…?」
とんでもない人だかりになっていた先には、ネイビーの固まり。ハンガーポールの上には「大特価! ダウンジャケット6000円!」の文字が。6000円でも十分高いよなあと思うけど、大特価なんだそうだ。
とりあえず、どんな物かなと思って適当なそれに手を伸ばす。Mサイズ。人だかりから抜け出して、鏡の前で羽織ってみる。ぴったりだ。軽いし、あったかい。さすがブランド物だけあってという感じか。
「大石、もみくちゃでとんでもないことになってるぞ」
「やったー、俺も何とかゲット出来たよ。メンズのLサイズ以上は少ないもん。今日はこれだけでも大勝利だ。なっちも買うんだね」
「うちは羽織ってみただけだけど」
「え、買った方がいいよ。この値段じゃ普段絶対来ないよ」
「でも6000円だろ?」
「俺の社割利くから4800円だよ」
「えっ!?」
「なっち、タグ見た? 定価31000円が4800円にはなかなかならないよ」
「え、定価31000円が4800円って何割引だ?」
「大体85%オフ」
「意味が分からない」
思わずノサカの汎用セリフが出てくるくらいには意味が分からなかった。85%オフって。って言うかそこまで落ちたら下手な店でダウンジャケットを買うより安いじゃないか。そしてうちは何気に風を通さないアウターを持っていない。
袋の中がもふっとしたところで、別の物も見に行くことに。さっきのジャケットのコーナーはすでに全部剥かれてつんつるてんになっていた。なるほど、すぐになくなるとはこういうことか……。よかった、ゲット出来て。
「でも何かこのダウンに既視感がある」
「……BJが好きなブランド……」
「そうだよね。高崎って何気にベストとジャケットで揃えてるよね。ちなみに高崎のはこれよりもうちょっとお高い品番だね」
「ああ、それでか。えっ、そしたらアイツ何気にめっちゃいいの着てるんだな。金持ちか」
人をかき分けながら進んでいくと、靴が大量に積まれたワゴンコーナーにたどり着いた。登山用の靴やスニーカー、ランニングシューズにブーツまである。特に目を引くのは山のように積まれた白いスニーカーだ。
「あ、俺スニーカー買おう。現場用の靴がボロボロだし」
「……少し前に流行った、白のスニーカー……定価は15000円……」
「えっと、3000円だから2400円だね。普段用にも1足買おう」
「美奈、15000円が2400円って何%オフ?」
「ええと……」
「84%」
「大石は頭に電卓でも持ってるのか?」
「……私も、靴を……」
「美奈、3000円のは基本汚れ品だから、普段履きにするならどこがどう汚れてるのかはきちんと見た方がいいよ」
「はい、先生……」
大石の計算の速さにドン引きしながら、買い物は続く。美奈は薄手のウインドブレーカーに興味があるようで、ピンクと黒のツートンカラーのそれを羽織って具合を確かめる。うちはポンポン帽をひとつ袋に足した。
別のブランドにも回れば医療機器と書かれた肌着のような物もある。着圧でむくみや血栓を予防するとか、磁力の仕込まれた肌着で凝りをほぐすとか。いろいろあるなあと感心していたら、思いがけず美奈が真剣に見ていた。石川に需要がありそうって。
「あ、ごめんねー。お待たせー」
「何を見てたんだ?」
「あのねえ、水着とか、水泳のグッズだよー」
「へえ、冬でも水着は売ってるんだな」
「温水プールもあるし、水泳は年間を通じた趣味に出来るからね。それじゃあお会計しよっかー」
「はーい」
結局、うちは例のダウンとポンポン帽、それからネックウォーマーを買った。トータル6500円。美奈は白いスニーカーとウインドブレーカー、それからセーターを1着買っていた。大石はとにかく買い込んでいた。ここで紹介しきれないくらいには。
「まさかダウンジャケットを買うとは思わなかった」
「いいものだから、なっちの実家で雪が降ってても十分活用出来るよ」
「大石君は、毎回こんなに買い物を…?」
「普段あまり買わないからね。年に3回の楽しみなんだ。私服もほとんどここで買ってて」
「……何気に、ブランドで固められてた…?」
end.
++++
恒例となりつつあるちーちゃんのファミリーセール戦記。今回はナツミナがご招待されました。
美奈は多分スポーツブランドの物でもうまくファッションにあわせるんだろうなあ。菜月さんは元々合いそう。
そう、そしてちーちゃんの持ち物は何気にブランド物で固められているのです。安く買ってるけどな!
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