2018(03)
■心残りの潰し方
公式学年+1年
++++
佐藤ゼミのラジオは2年生に引き継ぎ作業をしてる最中。基本的に3年生がやるお昼の番組だけど、その中にスタッフとして2年生を何人か入れて経験を積んでもらうっていう感じの引継ぎ。誰がいつ入るかっていうカレンダーも作られていて、メインMCたちと相談をしながら。
で、当然のようにアタシの日にぶち込まれたミキサーのタカちゃんですよねー。タカちゃんに関しては経験を積むと言うにはちょっと違った。MBCCで使ってない機材の説明を受けて、それでおしまい。後は好きなようにやっちゃってー、的な。
「次の番組は22日で、その次が1月の18ね」
「そうですね」
アタシが担当するのは金曜日のフリー番組枠。そこで曜日ごとのテーマに関係なく好きなように番組をやるんだけど、タカちゃんがミキサーに入ることによっていかにもなラジオらしいラジオになるよう期待されている。
「あの、果林先輩すみません」
「どうしたの?」
「えっと……1月18日の方の枠を、貸してもらえないかと」
「貸す? っていうと……どういうこと?」
「ちょっと、やりたいことが。もうこの日しかなくて。22日だとちょっと早すぎると言うか、現段階でまだ確定出来てないので」
タカちゃんが、何かを考えているらしい。1月の枠を貸してくれと言うけれど、何が始まるのかはさっぱりわからない。タカちゃん主動で何かをやるのかな。きっと前から考えてたんだろうね。思い付きでそういうことを言う子にも思えないし。
「でも、何をやりたいのかは聞くよ。一応ゼミの活動だし、あんまりアレなことだったらヒゲがうるさいから」
「あー……えーと、まだ確定ではないんですけど」
「うん」
「高崎先輩と番組をやりたいと思ってます」
「ええっ!?」
本当にまさかだった。ここで高ピー先輩の名前が出て来るとは全く思ってなかったから。高ピー先輩は前々からヒゲから目を付けられてって言ったらおかしいけど、佐藤ゼミのラジオブースで番組をやらないかとスカウトされ続けてた。
だけど、高ピー先輩は頑なにこれを固辞。何が悲しくてヒゲの下で番組をやらなきゃいけないんだ、と。それはご尤も。アタシからも高ピー先輩を口説けみたいなことは言われてたけど、何でヒゲの見栄のためにそんなことしなくちゃいけないんですかって。
「って言うか、純粋にどうして?」
「去年の昼放送のことがずっとどこかで引っかかってて。単純に、リベンジですね。俺のやりたいことを押し通した上でアナウンサーさんのやりたいことも引き出す番組の」
去年の昼放送で、タカちゃんは高ピー先輩とペアを組んでいた。夏合宿でやった番組を見て、これは面白いことをしてくれるだろうなと高ピー先輩は思ったんだって。だけど、蓋を開けてみればどんどんタカちゃんのアソビが無くなっていって。
それはタカちゃんの問題だけじゃなくて、高ピー先輩がそれをやりにくくしていたのがいけなかった、というような話は人づてに聞いた。完全にタカちゃんが潰れてしまう前にペアが解消されて良かった、とも。
「交渉は?」
「今からです」
「MBCCの枠ならともかく佐藤ゼミのラジオとなると、説得出来る確率はグッと下がるよ」
「でも、ゼロじゃないならやります。なので1月の枠を貸して下さい」
「うん、わかったよ。高ピー先輩が卒業しちゃう前に心残りを潰しとかないとね」
「ありがとうございます」
……と、枠を貸すことまでは決めた。だけど、仮に高ピー先輩の説得に成功したとして、それを直前までヒゲに悟られちゃいけない。ヒゲにバレたら絶対に面倒なことになるから。それに、もしものことがあるからアタシも準備はし続ける必要がある。
「実は、次の土曜日にFMにしうみに乗り込む予定なんです」
「そこまでする」
「まあ、そこまでしないと確率は上がりませんよね」
「まあね」
「高崎先輩はこっちがちゃんと話せばわかってくれる人なので、後はどう押すか、ですね」
「1年経って、タカちゃんも成長したんだってトコを見せつけてやんないとね」
「そうですね」
「いよっ、機材部長!」
あー、これはかなり本気なんだなって思いましたよね。こだわるところはこだわるし、頑固なところもちょっとあるなと思ってたけど、まさかここで意地みたいなものを出して来るとは思わなかったよね。
アタシとタカちゃんの組む金曜日の番組はヒゲの見栄のために作られた枠のようなもの。そこに高ピー先輩を持ってくることでヒゲを助長させたくはないけど、どうせ暗躍するならやり通さないとでしょ。
「それで、今のうちにゼミの機材のことを把握し尽さないとなあと思っていて」
「お、ゼミの機材をフルに使ったタカちゃんの本気が?」
「いえ、むしろ逆ですね。ゼミの機材を一切使わない、MBCC方式での俺の本気です」
「え、じゃあゼミの機材を把握するのって」
「終わった後に、原状回復をするためですね。心残りを潰すなら、同じ条件でやらないと面白くないじゃないですか。あくまでMBCC昼放送としての番組です」
「さすが。これでこそタカちゃんだわ」
「あ、借りた分の枠は新年度が始まってから返しますし」
「え、いいよ。あげるよ」
「一応、ゼミラジオとしての本気も出したいので、その時のアナウンサーはやっぱり果林先輩じゃないと」
タカちゃんが本気だ。あの頃より技術的にも断然上手くなってるし、これは面白いことになるぞ。そんなことに立ち合えるなんて本当にラッキー。あとは、高ピー先輩を口説き落とすだけ。頑張れタカちゃん!
end.
++++
ちょっと前にやったタカちゃんのリベンジ話に至るまでには何があったんだろうと思い立ち現在に至る。
予め果林に話してないといけないよなあ、じゃあ話すかー。とかそんな感じ。この時間軸では公式時間軸での1年生の代になっています。
ラジオブースを遊び場にしているTKGが本気を出したらとんでもないことになると思うんだ!
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公式学年+1年
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佐藤ゼミのラジオは2年生に引き継ぎ作業をしてる最中。基本的に3年生がやるお昼の番組だけど、その中にスタッフとして2年生を何人か入れて経験を積んでもらうっていう感じの引継ぎ。誰がいつ入るかっていうカレンダーも作られていて、メインMCたちと相談をしながら。
で、当然のようにアタシの日にぶち込まれたミキサーのタカちゃんですよねー。タカちゃんに関しては経験を積むと言うにはちょっと違った。MBCCで使ってない機材の説明を受けて、それでおしまい。後は好きなようにやっちゃってー、的な。
「次の番組は22日で、その次が1月の18ね」
「そうですね」
アタシが担当するのは金曜日のフリー番組枠。そこで曜日ごとのテーマに関係なく好きなように番組をやるんだけど、タカちゃんがミキサーに入ることによっていかにもなラジオらしいラジオになるよう期待されている。
「あの、果林先輩すみません」
「どうしたの?」
「えっと……1月18日の方の枠を、貸してもらえないかと」
「貸す? っていうと……どういうこと?」
「ちょっと、やりたいことが。もうこの日しかなくて。22日だとちょっと早すぎると言うか、現段階でまだ確定出来てないので」
タカちゃんが、何かを考えているらしい。1月の枠を貸してくれと言うけれど、何が始まるのかはさっぱりわからない。タカちゃん主動で何かをやるのかな。きっと前から考えてたんだろうね。思い付きでそういうことを言う子にも思えないし。
「でも、何をやりたいのかは聞くよ。一応ゼミの活動だし、あんまりアレなことだったらヒゲがうるさいから」
「あー……えーと、まだ確定ではないんですけど」
「うん」
「高崎先輩と番組をやりたいと思ってます」
「ええっ!?」
本当にまさかだった。ここで高ピー先輩の名前が出て来るとは全く思ってなかったから。高ピー先輩は前々からヒゲから目を付けられてって言ったらおかしいけど、佐藤ゼミのラジオブースで番組をやらないかとスカウトされ続けてた。
だけど、高ピー先輩は頑なにこれを固辞。何が悲しくてヒゲの下で番組をやらなきゃいけないんだ、と。それはご尤も。アタシからも高ピー先輩を口説けみたいなことは言われてたけど、何でヒゲの見栄のためにそんなことしなくちゃいけないんですかって。
「って言うか、純粋にどうして?」
「去年の昼放送のことがずっとどこかで引っかかってて。単純に、リベンジですね。俺のやりたいことを押し通した上でアナウンサーさんのやりたいことも引き出す番組の」
去年の昼放送で、タカちゃんは高ピー先輩とペアを組んでいた。夏合宿でやった番組を見て、これは面白いことをしてくれるだろうなと高ピー先輩は思ったんだって。だけど、蓋を開けてみればどんどんタカちゃんのアソビが無くなっていって。
それはタカちゃんの問題だけじゃなくて、高ピー先輩がそれをやりにくくしていたのがいけなかった、というような話は人づてに聞いた。完全にタカちゃんが潰れてしまう前にペアが解消されて良かった、とも。
「交渉は?」
「今からです」
「MBCCの枠ならともかく佐藤ゼミのラジオとなると、説得出来る確率はグッと下がるよ」
「でも、ゼロじゃないならやります。なので1月の枠を貸して下さい」
「うん、わかったよ。高ピー先輩が卒業しちゃう前に心残りを潰しとかないとね」
「ありがとうございます」
……と、枠を貸すことまでは決めた。だけど、仮に高ピー先輩の説得に成功したとして、それを直前までヒゲに悟られちゃいけない。ヒゲにバレたら絶対に面倒なことになるから。それに、もしものことがあるからアタシも準備はし続ける必要がある。
「実は、次の土曜日にFMにしうみに乗り込む予定なんです」
「そこまでする」
「まあ、そこまでしないと確率は上がりませんよね」
「まあね」
「高崎先輩はこっちがちゃんと話せばわかってくれる人なので、後はどう押すか、ですね」
「1年経って、タカちゃんも成長したんだってトコを見せつけてやんないとね」
「そうですね」
「いよっ、機材部長!」
あー、これはかなり本気なんだなって思いましたよね。こだわるところはこだわるし、頑固なところもちょっとあるなと思ってたけど、まさかここで意地みたいなものを出して来るとは思わなかったよね。
アタシとタカちゃんの組む金曜日の番組はヒゲの見栄のために作られた枠のようなもの。そこに高ピー先輩を持ってくることでヒゲを助長させたくはないけど、どうせ暗躍するならやり通さないとでしょ。
「それで、今のうちにゼミの機材のことを把握し尽さないとなあと思っていて」
「お、ゼミの機材をフルに使ったタカちゃんの本気が?」
「いえ、むしろ逆ですね。ゼミの機材を一切使わない、MBCC方式での俺の本気です」
「え、じゃあゼミの機材を把握するのって」
「終わった後に、原状回復をするためですね。心残りを潰すなら、同じ条件でやらないと面白くないじゃないですか。あくまでMBCC昼放送としての番組です」
「さすが。これでこそタカちゃんだわ」
「あ、借りた分の枠は新年度が始まってから返しますし」
「え、いいよ。あげるよ」
「一応、ゼミラジオとしての本気も出したいので、その時のアナウンサーはやっぱり果林先輩じゃないと」
タカちゃんが本気だ。あの頃より技術的にも断然上手くなってるし、これは面白いことになるぞ。そんなことに立ち合えるなんて本当にラッキー。あとは、高ピー先輩を口説き落とすだけ。頑張れタカちゃん!
end.
++++
ちょっと前にやったタカちゃんのリベンジ話に至るまでには何があったんだろうと思い立ち現在に至る。
予め果林に話してないといけないよなあ、じゃあ話すかー。とかそんな感じ。この時間軸では公式時間軸での1年生の代になっています。
ラジオブースを遊び場にしているTKGが本気を出したらとんでもないことになると思うんだ!
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