2018(03)
■繁忙期のスタッフ育成
++++
「綾瀬香菜子、ただ今戻りましたぁー!」
「スタッフでない者が何故戻ってきたなどと表現をする」
ビシッと敬礼を決めて意気揚々としたカナコさんに対する林原さんのツッコミもいつも通り。ここしばらくカナコさんは演劇部の舞台の方で忙しかったようで、センターに顔を見せる機会も少し減ってたんだ。それに対して林原さんは静かでいいと言っていたけど、春山さん的には寂しかったらしい。
「カナコー! やっと帰ってきたか!」
「舞台が終わったのでまた研修生として頑張ります!」
「如何せんこのセンターは野郎ばっかりでムサくてしょうがねーぜ」
「冴ちゃんがいませんでしたっけ」
「ああ、冴は乳以外女にカウントしてねーから」
「誰よりも女にカウント出来んおっさんが何やらほざいているな」
「あンだとリンテメーこの野郎ケツ出せやコラぁ!」
安定ですね。こうなると俺は巻き込まれないようにしっかりと仕事をしている体で距離をとるということを覚えましたよね。さて、12月に入って情報センターにも少しずつ利用者の人が増えてきたように思う。年末だし、レポートとか卒論の人もいるのかな。だからスタッフの方もそれまでよりもちゃんと備えている。
林原さんと話していてビックリしたのは、最近じゃパソコンの使い方がわからない人がちょっと前より増えているということだ。レポートでも何でもスマホで片付くようになって、パソコンを触る必要がなくなったということがその理由のひとつだそうだ。そういう人にワードやエクセルの使い方を教えるところから始めることもあった。
情報センターが自習室ではなくスマホ修理室か何かのように思われているんじゃないかという出来事もあった。スマホで書いていたレポートが消えてしまったのでそれを復元して欲しいという人まで現れましたよね。センター内で起こった出来事ではないので当然対応はしませんでした。
「――というワケで年末から1月にかけてセンターは忙しくなる。各々適当に頑張ってくれ」
「適当に、ね。適当にと言うならオレは然るべき対応を取るぞ」
「リン、テメーはほどほどに、だ」
「何を言いますか。こんなときだからこそ適切な学習空間を維持することもセンタースタッフとしての務めではありませんか」
「おめーは見境が無さすぎるんだ」
「性質の悪いのが多すぎるのが問題なのでしょう。それはオレの責任ではありません。オレはあくまでセンターの利用規約に則っているだけですので」
こんなやりとりは確か夏にも見たなあと思い出した。センターの利用者が増えると、どうしてもうるさかったり飲食をしたりしてセンターの利用規約に反する人も増えてくる。特に普段センターを使わない人や、星大にも一定数いるきゃっきゃとした人たちにそういう傾向が強い。
この件を初めて見る烏丸さんやカナコさんは何のこと、ときょとんとしている。俺は夏の林原さんによる無双の様子を見ているから、あの惨劇が再び繰り返されるのかとちょっと引いてますよね。春山さんが「林原さんはほどほどに」という気持ちもちょっとわかるんだ。
その人は確かに友達と大きな声で会話していてうるさかったんだ。他の人から苦情も入ってたし。で、静かにお願いしますって何回注意しても改善しなかったので林原さんに泣きついたら、ファイルを保存する前に強制ログアウトしてつまみ出した上でブラリ登録だもんなあ。ちなみにセンターじゃ自動保存機能はオフがデフォルトです。
「――ということがあるんですよー。一緒にB番なら心強いんですけど、正直A番の時にブラリ登録って林原さんが来たら怖さしかないですよー」
「ミドリくん、雄介さんの本気がやっと見られるということでいい?」
「ユースケの本気!? 俺も見たい!」
な、何やらとんでもない解釈になっているような気がするけど、本気じゃなくて通常運転なんだよなあ……。って言うか烏丸さんとカナコさんが軽い林原さんファンクラブみたいになっててこの話の怖さが完全に打ち消されてる! この人たち、怖ささえも楽しむ変態だ!
「いいかお前ら、A番はこれからリンとの圧力とも戦っていくことになる。気を引き締めていけよ」
「はーい」
「何を言う、人聞きの悪い。オレがいつA番に圧力をかけました」
「毎シーズンかけてるだろうがよ! ガチでブラリに登録すべき案件なんざお前が摘みだしてる数の1割2割じゃねーか」
「アンタは事務所メインだから自習室の実状を知らんのでしょう。そもそも、川北だの土田だので止められるのであればブラリ登録も減るはずだ。アンタがすべきはオレへのクレームではなく川北らが簡単にオレに泣きつかんよう育成することでしょう」
「川北ァー、今度からは簡単にリンに泣きつくんじゃねーぞぉー?」
「頑張りますけど、怖いんですよー。怒鳴られたり、殴られそうで」
「えー、俺ならユースケを危険な目に遭わせないように自分が頑張るなー」
「ダイチ、お前が出てくるとややこしくなるから黙っててくれ」
よかった、思ったことを春山さんが代弁してくれて。それはそうとこれから1月にかけて忙しくなるのは本当らしいから、俺も頑張らないと。夏よりは要領もわかってるし、もうちょっとうまく立ち回りたいな。
end.
++++
久々に情報センターです。カナコの帰還がメインだったはずが、繁忙期のセンターの危険対策みたいな感じになってしまった
B番で困ったらリン様に、みたいなところが多々あるのだけど、忙しくなるとそればっかりやってても大変なことになるよ
ダイチカナコはリン様のやることなすこと「カッコイイ!」「さすが!」みたいな感じできゃっきゃしてるから春山さんも大変だろうなあ……
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「綾瀬香菜子、ただ今戻りましたぁー!」
「スタッフでない者が何故戻ってきたなどと表現をする」
ビシッと敬礼を決めて意気揚々としたカナコさんに対する林原さんのツッコミもいつも通り。ここしばらくカナコさんは演劇部の舞台の方で忙しかったようで、センターに顔を見せる機会も少し減ってたんだ。それに対して林原さんは静かでいいと言っていたけど、春山さん的には寂しかったらしい。
「カナコー! やっと帰ってきたか!」
「舞台が終わったのでまた研修生として頑張ります!」
「如何せんこのセンターは野郎ばっかりでムサくてしょうがねーぜ」
「冴ちゃんがいませんでしたっけ」
「ああ、冴は乳以外女にカウントしてねーから」
「誰よりも女にカウント出来んおっさんが何やらほざいているな」
「あンだとリンテメーこの野郎ケツ出せやコラぁ!」
安定ですね。こうなると俺は巻き込まれないようにしっかりと仕事をしている体で距離をとるということを覚えましたよね。さて、12月に入って情報センターにも少しずつ利用者の人が増えてきたように思う。年末だし、レポートとか卒論の人もいるのかな。だからスタッフの方もそれまでよりもちゃんと備えている。
林原さんと話していてビックリしたのは、最近じゃパソコンの使い方がわからない人がちょっと前より増えているということだ。レポートでも何でもスマホで片付くようになって、パソコンを触る必要がなくなったということがその理由のひとつだそうだ。そういう人にワードやエクセルの使い方を教えるところから始めることもあった。
情報センターが自習室ではなくスマホ修理室か何かのように思われているんじゃないかという出来事もあった。スマホで書いていたレポートが消えてしまったのでそれを復元して欲しいという人まで現れましたよね。センター内で起こった出来事ではないので当然対応はしませんでした。
「――というワケで年末から1月にかけてセンターは忙しくなる。各々適当に頑張ってくれ」
「適当に、ね。適当にと言うならオレは然るべき対応を取るぞ」
「リン、テメーはほどほどに、だ」
「何を言いますか。こんなときだからこそ適切な学習空間を維持することもセンタースタッフとしての務めではありませんか」
「おめーは見境が無さすぎるんだ」
「性質の悪いのが多すぎるのが問題なのでしょう。それはオレの責任ではありません。オレはあくまでセンターの利用規約に則っているだけですので」
こんなやりとりは確か夏にも見たなあと思い出した。センターの利用者が増えると、どうしてもうるさかったり飲食をしたりしてセンターの利用規約に反する人も増えてくる。特に普段センターを使わない人や、星大にも一定数いるきゃっきゃとした人たちにそういう傾向が強い。
この件を初めて見る烏丸さんやカナコさんは何のこと、ときょとんとしている。俺は夏の林原さんによる無双の様子を見ているから、あの惨劇が再び繰り返されるのかとちょっと引いてますよね。春山さんが「林原さんはほどほどに」という気持ちもちょっとわかるんだ。
その人は確かに友達と大きな声で会話していてうるさかったんだ。他の人から苦情も入ってたし。で、静かにお願いしますって何回注意しても改善しなかったので林原さんに泣きついたら、ファイルを保存する前に強制ログアウトしてつまみ出した上でブラリ登録だもんなあ。ちなみにセンターじゃ自動保存機能はオフがデフォルトです。
「――ということがあるんですよー。一緒にB番なら心強いんですけど、正直A番の時にブラリ登録って林原さんが来たら怖さしかないですよー」
「ミドリくん、雄介さんの本気がやっと見られるということでいい?」
「ユースケの本気!? 俺も見たい!」
な、何やらとんでもない解釈になっているような気がするけど、本気じゃなくて通常運転なんだよなあ……。って言うか烏丸さんとカナコさんが軽い林原さんファンクラブみたいになっててこの話の怖さが完全に打ち消されてる! この人たち、怖ささえも楽しむ変態だ!
「いいかお前ら、A番はこれからリンとの圧力とも戦っていくことになる。気を引き締めていけよ」
「はーい」
「何を言う、人聞きの悪い。オレがいつA番に圧力をかけました」
「毎シーズンかけてるだろうがよ! ガチでブラリに登録すべき案件なんざお前が摘みだしてる数の1割2割じゃねーか」
「アンタは事務所メインだから自習室の実状を知らんのでしょう。そもそも、川北だの土田だので止められるのであればブラリ登録も減るはずだ。アンタがすべきはオレへのクレームではなく川北らが簡単にオレに泣きつかんよう育成することでしょう」
「川北ァー、今度からは簡単にリンに泣きつくんじゃねーぞぉー?」
「頑張りますけど、怖いんですよー。怒鳴られたり、殴られそうで」
「えー、俺ならユースケを危険な目に遭わせないように自分が頑張るなー」
「ダイチ、お前が出てくるとややこしくなるから黙っててくれ」
よかった、思ったことを春山さんが代弁してくれて。それはそうとこれから1月にかけて忙しくなるのは本当らしいから、俺も頑張らないと。夏よりは要領もわかってるし、もうちょっとうまく立ち回りたいな。
end.
++++
久々に情報センターです。カナコの帰還がメインだったはずが、繁忙期のセンターの危険対策みたいな感じになってしまった
B番で困ったらリン様に、みたいなところが多々あるのだけど、忙しくなるとそればっかりやってても大変なことになるよ
ダイチカナコはリン様のやることなすこと「カッコイイ!」「さすが!」みたいな感じできゃっきゃしてるから春山さんも大変だろうなあ……
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