2018(03)
■後出しのダブルブッキング
++++
「どーするスガ、大晦日のこと」
「まあ、ちゃんとこういう事情があってって話さなきゃいけないだろ。ちゃんと話せばわかってくれる人だから、必要なのは俺たちの誠意だ」
ようやくみんなの仕事や部活が落ち着いて活動が波に乗り始めたゲーム実況集団SDX。今年もあと1ヶ月ということで、今後の予定を立てるついでにちょっと遊ぶ会議というのがプロさん宅で開かれることになっていた。
最初はいつものように軽い感じなんだろうなって思ってたけど、いざ当日を迎えてみれば俺とカンの間で行われるのは深刻な話し合い。俺とカンには「今後の予定を立てる」というSDXの会議にも響いてくるであろう事情が降りかかっていた。
インターホンを押して、プロさんの返事を待つ。いらっしゃいと迎え入れられれば、いつものようにお邪魔をするだけだけど。どこか落ち着かない。プロさんとソルさんに何て言おうか。そんなことがずっと渦巻いていて。
「拓馬ももうすぐ来るって言ってたし、2人とも紅茶でも飲んで待っててよ」
「いただきまーす」
「……カン、お前よく呑気に紅茶なんて飲んでられるな」
「逆だっつーの。落ち付かねーから紅茶なんだろ」
冷めてしまってもせっかくお茶を出してくれたプロさんに失礼だし、俺もそれをいただくことに。一口飲んで、もう一口飲んでも喉がカラカラだ。これは絶対緊張による喉の渇きだ。ライブ前でもこんなことにはならないのに。
「コンちゃーん、チーター、拓馬が来たよー」
「何だ、お前らももう来てたのか。待たせてわりィな」
「いえ、俺たちも今さっき来たばかりです。ソルさんお疲れ様です」
「お疲れーす」
「ほら、差し入れ」
「あー! ソルのゆで卵! 俺これマジで好き!」
「これでも食いながら話そうぜ。樹理、俺にも紅茶」
「今淹れてるよ」
人数分の紅茶が入って、こたつを囲んで始まる会議だ。ただ、こたつにみかんではなくこたつにゆで卵というのがちょっと異質ではあるけど、ソルさんは黙々と殻を割っては食べ、割っては食べを繰り返している。
「とりあえず、今月分の動画はソルの大逆襲リターンズとクリーパー早撃ちガンマン、後はスマブラが出たらそれをわちゃわちゃやるような感じかな」
「そーすね」
「で、大晦日の忘年会だね」
この話題になった瞬間、黙々とゆで卵を食べていたソルさんの手が止まった。大晦日の忘年会というのは、その名の通り、大晦日に忘年会と称した行事のことだ。SDXの場合は、わちゃわちゃとゲームをやったり雑談をする年越し生放送になる。
実は10月くらいからそんな話をしていて、俺とカンもその頃には部活も引退してるし就活もそこまでガツガツやってないし、とかで余裕をぶっこいてたんだ。バンドの方も年末は休みだよなって。ところがどっこい、大晦日にライブの予定が入ってしまったのだ。
バイト先の青山さんから持ち掛けられた年越し音楽祭とかそんな感じのイベントだ。声の届く限りのバンドを集めて、そのメンバーをシャッフルして課題曲を仕上げるとかそんなようなお遊びライブ。そのライブにCONTINUEでも参加することになったのだ。
ただ、完全にダブルブッキングなワケで。でも、どっちを優先するかと言えば、この機会を逃したら次あるかどうかわからない上影響の出る人数の多いライブの方じゃないかな、という結論に達した。SDXの生放送はその気になればいつでも出来るから。
「あの、すみませんプロさん。忘年会の件でちょっと、話が」
「どうしたのコンちゃん」
「実は、俺とカンがですね、バンドの方で大晦日にライブイベントが入ってしまって生放送をやるのが厳しくなってしまいました。本当にすみません」
「え~?」
「本当にすみません! 練習もあるのでスケジュールも結構パツパツですけど、SDXの活動にこれ以上影響が及ばないよう最大限努力します…!」
「だってー拓馬。俺たち2人で生放送やる?」
「わりィ樹理、実は俺も大晦日にライブ入ったんだ」
「えー!? 拓馬も!?」
「どう切り出そうかと思ったけど、まさかコンが全く同じ話をするとは思わなかったぜ」
「3人いないんじゃ忘年会にならないじゃん。まあ、音楽業界ではカウントダウンコンサートみたいなことなんだろうね。えっ、これ俺ゆく年くる年の時間帯に1人で第九演奏してればいい? バイオリンで」
「つかそれ見た過ぎるんだけど」
「カン、お前は! 草生やしてる状況じゃないんだぞ」
ソルさんの言ったまさかが本当にまさかで。ソルさんもバンドを組んでるとは聞いてたけど、大晦日にライブの予定が入るだなんて。でも、年末はみんなバタバターっと予定が入ったり無くなったりを繰り返していくんだなと。
ただ、結局4人中3人がいなくなってしまったことに関してはプロさんに対して申し訳なさしかない。正直ゆく年くる年に乗せたバイオリンでの第九演奏は見た過ぎるし配信して欲しいけど、アーカイブは残してくれなさそうだしな。
「それじゃあ忘年会改め、新年会ね。ちなみに3人の都合で変えるんだから拒否権なしね」
「はいはい。でも俺は4日からもう仕事だとは言っとくぞ」
end.
++++
ナノスパあるある、実は同じ人とか行事のことを喋ってるのに当人たちが気付いてないパターンのヤツ
というワケでSDXでも師走です。バンドやってる組がどうやらバタバタと忙しくなってきたようですね。そら主催のバンドやし塩見さんは強制参加みたいなモンよなあ
プロ氏の第九演奏とか見た過ぎるし、本当にやってたらたまたまそれを見た視聴者が伝説の神回みたいな扱いにするんやろなw
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「どーするスガ、大晦日のこと」
「まあ、ちゃんとこういう事情があってって話さなきゃいけないだろ。ちゃんと話せばわかってくれる人だから、必要なのは俺たちの誠意だ」
ようやくみんなの仕事や部活が落ち着いて活動が波に乗り始めたゲーム実況集団SDX。今年もあと1ヶ月ということで、今後の予定を立てるついでにちょっと遊ぶ会議というのがプロさん宅で開かれることになっていた。
最初はいつものように軽い感じなんだろうなって思ってたけど、いざ当日を迎えてみれば俺とカンの間で行われるのは深刻な話し合い。俺とカンには「今後の予定を立てる」というSDXの会議にも響いてくるであろう事情が降りかかっていた。
インターホンを押して、プロさんの返事を待つ。いらっしゃいと迎え入れられれば、いつものようにお邪魔をするだけだけど。どこか落ち着かない。プロさんとソルさんに何て言おうか。そんなことがずっと渦巻いていて。
「拓馬ももうすぐ来るって言ってたし、2人とも紅茶でも飲んで待っててよ」
「いただきまーす」
「……カン、お前よく呑気に紅茶なんて飲んでられるな」
「逆だっつーの。落ち付かねーから紅茶なんだろ」
冷めてしまってもせっかくお茶を出してくれたプロさんに失礼だし、俺もそれをいただくことに。一口飲んで、もう一口飲んでも喉がカラカラだ。これは絶対緊張による喉の渇きだ。ライブ前でもこんなことにはならないのに。
「コンちゃーん、チーター、拓馬が来たよー」
「何だ、お前らももう来てたのか。待たせてわりィな」
「いえ、俺たちも今さっき来たばかりです。ソルさんお疲れ様です」
「お疲れーす」
「ほら、差し入れ」
「あー! ソルのゆで卵! 俺これマジで好き!」
「これでも食いながら話そうぜ。樹理、俺にも紅茶」
「今淹れてるよ」
人数分の紅茶が入って、こたつを囲んで始まる会議だ。ただ、こたつにみかんではなくこたつにゆで卵というのがちょっと異質ではあるけど、ソルさんは黙々と殻を割っては食べ、割っては食べを繰り返している。
「とりあえず、今月分の動画はソルの大逆襲リターンズとクリーパー早撃ちガンマン、後はスマブラが出たらそれをわちゃわちゃやるような感じかな」
「そーすね」
「で、大晦日の忘年会だね」
この話題になった瞬間、黙々とゆで卵を食べていたソルさんの手が止まった。大晦日の忘年会というのは、その名の通り、大晦日に忘年会と称した行事のことだ。SDXの場合は、わちゃわちゃとゲームをやったり雑談をする年越し生放送になる。
実は10月くらいからそんな話をしていて、俺とカンもその頃には部活も引退してるし就活もそこまでガツガツやってないし、とかで余裕をぶっこいてたんだ。バンドの方も年末は休みだよなって。ところがどっこい、大晦日にライブの予定が入ってしまったのだ。
バイト先の青山さんから持ち掛けられた年越し音楽祭とかそんな感じのイベントだ。声の届く限りのバンドを集めて、そのメンバーをシャッフルして課題曲を仕上げるとかそんなようなお遊びライブ。そのライブにCONTINUEでも参加することになったのだ。
ただ、完全にダブルブッキングなワケで。でも、どっちを優先するかと言えば、この機会を逃したら次あるかどうかわからない上影響の出る人数の多いライブの方じゃないかな、という結論に達した。SDXの生放送はその気になればいつでも出来るから。
「あの、すみませんプロさん。忘年会の件でちょっと、話が」
「どうしたのコンちゃん」
「実は、俺とカンがですね、バンドの方で大晦日にライブイベントが入ってしまって生放送をやるのが厳しくなってしまいました。本当にすみません」
「え~?」
「本当にすみません! 練習もあるのでスケジュールも結構パツパツですけど、SDXの活動にこれ以上影響が及ばないよう最大限努力します…!」
「だってー拓馬。俺たち2人で生放送やる?」
「わりィ樹理、実は俺も大晦日にライブ入ったんだ」
「えー!? 拓馬も!?」
「どう切り出そうかと思ったけど、まさかコンが全く同じ話をするとは思わなかったぜ」
「3人いないんじゃ忘年会にならないじゃん。まあ、音楽業界ではカウントダウンコンサートみたいなことなんだろうね。えっ、これ俺ゆく年くる年の時間帯に1人で第九演奏してればいい? バイオリンで」
「つかそれ見た過ぎるんだけど」
「カン、お前は! 草生やしてる状況じゃないんだぞ」
ソルさんの言ったまさかが本当にまさかで。ソルさんもバンドを組んでるとは聞いてたけど、大晦日にライブの予定が入るだなんて。でも、年末はみんなバタバターっと予定が入ったり無くなったりを繰り返していくんだなと。
ただ、結局4人中3人がいなくなってしまったことに関してはプロさんに対して申し訳なさしかない。正直ゆく年くる年に乗せたバイオリンでの第九演奏は見た過ぎるし配信して欲しいけど、アーカイブは残してくれなさそうだしな。
「それじゃあ忘年会改め、新年会ね。ちなみに3人の都合で変えるんだから拒否権なしね」
「はいはい。でも俺は4日からもう仕事だとは言っとくぞ」
end.
++++
ナノスパあるある、実は同じ人とか行事のことを喋ってるのに当人たちが気付いてないパターンのヤツ
というワケでSDXでも師走です。バンドやってる組がどうやらバタバタと忙しくなってきたようですね。そら主催のバンドやし塩見さんは強制参加みたいなモンよなあ
プロ氏の第九演奏とか見た過ぎるし、本当にやってたらたまたまそれを見た視聴者が伝説の神回みたいな扱いにするんやろなw
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