2018(03)
■jumping the gun
++++
「野坂、ちょっといいかな」
「はい、いかが致しましたか圭斗先輩」
「明日の昼放送の収録のことなんだけどね」
今日は金曜日で、明日は土曜日。つまり、昼放送の収録があるということだ。今年度の収録は明日を含めて残り3回。毎回のように暗黙の待ち合わせ時間である午後2時には遅れてしまっているので今度こそ無遅刻で行きたい。
さて、昼放送の話だ。ただ、圭斗先輩からその話を持ちかけられるというのに少し驚いたと言うか、どうしたんだろうという疑問が先に出て来る。ペアの相手は菜月先輩だし、昼放送は曜日ごとに完全に独立した活動だから、別の曜日の人が何の用事だろうと。
「明日の収録は出来れば巻き進行でお願いしたいんだよ」
「巻きですか」
巻き進行、つまり「早く終わらせろ」ということだ。
確かに、菜月先輩と俺の火曜日ペアは収録に多大な時間を掛けることでサークルでも通っている。それこそ2時間3時間は当たり前。集合してから簡単に5分程度打ち合わせて、30分一発録りで終わらせる圭斗先輩・律ペアとは雲泥の差だ。
どうしてそんなに時間がかかるのかというと、使う曲の情報についての打ち合わせだけならともかく、簡単なリハーサルをやっているからだ。火曜ペアはとにかく緊張に弱く、行き当たりばったりではなかなか番組をやれないペアでもあった。
恐らく圭斗先輩はそんな火曜ペアのことを知っていらして、お前たちもそろそろ30分まではいかないにしても片付けまで含めた全ての工程を1時間くらいで済ませて見せろよと発破をかけていらっしゃるのだろう。そしてそれはミキサーの俺の責任でもあると。
「わかりました。圭斗先輩直々に激励を頂けたことを誇りに頑張ります」
「ん、何か話を大きくしていないかな?」
「え? 俺のミキサーとしての技量を成長させろという激励かと思ったのですが、まさか違いましたか…?」
「残念だけどそんなつもりは全くなかった」
「ナ、ナンダッテー!? 俺は1人で舞い上がって、1人で気を引き締めていたのか! 勘違い乙すぎてちょっと穴を掘って埋まってきますね!?」
いや~、久し振りに派手にやっちまったぜ! そうだよな! 圭斗先輩はまだ「巻き進行でお願いしたいんだよ」としか仰っていないのにその言葉の中に含まれる意味を勝手に想像して大騒ぎしていたのは他ならぬ俺!
「いいから落ち着いて話を聞け」
「はい。どのようなご事情がおありなのでしょうか。施設設備の点検などですか」
「いや。明日の菜月さんは、昼放送の収録終了後に予定があってね」
「はっ…! もしや、高崎先輩…!?」
忘れもしない、あれは七夕の日のことだ。収録終わりの菜月先輩と高崎先輩が向島環状鉄道の最寄り駅で待ち合わせをされていたんだ。バスの窓からそれを見た俺は、どんどん小さくなっていく2人の姿にやりきれなさや悔しさばかりが溢れて来て。
「ん、どうして高崎が出て来るんだい? もしかして何か見たのかな?」
「夏にそのようなことが一度。いえ、今のは俺の邪推ですし、非常に失礼であるとは。話を遮ってしまい、申し訳ございません。続きをお願いします」
「単刀直入に言えば、僕と菜月さんと、それから星大の美奈だね。3人で会う予定があってね」
「福井先輩ですか! 福井先輩と言えば、菜月先輩とはすこぶる仲良しでいらっしゃいますよね!」
「そうだ。菜月さんと美奈はすこぶる仲良しで、明日はダーツをする約束になっているんだ。どれだけ長くやれるかは収録時間次第だから、つまりそういうことだ」
「収録を巻けば、菜月先輩が福井先輩と楽しく過ごせる時間が増える、と」
「ん、そういうことだね。そしてそれは意訳すれば、どれだけお前が遅れる時間を減らせるかにかかっている」
そもそも「遅刻せずに来れるか」ではなく「遅れる時間を減らせるか」と遅れることを前提に語られてしまっているところが普段の行いってヤツですね! 非常に申し訳ございません! そう、俺の毎週のやらかしは雑記帳に事細かに記されているのだ。
「仮に4時に番組を終えたとすれば、星港に移動して5時前だろう。夕飯も一緒に食べられるね。それがいつものように7時終わりであれば」
「ぜひ菜月先輩に素敵な時間をお過ごしいただけるよう頑張ります」
「巻けと急かした僕の言えることではないけど、番組のクオリティの方も頼むよ。火曜ペアはMMP昼放送の顔なんだ」
「遅刻をしないのは当然として、番組収録の段取りなども今日のうちに完璧にします」
「ん、よろしく頼むよ」
「はい。福井先輩とはお揃いのポーチを持つほど仲良しでいらっしゃいますが、そうそう会う機会もないでしょうから。菜月先輩には心から楽しんでいただきたいと思います」
そうとなったらまずはどうやって遅刻をせずにここに来れるかという対策会議が必要になる。さてどうしたものか。いっそ情報知能センターに泊まりこんでやろうかという考えさえ生まれてしまうじゃないか。
「はっ…! ゼミの先輩からお鍋のお誘い…! 大学の近所だし、泊めていただければ勝てる!」
「野坂、圧をかけた僕の言えることではないけど、あまり気負わないようにね」
end.
++++
缶蹴りの日の話で圭斗さんが菜月さんに話を持ち掛けていましたね。予定日の前日、圭斗さんからノサカに念押しが行われていたようです。
しかしノサカは圭斗さんからの言葉をいい風に膨らますな~w 巻き進行でって言われただけでどうして激励になる
秋冬のターンだからノサカも少しはいい思いが出来ればいいのだけど、まあ来年度を待てっちゅーヤツですね(ローテーションの都合)
.
++++
「野坂、ちょっといいかな」
「はい、いかが致しましたか圭斗先輩」
「明日の昼放送の収録のことなんだけどね」
今日は金曜日で、明日は土曜日。つまり、昼放送の収録があるということだ。今年度の収録は明日を含めて残り3回。毎回のように暗黙の待ち合わせ時間である午後2時には遅れてしまっているので今度こそ無遅刻で行きたい。
さて、昼放送の話だ。ただ、圭斗先輩からその話を持ちかけられるというのに少し驚いたと言うか、どうしたんだろうという疑問が先に出て来る。ペアの相手は菜月先輩だし、昼放送は曜日ごとに完全に独立した活動だから、別の曜日の人が何の用事だろうと。
「明日の収録は出来れば巻き進行でお願いしたいんだよ」
「巻きですか」
巻き進行、つまり「早く終わらせろ」ということだ。
確かに、菜月先輩と俺の火曜日ペアは収録に多大な時間を掛けることでサークルでも通っている。それこそ2時間3時間は当たり前。集合してから簡単に5分程度打ち合わせて、30分一発録りで終わらせる圭斗先輩・律ペアとは雲泥の差だ。
どうしてそんなに時間がかかるのかというと、使う曲の情報についての打ち合わせだけならともかく、簡単なリハーサルをやっているからだ。火曜ペアはとにかく緊張に弱く、行き当たりばったりではなかなか番組をやれないペアでもあった。
恐らく圭斗先輩はそんな火曜ペアのことを知っていらして、お前たちもそろそろ30分まではいかないにしても片付けまで含めた全ての工程を1時間くらいで済ませて見せろよと発破をかけていらっしゃるのだろう。そしてそれはミキサーの俺の責任でもあると。
「わかりました。圭斗先輩直々に激励を頂けたことを誇りに頑張ります」
「ん、何か話を大きくしていないかな?」
「え? 俺のミキサーとしての技量を成長させろという激励かと思ったのですが、まさか違いましたか…?」
「残念だけどそんなつもりは全くなかった」
「ナ、ナンダッテー!? 俺は1人で舞い上がって、1人で気を引き締めていたのか! 勘違い乙すぎてちょっと穴を掘って埋まってきますね!?」
いや~、久し振りに派手にやっちまったぜ! そうだよな! 圭斗先輩はまだ「巻き進行でお願いしたいんだよ」としか仰っていないのにその言葉の中に含まれる意味を勝手に想像して大騒ぎしていたのは他ならぬ俺!
「いいから落ち着いて話を聞け」
「はい。どのようなご事情がおありなのでしょうか。施設設備の点検などですか」
「いや。明日の菜月さんは、昼放送の収録終了後に予定があってね」
「はっ…! もしや、高崎先輩…!?」
忘れもしない、あれは七夕の日のことだ。収録終わりの菜月先輩と高崎先輩が向島環状鉄道の最寄り駅で待ち合わせをされていたんだ。バスの窓からそれを見た俺は、どんどん小さくなっていく2人の姿にやりきれなさや悔しさばかりが溢れて来て。
「ん、どうして高崎が出て来るんだい? もしかして何か見たのかな?」
「夏にそのようなことが一度。いえ、今のは俺の邪推ですし、非常に失礼であるとは。話を遮ってしまい、申し訳ございません。続きをお願いします」
「単刀直入に言えば、僕と菜月さんと、それから星大の美奈だね。3人で会う予定があってね」
「福井先輩ですか! 福井先輩と言えば、菜月先輩とはすこぶる仲良しでいらっしゃいますよね!」
「そうだ。菜月さんと美奈はすこぶる仲良しで、明日はダーツをする約束になっているんだ。どれだけ長くやれるかは収録時間次第だから、つまりそういうことだ」
「収録を巻けば、菜月先輩が福井先輩と楽しく過ごせる時間が増える、と」
「ん、そういうことだね。そしてそれは意訳すれば、どれだけお前が遅れる時間を減らせるかにかかっている」
そもそも「遅刻せずに来れるか」ではなく「遅れる時間を減らせるか」と遅れることを前提に語られてしまっているところが普段の行いってヤツですね! 非常に申し訳ございません! そう、俺の毎週のやらかしは雑記帳に事細かに記されているのだ。
「仮に4時に番組を終えたとすれば、星港に移動して5時前だろう。夕飯も一緒に食べられるね。それがいつものように7時終わりであれば」
「ぜひ菜月先輩に素敵な時間をお過ごしいただけるよう頑張ります」
「巻けと急かした僕の言えることではないけど、番組のクオリティの方も頼むよ。火曜ペアはMMP昼放送の顔なんだ」
「遅刻をしないのは当然として、番組収録の段取りなども今日のうちに完璧にします」
「ん、よろしく頼むよ」
「はい。福井先輩とはお揃いのポーチを持つほど仲良しでいらっしゃいますが、そうそう会う機会もないでしょうから。菜月先輩には心から楽しんでいただきたいと思います」
そうとなったらまずはどうやって遅刻をせずにここに来れるかという対策会議が必要になる。さてどうしたものか。いっそ情報知能センターに泊まりこんでやろうかという考えさえ生まれてしまうじゃないか。
「はっ…! ゼミの先輩からお鍋のお誘い…! 大学の近所だし、泊めていただければ勝てる!」
「野坂、圧をかけた僕の言えることではないけど、あまり気負わないようにね」
end.
++++
缶蹴りの日の話で圭斗さんが菜月さんに話を持ち掛けていましたね。予定日の前日、圭斗さんからノサカに念押しが行われていたようです。
しかしノサカは圭斗さんからの言葉をいい風に膨らますな~w 巻き進行でって言われただけでどうして激励になる
秋冬のターンだからノサカも少しはいい思いが出来ればいいのだけど、まあ来年度を待てっちゅーヤツですね(ローテーションの都合)
.