2018(03)

■恋バナカウンター

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「あら、あずさ。いらっしゃい」
「あっ、あずさ」

 一生懸命勉強をして疲れたから、自分へのご褒美じゃないけどハルちゃんのお店に寄り道。そしたら今日はちーまでお店にいて、お手伝いをしてるみたい。今日は倉庫のバイトお休みなんだね。

「ちーいー、疲れたぁー。モスコミュールぅー」
「どうしたの、座るなりへたり込んじゃって。今日は立てなくなるまで飲まないでよ」
「大丈夫でーす。今日はねえ、ゼミのペア研究の方で勉強してたんだよね、朝霞クンと一緒に」
「あ、そうなんだ。お疲れ」
「そしたらさあ、謎に朝霞クンのスイッチが入っちゃってたみたくてもーう終わんない終わんない」
「あー……お察しします」
「4限だけのつもりが7時回ってやっと解放してもらえたんだから」
「それはお疲れ様でした」

 ちーが出してくれたお酒がとても沁みる。仕事終わり……もとい、勉強終わりのお酒がこんなに美味しいだなんて、的な。あ、でも一番美味しいのは脱稿後のお酒とか、作品が完成した後のお酒とか、とりあえず何かの区切りのお酒が開放感があって美味しいよね。
 しばらくはカウンター越しにちーといろんなことをお喋りしてた。朝霞クンは元気にしてるかーとか、こないだおでんを食べてーとかそんなような話。やっぱり、共通の友達だから朝霞クンの話が多くなっちゃうよね。
 店の中は絶えず誰かがお喋りをしていて賑やか。またドアベルが鳴って、誰かお客さんが来たみたい。ハルちゃんがいらっしゃいと出迎えたその人は、あたしが座るカウンターの、2つ隣の席に着いた。髪の長い、物凄い美人。睫毛もバシバシだし肌もきっれい。

「あ、美奈。いらっしゃい」
「こんばんは……」
「えっ!? ちー、こんな綺麗な人と知り合い!? もしや彼女とか!?」
「彼女ではないよ。大学の友達。ああ、せっかくだし紹介するね。福井美奈さん。俺とは同じサークルで、FMにしうみでバイトしてるから兄さんとも仲がいいんだ」
「……福井です」
「それで、こっちが俺の幼馴染みの伏見あずさ。星ヶ丘大学に通ってて、朝霞の友達でもあるよ」
「あ、えっと、伏見です」

 美奈さんが本当に綺麗すぎて言葉を失うよね。気軽に話しかけていいような存在じゃないみたいなオーラもある。下手な芸能人より断然美人だもん。それに比べてあたしはその辺にいる普通の大学生なので、住む世界が違いますよね!
 でも同い年だしちーの友達だし悪い人ではないんだろうなとか思って1人でそわそわしてたら、美奈さんがあたしのことをジッと見てる。もしかしなくても不審がられましたよね! ごめんなさい! ひー、もうしません!

「美奈、どうかした?」
「……あずさが、面白いと思って」
「ごめんなさいおかしいですよね一人百面相なんてして」
「……幼馴染みの子の話は、大石君から聞いていた……」
「ちょっとちー! 何喋ってるのー!」
「そんな大したことじゃないよ、本当だよ」
「……優しくて、料理が上手で……それから、最近、恋をしてるみたいだ、って……」
「ちょっと! 大したことを喋ってる! もー、恥ずかしくて表に出れないよー!」
「……誰に、とは聞いてないから……」
「そーゆー問題じゃないんですよぉ~! えっ、ちー、あたし酔った勢いで喋ったりとかしてないよね?」
「大丈夫、シラフの時から既にわかりやすいもん」
「ちーのバカバカバカバカ! えっ、はっず、はっず、えっ、はっず」

 カウンターが邪魔をしてちーを叩かせてくれない! ちょっと待ってよ、超が付くほど鈍感なちーにもわかるくらいあたしってわかりやすいの!? って言うかそれならちーを好きだった時に分かってて欲しかったんですけど!
 ……ってそうじゃないそうじゃない。初対面の人にいきなりそういうネタをぶっこまれて本当に恥ずかしいよね! それもこれも全部ちーの所為だ! しかもサークル関係の友達ってことは美奈さんも朝霞クンを知ってるってことじゃん!

「……良いことだと、思う……」
「え?」
「……恋をしたあずさは……キラキラしてて、生き生きしてる……私は、そう聞いていたから……」
「ちー、あたしそんなに生き生きしてる?」
「してる」
「でも美奈さん、聞いてくださいよ。その、好きな人と一緒にはいたいんですよ? だけど、そうすると釜茹で地獄に浸かって頭から押さえつけられないといけないっていう、胃に穴が開きそうな執筆ストレス!」
「……表現が……」
「ペンを持つと人格が変わる人なんですよ」
「……二重人格…?」
「えっと、美奈、先の紹介で察してね」
「……ああ……」
「書いてないときは人当たりもいいし優しいんですけど、なーんか物足りなくて。やっぱり、台本とかレポートとか書いてギラギラしてないとって思っちゃうんですよぉ~、鬼なのに、優しくないのに優しくされると物足りないんですぅ~! ちー、モスコミュールおかわり!」

 そんな感じで恋バナ(?)をしていると、ハルちゃんがスーッとちーの横にやって来てごにょごにょと。もー、どーせあたしのことをちーに投げたんでしょハルちゃん! いいもん、それだったら今日はちーと美奈さんと恋バナしてるもんね!

「あ、美奈、何かあずさがごめんね」
「……ううん……それより、私は、大石君の恋の話も聞きたいけれど……」
「そーだちーの話も聞くぅー!」
「ええー!?」


end.


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久々にベティさんのお店に来たなあという感じがします。今日はちーちゃんもお手伝い中です。
さて、ふしみんと美奈が出会いました。こうなってくると秋冬の足音が聞こえて来ますね。ここから人が増えるんや!
しかし今回のちーちゃんはふしみん相手だからかいつもより濁さないと言うかストレートよね。いつもこうならもうちょっと有能認定だった…?

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