2018(03)

■手段と目的と成果物

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「あ、リン君。来てくれてありがとう」
「それで青山さん、話というのは?」
「リン君、芹ちゃんに復讐したくない?」

 青山さんから某所カフェに呼び出され、席に着くなりふっかけられた話だ。オレはやってきた店員にロイヤルミルクティーとティラミスを注文し、話の続きを促す。春山さんへの復讐? それは非常に心躍る響きだが、青山さんの言うことだけに裏があるような気がする。

「春山さんへの復讐であれば常に機を窺っていますが、それが何か」
「ちょっと、この資料を見てくれる?」

 机の上に差し出された紙を受け取り、目を通す。そこには「シャッフル音楽祭(仮)」と題字があり、そのイベントの企画概要が記されていた。いずれも現時点では企画段階であり、まだ確定はしていないがそのような感じで進める予定だそうだ。
 企画概要は、青山さんと共同主催を務める……書類によれば長谷川というギタリストの人脈で音楽関係の人間を集めるだけ集め、音楽のジャンルやバンドの垣根を越えて楽しもうという感じだそうだ。
 で、何が“シャッフル”なのかと言うと、曲を披露するバンドだという。音楽祭の参加者にはあらかじめ課題曲が提示され、それを練習して披露出来るようにしておけとのこと。誰とどんなバンド組むのかも現場でわかるそうだ。

「それと春山さんへの復讐がどう関係するんですか」
「これをやるのが大晦日の予定なんだよね。大晦日には芹ちゃんも実家に帰ってるはずなんだよ」
「でしょうね。バイトのシフト提出の時に聞きましたから」
「芹ちゃんのいないところでブルースプリングが面白い音楽をやってたら、芹ちゃんは絶対悔しがると思うんだよ」
「見せつけるわけですね」
「そういうこと」

 春山さんへの恨みは山積している。センターで好き放題していることもそうだが、ブルースプリングというバンドに無理矢理参加させられたことにしてもそうだ。結果がどうあれ、オレという善良で人畜無害な後輩を脅して意のままにするというのは畜生の所行だ。
 青山さんには確認することを出来るだけ確認する。現段階でどのようなバンドが参加予定なのか、何時から何時まで行われるのか、場所はどこなのかなどなど。そして、仮にブルースプリングでこの音楽祭に出るとすれば、問題が少しある。

「青山さん、仮にブルースプリングでこの音楽祭に出たとします」
「うん」
「ブルースプリングとして出せる音源の数の問題です。オリジナルの曲が少ないのではという問題が」

 大学祭の中夜祭では6曲を披露したが、うちオリジナルは2曲だった。もちろん、複数書いた曲の中から選ばれた2曲だったのだが、書いた曲数と言ってもたかが知れている。参加するバンドの中でも結成歴は間違いなく浅いだろう。

「ああ、話って言うのがこれだけじゃなくてね」
「まだ何かあるんですか」
「音楽祭の前に路上でやろうと思ってて。一応区に申請もして許可も下りてるんだよね。で、その2人スプリングに向けて新曲を書いてほしいなー、なーんて」
「まるでオレがやると返事をすることを前提に話を進めているではないですか」
「芹ちゃんへの復讐という目的で、音楽をその手段にすれば乗ってくれると思いました」

 路上ライブについての資料も提示され、どこの路上で何時から、何分くらいやるという風にまとめられている。そして、この路上ライブやその後で行われる予定の音楽祭とやらの映像を撮影するスタッフもすでに用意しているというのだ。
 そして、青山さんはこのライブをインターネットで配信すると言うのだ。今やっていることを、そのときに見せないと復讐としては意味がないと。リアルタイムで反応をもらわないとライブとしてはどうなの、という考え方だそうだ。

「春山さんへの復讐はします。ですが、大前提として、オレが楽しいかどうかの方が重要です。青山さん、この企画は楽しいですか。楽しくなりますか」
「絶対に面白いよ。参加しなかったら絶対後悔する。後悔させるから」
「わかりました、やりましょう」
「ありがとう!」
「それで、何曲書けばいいんです?」
「それはリン君の情熱の赴くままに。あっでも音源の提出期限もあるからなー……」
「音源提出があるということは、ピアノだけの仮音源ではマズいということですか」
「ううん、いいんじゃない?」
「仮にも主催がそんなに適当でいいんですか」
「主催だからなるようにするんだよ」

 そうですかと返事をして、どんな曲を書くかを考え始める。とりあえず、北の大地にいるであろう春山さんに喧嘩を売れるような曲が良いだろうか。そしてオレの元にもおそらく様々なバンドの音源が届くのだろう。練習に忙しくなりそうだ。

「それでねえリン君」
「ん?」
「俺ねえ、バイト先の3人で打楽器だけのバンドを結成したんだよ。ヴィ・ラ・タントンっていうんだけど」
「打楽器だけですか。マリンバなどがいるんですか?」
「ううん。タンバリンとマラカスなどとでんでん太鼓」
「でんでん太鼓…? それは一体……」


end.


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今年度のシャッフルバンド音楽祭の情報公開はちょっと早めです。
春山さんへの復讐は、自分が楽しいという結果の上に成り立つものであって欲しいというリン様の考え。
さて、ブルースプリングはエントリー出来ました。他のバンドはどうなっているかな?

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