2018(03)
■蘇る戦いへの衝動
++++
「皆さん、席決めのクジは参加費と引き換えでお願いしまーす」
さて、食糧戦争を回避するために選んだ焼肉食べ放題の居酒屋だ。今日はインターフェイス夏合宿の打ち上げが行われる。夏合宿の打ち上げという体だけど、最早合宿に関わった人という参加条件はあってないような物になっていた。
俺は対策委員の議長、そして今回の幹事としての職務を全うする。まずは時間に遅れないこと。それさえクリアすれば後は安心だと他の対策メンバーからも言われていたけど、何とか間に合って会費の回収兼席決めのクジを配布する係に落ち着いた。
「あっ、それでは20番の席に」
「お願いしまーす」
「はい、確かに。それじゃあクジを引いてもらって。はい、38番にどうぞ」
「はーい」
参加者は50人を超えている。そもそも宴会の幹事自体初めてなのに、初っ端からそんな大所帯かと。まあ、対策委員のメンバーがサポートはしてくれているから俺1人だけの責任ではないにしてもだ。
集めた参加費は即つばめに渡す。対策委員が誇る敏腕にして剛腕の会計だ。正直、これだけの人数がいれば最終的にはすごい金額になる。それだけの大金を持っていられる自信がなかったのだ。怖すぎますよね。
「よう野坂」
「あっ、高崎先輩! おはようございます」
「野坂わりィ、ちょっと聞きてえんだけどよ」
「何でしょうか」
今回の参加者の中には3年生の先輩方も含まれている。3年生の参加者は夏合宿に一般参加者として来られた方や、モニター会に参加された方が主になる。高崎先輩はクジの箱と、何人かが座っている会場を交互に見て、俺に耳打ちをしてくる。
「これはワガママにはなるんだが、俺はタバコ吸うから出来れば換気扇の真下をもらえれば助かるんだけど」
「ああー……その発想はありませんでした。えーと、今ならまだ埋まっていないようですので、それでしたら高崎先輩は10番のクジを引いた体でどうぞ」
「サンキュ、わりィな」
「いえ、その辺りの配慮がこちらも足りませんでしたので」
10番の席の真上には換気扇がある。高崎先輩がそこに陣取られたので、クジの方も10番を探して撤去するだけの仕事。はー、でもよかった。これで結構埋まった後だったらどうしようかと。いや、そうなったら普通に交渉の上で交代してもらえばよかったのか。まあいい。
今のインターフェイスはタバコを吸う人が本当に数えるくらいしかいない。1・2年生ではゼロなんじゃないかとすら思う。思い当たるのは、それこそ高崎先輩や岡崎先輩(こないだ缶蹴りの日に見た)、あとは石川先輩か。
「高崎、もう来てたのか」
「よう性悪」
「石川先輩おはようございます。ところで、石川先輩は本日喫煙の予定はございますか?」
「マズいなら吸わないし、吸っていいなら吸うけど、どうかした?」
「いや、さっき俺が換気扇の下をもらったんだ。せめてもの分煙的な」
「ああ、なるほど。それじゃあ俺も換気扇の下に行こうかな。あっ、でも席決めのクジ的には大丈夫そう?」
「それはこちらで当該のクジを撤去するという対策を取らせていただきますので、石川先輩は9番か11番辺りでいかがでしょうか」
「じゃあ、11番をもらおうかな。ありがとう」
これで今日はもう喫煙者の人はいないだろう。あとは周りに嫌煙派の人が来ないことを願いつつ、その卓周りで何とかしていただければと思う。焼肉の煙を吸うヤツもあるし、会場全体が煙くなるということはさすがにないだろう。というか肉がすでに煙いだろうし。
今回の焼肉食べ放題は主に俺と果林の食糧戦争を防ぐためのメニューだ。対策委員の行事なのに、その対策委員の議長と委員長が戦争をやっていてはみっともないという理由からだ。それと、菜月先輩が三井先輩から焼肉を奢ってもらっていたという話な。
「よし、今日は食うぞ」
「お前が食うぞって気合を入れるとかロクでもないことになる気しかしない」
「果林か野坂がこっちに来たら絶対食いっぱぐれるからな。クジ運に賭けるしかねえ。大石がいなくてよかった」
「食糧戦争的に言えばお前も十分ジョーカーだろ、ガラスのハート」
「あ?」
「ただ、大石がいなくて良かったには同意」
「えーと……今回は戦争を起こさないための食べ放題プランですのでご安心いただいて……」
「野坂、甘いぞ。焼肉は焼けた肉を皿に移すまで油断が出来ねえ。それが誰の肉か名前なんざ書いてねえワケだからな」
「はっ……確かに…!」
「――とか何とか言いながら戦争を煽るな」
「平和な焼肉なんざ焼肉じゃねえ。血を啜り合うくらいでちょうどいい」
「何と言うラブ&ピースな焼肉観…!」
戦争を起こさないための食べ放題プラン。そう、つまり俺たちも思う存分やっていい、好き放題にやりたいがための食べ放題プランなのだ。のほほんとやっているだけなんて性に合わない。抹殺と書いてラブ&ピースと読むくらいがちょうどいい。
「ノサカ、来たぞ」
「菜月先輩! えーと、参加費とクジの引き換え制です!」
end.
++++
インターフェイスの飲み会です。高崎はタバコを吸いたいがために換気扇の下を確保してそうだなと思った結果のお話。兄さんも付いて来た。
そうだよなあ、よくよく考えたら戦争になって周りに迷惑をかけたらダメとは言ってたけど、食うのをやめろとは誰も言っていない。
そして高崎の焼肉観である。もしかしたら塩見さんの影響もあったりなかったりするのかもしれない。ただご飯は食うぞ!
.
++++
「皆さん、席決めのクジは参加費と引き換えでお願いしまーす」
さて、食糧戦争を回避するために選んだ焼肉食べ放題の居酒屋だ。今日はインターフェイス夏合宿の打ち上げが行われる。夏合宿の打ち上げという体だけど、最早合宿に関わった人という参加条件はあってないような物になっていた。
俺は対策委員の議長、そして今回の幹事としての職務を全うする。まずは時間に遅れないこと。それさえクリアすれば後は安心だと他の対策メンバーからも言われていたけど、何とか間に合って会費の回収兼席決めのクジを配布する係に落ち着いた。
「あっ、それでは20番の席に」
「お願いしまーす」
「はい、確かに。それじゃあクジを引いてもらって。はい、38番にどうぞ」
「はーい」
参加者は50人を超えている。そもそも宴会の幹事自体初めてなのに、初っ端からそんな大所帯かと。まあ、対策委員のメンバーがサポートはしてくれているから俺1人だけの責任ではないにしてもだ。
集めた参加費は即つばめに渡す。対策委員が誇る敏腕にして剛腕の会計だ。正直、これだけの人数がいれば最終的にはすごい金額になる。それだけの大金を持っていられる自信がなかったのだ。怖すぎますよね。
「よう野坂」
「あっ、高崎先輩! おはようございます」
「野坂わりィ、ちょっと聞きてえんだけどよ」
「何でしょうか」
今回の参加者の中には3年生の先輩方も含まれている。3年生の参加者は夏合宿に一般参加者として来られた方や、モニター会に参加された方が主になる。高崎先輩はクジの箱と、何人かが座っている会場を交互に見て、俺に耳打ちをしてくる。
「これはワガママにはなるんだが、俺はタバコ吸うから出来れば換気扇の真下をもらえれば助かるんだけど」
「ああー……その発想はありませんでした。えーと、今ならまだ埋まっていないようですので、それでしたら高崎先輩は10番のクジを引いた体でどうぞ」
「サンキュ、わりィな」
「いえ、その辺りの配慮がこちらも足りませんでしたので」
10番の席の真上には換気扇がある。高崎先輩がそこに陣取られたので、クジの方も10番を探して撤去するだけの仕事。はー、でもよかった。これで結構埋まった後だったらどうしようかと。いや、そうなったら普通に交渉の上で交代してもらえばよかったのか。まあいい。
今のインターフェイスはタバコを吸う人が本当に数えるくらいしかいない。1・2年生ではゼロなんじゃないかとすら思う。思い当たるのは、それこそ高崎先輩や岡崎先輩(こないだ缶蹴りの日に見た)、あとは石川先輩か。
「高崎、もう来てたのか」
「よう性悪」
「石川先輩おはようございます。ところで、石川先輩は本日喫煙の予定はございますか?」
「マズいなら吸わないし、吸っていいなら吸うけど、どうかした?」
「いや、さっき俺が換気扇の下をもらったんだ。せめてもの分煙的な」
「ああ、なるほど。それじゃあ俺も換気扇の下に行こうかな。あっ、でも席決めのクジ的には大丈夫そう?」
「それはこちらで当該のクジを撤去するという対策を取らせていただきますので、石川先輩は9番か11番辺りでいかがでしょうか」
「じゃあ、11番をもらおうかな。ありがとう」
これで今日はもう喫煙者の人はいないだろう。あとは周りに嫌煙派の人が来ないことを願いつつ、その卓周りで何とかしていただければと思う。焼肉の煙を吸うヤツもあるし、会場全体が煙くなるということはさすがにないだろう。というか肉がすでに煙いだろうし。
今回の焼肉食べ放題は主に俺と果林の食糧戦争を防ぐためのメニューだ。対策委員の行事なのに、その対策委員の議長と委員長が戦争をやっていてはみっともないという理由からだ。それと、菜月先輩が三井先輩から焼肉を奢ってもらっていたという話な。
「よし、今日は食うぞ」
「お前が食うぞって気合を入れるとかロクでもないことになる気しかしない」
「果林か野坂がこっちに来たら絶対食いっぱぐれるからな。クジ運に賭けるしかねえ。大石がいなくてよかった」
「食糧戦争的に言えばお前も十分ジョーカーだろ、ガラスのハート」
「あ?」
「ただ、大石がいなくて良かったには同意」
「えーと……今回は戦争を起こさないための食べ放題プランですのでご安心いただいて……」
「野坂、甘いぞ。焼肉は焼けた肉を皿に移すまで油断が出来ねえ。それが誰の肉か名前なんざ書いてねえワケだからな」
「はっ……確かに…!」
「――とか何とか言いながら戦争を煽るな」
「平和な焼肉なんざ焼肉じゃねえ。血を啜り合うくらいでちょうどいい」
「何と言うラブ&ピースな焼肉観…!」
戦争を起こさないための食べ放題プラン。そう、つまり俺たちも思う存分やっていい、好き放題にやりたいがための食べ放題プランなのだ。のほほんとやっているだけなんて性に合わない。抹殺と書いてラブ&ピースと読むくらいがちょうどいい。
「ノサカ、来たぞ」
「菜月先輩! えーと、参加費とクジの引き換え制です!」
end.
++++
インターフェイスの飲み会です。高崎はタバコを吸いたいがために換気扇の下を確保してそうだなと思った結果のお話。兄さんも付いて来た。
そうだよなあ、よくよく考えたら戦争になって周りに迷惑をかけたらダメとは言ってたけど、食うのをやめろとは誰も言っていない。
そして高崎の焼肉観である。もしかしたら塩見さんの影響もあったりなかったりするのかもしれない。ただご飯は食うぞ!
.