2018(03)
■Trace with fingers
++++
「うう……」
火曜昼はいつものように昼放送のオンエアがある。俺は至って普段通りに機材を繋げたりしているのだけど、菜月先輩は通路の隅っこに体育座りでうずくまっていらっしゃる。夏でもないのに風邪ということは考えにくいし、どうしたのだろうか。
「菜月先輩、顔色があまりよろしくないようですが」
「寝不足なんだ」
「ソリティアで徹夜でもされていたのですか?」
「いや、ついうっかり動画をな。見てたら止まらなくなってしまって」
「お気持ちはよぉーくわかります。俺もそんなことが多々あります」
菜月先輩の部屋にはネット回線が繋がっていないしWi-fiも飛んでいない。基本的に菜月先輩のネットライフはスマホを中心に行われている。菜月先輩がスマホにしたのは去年のことだから、スマホ歴としては短い方だ。
スマホにしたいんだけどどうしようと相談を受けたときのことが思い起こされる。月々の通信量について話題が及んだ時、動画なんてそうそう見ないからそんなに上限が多くなくても大丈夫だというようなことを仰っていたのだけど?
「音楽の動画などですか?」
「いや、ゲーム動画だ」
「ゲーム実況ですか!」
「実況と言うのかどうかはわからないぞ。アップしてる人は喋ってないし」
「ちなみに、何のゲームの動画だったんでしょうか」
「ツミツミだ」
「ああ~……」
「すごい上手い人がいるんだよな。その人の動画ずーっと見てたら後はお察しですよ」
MMPメンバーがとにもかくにもディスりまくっている某夢の国にも繋がりそうなスマホパズルゲー・ツミツミ…! ちなみに菜月先輩も無課金でスコア2000万を軽く叩き出すくらいにはキチ……いや、のめり込んでいらっしゃるのだけど、その菜月先輩が上手いって言う人ってどんなレベルなんだ。
「ノサカ、ちょっとこれを見てくれ」
「はい」
そう言って菜月先輩は俺にスマホ画面を寄せてくれる。……はっ! 右下にあるこのアイコンは…! これは紛れもなくSDXの動画じゃないか! SDXの動画はちょこちょこ見てるけど、ツミツミは飛ばしてたんだよな。どこに需要があって毎日上がってんだと思ってたけど。
「この人の指捌きが本当に隙が無いんだよな」
「確かに物凄く早いですね」
「ボムの量産も本当に効率がいい。これは真似しようとしてもそう簡単には出来ないぞ。うちも同じのをメインで使ってるんだけど、4000万は出したことがないし」
「はえ~」
菜月先輩は一体どこを目指しているんだ。いや、ツミツミの高みなんだろうけど。一応知ってるんだ、菜月先輩はひとつのことを突き詰めさせたらとんでもないということは。夜な夜なスパイダーソリティアの最高難度で勝つまで寝れないとかやってる人だし。
ただ、心配になってくるのは動画の見過ぎで菜月先輩の今月の通信量がエライことになっていないかということだ。動画を見ない、アプリを必要以上に落とさないことを前提にした最低限の契約だったはずだから、こんな感じでやってると通信制限が来るに違いない。
「ところで菜月先輩、通信量の方は…?」
「昨日のことは明後日くらいにならないとわからないけど、マズいだろうな」
「何かが間違ってSDXの他の動画に手を付けようものなら最後だとは忠告しておきます」
「お前はこの動画を上げている人を知っているのか」
「ええ。俺も見ているゲーム実況集団ですね。ツミツミ動画はこのグループのリーダー格であるソルという人が仕事で忙しくて動画撮影に参加できないときの繋ぎとか生存報告のために上げていると聞いたことがあります」
「忙しくてこのレベルなのか…! は~、やっぱり上手い人は上手いんだなあ」
菜月先輩の関心の方向だ。いや、ぶっちゃけ可愛すぎるんだけども。純と言うか。どれだけツミツミを極めたいんだ! いやはや、スコア1000万行くか行かないかの俺ではちっとも話になりませんね! 菜月先輩にスコアで勝っていた週はない!
「ですが菜月先輩、このまま動画をスマホで見続けることはお勧めしません」
「まさかうちも動画を見始めるとは思わなかったもんなあ」
「Wi-fiの導入などを検討された方がよろしいかと。そうすればパソコンでもインターネットが使えるようになりますし」
「だけどなノサカ、そんなことが現実になろうものならうちは引きこもりに磨きがかかるぞ」
「その恐れがあることも重々承知していますが、Wi-fiはあった方がよろしいのではないでしょうか」
「わかんないんだよな、何がどうとか」
「その辺りは俺が少々ではありますがわかりますので、いつでもご相談下さい」
「さすがヘンクツ理系男だな。もしそうなったら聞くことにしよう」
「微力ながら、尽力して参ります」
今日は動画は控えめにしないと……と菜月先輩は己を律せられた。うん、いつ誰がどんな趣味を持つとか、何に手を出し始めるかなんてわかんないもんなあ。学生の好奇心は旺盛だ。1ヶ月で変わることだって多々ある。
「とりあえず、今週が終わるまでに大石のスコアを越える」
「菜月先輩の上がいらっしゃるのですか…!? と、言うか、ツミツミはLINEで繋がってないとランキングに反映されないはず。人と繋がりたくないことに定評のある菜月先輩がまさか」
「大石とはツミツミの話で盛り上がって繋がったんだ」
「ナ、ナンダッテー……レベルが高すぎてついて行けない……」
end.
++++
スマホを買い替えることになった年には買い替えの相談に乗っていたけど、ネット回線までお世話するのかノサカよ
というワケで菜月さんと動画のお話。ついうっかりツミツミ動画を見てしまったようです。しかもソルさんのヤツかーいw
そうだよ! 菜月さんはLINEで繋がってる人が本当に全然いないけど、ちーちゃんはツミツミの良きライバルだから繋がってるよ!
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「うう……」
火曜昼はいつものように昼放送のオンエアがある。俺は至って普段通りに機材を繋げたりしているのだけど、菜月先輩は通路の隅っこに体育座りでうずくまっていらっしゃる。夏でもないのに風邪ということは考えにくいし、どうしたのだろうか。
「菜月先輩、顔色があまりよろしくないようですが」
「寝不足なんだ」
「ソリティアで徹夜でもされていたのですか?」
「いや、ついうっかり動画をな。見てたら止まらなくなってしまって」
「お気持ちはよぉーくわかります。俺もそんなことが多々あります」
菜月先輩の部屋にはネット回線が繋がっていないしWi-fiも飛んでいない。基本的に菜月先輩のネットライフはスマホを中心に行われている。菜月先輩がスマホにしたのは去年のことだから、スマホ歴としては短い方だ。
スマホにしたいんだけどどうしようと相談を受けたときのことが思い起こされる。月々の通信量について話題が及んだ時、動画なんてそうそう見ないからそんなに上限が多くなくても大丈夫だというようなことを仰っていたのだけど?
「音楽の動画などですか?」
「いや、ゲーム動画だ」
「ゲーム実況ですか!」
「実況と言うのかどうかはわからないぞ。アップしてる人は喋ってないし」
「ちなみに、何のゲームの動画だったんでしょうか」
「ツミツミだ」
「ああ~……」
「すごい上手い人がいるんだよな。その人の動画ずーっと見てたら後はお察しですよ」
MMPメンバーがとにもかくにもディスりまくっている某夢の国にも繋がりそうなスマホパズルゲー・ツミツミ…! ちなみに菜月先輩も無課金でスコア2000万を軽く叩き出すくらいにはキチ……いや、のめり込んでいらっしゃるのだけど、その菜月先輩が上手いって言う人ってどんなレベルなんだ。
「ノサカ、ちょっとこれを見てくれ」
「はい」
そう言って菜月先輩は俺にスマホ画面を寄せてくれる。……はっ! 右下にあるこのアイコンは…! これは紛れもなくSDXの動画じゃないか! SDXの動画はちょこちょこ見てるけど、ツミツミは飛ばしてたんだよな。どこに需要があって毎日上がってんだと思ってたけど。
「この人の指捌きが本当に隙が無いんだよな」
「確かに物凄く早いですね」
「ボムの量産も本当に効率がいい。これは真似しようとしてもそう簡単には出来ないぞ。うちも同じのをメインで使ってるんだけど、4000万は出したことがないし」
「はえ~」
菜月先輩は一体どこを目指しているんだ。いや、ツミツミの高みなんだろうけど。一応知ってるんだ、菜月先輩はひとつのことを突き詰めさせたらとんでもないということは。夜な夜なスパイダーソリティアの最高難度で勝つまで寝れないとかやってる人だし。
ただ、心配になってくるのは動画の見過ぎで菜月先輩の今月の通信量がエライことになっていないかということだ。動画を見ない、アプリを必要以上に落とさないことを前提にした最低限の契約だったはずだから、こんな感じでやってると通信制限が来るに違いない。
「ところで菜月先輩、通信量の方は…?」
「昨日のことは明後日くらいにならないとわからないけど、マズいだろうな」
「何かが間違ってSDXの他の動画に手を付けようものなら最後だとは忠告しておきます」
「お前はこの動画を上げている人を知っているのか」
「ええ。俺も見ているゲーム実況集団ですね。ツミツミ動画はこのグループのリーダー格であるソルという人が仕事で忙しくて動画撮影に参加できないときの繋ぎとか生存報告のために上げていると聞いたことがあります」
「忙しくてこのレベルなのか…! は~、やっぱり上手い人は上手いんだなあ」
菜月先輩の関心の方向だ。いや、ぶっちゃけ可愛すぎるんだけども。純と言うか。どれだけツミツミを極めたいんだ! いやはや、スコア1000万行くか行かないかの俺ではちっとも話になりませんね! 菜月先輩にスコアで勝っていた週はない!
「ですが菜月先輩、このまま動画をスマホで見続けることはお勧めしません」
「まさかうちも動画を見始めるとは思わなかったもんなあ」
「Wi-fiの導入などを検討された方がよろしいかと。そうすればパソコンでもインターネットが使えるようになりますし」
「だけどなノサカ、そんなことが現実になろうものならうちは引きこもりに磨きがかかるぞ」
「その恐れがあることも重々承知していますが、Wi-fiはあった方がよろしいのではないでしょうか」
「わかんないんだよな、何がどうとか」
「その辺りは俺が少々ではありますがわかりますので、いつでもご相談下さい」
「さすがヘンクツ理系男だな。もしそうなったら聞くことにしよう」
「微力ながら、尽力して参ります」
今日は動画は控えめにしないと……と菜月先輩は己を律せられた。うん、いつ誰がどんな趣味を持つとか、何に手を出し始めるかなんてわかんないもんなあ。学生の好奇心は旺盛だ。1ヶ月で変わることだって多々ある。
「とりあえず、今週が終わるまでに大石のスコアを越える」
「菜月先輩の上がいらっしゃるのですか…!? と、言うか、ツミツミはLINEで繋がってないとランキングに反映されないはず。人と繋がりたくないことに定評のある菜月先輩がまさか」
「大石とはツミツミの話で盛り上がって繋がったんだ」
「ナ、ナンダッテー……レベルが高すぎてついて行けない……」
end.
++++
スマホを買い替えることになった年には買い替えの相談に乗っていたけど、ネット回線までお世話するのかノサカよ
というワケで菜月さんと動画のお話。ついうっかりツミツミ動画を見てしまったようです。しかもソルさんのヤツかーいw
そうだよ! 菜月さんはLINEで繋がってる人が本当に全然いないけど、ちーちゃんはツミツミの良きライバルだから繋がってるよ!
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