2018(03)

■いいものまだまだノンストップ

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「おい伊東、今世紀最後の天才たるこのオレ様が来てやったぞ」
「あ、おこしやすー」
「何故似非方言を使った。まあいい。上がるぞ」
「どうぞー、みんなも来てるから」

 部屋の中に進んでいくと、伊東の他に宮ちゃん、浅浦、高崎、それから川崎が勢揃いしていた。今日は星港高校の集い的なものが伊東宅で行われる。集いとは言うが、飲み会を都合良く言い換えた言葉だ。
 台所では伊東が忙しなく料理の準備などをしていて、それを配膳するのは最早嫁と言っても過言ではない宮ちゃんだ。机の上のセッティングは高崎が慣れた様子だ。川崎は相変わらず喧しいし、浅浦は静かだ。何ら変わりない。

「リン君、ところで何か飲む物は持ってきた?」
「ああ。日本酒と焼酎を少し」
「酒類はあそこに集めて簡易バーコーナーみたいな感じにしてるみたい。今ある日本酒と焼酎は大体俺のだから、リン君も好きに飲んでいいよ」
「そうか。ならばお前もオレの物は好きに飲むといい」

 机の上にどんどん運ばれているのはポテトサラダにポテトグラタン、ジャーマンポテトにコロッケ、フライドポテトと見事にジャガイモ料理ばかりだ。そう、何を隠そうこの集いはオレ発案のジャガイモ処理大会で、当然そのジャガイモの出所は情報センターだ。
 伊東のサークルではオクトーバーフェストを模した飲み会が開かれたそうで、そこで大量にジャガイモを消費してくれた前例があった。後に川北からどんな様子だったかを少し聞いたのだが、とても羨ましくなる内容だったのだ。それならばオレにも食わせんかと現在に至る。

「ひとまずこんな感じかな? 高ピー、もう机の上乗らないよね」
「ああ、そうだな。一旦乾杯するか。リン君、音頭を」
「何故オレが」
「リン君がこの企画の発案者だって聞いたけど」
「ならば仕方ない。えー、今回は、未だオレのバイト先の事務所を埋め尽くしている芋の消費に協力してもらい感謝する。どんどん食え、制限はない。以上だ。乾杯」
「かんぱーい!」

 まだ仕事のある伊東と酒に弱い宮ちゃんはオレンジジュースだが、その他の面々はそれぞれ好きな酒で乾杯をする。高崎と川崎はビールだし、オレと浅浦はハイボールで。しかし、下手な店より物が揃う部屋だな。
 居酒屋にもたまに行くが、机を埋め尽くさんばかりの料理と好きな酒をたらふくという感じでこれだけ豪勢にはやったことがない。宅飲みの経験もまああるが、伊東は最早宅飲み料理のプロではないだろうか。そう思うくらいには充実している。

「リンちゃんポテサラ好きっしょ? バゲットもあるから乗っけて食べてもおいしーよ。あっ、高崎はバゲットどうする?」
「ではもらおうか」
「俺はいい。しかしいつ食ってもコロッケがうめえ」
「はー……ポタージュが落ち着く」
「浅浦が最初にスープ飲んでるとコース料理の前菜かよって感じだな」
「あ、わかる。って言うかこんな雑い飲みに浅浦がいるっていうのもイメージにないよね実際」
「いや、拳悟お前俺を何だと思ってるんだ」
「だって実際いい家のお坊ちゃんじゃん」
「あー、拳悟拳悟、浅浦がいいのは家柄だけで本人は中身おっさんだし全然雑いから。はーいみんなー、ジャガバタの準備はいーいー?」

 部屋の隅で密かに調理をしていたらしい噂の電気圧力鍋。この中ではジャガイモが蒸かされていたらしい。ふたを開ければ湯気が立ち、芋の匂いが漂う。バターやマヨネーズなどの調味料も宮ちゃんが運んで来てくれた。

「宮ちゃん、芋に乗せたいのだが塩辛はあるか?」
「えっ、塩辛!? あったかな。って言うかジャガイモと一緒に食べるの?」
「本場ではメジャーな食い方だそうだ。オレも最初は驚いたが、やってみると美味くてな」
「カーズー、塩辛ってあったー? ……リンちゃーん、あったよー」
「って言うか俺のじゃねーかあの野郎、許可くらい取れよ。あっ、リン君はどうぞ、食べてもらって」
「ああ、悪いな浅浦。ありがたくいただく」
「せっかくだし俺もやってみようかな、芋に塩辛」

 皆思い思いに料理を食い進めているが、台所からは無限に料理が出てきて机の上は常に皿で埋められている。高崎と川崎の飲み食いする勢いが特に凄いが、伊東によれば高崎に関しては平常運転だそうだ。
 そして芋と塩辛の組み合わせに挑戦した浅浦だが、よほどこれを気に入ったのか2個目に行こうとしている。本来塩辛は酒の肴のつもりで用意したらしかったが、下手をすればこれだけでなくなりそうだ。

「俺もちょっと休憩。コロッケ食べよーっと」
「しかし、お前もよくやるな」
「リンちゃん、星大ではどうしてるのこの大量の芋を」
「大学祭でカレーの店を出してな。それに入れることで少しは捌けたが……ああ、そう言えばお好み焼きにして食ったりもしたぞ」
「へえ、山芋じゃなくて?」
「ああ。ジャガイモを摺りおろした物と千切りにした物を合わせた他は普通のお好み焼きと作り方はほぼ変わらんのだが、カリカリになって美味かったぞ」
「へー、粉もんの発想はなかったな。ちょっとやってみようかな」

 休憩と言っていたのにお好み焼きの話を聞いた途端台所へと戻っていくのだから、最早台所は伊東の巣だ。そしてオレはコロッケを食む。おお、これはカレー風味がついているな。これもまた美味い。

「そうだ、年末に今いるメンツと他にもうちょっと呼んで忘年会したいよね~!」
「やりたいって言うならお前が幹事やれよ拳悟」
「わかった、じゃあ幹事やるから今いるメンバー全員参加ねー!」
「高崎ク~ン、ビール足りてますか~?」
「おっ、サンキュ」


end.


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愉快な星港高校メンバーの宅飲みだよ! 例によって情報センター発の芋がいち氏によって美味しくされています。
しかし意外に浅浦雅弘が出張っているのだけど、多分席順とかの関係かしら。視点のリン様の隣に座っているようだから
このメンバーでお酒に弱いのはいち氏と慧梨夏、あと拳悟もあと3人に比べれば強くないけどいちえりちゃんはお仕事中だから平和なんだね

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