2018(03)
■You've got a point.
++++
20人弱が入る宴会場。卓の上には料理や鍋が所狭しと並べられている。くじ引きで決まった席で始まった宴も、時間が経つにつれその形も崩れ始めていた。
今日は向島大学と緑ヶ丘大学の交流会と称した行事が行われている。前半は緑ヶ丘主催の飲み会、後半は僕たち向島主催の缶蹴り大会だ。今は飲み会の真っ最中。例によって緑ヶ丘勢の酒の勢いは凄まじい。下戸集団MMPは缶蹴りに備えてあまり飲まないでおこうねという風には申し合わせた。
固まったメンバーの色なのか、卓ごとになかなかに個性が出ているようだった。僕は伊東と奈々、それからハナちゃんと同じ卓だったんだけど、鍋奉行もとい世話役タイプが2人いるので最も美しい鍋になったと思っているよ。
すぐ右を見れば果林が無双しているし、その奥では野坂をはじめとした2年の男卓が中学生男子のノリで賑やかにしている。左はマイペースなタイプが集まったのか、他の卓よりのんびりまったりとしているんだけど、如何せん酒量が半端ない。恐らく高崎と高木君、それからMMP比で強いりっちゃんの所為だろうね。
「圭斗先輩カズ先輩すみません何もかもお世話になっちゃってッ…!」
「しょぼんです」
「気にしないで、俺はもう体に染みついちゃってるしさ。やってもらう方が落ち着かないよ」
「僕も奉行タイプだからね」
――などと話していると、スマートフォンに何らかの通知が入ったことに気付く。それに目をやると、美奈からの新着メッセージのようだった。先に美奈に野暮用で連絡を入れていたのだけど、返信を見てみようか?
「圭斗、お前次何食う?」
「ん、僕は少し席を外すよ。奈々とハナちゃんに食べさせてあげてくれ」
スマホ片手に席を立ち、左へ。例によって2人の世界を作っている高崎と菜月さんの間に膝をつく。
「お2人さん、ご歓談中に失礼するよ」
「どうした圭斗、酒が足りねえのか」
「いや、僕は缶蹴りガチ勢だから控えめにするつもりだよ。用事があるのは菜月さんでね」
「何だ圭斗、缶蹴りの作戦会議ならサークル中にやったじゃないか」
「サークルで缶蹴りの作戦会議とかどんだけガチなんだよお前ら」
「いや、今は缶蹴りの話ではないんだ。ところで、12月1日の予定を聞きたいんだけど」
「来月の1日? 何曜日だ」
「土曜日だね」
「昼放送の収録だぞ」
「うん、知ってた」
菜月さんはカバンから手帳を取り出し、昼放RECと書かれた土曜日の枠を突きつけて来る。その予定は知ってるんだけど、知った上で聞きたい事情というものが発生しているのだ。それは、返信を保留している美奈からのメッセージにある。
「収録終わりからでも問題はないんだよ」
「そうは言っても、収録の終わる時間は流動的だぞ」
「それも知ってた。逆に言えば、それ故に昼放送の収録以外の予定はないという解釈でいいかな?」
「何か腹が立つな。いいからさっさと本題を言え」
「最近、無性にダーツがやりたくなってね。それで美奈を誘ったら、菜月さんを連れて来いという条件を出されてね」
当然、僕の言葉だけでは信憑性に欠けるので、僕と美奈の間で行われている実際のやり取りを見せる。ダーツをしませんか。いいけど、菜月も。聞いてみます。そんな感じのやり取りをしている真っ最中だ。
菜月さんと美奈の友情に関しては高崎もある程度は知っているらしく、なるほどなと納得したように頷きながら、煙草を甘く燻らせる。嫌煙派の菜月さんが唯一慣れたという表現をする黒い筒だ。
「何だ、そんなことか。ったくお前は本当に回りくどい奴だな。美奈に「行く」って返事しといてくれ」
「ん、ありがとう」
僕の事情で話しているときは渋い表情だったのに、美奈の名前が出た瞬間綻ぶんだから何だかな。まあ、何にせよ菜月さんの都合がついたということで、改めて美奈にその旨を返信する。だけど、今度は菜月さんが困ったように頭を抱えているんだよ。どうしたんだろうね。
「問題は収録が巻き進行で行くかだな……」
「意訳をしていいかな?」
「半笑いなのが腹立つ」
「向島じゃ「収録を巻く」っつーのに裏の意味が付くのか」
「やァー高崎先輩、菜月先輩のペアの相手は野坂スよ」
「ああ、野坂が時間通りに来るかみたいなことか」
「こほん。とりあえず、用件は伝えたので僕は失礼するよ。ああそうだ。高崎、むらさき浪漫のお湯割りを頼んでおいてもらえるかな?」
「了解。ああ圭斗、俺からも美奈によろしく伝えといてくれ」
「了解」
高崎と美奈の間にある関わりがよく見えないけれど、一応は菜月さん繋がりではあるのか。とりあえず「高崎が美奈によろしくと」と伝えると、こちらの状況を訊ねられるのだ。緑ヶ丘と向島の――と答えると、間髪おかず高崎の煙草の銘柄を聞かれるのだ。
「高崎、何度も悪い」
「どうした」
「いや、美奈からお前が今吸ってる煙草の銘柄を聞かれてね」
「今吸ってるのはブラックデビルだけど、後継のブラックスパイダーにもココナッツミルクとかチョコレート系のフレーバーが出たから俺はもうこの問題は解決したと言っても。そういや美奈はこの問題は解決したのか?」
「とりあえず、僕は煙草を吸わないので必要があれば自分でやり取りしてくれ」
僕は伝書鳩じゃないんだよ。とりあえず、しばらくご無沙汰だったし鍋を食べよう。ちゃんと食べないと、缶蹴りで走る力は出ないからね。
end.
++++
件の缶蹴り大会の前半、緑ヶ丘サイドの飲み会の光景です。圭斗さん、ダーツがしたいと思っていたようです。
短編はノサカ視点だし、これは視点と卓を変えるだけでわんさか話が出て来るイベントなのできっと今後も続いて行くんだろうなあ。
そして高崎のタバコ問題が解決した件についてはこの話を書きながら調べてて本当にビックリしたヤツ……めっちゃ最近やんけって
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20人弱が入る宴会場。卓の上には料理や鍋が所狭しと並べられている。くじ引きで決まった席で始まった宴も、時間が経つにつれその形も崩れ始めていた。
今日は向島大学と緑ヶ丘大学の交流会と称した行事が行われている。前半は緑ヶ丘主催の飲み会、後半は僕たち向島主催の缶蹴り大会だ。今は飲み会の真っ最中。例によって緑ヶ丘勢の酒の勢いは凄まじい。下戸集団MMPは缶蹴りに備えてあまり飲まないでおこうねという風には申し合わせた。
固まったメンバーの色なのか、卓ごとになかなかに個性が出ているようだった。僕は伊東と奈々、それからハナちゃんと同じ卓だったんだけど、鍋奉行もとい世話役タイプが2人いるので最も美しい鍋になったと思っているよ。
すぐ右を見れば果林が無双しているし、その奥では野坂をはじめとした2年の男卓が中学生男子のノリで賑やかにしている。左はマイペースなタイプが集まったのか、他の卓よりのんびりまったりとしているんだけど、如何せん酒量が半端ない。恐らく高崎と高木君、それからMMP比で強いりっちゃんの所為だろうね。
「圭斗先輩カズ先輩すみません何もかもお世話になっちゃってッ…!」
「しょぼんです」
「気にしないで、俺はもう体に染みついちゃってるしさ。やってもらう方が落ち着かないよ」
「僕も奉行タイプだからね」
――などと話していると、スマートフォンに何らかの通知が入ったことに気付く。それに目をやると、美奈からの新着メッセージのようだった。先に美奈に野暮用で連絡を入れていたのだけど、返信を見てみようか?
「圭斗、お前次何食う?」
「ん、僕は少し席を外すよ。奈々とハナちゃんに食べさせてあげてくれ」
スマホ片手に席を立ち、左へ。例によって2人の世界を作っている高崎と菜月さんの間に膝をつく。
「お2人さん、ご歓談中に失礼するよ」
「どうした圭斗、酒が足りねえのか」
「いや、僕は缶蹴りガチ勢だから控えめにするつもりだよ。用事があるのは菜月さんでね」
「何だ圭斗、缶蹴りの作戦会議ならサークル中にやったじゃないか」
「サークルで缶蹴りの作戦会議とかどんだけガチなんだよお前ら」
「いや、今は缶蹴りの話ではないんだ。ところで、12月1日の予定を聞きたいんだけど」
「来月の1日? 何曜日だ」
「土曜日だね」
「昼放送の収録だぞ」
「うん、知ってた」
菜月さんはカバンから手帳を取り出し、昼放RECと書かれた土曜日の枠を突きつけて来る。その予定は知ってるんだけど、知った上で聞きたい事情というものが発生しているのだ。それは、返信を保留している美奈からのメッセージにある。
「収録終わりからでも問題はないんだよ」
「そうは言っても、収録の終わる時間は流動的だぞ」
「それも知ってた。逆に言えば、それ故に昼放送の収録以外の予定はないという解釈でいいかな?」
「何か腹が立つな。いいからさっさと本題を言え」
「最近、無性にダーツがやりたくなってね。それで美奈を誘ったら、菜月さんを連れて来いという条件を出されてね」
当然、僕の言葉だけでは信憑性に欠けるので、僕と美奈の間で行われている実際のやり取りを見せる。ダーツをしませんか。いいけど、菜月も。聞いてみます。そんな感じのやり取りをしている真っ最中だ。
菜月さんと美奈の友情に関しては高崎もある程度は知っているらしく、なるほどなと納得したように頷きながら、煙草を甘く燻らせる。嫌煙派の菜月さんが唯一慣れたという表現をする黒い筒だ。
「何だ、そんなことか。ったくお前は本当に回りくどい奴だな。美奈に「行く」って返事しといてくれ」
「ん、ありがとう」
僕の事情で話しているときは渋い表情だったのに、美奈の名前が出た瞬間綻ぶんだから何だかな。まあ、何にせよ菜月さんの都合がついたということで、改めて美奈にその旨を返信する。だけど、今度は菜月さんが困ったように頭を抱えているんだよ。どうしたんだろうね。
「問題は収録が巻き進行で行くかだな……」
「意訳をしていいかな?」
「半笑いなのが腹立つ」
「向島じゃ「収録を巻く」っつーのに裏の意味が付くのか」
「やァー高崎先輩、菜月先輩のペアの相手は野坂スよ」
「ああ、野坂が時間通りに来るかみたいなことか」
「こほん。とりあえず、用件は伝えたので僕は失礼するよ。ああそうだ。高崎、むらさき浪漫のお湯割りを頼んでおいてもらえるかな?」
「了解。ああ圭斗、俺からも美奈によろしく伝えといてくれ」
「了解」
高崎と美奈の間にある関わりがよく見えないけれど、一応は菜月さん繋がりではあるのか。とりあえず「高崎が美奈によろしくと」と伝えると、こちらの状況を訊ねられるのだ。緑ヶ丘と向島の――と答えると、間髪おかず高崎の煙草の銘柄を聞かれるのだ。
「高崎、何度も悪い」
「どうした」
「いや、美奈からお前が今吸ってる煙草の銘柄を聞かれてね」
「今吸ってるのはブラックデビルだけど、後継のブラックスパイダーにもココナッツミルクとかチョコレート系のフレーバーが出たから俺はもうこの問題は解決したと言っても。そういや美奈はこの問題は解決したのか?」
「とりあえず、僕は煙草を吸わないので必要があれば自分でやり取りしてくれ」
僕は伝書鳩じゃないんだよ。とりあえず、しばらくご無沙汰だったし鍋を食べよう。ちゃんと食べないと、缶蹴りで走る力は出ないからね。
end.
++++
件の缶蹴り大会の前半、緑ヶ丘サイドの飲み会の光景です。圭斗さん、ダーツがしたいと思っていたようです。
短編はノサカ視点だし、これは視点と卓を変えるだけでわんさか話が出て来るイベントなのできっと今後も続いて行くんだろうなあ。
そして高崎のタバコ問題が解決した件についてはこの話を書きながら調べてて本当にビックリしたヤツ……めっちゃ最近やんけって
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