2018(03)

■一足お先に何卒よろしく

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「あ、ゴメン。待った?」
「いや、今来たところじゃんな」
「ふーっ、緊張する」
「そうだな。それじゃあ見に行くか」

 掲示板の前で鵠沼くんと待ち合わせ。4限も終わって、これから行くのは5号館、またの名を社会学部棟だ。今日は2年から所属することになるゼミの発表日。大学の合格発表みたいな形で学部棟のロビーにゼミ名に対する学籍番号が掲示されるらしい。

「隆志くんに康平くんではありませんか、お揃いで」
「あ、実苑くん」
「お前もゼミ発表か?」
「僕はもうお昼休みに確認しました。無事に羽椛ゼミに合格していましたよ」
「落ちることはまずないって言ってなかったか?」
「はい。落ちることはまずないですが、確認はしないといけません。せっかくですから僕も2人について行っていいですか?」
「まあ、別にいいけど」
「うん。いいんじゃない?」

 ――というワケで、無事に羽椛ゼミに受かっていたらしい実苑くんも合流して学部棟に向かう。建物に近付くと、それらしい人がわらわらといる。うう、緊張してきた。成績のボーダーが厳しかったもんな~…!
 ロビーには、ゼミ希望届を提出したときにはなかった白い板が立てられていた。そこに○○ゼミ、何番、何番。○○ゼミ、何番、何番という感じで情報が書かれている。俺と鵠沼くんは、佐藤久ゼミという文字を最初に探す。

「あっ、高木あったぞ佐藤ゼミ」
「本当!?」
「えーっと……あっ、あった! 俺受かった!」
「え!? えーっと、俺は……はー、よかったぁー、あったよ俺も」
「2人とも、よかったですね」

 どうやら俺も鵠沼くんも無事に佐藤ゼミに受かったらしい。倍率が毎年2倍を超えるそうだから、いくらMBCCのミキサーっていうアドバンテージがあったところで不安になるのは仕方ない。それに俺には成績っていうディスアドバンテージもあったし。
 自分たちの番号を確認すると、他の人の声も耳に入ってくる。佐藤ゼミに落ちて第2希望のゼミに行くことになったというような人もいるようだ。俺と鵠沼くんは改めて良かったねと互いを労う。

「あ、将由くん。将由くんも来ていたんですか。どうでした?」
「何とか佐藤ゼミに通ったよ」
「よかったですね。あ、将由くん、僕と一緒にいるこの2人も佐藤ゼミに受かったそうですよ。黒い子が高木隆志くんで、白い子が鵠沼康平くんといいます。隆志くん康平くん、彼は文芸部の樽中将由くんといいます」

 よろしくー、と来年から一緒のゼミになる人と顔を合わせる。樽中くんは俺とも鵠沼くんともまた違う雰囲気がある。服装が、また独特と言うか。全体的に華やかでひらひらしてるって言うか。それより実苑くんて顔広いなあ。

「えっと、高木君と鵠沼君の繋がりが見えないんだけど、何関係?」
「月曜3限の授業でコイツが寝ててプリントが届かなかったから起こして知り合った系の繋がり」
「だね。起こしてもらった系の繋がり」
「じゃあ、部活とか学籍番号の班とか、バイトではなく」
「あ、俺は実苑とは同じ学食のバイト」
「そうなんだ。高木君とうららは何系の?」
「入学式の時に実苑くんから声をかけられてそのまま友達になったんだよ」
「うららは安定だなあ。って言うか高木君受け身なのに普通に友達出来てるって対人運いいんだね」
「そうなのかな。そうなんだねきっと」

 確かに、考えようによってはそうなのかもしれない。MBCCに入ったのは自分から行った結果だけど、実苑くんにしても鵠沼くんにしても向こうから来てもらって結果友達になってるし。対人運か。大切にしておきたい運だなあ。
 ちなみに樽中くんと実苑くんも、文化会の行事で実苑くんが樽中くんに声をかけて友達になったみたい。話を聞いていくと、実苑くんて本当に凄い。知らない人にでも臆せず話しかけることが出来て、さらに友達になっていくんだから。

「佐藤ゼミに入ったってことは、2人は何か特殊な趣味とか突き詰めてることがある系男子?」
「俺はサーフィンが趣味だけど、こっちに来てからはご無沙汰じゃんな。あ、俺光洋出身なんだけど。特別オタクってこともないし一浪しただけでごく普通の体育会系じゃん? 何で受かったのかは謎」
「えっ、鵠沼くんて浪人してたの? 1コ上ってことは鵠沼さん?」
「つか同じ学年なんだから関係ないじゃん?」
「じゃあ鵠さんとかでいいんじゃない。あだ名だからフランクだけど、ちゃんとさんも付けれる」
「樽中くん頭いい。そうだよね、鵠沼くん頼れるし優しいし確かに“鵠さん”って感じだよね」
「まあ、お前がそれでいいならいいけど」

 思いがけず鵠さんとの距離が縮まった雰囲気。これも対人運の一種?

「高木君は趣味などは」
「俺はそれと言った趣味もなければオタクでもないけど、MBCCっていう放送サークルで機材をちょっと扱ってて」
「ああ、順当に放送色で通った感じなんだね」
「うん、多分そう。ちなみに樽中くんの趣味とかは」
「俺はアニメとかには疎いけど、ドラマは少し見るかな。マンガも少し読んでて、あっ、小説は読むのも書くのも好きだよ。スマホゲーも触る程度にやってるし、3・2・2.5次元とそれぞれのジャンルに点在する推しが推しでしんどい……っていう感じの日々を送ってるよ」

 そして俺と鵠さんは少し納得したんだ。佐藤ゼミってこういう感じの人もやっぱりいるんだねって。でも、いい人みたいだし早めに知り合えて良かったとも思う。何はともあれ、来年から25人でやっていくみたい。どうなるのかな。


end.


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樽中サッカスが公式+1じゃないところにも出てきました。出会い編的なことですかね。文化部繋がりであずみんともきっとすでに知り合い。
とりあえず、無事にタカ鵠は佐藤ゼミに受かった様子。TKGはまず授業中に寝るのをやめろ、話はそれからだ
文芸部とか文化部方面をもうちょっとなんかしたいなあ。何かなるかなあ。

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