2018(03)
■幸せの上限
++++
「あ、関さん」
「はあい。浅浦クンどうかした?」
ゼミが終わってさあ帰ろうと思ったら、浅浦クンから声をかけられた。本を貸してたとか借りてたとかではないし、何か用事でもあるのかな。なんだろ。
「あのさ、もし良かったら今日の夜一緒に食べない?」
「みやっちたちも一緒に? 何か作ってもらえる的な」
「ううん、あのバカップルはいないんだけど。あと、今回は俺が作るんじゃなくて普通に外食の気分だった。天麩羅が食べたくてさ」
「いいよお、行こうよ」
――と連れて来られた店は、そこまで派手に高いってワケじゃないんだけど、学生がふらりと入るような感じでもないグレード。さすが浅浦クン、外食のレベルもひとつ高いんだなあ。とか何とか思ってたら、メニューを見せてくれますよね。
浅浦クンは天麩羅定食を、あたしは花御膳を頼んでしばし待つ。浅浦クンとこうして一緒にご飯を食べたりお茶をしたりっていうことは全然ないワケじゃないけど大体みやっち発だったりするし、意図が見えなくて不気味さがちょっとある。
「浅浦クン、突発的に天ぷらが食べたくなった的な?」
「そう。的な。バカップルのことを考えてたら不意に。1人で来ても良かったけど、今日は話し相手が欲しかったっていうのもあって。俺の気紛れに付き合ってくれてありがとう」
「ううん。晩ご飯作る手間省けたし。話は聞きますよ」
「あの人に流すのはなしな」
「大丈夫デース」
店は薄暗くて、うっすらとBGMが流れてて、それらしい雰囲気がある。お客さんの層っていうのもやっぱり値段と雰囲気相応な感じで、がやがやと騒々しい感じではない。注文した物を待ってても少し緊張する。
「今日っていうのがさ、あのバカップルが付き合い始めた記念日で。高1の時だから丸5年になるのかな」
「おめでたいねえ」
「関さんも知ってると思うけど、記念日やイベント事は何だかんだちゃんと外に出てデートしてるから、今日も例に漏れずデートをしてるってこと」
「そうでもしないと外に出ないからって聞いたことがあるけど」
「まあ、そうだな」
浅浦クンは、件のバカップル……カズさんとみやっちのことをずっと見てきてるし、それぞれからいろんな話を聞いて、いろんなことを知っている。それこそ、相手には秘密にしているようなことも。相談役とかご意見番みたいなポジションにされつつあるんだって。
今日のデートに関することも相談をされていて、特にカズさんから強く相談されていて、今頃どうしてるかな、上手くやれてるかなというようなことを考えていたら天ぷらが食べたくなったんだって。きっと、浅浦クンの中ではカズさんと天ぷらを結ぶ何かがあるんだと思う。
「みやっちも指輪磨いて浮かれてたし、きっと上手くやってると思うよお」
「はは、指輪を磨いてたんだ」
「もうでれっでれ。プロポーズでもされましたかって感じ」
「まあ、誕生日の指輪に関してはプロポーズの予行演習みたいなものだから強ち間違いでもないんだけど」
「予行演習」
「関さん、声がひっくり返ってるけど」
「こほん。予行演習も何もないと思うんですよお、あのバカップルには」
「まあ、それに関しては俺も同意だけど、結婚に関しては今のうちから約束しといて、ちゃんとしたのはまた今度しますっていうつもりなんじゃない?」
「ちっがーうんですよ浅浦クン、ちゃんとしたのはちゃんとしたのでも嬉しいけど、予行演習で驚きを使い切ってるんですよお!」
「あ、うん、そういう考え方も出来るね」
しまった、浅浦クンがちょっと引いてる。それにここが落ち着いた店だっていうことも忘れてついうっかり熱弁しちゃいましたよね。反省反省。だけど、誕生日は誕生日、プロポーズはプロポーズできっちりしておいて欲しかったですよね。人様のことだからどうこうは言えないけど。
誰の目から見てもカズさんとみやっちの結婚っていうのは予定調和だろうしお前らさっさと籍入れろみたいな空気を醸してますよ。踏んでいく段階もあるんだろうけど予行演習は要らんでしょって。少女マンガは守備範囲外だけど、プロポーズの予行演習で第1部・完にはならんのですよ。
「何か、関さんの恋愛観じゃないけど、恋愛に対する考えって初めて聞いたかもしれない」
「あ、そうですねえ。普段しないもんねえ。バカップルの話はするのにねえ」
「ホントに」
「ところで浅浦クンはその辺の事情は」
「俺は恋愛を諦めたから、それこそあのバカップルからお裾分けしてもらうだけで満足かな」
「……諦めた?」
「それらしい言葉で言うとデートDVってヤツになるのかな。厳密には違うかもだけど、多分その気がある。普段は大丈夫なんだ、でも精神的にキてるときのセック――ああ、こんなところでする話じゃなかった。ごめん、今のはなかったことに」
「仮説、いいですか」
「うん」
「基本人の聞き役でいい物も悪い物も溜め込むのに、それを平常時に今みたいに寸止めにして放出しないから限定的状況で考え得る最悪の形で現れるのでは」
「そういう考え方も出来るね。ありがとう、参考にします」
頼んでいた物が頼んで、2人で揚げたての天ぷらを一口。海老が美味しいことが幸せだ、と浅浦クンは穏やかな顔で言う。良くも悪くもバカップルに利用されて、利用して、持ちつ持たれつなんだなあ。ん、エビ天おいしい!
end.
++++
誕生日や記念日に本人不在のパターンはナノスパのあるある。バカップルの記念日にしても然りです。
べっ、別にこの2人が最近全然出てきてないからって救済作とかそんなんとちゃうんすよ! ちゃうんすよ!
まあ、バカップルが光属性やとしたらこの人は間違いなく闇属性なんでね、たまにちょっとアレなくらいでちょうどっす
.
++++
「あ、関さん」
「はあい。浅浦クンどうかした?」
ゼミが終わってさあ帰ろうと思ったら、浅浦クンから声をかけられた。本を貸してたとか借りてたとかではないし、何か用事でもあるのかな。なんだろ。
「あのさ、もし良かったら今日の夜一緒に食べない?」
「みやっちたちも一緒に? 何か作ってもらえる的な」
「ううん、あのバカップルはいないんだけど。あと、今回は俺が作るんじゃなくて普通に外食の気分だった。天麩羅が食べたくてさ」
「いいよお、行こうよ」
――と連れて来られた店は、そこまで派手に高いってワケじゃないんだけど、学生がふらりと入るような感じでもないグレード。さすが浅浦クン、外食のレベルもひとつ高いんだなあ。とか何とか思ってたら、メニューを見せてくれますよね。
浅浦クンは天麩羅定食を、あたしは花御膳を頼んでしばし待つ。浅浦クンとこうして一緒にご飯を食べたりお茶をしたりっていうことは全然ないワケじゃないけど大体みやっち発だったりするし、意図が見えなくて不気味さがちょっとある。
「浅浦クン、突発的に天ぷらが食べたくなった的な?」
「そう。的な。バカップルのことを考えてたら不意に。1人で来ても良かったけど、今日は話し相手が欲しかったっていうのもあって。俺の気紛れに付き合ってくれてありがとう」
「ううん。晩ご飯作る手間省けたし。話は聞きますよ」
「あの人に流すのはなしな」
「大丈夫デース」
店は薄暗くて、うっすらとBGMが流れてて、それらしい雰囲気がある。お客さんの層っていうのもやっぱり値段と雰囲気相応な感じで、がやがやと騒々しい感じではない。注文した物を待ってても少し緊張する。
「今日っていうのがさ、あのバカップルが付き合い始めた記念日で。高1の時だから丸5年になるのかな」
「おめでたいねえ」
「関さんも知ってると思うけど、記念日やイベント事は何だかんだちゃんと外に出てデートしてるから、今日も例に漏れずデートをしてるってこと」
「そうでもしないと外に出ないからって聞いたことがあるけど」
「まあ、そうだな」
浅浦クンは、件のバカップル……カズさんとみやっちのことをずっと見てきてるし、それぞれからいろんな話を聞いて、いろんなことを知っている。それこそ、相手には秘密にしているようなことも。相談役とかご意見番みたいなポジションにされつつあるんだって。
今日のデートに関することも相談をされていて、特にカズさんから強く相談されていて、今頃どうしてるかな、上手くやれてるかなというようなことを考えていたら天ぷらが食べたくなったんだって。きっと、浅浦クンの中ではカズさんと天ぷらを結ぶ何かがあるんだと思う。
「みやっちも指輪磨いて浮かれてたし、きっと上手くやってると思うよお」
「はは、指輪を磨いてたんだ」
「もうでれっでれ。プロポーズでもされましたかって感じ」
「まあ、誕生日の指輪に関してはプロポーズの予行演習みたいなものだから強ち間違いでもないんだけど」
「予行演習」
「関さん、声がひっくり返ってるけど」
「こほん。予行演習も何もないと思うんですよお、あのバカップルには」
「まあ、それに関しては俺も同意だけど、結婚に関しては今のうちから約束しといて、ちゃんとしたのはまた今度しますっていうつもりなんじゃない?」
「ちっがーうんですよ浅浦クン、ちゃんとしたのはちゃんとしたのでも嬉しいけど、予行演習で驚きを使い切ってるんですよお!」
「あ、うん、そういう考え方も出来るね」
しまった、浅浦クンがちょっと引いてる。それにここが落ち着いた店だっていうことも忘れてついうっかり熱弁しちゃいましたよね。反省反省。だけど、誕生日は誕生日、プロポーズはプロポーズできっちりしておいて欲しかったですよね。人様のことだからどうこうは言えないけど。
誰の目から見てもカズさんとみやっちの結婚っていうのは予定調和だろうしお前らさっさと籍入れろみたいな空気を醸してますよ。踏んでいく段階もあるんだろうけど予行演習は要らんでしょって。少女マンガは守備範囲外だけど、プロポーズの予行演習で第1部・完にはならんのですよ。
「何か、関さんの恋愛観じゃないけど、恋愛に対する考えって初めて聞いたかもしれない」
「あ、そうですねえ。普段しないもんねえ。バカップルの話はするのにねえ」
「ホントに」
「ところで浅浦クンはその辺の事情は」
「俺は恋愛を諦めたから、それこそあのバカップルからお裾分けしてもらうだけで満足かな」
「……諦めた?」
「それらしい言葉で言うとデートDVってヤツになるのかな。厳密には違うかもだけど、多分その気がある。普段は大丈夫なんだ、でも精神的にキてるときのセック――ああ、こんなところでする話じゃなかった。ごめん、今のはなかったことに」
「仮説、いいですか」
「うん」
「基本人の聞き役でいい物も悪い物も溜め込むのに、それを平常時に今みたいに寸止めにして放出しないから限定的状況で考え得る最悪の形で現れるのでは」
「そういう考え方も出来るね。ありがとう、参考にします」
頼んでいた物が頼んで、2人で揚げたての天ぷらを一口。海老が美味しいことが幸せだ、と浅浦クンは穏やかな顔で言う。良くも悪くもバカップルに利用されて、利用して、持ちつ持たれつなんだなあ。ん、エビ天おいしい!
end.
++++
誕生日や記念日に本人不在のパターンはナノスパのあるある。バカップルの記念日にしても然りです。
べっ、別にこの2人が最近全然出てきてないからって救済作とかそんなんとちゃうんすよ! ちゃうんすよ!
まあ、バカップルが光属性やとしたらこの人は間違いなく闇属性なんでね、たまにちょっとアレなくらいでちょうどっす
.