2018(03)
■宮崎工務店の芸術仕事
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その辺にあった資材のロープで簡易的に張ったバリケード。その内側では、繊細な作業が行われていた。昨日、11月11日はヒビキの誕生日。だけど、日曜日だったから1日遅れだけど今日誕生会をやろうってことになっていて。
さとちゃんのケーキもバッチリ用意されているし、会場設営もバッチリ。あとは、ヒビキの誕生会だからこそ建設されるとびっきりのじゃがりこタワーの完成を待つだけ。このタワーが建設されているのが、バリケードの中に設置された机の上。
ケース単位で買ってきたじゃがりこを、背が高くて腕も長い直クンが慎重に積み上げている。みんな慎重に動ければバリケードなんて要らないんだろうけど、Kちゃんが「サドニナ対策をしないと」って言ってガチガチに警備してる。……サドニナへの警戒は何となくわかる。
「啓子、赤取って」
「はい」
「凄く高くなってきたね」
「そろそろ踏み台が欲しいですね」
「毎年無駄に高くなってません?」
「確かに最初はおひとり様サイズのタワーだったのに、どんどん大きくなってる」
ヒビキと言えばじゃがりこみたいなところがある。サークル室でもいつも何らかのお菓子を食べてるけど、じゃがりこを切らしているのは見たことがない。食べる音がうるさいとか、ゴミを片付けてってKちゃんに怒られてるのもよく見る。
アタシたちが1年の時は、じゃがりこのカップが10個ほどで作られた本当に慎ましやかなタワーだった。だけど去年はその3倍くらいの規模になって、今年はさらにその3倍、みたいな感じに規模が拡大してる。タワーを建てるだけでも一大イベント。
「紗希先輩、凄いですねこれ」
「うん。今年はさらにパワーアップしてるからね」
Kちゃんがサドニナと戦ってる中、少しずつ積み上がっていくタワーを見上げながらユキちゃんが呆然としてる。アタシたちは小さいものからグレードアップしていくのを見てるから感覚が麻痺してるんだろうけど、1年生はこれが初めてだし、ビックリもするよね。
「ヒビキ先輩はこれを全部食べるんですか?」
「食べるだろうね」
「タワーを解体するときは、やっぱりじゃがりこジェンガみたいなことが始まるんですか?」
「さすがにジェンガにはしないんじゃないかな。派手に崩落したら中身が折れちゃうだろうし」
「それもそうですね。その発想はなかったです。でも、これだけ準備するのも大変ですよね」
「うん、そうだと思う」
「同じのばっかりでも飽きるし、ご当地じゃがりこみたいなのを集めても良かったですよね」
「その発想はなかったな。ご当地じゃがりこか。でも、確かにあるよね。手羽先味のヤツとか」
「でもその場合、ご当地じゃがりこの箱でドミノが始まりそうですね」
「ユキちゃんはどうして何でもテーブルゲームにしたがるの」
全国のご当地じゃがりこを集めればじゃがりこドミノも出来るだろうけど、それまでにかかる費用が恐ろしいことになりそうな気がする。だったらまだじゃがりこジェンガの方が手軽に出来るのかな。
直クンの作業は慎重を極めていた。高くなればなるほどバランスも取りにくくなるし、崩れてしまった際のダメージは計り知れない。そーっと、そーっと、慎重に。それこそジェンガのように、ひとつ積み上げる度に「おー」と起こる声。
「今日さと先輩のケーキあるんですよね!」
「じゃがりこが堅くてしょっぱい系だからケーキは柔らかくて甘い感じにしたって聞いてるよ」
「甘いとしょっぱいの組み合わせは最強ですよね!」
「ヒビキの誕生会だから、お菓子やスイーツはいくら用意しても用意しすぎることはないってくらいでいいからね」
タワー作りは佳境。ヒビキにサークル室に来るよう指定した時間まではあと20分。細かい準備漏れがないか今一度確認をする。さとちゃんのケーキもオッケー。アタシが個人的に用意したプレゼントもよし。
「啓子、ラスト。緑取って」
「はい」
「よ、よーし……」
そーっと、そーっと。頂上に緑色のカップが乗せられた瞬間、自然と起こる拍手。そしてみんな写真を撮り始めてる。だけど、大仕事を終えて踏み台の上に留まる直クンの表情は固い。
「直、どうしたの」
「……啓子、降りるの怖いんだけど。崩したらどうしよう」
「そこは頑張るしかない」
「そうかー…!」
「とりあえず、直クンが踏み台から降りたらバリケードは解除する?」
「いえ、そのままにしておきましょう。ここまで来ると芸術品ですし、ヒビキ先輩が来るまでに崩されても」
「そっか、芸術品か」
「そうですよ紗希先輩。建築物は時として芸術なんですよ」
「ここに来てユキちゃんの語気が強い」
「当然ですよKちゃん先輩。あたしの専攻にも繋がるんですから」
そして直クンが地上に降り立ち踏み台を片付ければ、改めて起こる拍手。いよいよ舞台は整った。後は主役が来るのを待つだけ。うん、不慮の事故が起こらないといいのだけど。
end.
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ヒビキの誕生日編。でも日曜日だったので延期になったようです。一般的にはポッキー&プリッツの日。
なんかすっごいタワーを立ててるということだけはわかるけど、バリケードまで設置しなきゃならんかったかねw
そして延々と繰り広げられるサドニナと啓子さんの攻防である。ユキちゃんも何気に見守ってたのね
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その辺にあった資材のロープで簡易的に張ったバリケード。その内側では、繊細な作業が行われていた。昨日、11月11日はヒビキの誕生日。だけど、日曜日だったから1日遅れだけど今日誕生会をやろうってことになっていて。
さとちゃんのケーキもバッチリ用意されているし、会場設営もバッチリ。あとは、ヒビキの誕生会だからこそ建設されるとびっきりのじゃがりこタワーの完成を待つだけ。このタワーが建設されているのが、バリケードの中に設置された机の上。
ケース単位で買ってきたじゃがりこを、背が高くて腕も長い直クンが慎重に積み上げている。みんな慎重に動ければバリケードなんて要らないんだろうけど、Kちゃんが「サドニナ対策をしないと」って言ってガチガチに警備してる。……サドニナへの警戒は何となくわかる。
「啓子、赤取って」
「はい」
「凄く高くなってきたね」
「そろそろ踏み台が欲しいですね」
「毎年無駄に高くなってません?」
「確かに最初はおひとり様サイズのタワーだったのに、どんどん大きくなってる」
ヒビキと言えばじゃがりこみたいなところがある。サークル室でもいつも何らかのお菓子を食べてるけど、じゃがりこを切らしているのは見たことがない。食べる音がうるさいとか、ゴミを片付けてってKちゃんに怒られてるのもよく見る。
アタシたちが1年の時は、じゃがりこのカップが10個ほどで作られた本当に慎ましやかなタワーだった。だけど去年はその3倍くらいの規模になって、今年はさらにその3倍、みたいな感じに規模が拡大してる。タワーを建てるだけでも一大イベント。
「紗希先輩、凄いですねこれ」
「うん。今年はさらにパワーアップしてるからね」
Kちゃんがサドニナと戦ってる中、少しずつ積み上がっていくタワーを見上げながらユキちゃんが呆然としてる。アタシたちは小さいものからグレードアップしていくのを見てるから感覚が麻痺してるんだろうけど、1年生はこれが初めてだし、ビックリもするよね。
「ヒビキ先輩はこれを全部食べるんですか?」
「食べるだろうね」
「タワーを解体するときは、やっぱりじゃがりこジェンガみたいなことが始まるんですか?」
「さすがにジェンガにはしないんじゃないかな。派手に崩落したら中身が折れちゃうだろうし」
「それもそうですね。その発想はなかったです。でも、これだけ準備するのも大変ですよね」
「うん、そうだと思う」
「同じのばっかりでも飽きるし、ご当地じゃがりこみたいなのを集めても良かったですよね」
「その発想はなかったな。ご当地じゃがりこか。でも、確かにあるよね。手羽先味のヤツとか」
「でもその場合、ご当地じゃがりこの箱でドミノが始まりそうですね」
「ユキちゃんはどうして何でもテーブルゲームにしたがるの」
全国のご当地じゃがりこを集めればじゃがりこドミノも出来るだろうけど、それまでにかかる費用が恐ろしいことになりそうな気がする。だったらまだじゃがりこジェンガの方が手軽に出来るのかな。
直クンの作業は慎重を極めていた。高くなればなるほどバランスも取りにくくなるし、崩れてしまった際のダメージは計り知れない。そーっと、そーっと、慎重に。それこそジェンガのように、ひとつ積み上げる度に「おー」と起こる声。
「今日さと先輩のケーキあるんですよね!」
「じゃがりこが堅くてしょっぱい系だからケーキは柔らかくて甘い感じにしたって聞いてるよ」
「甘いとしょっぱいの組み合わせは最強ですよね!」
「ヒビキの誕生会だから、お菓子やスイーツはいくら用意しても用意しすぎることはないってくらいでいいからね」
タワー作りは佳境。ヒビキにサークル室に来るよう指定した時間まではあと20分。細かい準備漏れがないか今一度確認をする。さとちゃんのケーキもオッケー。アタシが個人的に用意したプレゼントもよし。
「啓子、ラスト。緑取って」
「はい」
「よ、よーし……」
そーっと、そーっと。頂上に緑色のカップが乗せられた瞬間、自然と起こる拍手。そしてみんな写真を撮り始めてる。だけど、大仕事を終えて踏み台の上に留まる直クンの表情は固い。
「直、どうしたの」
「……啓子、降りるの怖いんだけど。崩したらどうしよう」
「そこは頑張るしかない」
「そうかー…!」
「とりあえず、直クンが踏み台から降りたらバリケードは解除する?」
「いえ、そのままにしておきましょう。ここまで来ると芸術品ですし、ヒビキ先輩が来るまでに崩されても」
「そっか、芸術品か」
「そうですよ紗希先輩。建築物は時として芸術なんですよ」
「ここに来てユキちゃんの語気が強い」
「当然ですよKちゃん先輩。あたしの専攻にも繋がるんですから」
そして直クンが地上に降り立ち踏み台を片付ければ、改めて起こる拍手。いよいよ舞台は整った。後は主役が来るのを待つだけ。うん、不慮の事故が起こらないといいのだけど。
end.
++++
ヒビキの誕生日編。でも日曜日だったので延期になったようです。一般的にはポッキー&プリッツの日。
なんかすっごいタワーを立ててるということだけはわかるけど、バリケードまで設置しなきゃならんかったかねw
そして延々と繰り広げられるサドニナと啓子さんの攻防である。ユキちゃんも何気に見守ってたのね
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