2018(03)
■僕らは音楽で繋げていく
++++
「わざわざ個室のある店用意するとか相当ですね」
「音を出すワケだし周りの人の迷惑にならないようにと、余計な音を混ぜたくないんだよね」
七五三シーズンでバイトはスタジオ併設の写真屋は繁忙期を迎えていた。それはいいとして、バイトが終わって青山さんに連れられてやってきたのはご丁寧にも個室の用意された洋食屋。当然のように、個室にしてくださいと。
「とりあえず、ご飯食べてからにしよっか? ねえたいっちゃん」
「まあ、そうしましょうか」
「アオキちゃんもね。食べようね」
ちなみに、この集まりには高山さんも呼ばれていた。この食事会の発端は、青山さんが大学祭のためだけに組んだというジャズバンドだ。青山さんは元々大学の軽音サークルでバンドを組んでるんだけど、その他にもうひとつバンドを始めたと。
日々音楽に対して刺激を求めている青山さんは、軽音のバンドに対して惰性だとか飽きとかいうことをこぼしているのは俺も聞いていた。だから、新しく組んだバンドの話を生き生きとしている青山さんを見ていると、さぞ面白いバンドなのだろうと興味が沸いたのだ。
俺もCONTINUEというゲーム系インストバンドを組んでいるし、青山さんと同じドラムという事もあって音楽の話で仲良くなった感もある。大学祭の中夜祭でライブをやるんだという話も当然聞いてたんだけど、自分の学祭があって見に行くことは出来なかったから、せめて映像か音源はありませんか。……という感じ。
「高山さんも青山さんのバンドに興味があったの?」
「いえ、私は撮影を担当していました」
「カメラ関係はアオキちゃんに任せればまず間違いないからね」
「それはわかりますけどバイト以外でも適用されるんですかそれ」
「適用されるから頼んだんだよ。編集じゃバンド側で録音してた音源ともばーっちり合わせた完璧な映像にしてくれたんだよ!? いよっ、さすがアオキちゃん! というワケで、そのお礼にご飯奢るってので呼んだの」
「そういうことでしたか」
確かに、凄腕のカメラマンが同じ大学なら撮影を頼みたくなるのはよくわかる。高山さんの撮影技術は静画動画問わず凄いから。でも子供に泣かれるのは相変わらずだから、七五三の撮影では苦戦してるみたいだ。俺はぎゃん泣きした子供をあやすのにも大分慣れた。
食事を終えれば机の上には小さなデザート皿とタブレット。いよいよ始まる今日の本題、星大の中夜祭ステージ。本日のトリだと紹介されたそのバンドが、青山さんが新しく組んだブルースプリングというジャズバンドだ。
いざ演奏が始まると、ぶわっと空気が変わるのを感じた。音の圧と言うか、何と言うか。青山さんによれば、セットリストはスタンダードが3曲とオリジナルが2曲、それからベースの人のこだわりで、最後にチキンをやったそうだ。
「これ、オリジナルは誰が書いてるんですか? やっぱピアノの人すか?」
「そうだね、ピアノの子が書いて、みんなで飲みつつ音を出しながら編曲って感じ」
「はー……凄いっすね。ウチのキーボードにもこの映像見せたいです」
「たいっちゃんのバンドも作曲はキーボードの子がメインだったっけ?」
「そうですね。アイツは編曲もします」
「うーん、何かやりたいね」
そう言って青山さんは考え込み始めた。せっかく自分たちは音楽で繋がっているのに、話をするだけで実際にやっている場面を見られないのは面白くないと。じゃあ、そういう機会を作ればいいんじゃないか。そんなようなことをブツブツと言いながら、何かを指折り数えて確かめている。
「青山さん?」
「年越し音楽祭的なことをやりたいなーって」
「年越し音楽祭?」
「俺たちの人脈で繋がるバンドや個人を集めれるだけ集めてジャンル関係なく楽しむの。俺の友達のギタリストがそういうの好きでさ、その子のバンドも久々に動き出すって言ってたからどうかなーと思って」
「いいと思いますよ。結局音楽やるにも人脈ですからね。俺も知り合いに会社員兼ベーシストの人がいるんですけど、その人の仕事が落ち着いてバンド活動も再開するーって言ってました」
そういう現場に行けば情報交換も出来るだろうし、ツテも出来るかも知れない。何より、ライブの空気はきっと楽しいだろう。CONTINUEのメンバーもみんなそういうのが嫌いじゃない連中だし、もしもこういう企画があったらどうするって話してみてもいいかもしれない。
「あっ、それじゃあ俺たち3人でバンド組む?」
「え、俺たち3人って」
「もしかして私もナチュラルに混ぜられてます?」
「うん」
「しかも現状ドラムしかいないのに、高山さんに何をやらす気ですか」
「え、パーカス。細かい楽器はこれから考える」
「打楽器しかいない!」
「平気だって、リズムさえあれば踊れるのが人間なんだから」
「そうですけど!」
「あっ、たいっちゃんのパートでんでん太鼓にしよっか、泣いてる子供を一発で泣きやませるプロの太鼓」
「嫌ですよ! 何でバンドででんでん太鼓なんですか!」
「じゃあ俺がでんでん太鼓にしよーっと。たいっちゃんはおまけしてタンバリンでいいよ」
「ええー……」
何かとんでもないことが始まりそうな予感がする。だって、他のときはともかく音楽に関する話のときの青山さんは冗談が通じないんだ。でも、打楽器しかいないバンドっていうのはどうなんだ…!? でも年末音楽祭は期待していいのかなあ!
++++
スガPの「打楽器しかいない!」のツッコミは前にもやったような気がしないでもない。テッパン化まであと少し!
青山さんの友達のギタリストとスガPの知り合いの会社員兼ベーシストっていうのはもしかしなくてもスラップソウルの人たち。
そしてしれっと巻き込まれた蒼希である。イベントごとにはクールな顔でガチるんだぜ! 高崎の右腕だった慧梨夏の右腕だったからな!
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「わざわざ個室のある店用意するとか相当ですね」
「音を出すワケだし周りの人の迷惑にならないようにと、余計な音を混ぜたくないんだよね」
七五三シーズンでバイトはスタジオ併設の写真屋は繁忙期を迎えていた。それはいいとして、バイトが終わって青山さんに連れられてやってきたのはご丁寧にも個室の用意された洋食屋。当然のように、個室にしてくださいと。
「とりあえず、ご飯食べてからにしよっか? ねえたいっちゃん」
「まあ、そうしましょうか」
「アオキちゃんもね。食べようね」
ちなみに、この集まりには高山さんも呼ばれていた。この食事会の発端は、青山さんが大学祭のためだけに組んだというジャズバンドだ。青山さんは元々大学の軽音サークルでバンドを組んでるんだけど、その他にもうひとつバンドを始めたと。
日々音楽に対して刺激を求めている青山さんは、軽音のバンドに対して惰性だとか飽きとかいうことをこぼしているのは俺も聞いていた。だから、新しく組んだバンドの話を生き生きとしている青山さんを見ていると、さぞ面白いバンドなのだろうと興味が沸いたのだ。
俺もCONTINUEというゲーム系インストバンドを組んでいるし、青山さんと同じドラムという事もあって音楽の話で仲良くなった感もある。大学祭の中夜祭でライブをやるんだという話も当然聞いてたんだけど、自分の学祭があって見に行くことは出来なかったから、せめて映像か音源はありませんか。……という感じ。
「高山さんも青山さんのバンドに興味があったの?」
「いえ、私は撮影を担当していました」
「カメラ関係はアオキちゃんに任せればまず間違いないからね」
「それはわかりますけどバイト以外でも適用されるんですかそれ」
「適用されるから頼んだんだよ。編集じゃバンド側で録音してた音源ともばーっちり合わせた完璧な映像にしてくれたんだよ!? いよっ、さすがアオキちゃん! というワケで、そのお礼にご飯奢るってので呼んだの」
「そういうことでしたか」
確かに、凄腕のカメラマンが同じ大学なら撮影を頼みたくなるのはよくわかる。高山さんの撮影技術は静画動画問わず凄いから。でも子供に泣かれるのは相変わらずだから、七五三の撮影では苦戦してるみたいだ。俺はぎゃん泣きした子供をあやすのにも大分慣れた。
食事を終えれば机の上には小さなデザート皿とタブレット。いよいよ始まる今日の本題、星大の中夜祭ステージ。本日のトリだと紹介されたそのバンドが、青山さんが新しく組んだブルースプリングというジャズバンドだ。
いざ演奏が始まると、ぶわっと空気が変わるのを感じた。音の圧と言うか、何と言うか。青山さんによれば、セットリストはスタンダードが3曲とオリジナルが2曲、それからベースの人のこだわりで、最後にチキンをやったそうだ。
「これ、オリジナルは誰が書いてるんですか? やっぱピアノの人すか?」
「そうだね、ピアノの子が書いて、みんなで飲みつつ音を出しながら編曲って感じ」
「はー……凄いっすね。ウチのキーボードにもこの映像見せたいです」
「たいっちゃんのバンドも作曲はキーボードの子がメインだったっけ?」
「そうですね。アイツは編曲もします」
「うーん、何かやりたいね」
そう言って青山さんは考え込み始めた。せっかく自分たちは音楽で繋がっているのに、話をするだけで実際にやっている場面を見られないのは面白くないと。じゃあ、そういう機会を作ればいいんじゃないか。そんなようなことをブツブツと言いながら、何かを指折り数えて確かめている。
「青山さん?」
「年越し音楽祭的なことをやりたいなーって」
「年越し音楽祭?」
「俺たちの人脈で繋がるバンドや個人を集めれるだけ集めてジャンル関係なく楽しむの。俺の友達のギタリストがそういうの好きでさ、その子のバンドも久々に動き出すって言ってたからどうかなーと思って」
「いいと思いますよ。結局音楽やるにも人脈ですからね。俺も知り合いに会社員兼ベーシストの人がいるんですけど、その人の仕事が落ち着いてバンド活動も再開するーって言ってました」
そういう現場に行けば情報交換も出来るだろうし、ツテも出来るかも知れない。何より、ライブの空気はきっと楽しいだろう。CONTINUEのメンバーもみんなそういうのが嫌いじゃない連中だし、もしもこういう企画があったらどうするって話してみてもいいかもしれない。
「あっ、それじゃあ俺たち3人でバンド組む?」
「え、俺たち3人って」
「もしかして私もナチュラルに混ぜられてます?」
「うん」
「しかも現状ドラムしかいないのに、高山さんに何をやらす気ですか」
「え、パーカス。細かい楽器はこれから考える」
「打楽器しかいない!」
「平気だって、リズムさえあれば踊れるのが人間なんだから」
「そうですけど!」
「あっ、たいっちゃんのパートでんでん太鼓にしよっか、泣いてる子供を一発で泣きやませるプロの太鼓」
「嫌ですよ! 何でバンドででんでん太鼓なんですか!」
「じゃあ俺がでんでん太鼓にしよーっと。たいっちゃんはおまけしてタンバリンでいいよ」
「ええー……」
何かとんでもないことが始まりそうな予感がする。だって、他のときはともかく音楽に関する話のときの青山さんは冗談が通じないんだ。でも、打楽器しかいないバンドっていうのはどうなんだ…!? でも年末音楽祭は期待していいのかなあ!
++++
スガPの「打楽器しかいない!」のツッコミは前にもやったような気がしないでもない。テッパン化まであと少し!
青山さんの友達のギタリストとスガPの知り合いの会社員兼ベーシストっていうのはもしかしなくてもスラップソウルの人たち。
そしてしれっと巻き込まれた蒼希である。イベントごとにはクールな顔でガチるんだぜ! 高崎の右腕だった慧梨夏の右腕だったからな!
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