2018(03)

■定位置から高みの見学

公式学年+1年

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「さて、大学祭お疲れ様でした。ここらでラジオブースにも少しずつ2年生を入れて行って、引き継ぎの準備を始めるよ」

 佐藤ゼミの主な活動のひとつが、センタービルの中にあるガラス張りのブースで昼休みに行っている公開生放送のラジオだ。見栄えもするし、華がある。これを目的に佐藤ゼミに入る学生も少なくないそうだ(俺も例に漏れずそんな学生ではある)。
 昼のラジオは主に3年生が担当していて、それも選ばれた人しか番組を持つことが出来ないのだ。月曜日が時事、火曜日がスポーツ、水曜日がカルチャー、木曜日がサブカル、金曜日がフリーと言った具合に曜日ごとに番組のジャンルも決まっている。
 やっとこの時が来たかと思った。俺は大した成績でもなくそれと言った趣味もないのにMBCCのミキサーであることだけを武器に佐藤ゼミに飛び込んだのだ。と言うか、ここで名前が漏れるようなことがあればオープンキャンパスや学祭での俺の酷使は一体何だったのかと。

「とりあえず、ミキサーは高木君をメインにあと2人くらい。MCは佐竹君と安曇野君で木曜日、火曜日は鵠沼君が入ってくれたらいいなあと思ってるんだよ」

 果林先輩風に言えば「ですよねー」と声に出そうな感じだ。と言うか、意外にサブカルサブカルした趣味の人が少ない2年生で、木曜日を担当し得るのはこの2人だと。あと、スポーツ枠の鵠さんも、完全に見た目のイメージですよねー。

「高木君、君の目から見て誰がミキサーに強そうだと思う?」
「そうですねえ……全員見たワケじゃないんではっきりとは言えないですけど、樽中くんはオープンキャンパスでも上手だったと思います」
「そう。それじゃあ樽中君も来週見学ね」

 樽中くん……樽中将由(たるなか・まさよし)くんは文芸部に所属していて、何か文化会繋がりで実苑くんと仲が良いとかで俺とも(鵠さんとも)共通の話題になった。文芸部は出版部とはまた違うみたくて、小説とか詩とか短歌みたいな作品を作ることを主とした部活なんだって。
 ……で、ゼミ終わりにいつものように先生からご指名を受けた3班メンバーと、今日は樽中くんも一緒に第1学食の2階へ。お好み焼きやポテトなど、思い思いのおやつを買ってテーブルを囲む。今回の議題は「昼のラジオどーする?」だ

「とりあえず、俺は高木君に厳重に抗議したい」
「ええっ!? 何かマズかった?」
「俺はミキサーよりも喋りの方がやりたかったんだって」
「あーそうなんだ、ゴメン。でも先生に言えば転向出来ないかな」
「やーい高木、サッカスの希望読み違えたー」
「だってまさかアナ志望だなんて知らなかったんだよ。ホントゴメンって」

 そして、一言で「昼のラジオ」と言ってもどうすればいいのかは誰にもわからない。まあ、それをわかっていくための引き継ぎなんだから気負う必要はないとは思うけど、これまでに何となく見ていたあの感じで言うならこうかな、みたいなおぼろげなイメージしかない。
 木曜のサブカル回はそれこそMCがやりたい放題のトークをしてアニソンをかけて、という感じだし、火曜のスポーツなら体育学部の有力なアスリートの人をゲストに招いてインタビューをしたりする。月曜の時事なら大学の先生を呼んできて解説を入れてもらったり。とにかく曜日によって色が違う。

「それじゃあ、もし樽中くんが番組を担当するなら水曜日のカルチャー枠になるのかな」
「まあ、火・木以外だね」
「アタシ実は樽中くんの本持ってて」
「え、佐竹さん本当に?」
「向ソピ出てたよね。で、面白いの書いてるなーって知ってるからMCやりたいって聞いても不思議ではなかったけど、オープンキャンパスでもミキサーだったしミキサーっぽいなって思うのもわかんないでもない」
「え、樽中くんて本出してるの?」
「自主制作の本だね。『陰日向の無礼講』っていうんだ」
「3日に1回くらいのペースでWebにも上がっててね」
「って言うか佐竹さんもしかして連載追ってくれてる?」
「追ってるね」
「ありがとうございます!」

 と言うか佐竹さんの守備範囲が広すぎて。コスプレ以外のことにも造詣があるんだなあ。いくら世間は狭いとは言ってもこんなことってあるのかなあ。でもこの世界の常識を知らない俺にはよくわからないワケで。ゲンゴローの話でも全然ちんぷんかんぷんだったし。

「って言うか、アタシもMCじゃなくてミキサーがいいし!」
「あー……安曇野さんはそうだよね」
「高木何でアンタミキサー推せって言われた時にアタシを推さなかったし!」
「ええっ!? だって安曇野さんはMCで確定みたいな雰囲気だったじゃない。そうじゃなかったら推してたよ」
「横暴だ、それもこれも高木の所為だし。疫病神だし」
「ええー……この件に疫病神は関係なくない…?」
「俺も何か体育会系だからかスポーツ枠で行くみたいだけど、アレってゲストは基本的に自分で呼んで来るらしいからな。体育学部にツテがないじゃんな」
「大変なんだねえ」

 とか何とか言ってたら、全員から「は?」なんて言われて睨みがかかりましたよね。お前ちょっと希望が通ってるからって調子に乗るなよ、と。でも、言わせてもらえれば俺は毎回貧乏くじを引いてるんだからたまにはいいことがあったっていいと思うんですよね?


end.


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佐藤ゼミでもラジオの引継ぎやら何やらという話が始まり、この時点でタカちゃんはMBCCの機材部長に就任しています
さて、安定の3班メンバーの他に謎にふえるなのすぱんえっくす。樽中将由くんという文芸部の男の子です。どこかで聞いたようなお話を書いているようです
おっ、最後ちょっと開き直ろうとしているTKGである。まあ、毎回貧乏くじ引いてるしたまにはね。

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