2018(03)

■ブレイク後のそれから

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「1000が1、2、3、4……10、20……」
「金券が、1束2束……」

 あれほど慌ただしく準備をしていた大学祭が終わり、サークルの代替わりも終わった。MBCCでは機材部長にLが、そしてアナ部長に果林が就任。会計も五島へと引き継がれ、新体制での活動が始まろうとしていた。
 ただ、大学祭までは一応3年の仕事になる。俺と伊東は学祭関係の会計作業をしている真っ最中だ。3日間で8万人ほどが来場したと公式発表があった緑ヶ丘大学の大学祭では、俺たちMBCCはありがたいことにブース賞をもらい、売り上げも上々だった。
 袋をひっくり返した瞬間、小銭がゲーセンのメダルゲームのようにザラザラと流れる。俺は卒業生に配布された金券を、伊東は小銭をひたすらカウント。最初からコインケースを用意しておけばよかったというのは反省点だ。

「凄いよ高ピー、小銭が12万5300円」
「金券は5万7千だな」
「えっと、こっちのお札と足して……っと。22万ちょうど!」
「おっ、過去最大の売り上げじゃねえか?」
「うん、多分そうだね。ふー……俺頑張ったぁー」
「ああ。MVPは間違いなくお前だな」

 元々情報棟前というブース戦線における好立地が約束されてはいたが、今回「使える物は使え」を徹底的に貫き通した。なりふり構わずあらゆる手段で売り上げを伸ばす努力をしてきたのだ。
 まず、材料だ。削るところは削ったが、ソースには(高木が)こだわった。次に売り子。女装ミスコンのミスと準ミスがウチから出たということで、2日目以降は売り子として表に立たせていた。3つ目が、思いがけず広告塔となった俺だ。

「まあ、高ピーも行くトコ行くトコで宣伝してくれてたしね。さすが準ミスター」
「ふざけんなよてめェ、勝手にミスターコンなんかにエントリーしやがって」
「えっ、それ高ピーにだけは言われたくないんだけど」

 伊東の策略で、俺はミスターコンテストとやらに出場させられたのだ。結果としては2位だったワケだが、正直、MBCCのDJブースよりも発信力の高いステージの上で焼きそばの宣伝が出来たことは良かったと思っている。
 2日目以降はほとんど焼きそばを焼いていた記憶しかない。番組もやってはいたが、ほとんど鉄板の前に立っていたと思う。如何せん焼きそばの看板に「緑大準ミスターの焼く」と付け加えられてしまえば、偽りアリには出来なかったのだ。

「まあ、お前のおかげで機材代も浮いたし。つか女装だから顔バレもしてねえしいいじゃねえか。俺なんか教室移動だけでも何かしら声かけられんだぞ。ウザくてしょうがねえ」
「大変だったね。俺は学内歩いても全然気付かれなかったよ」
「ま、そのうち飽きられるだろうけどな」

 学祭が終わって最初の平常授業日。俺はごく普通に大学に来て授業を受けようと歩いていたら、知らねえ女に声をかけられたのだ。高崎さんですよね、握手してもらっていいですかと。

「えっ、それで高ピーどうしたの」
「まあ、握手だけしてやって普通に教室行った。でも、1人応対したのが失敗だったな。次から次へと来やがってよ。握手だけならまだいい。写真だの動画だのエスカレートしやがって、ふざけんなと。しかも女だけじゃなくて野郎まで来やがる」
「しょうがないよね、高ピー男前だもん。って言うかぶっちゃけミスターよりもブレイクしてるよね。お笑いコンテストで優勝者よりも準優勝のコンビの方が売れてるみたいな」
「そんなのと一緒にすんな。つかブレイクの必要なんざねえんだよ」

 そういう自分の称号のようなものを学祭の間は利用するだけ利用したが、今では邪魔でしかなかった。3日もすれば飽きられるだろうし、文系の3年なんざ授業もそんなにない。学内にいないことも多いからすぐに忘れられるだろう。
 そんなことより大事なのは目の前に積まれた金だ。これの運用の仕方を考えること。そして金券の束を期限が来る前に学生課で換金しなければならない。どう見たって5500円コースにして余るんだ。その後の運用だな。

「ところで伊東、GREENsはどうだったとか聞いてるか?」
「目標には行ったけど、慧梨夏的には物足りなかったみたい。めっちゃ愚痴られた。MBCCが悪質なことしなきゃブース賞は取れてたのにって」
「てめェが最初にウチの芋を横取りしたんだろうがよ。因果応報だ」

 最大のライバルは宮ちゃん率いるGREENsの唐揚げブースだったワケだが、2日目以降のブーストでウチが大きく差を付けたらしい。GREENsのブース場所がもうちょっと良けりゃ危なかっただろうが、宮ちゃんを封じるためにはオーバーキルが必要だった。家でさんざん俺のやり口に対して愚痴られたらしい伊東は、宮ちゃんに対するミスコン優勝賞品・女装デートでの奉仕を約束させられたそうだ。

「それはそうと、今後のためにある程度積み立てるか? 22万もありゃ追いコンも、大事に使えば卒コンもイケるだろ」
「あー、そうだね。今回の打ち上げでいくらになりそうか計算して、積立金額を決めようか」
「これでしばらく飲み代には困らねえな」
「準ミスターの賞品もビール2ダースだったしね」


end.


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MBCCの会計作業です。ここは商魂に溢れた団体なのでその金額も桁違い。MMPはきっとかわいらしい感じなのに……
そして準ミスターの高崎が軽いアイドル状態になっているなど。握手に応じるとかやるやんけ! ガン無視じゃないのか!
いち氏の女装デート回、今年はやってみたいですね。何だかんだやったことないと思うんですよね!

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