2018(03)
■白旗を赤く染めるまで
++++
「……っンだとこの野郎…!」
あ、これはヤバい。高ピーがガチだ。俺は、これから本格的なブース戦争が来るんだろうなという予感を胸に秘めた。いや、戦争はとっくの昔に始まってたんだ。ドンパチやるのが今日からなだけで、水面下ではずーっと2人の戦いが続けられていた。
とうとう緑ヶ丘大学でも大学祭が始まった。MBCCでもこの日のためにDJブースと食品ブースの準備を念入りにしてきた。食品ブースは例年通り焼きそばを売るんだけど、この売り上げが打ち上げのグレードに直結するから高ピーの商魂に火がついてたんだ。
自分たちの番組やブース、それから俺と高ピーは大祭実行さんのステージの手伝いなんかで忙しくなるから、比較的緩めなうちに学内を回ってみようよという話になっていた。高ピーからは、GREENsの唐揚げを食べようという提案があった。俺はそれに二つ返事で了解して、ブースに行きましたよね。
「あっ、高崎クン! 来てくれたんだありがとー!」
「てめェこれはどういうことだ」
「これってどれ?」
「ナニ唐揚げにポテトなんか付けてやがんだ」
「ある物は使えっていう高崎イズム? うちにも当然浸透してますしー。カズが貰ったジャガイモちゃんは、うちにくれた物も同然じゃんね」
「っざけんな、オクトーバーフェスト用の芋なら元々MBCCの所有物じゃねえか」
「ところがどっこい。うちはあの後、出所のリン様を突っついて追加で4ケースもらってるんですよねー。ブース賞は絶対GREENsが取る。そのためには何だって使うよ」
高ピーが手にしていた唐揚げのタダ券は、握りしめられてくしゃくしゃになっていた。それだけ慧梨夏に不意を突かれたのだろう。元々GREENsの唐揚げを最大のライバルとしていた高ピーだ。だけど、唐揚げの上にポテトまで付けて来られたら。焼きそばだけで果たして太刀打ち出来るかと。
ちなみにGREENsのブースのシステムは、唐揚げを紙コップに詰めるだけ詰めて300円になっている。詰め放題とは言え一応ルールはあるみたい。ポテトのセットの場合は一回り大きな紙コップに詰めて400円。ポテト単品は150円だ。
「まあ、もらったタダ券は使うけどな。この券でポテトはついてくんのか」
「付けれるよ。高崎クンはからポテのセットね! カズは?」
「あ、俺もからポテ」
「からポテ2つー!」
さすが体育会系のブースだけあって、慧梨夏の声に応えるように威勢のいい掛け声が響いて来る。あったら食べちゃうもんなあ、唐揚げとかポテトって。持ち歩きやすいし。ブースの位置が良くないことを完全に跳ね返す強さがあるよね。
「つーか、文化会の連中がMBCCばっかりブース位置が~みたいないちゃもんを付けて来るんだけどよ」
「あっ、そうなの? まあ、さすがに少しはあるよねえ」
「ブース場所なんか売り上げに関係ねえってことは完全にGREENsが証明してるじゃねえかっつー話な」
「普通の人に慧梨夏並みの仕事を期待するのは酷だと思うけどね」
つか高ピー唐揚げ詰めるのうまっ。慧梨夏によれば通常5~6個を想定してるみたいだけど、高ピーはこれで7個目。からポテ用の大きな紙コップなことを考慮しても、まだスペースがある以上高ピーが上手いんだろうな。ポテトも結構詰めたと思うのに。
「慧梨夏、お前これポテトだけどさ」
「何かマズかった? 失敗してる? カズのレシピ通りにやったんだけど」
「いや、こんなもんでいいと思うけど、お前は何か手ぇ出して――」
「……伊東、話を聞かせてもらおうか。お前のレシピだ?」
……と、ここで俺は墓穴を掘ったことに気付く。いや、わかっちゃいたんだよ! 高ピーが最大のライバルだって言ってた慧梨夏にポテトのレシピ渡すの最初は躊躇したんだよ! でも姉ちゃんの名前出されて脅されたらな~、とかいう事情を酌んでくれる高ピーじゃないんだよな~…!
「かくしかかくうまな事情で慧梨夏にレシピを渡しました。ホントすんませんっした!」
「まあいい。後日俺にもハンバーガーを作ってもらうことにして、宮ちゃんがそう来るならこっちにも手はあるんだ」
「えっ、高崎クンまだ秘策があるの!?」
「そう簡単に手の内見せるほど俺は甘くねえ。精々スタートダッシュしとけ。ウチは味と質とコスパで勝負してんだよ」
「やっぱ高崎クンはこうじゃないとね~」
完っ全に火花が散ってますよね! 学祭ガチ勢ってこれだから! 高ピーの場合は打ち上げガチ勢なのかもしれないけど! って言うか高ピーの“秘策”が怖すぎるんだけど。だってまだ何も聞いてないし。いや、でも焼きそばの担当は1年生だからそっちが聞いてるのかな?
「あっ。そうそう高崎クン、ブース戦争は一旦措いといてさ、ミスコンの件」
「おう、どうした」
「明日ヘアメイク、仕事中抜けして拳悟来てくれるって」
「マジか! まさかプロを呼んだか」
「使える物は」
「使えだな」
完全に忘れかけてたけどこの2人、ライバルであり相棒……いや、共犯者なんだった。いやー、3日後に俺は生き延びられてるのかな、わかんないやー、あははー。
end.
++++
さて、大学祭が始まりました。それと同時に高崎と慧梨夏の間でいよいよ本格的な戦いが始まりました。
そういや昨日しっかりポテトの準備してました。慧梨夏は本当にノリと勢いと思い付きで物事を動かすけど、それでいてちゃんと形になるのがすごい。
あ、さらりと高崎がいち氏にハンバーガーを要求している…! 手作りの豪勢なハンバーガーとビールは美味いだろうなあ
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「……っンだとこの野郎…!」
あ、これはヤバい。高ピーがガチだ。俺は、これから本格的なブース戦争が来るんだろうなという予感を胸に秘めた。いや、戦争はとっくの昔に始まってたんだ。ドンパチやるのが今日からなだけで、水面下ではずーっと2人の戦いが続けられていた。
とうとう緑ヶ丘大学でも大学祭が始まった。MBCCでもこの日のためにDJブースと食品ブースの準備を念入りにしてきた。食品ブースは例年通り焼きそばを売るんだけど、この売り上げが打ち上げのグレードに直結するから高ピーの商魂に火がついてたんだ。
自分たちの番組やブース、それから俺と高ピーは大祭実行さんのステージの手伝いなんかで忙しくなるから、比較的緩めなうちに学内を回ってみようよという話になっていた。高ピーからは、GREENsの唐揚げを食べようという提案があった。俺はそれに二つ返事で了解して、ブースに行きましたよね。
「あっ、高崎クン! 来てくれたんだありがとー!」
「てめェこれはどういうことだ」
「これってどれ?」
「ナニ唐揚げにポテトなんか付けてやがんだ」
「ある物は使えっていう高崎イズム? うちにも当然浸透してますしー。カズが貰ったジャガイモちゃんは、うちにくれた物も同然じゃんね」
「っざけんな、オクトーバーフェスト用の芋なら元々MBCCの所有物じゃねえか」
「ところがどっこい。うちはあの後、出所のリン様を突っついて追加で4ケースもらってるんですよねー。ブース賞は絶対GREENsが取る。そのためには何だって使うよ」
高ピーが手にしていた唐揚げのタダ券は、握りしめられてくしゃくしゃになっていた。それだけ慧梨夏に不意を突かれたのだろう。元々GREENsの唐揚げを最大のライバルとしていた高ピーだ。だけど、唐揚げの上にポテトまで付けて来られたら。焼きそばだけで果たして太刀打ち出来るかと。
ちなみにGREENsのブースのシステムは、唐揚げを紙コップに詰めるだけ詰めて300円になっている。詰め放題とは言え一応ルールはあるみたい。ポテトのセットの場合は一回り大きな紙コップに詰めて400円。ポテト単品は150円だ。
「まあ、もらったタダ券は使うけどな。この券でポテトはついてくんのか」
「付けれるよ。高崎クンはからポテのセットね! カズは?」
「あ、俺もからポテ」
「からポテ2つー!」
さすが体育会系のブースだけあって、慧梨夏の声に応えるように威勢のいい掛け声が響いて来る。あったら食べちゃうもんなあ、唐揚げとかポテトって。持ち歩きやすいし。ブースの位置が良くないことを完全に跳ね返す強さがあるよね。
「つーか、文化会の連中がMBCCばっかりブース位置が~みたいないちゃもんを付けて来るんだけどよ」
「あっ、そうなの? まあ、さすがに少しはあるよねえ」
「ブース場所なんか売り上げに関係ねえってことは完全にGREENsが証明してるじゃねえかっつー話な」
「普通の人に慧梨夏並みの仕事を期待するのは酷だと思うけどね」
つか高ピー唐揚げ詰めるのうまっ。慧梨夏によれば通常5~6個を想定してるみたいだけど、高ピーはこれで7個目。からポテ用の大きな紙コップなことを考慮しても、まだスペースがある以上高ピーが上手いんだろうな。ポテトも結構詰めたと思うのに。
「慧梨夏、お前これポテトだけどさ」
「何かマズかった? 失敗してる? カズのレシピ通りにやったんだけど」
「いや、こんなもんでいいと思うけど、お前は何か手ぇ出して――」
「……伊東、話を聞かせてもらおうか。お前のレシピだ?」
……と、ここで俺は墓穴を掘ったことに気付く。いや、わかっちゃいたんだよ! 高ピーが最大のライバルだって言ってた慧梨夏にポテトのレシピ渡すの最初は躊躇したんだよ! でも姉ちゃんの名前出されて脅されたらな~、とかいう事情を酌んでくれる高ピーじゃないんだよな~…!
「かくしかかくうまな事情で慧梨夏にレシピを渡しました。ホントすんませんっした!」
「まあいい。後日俺にもハンバーガーを作ってもらうことにして、宮ちゃんがそう来るならこっちにも手はあるんだ」
「えっ、高崎クンまだ秘策があるの!?」
「そう簡単に手の内見せるほど俺は甘くねえ。精々スタートダッシュしとけ。ウチは味と質とコスパで勝負してんだよ」
「やっぱ高崎クンはこうじゃないとね~」
完っ全に火花が散ってますよね! 学祭ガチ勢ってこれだから! 高ピーの場合は打ち上げガチ勢なのかもしれないけど! って言うか高ピーの“秘策”が怖すぎるんだけど。だってまだ何も聞いてないし。いや、でも焼きそばの担当は1年生だからそっちが聞いてるのかな?
「あっ。そうそう高崎クン、ブース戦争は一旦措いといてさ、ミスコンの件」
「おう、どうした」
「明日ヘアメイク、仕事中抜けして拳悟来てくれるって」
「マジか! まさかプロを呼んだか」
「使える物は」
「使えだな」
完全に忘れかけてたけどこの2人、ライバルであり相棒……いや、共犯者なんだった。いやー、3日後に俺は生き延びられてるのかな、わかんないやー、あははー。
end.
++++
さて、大学祭が始まりました。それと同時に高崎と慧梨夏の間でいよいよ本格的な戦いが始まりました。
そういや昨日しっかりポテトの準備してました。慧梨夏は本当にノリと勢いと思い付きで物事を動かすけど、それでいてちゃんと形になるのがすごい。
あ、さらりと高崎がいち氏にハンバーガーを要求している…! 手作りの豪勢なハンバーガーとビールは美味いだろうなあ
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