2018(03)

■もっとアイキャンフライ

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「……覚悟してはいたっすけど、相当じゃん?」
「大学から近い家の」
「宿命っすよね」

 改めて冷蔵庫を覗けば、中身が見事に大学祭関係の物で埋め尽くされていた。主に鶏のもも肉。GREENsでは学祭で唐揚げを出すことになっている。Lサイズの紙コップに詰め放題で300円だ。コンビニで買える唐揚げが1コ当たり50円くらいであることを考えると、6個は入れれるしまあ妥当じゃん?
 買い出しをして、前の日のうちに下拵えをしておく。そしてそれは俺の部屋の冷蔵庫に入れておくという作戦。ちなみに台所も完全に貸し出されている状態で、大学から徒歩5分のアパートであることの宿命とやらを再確認。まあ、俺は家でさほど料理をしないから支障がないのだけども。

「サトシさん、慧梨夏サンは何を持ってくるつもりなんすかね」
「詳しくは聞いてないからわからないが、また何か思いついたんだろう。GREENsのイベントは大体アイツのノリと勢いと思いつきで回るからな」

 サトシさんと一緒に慧梨夏サンを待ちながら、これから何が起こるんだろうなと思いを馳せる。ただ、冷蔵庫はとっくの昔にパンパンだし、これ以上鶏肉を保存しておくことは出来なくなっている。それは昨日の夜、鶏肉でいっぱいにしたのが慧梨夏サンだけに十分わかっているはずだけど。

「あっ、鵠っち、サトシ、ちょっと手伝ってくれる?」
「うす」

 コムギハイツの駐車場に滑り込んできた慧梨夏サンの車。手伝えと言われてその後部座席のドアを開ければ、何やら段ボール箱が積まれている。俺とサトシさんはそれを部屋の中へと運ぶことに。しかし重い。中身は何だろうか。肉ではなさそうだし、この時期に持ち込むということは学祭で使うんだろうけど。

「慧梨夏、これは何だ」
「箱に書いてあるっしょ? 北辰のじゃがいもって」
「ジャガイモをどうするつもりだ」
「付け合わせのフライドポテトにしようと思って」
「唐揚げと一緒に売るのか」
「そう。唐揚げとセットで400円でどう? 単品150円」
「一応聞くが、このジャガイモはいくらで買ってきた」
「タダだよ」
「ん?」
「人からもらったの。だからタダ。ポテトのレシピはカズから聞いたし、今から下拵えしようかなと。冷凍庫が空なの確認済みだし」

 慧梨夏サンは淡々と言うけど、何気にとんでもないことが始まるんじゃないかと。今いる3人で、目の前にあるジャガイモ4ケースをひたすらフライドポテトにしていく作業。途方もなさ過ぎる。しかもこれだけの芋をタダでもらってくるとか慧梨夏サンの人脈が謎過ぎる。
 だけど、サトシさんは反対するでもなくポテトを付け合わせた場合の経費を計算して、これならいくらの利益にはなるか、と納得している様子。慧梨夏サンが彼氏サンからもらってきたというレシピに目を通して、さっそく動き出すのだ。クールなサトシさんも何だかんだGREENsの人なんじゃんな。

「康平、何をボーッとしている。作業に入るぞ」
「すんません」
「流れ作業で行うことにしよう。慧梨夏は芋を洗う。俺は芋を切る。康平は水にさらした後の芋に粉をまぶして冷凍庫に詰めてくれ」
「はーい」
「了解っす」

 今回のポテトは皮付きのまま行くから洗ってそのまま切っていくそうだ。そしてそれを水にさらしていく。慧梨夏サンによれば芋1コで2~3人分くらいにはなるとのことだ。「唐揚げとポテトの組み合わせって最強じゃない?」なんて話しながら、揚々と準備が始まる。
 GREENsのブースは立地的に不利な場所にあるそうだ。その中で、いかに人を呼び込んで売り上げを伸ばしていくかは死活問題。使える物は使って、格安のポテトで人を釣っていくんだそうだ。もちろん唐揚げの味でも勝負をしていくけど、話題は多い方がいいから、と。

「確かに揚げ物は魅力的っすよねサトシさん」
「ああ。あれば一度は買ってみようと思う」
「何だかんだサトシも体育会系の男子だよね。揚げ物に目がない」
「まあ、胃もたれする年齢でもないからな」
「1回お試しで揚げてみるでしょ?」
「それはもちろん。味見もしないとな」
「……それって、俗に言うつまみ食いじゃん?」
「味見だよ。ねえサトシ」
「味見だな。いや、慧梨夏。生で揚げた場合と冷凍を揚げた場合の違いも検証してみなければならない。もし当日冷凍のストックがなくなった場合に備えないと」
「ホントだー、気付かなかったさすがサトシ~」

 サトシさんの口数が多くて誰っすかみたいな状態になってるけど、これはサトシさんも楽しんでるっつーことでオッケーなんすかね。ポテトがしっかり冷凍のストックになるまでこの下拵えが終わらないことは悟った。冷凍庫もいっぱいになるんだろうな。でも、どう見てもうちの冷凍庫だけで足りる気がしないんすけど。

「よーしサトシ鵠っち、何が何でもブース賞取りに行くよ!」
「ところでサトシさん、ブース賞取ったら何があるんすか?」
「何らかの商品がもらえるのだろう。ただ、慧梨夏はそれより名誉か充実感を手にしたいのではないか」
「ああー……なるほど」


end.


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GREENsがポテトの下拵えに入りました。アレね。いち氏から先日教えてもらったヤツ。自分では切れないので人を巻き込むスタイル。
サトシが誰だお前状態。口数が多い。多分天敵の三浦さっちゃんがいないので伸び伸びとやれているのかもしれない。
鵠さんは基本あまり家でご飯を食べないので冷蔵庫の中身はそんなになかったりする。なるほど、慧梨夏はそれにつけ込んだのか

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