2018(03)
■世界の入り口に置いて行くもの
++++
「これ、私もかぶってみていいですか?」
「いいよ。はい」
「ありがとうございます」
今日は10月31日、ここ最近ではハロウィンで盛り上がってるね。本来のハロウィンのあり方はともかく、こういうイベント自体は嫌いじゃない。だからちょっとだけだけど乗ってみようかなと思って用意していた物がある。
上からかぶると可愛いお化けちゃんに仮装できる白い布。お化けちゃんの顔はコミカルと言うかファンシーと言うか、可愛い感じにしてある。本気を出せばもっと禍々しくも出来たけど、トリックオアトリートを仕掛けたい相手がさとちゃんの場合、本気で怖がらせちゃいけないから。
念には念を、お化けちゃんのテストはちゃんとやった。昨日、緑大で高崎相手に実験してみたら、いくら可愛いお化けちゃんでもいきなり脅かされればビックリはするらしい。こういうのが嫌いな高崎でそういう反応だったということで、さとちゃんにはもっと驚かせない方向で行くことに決めた。
「トリックオアトリ~ト~」
「うん、いいね。かわいい」
「お菓子をくれなきゃイタズラしますよー」
「ひゃあ、イタズラされちゃ大変だ」
俺は先にさとちゃんがくれたカボチャ風味のカステラを食べながら、自分が用意しておいたお菓子を取り出す。さとちゃんは自分でもお菓子を作るし女の子だし、こういうのにはうるさそうと言うかこだわりが強そうだからしっかりと選んだよ。
「はい、これ」
「……これ、かぶってるとやっぱり見えないものですね」
「そうなんだよ。脱いでいいよさとちゃん」
「それじゃあ失礼して……」
お化けちゃんを脱いださとちゃんに、改めてその包みを渡す。大学近くの洋菓子店で買って来た米粉のクッキー。元気だった時に1回食べたことがあって、結構美味しかった覚えがあるんだよね。
「さとちゃんだったらこういうのも自分で作れちゃうかもしれないけど」
「わあ、ありがとうございます! クッキーですね」
「何かね、米粉が入ってるんだって。サクサクしてて美味しいの」
「自分で作れても、もらえるとやっぱり嬉しいですよ。宏樹さん、ありがとうございます」
「俺もカステラもらってるしおあいこ」
あ、やっぱり作れるんだ。そういや学祭で出す喫茶店で延々とクッキー作るって言ってたもんな。ただ作るだけなら趣味でも何でも出来るけど、学祭の模擬店とは言え人に出してお金をとれるだけの物っていうのはやっぱりすごいよね。普段の料理も美味しいし。
「あの、ところで宏樹さん」
「なに」
「最初にトリックオアトリ~ト~ってやったときに私の目の前でお化けちゃんをかぶったのは、私がホラーやオカルトが苦手だから……ですか?」
「そうなるね。本来俺はイタズラ好きだしもっと派手にも出来るけど、わざとしなかったの。まあ、俺なら目の前でかぶってもそれなりにかわいくなるからね」
「ふふっ」
「何かおかしかった」
「いいえ。ありがとうございます。でも、本当にかわいかったですよ、宏樹さんがお化けちゃんになってわーってやってるのが」
「そうでしょ。俺は自分のことは理解してるからね」
返してもらったお化けちゃんの袋をたたんで、また使う機会があるのかないのかわからないそれを引き出しにしまった。使うとすれば来年のハロウィンになるのかな。でも毎年同じじゃ面白くないしやっぱり使う機会はなさそう。でもせっかくモッチーに作ってもらったしとっとこう。
「さとちゃんは何かハロウィンっぽいことやった?」
「はい。サークルのみんなにお菓子を配りました」
「それ、さとちゃんはハロウィンじゃなくてもやってそうだけどね」
「ハロウィンじゃなくてもやってますけど、ハロウィンっぽいお菓子にしてみたりとか、アレンジはいろいろあって…!」
「で、カボチャね」
「はい。1年生の子たちなんかはコスプレみたいなことをして楽しそうでした」
「いいね」
「宏樹さんは、何かハロウィンぽいことは」
「ここくらいだね。ゼミでやるとさ、専門知識の戦いになるから勉強になっちゃうんだよね」
「ああ……そういう学問ですもんね」
「ハロウィンやるならヴァルプルギスの夜もやらなきゃとか言い始めるのがいるんだよ」
……っとっと、いけない。もう少しで突っ込んでっちゃうところだった。そういうのはモッチーかゼミの人相手にしないとそもそも話を理解してもらえないしね。今やってるのは最近始まったイベントとしてのハロウィンで、お祭りとしてのハロウィンとは別物。
「今日の夕飯は何がいいかな」
「うーん、何にしましょう」
「どうせなら本場の伝統料理を食べてみたいよね。まあ、それも俺が食べられるようにアレンジしなきゃいけないだろうけど」
「そうですねえ……せっかくですし、調べてみましょうか。宏樹さん、パソコンをお借りしていいですか?」
「いいよ。よろしくお願いしまーす」
「あっ、このジャガイモのパンケーキなんてどうですか?」
「シンプルでおいしそう」
ハロウィンが新たな1年を迎える前にというお祭りだったら、俺も悪霊……と言うか今年の悪いことを追い返しておかなくちゃ。せっかく体も良くなってきてることだしね。
end.
++++
そう、高崎はあくまでテスト対象であって、長野っちがトリックオアトリ~ト~を仕掛けたい本命はさとちゃんだよ!
さとちゃんのハロウィンはいち氏同様イベントを理由にみんなにお菓子を作って配ってるような感じだったみたいですね。青女は学祭も終わってるし落ち着いたかな。
長野っちの専攻でハロウィンなどのイベントを語らせると確かに同類の人たちがきゃっきゃしそうなんだよなあ。そういや朝倉さん最近見てないな
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「これ、私もかぶってみていいですか?」
「いいよ。はい」
「ありがとうございます」
今日は10月31日、ここ最近ではハロウィンで盛り上がってるね。本来のハロウィンのあり方はともかく、こういうイベント自体は嫌いじゃない。だからちょっとだけだけど乗ってみようかなと思って用意していた物がある。
上からかぶると可愛いお化けちゃんに仮装できる白い布。お化けちゃんの顔はコミカルと言うかファンシーと言うか、可愛い感じにしてある。本気を出せばもっと禍々しくも出来たけど、トリックオアトリートを仕掛けたい相手がさとちゃんの場合、本気で怖がらせちゃいけないから。
念には念を、お化けちゃんのテストはちゃんとやった。昨日、緑大で高崎相手に実験してみたら、いくら可愛いお化けちゃんでもいきなり脅かされればビックリはするらしい。こういうのが嫌いな高崎でそういう反応だったということで、さとちゃんにはもっと驚かせない方向で行くことに決めた。
「トリックオアトリ~ト~」
「うん、いいね。かわいい」
「お菓子をくれなきゃイタズラしますよー」
「ひゃあ、イタズラされちゃ大変だ」
俺は先にさとちゃんがくれたカボチャ風味のカステラを食べながら、自分が用意しておいたお菓子を取り出す。さとちゃんは自分でもお菓子を作るし女の子だし、こういうのにはうるさそうと言うかこだわりが強そうだからしっかりと選んだよ。
「はい、これ」
「……これ、かぶってるとやっぱり見えないものですね」
「そうなんだよ。脱いでいいよさとちゃん」
「それじゃあ失礼して……」
お化けちゃんを脱いださとちゃんに、改めてその包みを渡す。大学近くの洋菓子店で買って来た米粉のクッキー。元気だった時に1回食べたことがあって、結構美味しかった覚えがあるんだよね。
「さとちゃんだったらこういうのも自分で作れちゃうかもしれないけど」
「わあ、ありがとうございます! クッキーですね」
「何かね、米粉が入ってるんだって。サクサクしてて美味しいの」
「自分で作れても、もらえるとやっぱり嬉しいですよ。宏樹さん、ありがとうございます」
「俺もカステラもらってるしおあいこ」
あ、やっぱり作れるんだ。そういや学祭で出す喫茶店で延々とクッキー作るって言ってたもんな。ただ作るだけなら趣味でも何でも出来るけど、学祭の模擬店とは言え人に出してお金をとれるだけの物っていうのはやっぱりすごいよね。普段の料理も美味しいし。
「あの、ところで宏樹さん」
「なに」
「最初にトリックオアトリ~ト~ってやったときに私の目の前でお化けちゃんをかぶったのは、私がホラーやオカルトが苦手だから……ですか?」
「そうなるね。本来俺はイタズラ好きだしもっと派手にも出来るけど、わざとしなかったの。まあ、俺なら目の前でかぶってもそれなりにかわいくなるからね」
「ふふっ」
「何かおかしかった」
「いいえ。ありがとうございます。でも、本当にかわいかったですよ、宏樹さんがお化けちゃんになってわーってやってるのが」
「そうでしょ。俺は自分のことは理解してるからね」
返してもらったお化けちゃんの袋をたたんで、また使う機会があるのかないのかわからないそれを引き出しにしまった。使うとすれば来年のハロウィンになるのかな。でも毎年同じじゃ面白くないしやっぱり使う機会はなさそう。でもせっかくモッチーに作ってもらったしとっとこう。
「さとちゃんは何かハロウィンっぽいことやった?」
「はい。サークルのみんなにお菓子を配りました」
「それ、さとちゃんはハロウィンじゃなくてもやってそうだけどね」
「ハロウィンじゃなくてもやってますけど、ハロウィンっぽいお菓子にしてみたりとか、アレンジはいろいろあって…!」
「で、カボチャね」
「はい。1年生の子たちなんかはコスプレみたいなことをして楽しそうでした」
「いいね」
「宏樹さんは、何かハロウィンぽいことは」
「ここくらいだね。ゼミでやるとさ、専門知識の戦いになるから勉強になっちゃうんだよね」
「ああ……そういう学問ですもんね」
「ハロウィンやるならヴァルプルギスの夜もやらなきゃとか言い始めるのがいるんだよ」
……っとっと、いけない。もう少しで突っ込んでっちゃうところだった。そういうのはモッチーかゼミの人相手にしないとそもそも話を理解してもらえないしね。今やってるのは最近始まったイベントとしてのハロウィンで、お祭りとしてのハロウィンとは別物。
「今日の夕飯は何がいいかな」
「うーん、何にしましょう」
「どうせなら本場の伝統料理を食べてみたいよね。まあ、それも俺が食べられるようにアレンジしなきゃいけないだろうけど」
「そうですねえ……せっかくですし、調べてみましょうか。宏樹さん、パソコンをお借りしていいですか?」
「いいよ。よろしくお願いしまーす」
「あっ、このジャガイモのパンケーキなんてどうですか?」
「シンプルでおいしそう」
ハロウィンが新たな1年を迎える前にというお祭りだったら、俺も悪霊……と言うか今年の悪いことを追い返しておかなくちゃ。せっかく体も良くなってきてることだしね。
end.
++++
そう、高崎はあくまでテスト対象であって、長野っちがトリックオアトリ~ト~を仕掛けたい本命はさとちゃんだよ!
さとちゃんのハロウィンはいち氏同様イベントを理由にみんなにお菓子を作って配ってるような感じだったみたいですね。青女は学祭も終わってるし落ち着いたかな。
長野っちの専攻でハロウィンなどのイベントを語らせると確かに同類の人たちがきゃっきゃしそうなんだよなあ。そういや朝倉さん最近見てないな
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