2018(03)
■人の悪意を跳ね返す
++++
「うわっ、何だいきなり」
「トリックオアトリ~ト」
白い袋のようなお化けの衣装を被った長野っちが、サークル室にやってきた高ピーを驚かせている。今日は火曜日で、長野っちは単位交換制度っていうのを利用して緑大の授業を受けに来ている。何でも、その筋の凄い先生がいるんだってね。俺はよくわかんないけど。
俺やタカシがサークル室に来る前から長野っちはお化けの衣装を被ってイスの上に正座して待っていた。だけど、長野っちの狙いはあくまで高ピー。ターゲットじゃない人間が来たところで微動だにせず言葉を発することもなく。逆にそれが不気味さを増してたんだけど。
「何してやがる」
冒頭の「トリックオアトリ~ト」の後には何を言うでもなく、高ピーの周りでわさわさと動いているお化けだ。この程度だったら無害だしまだかわいいんだけど、高ピー的には煩わしそう。
「いい加減ちょろちょろすんなこの野郎」
「高ピー、いたずらを止めて欲しかったら何かお菓子あげなきゃ」
「いや、つか俺じゃなくていいだろ。それこそ伊東だって」
「伊東先輩はさっきクッキーをあげてたんでターゲットからは除外されたんじゃないですかね」
「つか中身が長野なら食っていいモンとダメなモンがあるんだろ。俺にその区別なんかつかねえぞ」
「じゃあ呪う方向でいい?」
「ぶっ飛ばすぞ」
長野っちが被っている白い布を無理矢理剥いで、高ピーは何事もなかったかのように学祭関係のファイルを開いて仕事を始めてしまった。長野っちは「構ってよ」とつまらなさそうにしている。
って言うか、長野っちって何気に高ピーの天敵なんだよね。それと言うのも、高ピーの弱点にある。高ピーは人には言わないけど実はホラーとかオカルトが大の苦手。まあ、本人が言わないから俺も言わないんだけど。で、長野っちの専攻が……ね。
呪いの民俗学っていうピンポイントな専攻にオカルト趣味。そして長野っち自身の雰囲気も相俟って高ピー的には何か強く出にくいみたい。長野っちも長野っちで高ピーをイジって遊ぶことに喜びを見出してるみたくて。何か面白いみたいね。
「あーあ、せっかくモッチーに用意してもらったのに」
「実苑くんが作ったんですね」
「そうだよ。モッチーはこういうの得意だからね。って言うかモッチーから俺のこと何か聞いた?」
「高校の先輩で、明るくてノリが良くて楽しい人だと」
「あ? ただの性質悪い奴だろ」
「あ、そんなこと言う。高崎、今日の授業でもらったプリントを見せてあげようか。災害や干ばつが重なった時に神に供えられた供物の話と――」
「誰が見るか」
長野っちが授業で聞いた話をすれば、高ピーは「わー、あー」と声を出してそれを防ぐ。だけど、そんな攻防の裏で顔色一つ変えないのがタカシだ。またいつもの我関せずかな。争いに巻き込まれないようにするのが上手いもんなあタカシは。
「供物と言うと、お供え物ですか」
――っとぉ! まさかの質問! まあ、長野っちの後輩の子が友達だったらちょっとくらいは話に聞いてるかも知れないか。うん。しかも、タカシがちょっと食いついてきたのに長野っちの反応も上々じゃん。
「そうそう。この場合厳密には生け贄として捧げられた処女だけど、その生き血を神が好むとされていて――」
「タカシ、そういうの好きなの?」
「好きでも嫌いでもないですね。でも、長野先輩の仕込んでるトリックの方にはちょっと興味があります」
「あっ、見る?」
「おい高木、ンなコトやってる場合じゃねえんだぞ」
「すみません」
「長野、用は済んだだろ」
「高崎からお菓子はもらえなかったけど、テストは出来たから帰ってあげてもいいよ。来週をお楽しみに」
とうとう高ピーが本格的に不機嫌になってきたところで、長野っちは隣の美術部の部室に帰っていった。長野っちの言う“テスト”が何のことかはわからないけど、本人的にしっかりデータが取れたということなのだろう。来週をお楽しみにという意味深な言葉が引っかかるけど、MBCCに害はないだろう。
「ったく。何なんだハロウィンハロウィンて」
「こっちで言うところのお盆みたいな物でしょ? ついでに悪霊を追い返す的な」
「1回やってんならもういいじゃねえか、クソが」
「北辰の七夕がハロウィン形式って聞いたことがあります。子供が家を回ってお菓子をもらうっていう」
「悪霊よか人間の方が段違いで怖えぜ。それはいいけど自分達は外国の文化を曲解してパーティーにしときながら外国の連中がこっちの文化を改変するのに文句垂れやがるのが――」
あ、これ何だかんだ言って長野っちショックが尾を引いてるような感じかな。ああいうかわいいお化けちゃんでもいきなりだとダメージがあるみたいだね。まあ、学祭の仕事に集中すればすぐ忘れると思うけど。
「高ピー、学祭の仕事の確認でもしよっか」
「あ? 俺は最初からやってんだよ。てめェらだろ、長野と遊んでたのは」
「あー、ゴメンって。ちゃんとやるから機嫌直してよ」
「ぶっ飛ばされるかクッキー出すか選ばせてやる」
高ピー流のトリックオアトリートが物騒過ぎるけど、クッキーはまだまだある。これくらいで機嫌を直してもらえるならいくらでも出しますよ。
end.
++++
高崎が尾を引いてるのは果たして長野っちショックだけなのか! 多分朝から動揺を引き摺ってるんだよなあ
さて、お化けちゃん長野っちが高崎でテストをした現場です。いちタカが淡々と高崎と長野っちを見てるような感じですかね。
そして安定のいっちークッキー! イベントを口実にお菓子を作るいち氏という人がいましたね
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「うわっ、何だいきなり」
「トリックオアトリ~ト」
白い袋のようなお化けの衣装を被った長野っちが、サークル室にやってきた高ピーを驚かせている。今日は火曜日で、長野っちは単位交換制度っていうのを利用して緑大の授業を受けに来ている。何でも、その筋の凄い先生がいるんだってね。俺はよくわかんないけど。
俺やタカシがサークル室に来る前から長野っちはお化けの衣装を被ってイスの上に正座して待っていた。だけど、長野っちの狙いはあくまで高ピー。ターゲットじゃない人間が来たところで微動だにせず言葉を発することもなく。逆にそれが不気味さを増してたんだけど。
「何してやがる」
冒頭の「トリックオアトリ~ト」の後には何を言うでもなく、高ピーの周りでわさわさと動いているお化けだ。この程度だったら無害だしまだかわいいんだけど、高ピー的には煩わしそう。
「いい加減ちょろちょろすんなこの野郎」
「高ピー、いたずらを止めて欲しかったら何かお菓子あげなきゃ」
「いや、つか俺じゃなくていいだろ。それこそ伊東だって」
「伊東先輩はさっきクッキーをあげてたんでターゲットからは除外されたんじゃないですかね」
「つか中身が長野なら食っていいモンとダメなモンがあるんだろ。俺にその区別なんかつかねえぞ」
「じゃあ呪う方向でいい?」
「ぶっ飛ばすぞ」
長野っちが被っている白い布を無理矢理剥いで、高ピーは何事もなかったかのように学祭関係のファイルを開いて仕事を始めてしまった。長野っちは「構ってよ」とつまらなさそうにしている。
って言うか、長野っちって何気に高ピーの天敵なんだよね。それと言うのも、高ピーの弱点にある。高ピーは人には言わないけど実はホラーとかオカルトが大の苦手。まあ、本人が言わないから俺も言わないんだけど。で、長野っちの専攻が……ね。
呪いの民俗学っていうピンポイントな専攻にオカルト趣味。そして長野っち自身の雰囲気も相俟って高ピー的には何か強く出にくいみたい。長野っちも長野っちで高ピーをイジって遊ぶことに喜びを見出してるみたくて。何か面白いみたいね。
「あーあ、せっかくモッチーに用意してもらったのに」
「実苑くんが作ったんですね」
「そうだよ。モッチーはこういうの得意だからね。って言うかモッチーから俺のこと何か聞いた?」
「高校の先輩で、明るくてノリが良くて楽しい人だと」
「あ? ただの性質悪い奴だろ」
「あ、そんなこと言う。高崎、今日の授業でもらったプリントを見せてあげようか。災害や干ばつが重なった時に神に供えられた供物の話と――」
「誰が見るか」
長野っちが授業で聞いた話をすれば、高ピーは「わー、あー」と声を出してそれを防ぐ。だけど、そんな攻防の裏で顔色一つ変えないのがタカシだ。またいつもの我関せずかな。争いに巻き込まれないようにするのが上手いもんなあタカシは。
「供物と言うと、お供え物ですか」
――っとぉ! まさかの質問! まあ、長野っちの後輩の子が友達だったらちょっとくらいは話に聞いてるかも知れないか。うん。しかも、タカシがちょっと食いついてきたのに長野っちの反応も上々じゃん。
「そうそう。この場合厳密には生け贄として捧げられた処女だけど、その生き血を神が好むとされていて――」
「タカシ、そういうの好きなの?」
「好きでも嫌いでもないですね。でも、長野先輩の仕込んでるトリックの方にはちょっと興味があります」
「あっ、見る?」
「おい高木、ンなコトやってる場合じゃねえんだぞ」
「すみません」
「長野、用は済んだだろ」
「高崎からお菓子はもらえなかったけど、テストは出来たから帰ってあげてもいいよ。来週をお楽しみに」
とうとう高ピーが本格的に不機嫌になってきたところで、長野っちは隣の美術部の部室に帰っていった。長野っちの言う“テスト”が何のことかはわからないけど、本人的にしっかりデータが取れたということなのだろう。来週をお楽しみにという意味深な言葉が引っかかるけど、MBCCに害はないだろう。
「ったく。何なんだハロウィンハロウィンて」
「こっちで言うところのお盆みたいな物でしょ? ついでに悪霊を追い返す的な」
「1回やってんならもういいじゃねえか、クソが」
「北辰の七夕がハロウィン形式って聞いたことがあります。子供が家を回ってお菓子をもらうっていう」
「悪霊よか人間の方が段違いで怖えぜ。それはいいけど自分達は外国の文化を曲解してパーティーにしときながら外国の連中がこっちの文化を改変するのに文句垂れやがるのが――」
あ、これ何だかんだ言って長野っちショックが尾を引いてるような感じかな。ああいうかわいいお化けちゃんでもいきなりだとダメージがあるみたいだね。まあ、学祭の仕事に集中すればすぐ忘れると思うけど。
「高ピー、学祭の仕事の確認でもしよっか」
「あ? 俺は最初からやってんだよ。てめェらだろ、長野と遊んでたのは」
「あー、ゴメンって。ちゃんとやるから機嫌直してよ」
「ぶっ飛ばされるかクッキー出すか選ばせてやる」
高ピー流のトリックオアトリートが物騒過ぎるけど、クッキーはまだまだある。これくらいで機嫌を直してもらえるならいくらでも出しますよ。
end.
++++
高崎が尾を引いてるのは果たして長野っちショックだけなのか! 多分朝から動揺を引き摺ってるんだよなあ
さて、お化けちゃん長野っちが高崎でテストをした現場です。いちタカが淡々と高崎と長野っちを見てるような感じですかね。
そして安定のいっちークッキー! イベントを口実にお菓子を作るいち氏という人がいましたね
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