2018(03)
■お麻里様は見た!
++++
「着いたぞ」
「お邪魔しました」
「今何時だ?」
「7時過ぎかな」
「じゃあ帰って二度寝出来るな」
かけていたアラームより早く目覚めて、ぐだぐだする理由もなかったから予定より早く帰ることにした。通勤や通学で交通量が増える前、早朝のタンデム。昨日の行きと同じように、高崎のビッグスクーターの後ろに乗って来て。
うちのマンションの駐車場を、猫が歩いている。向かいの大きな一軒家から女の子が出て来て、ご飯なんだーと言いながらお皿を地面に置く。すると、猫は家の方に歩いて行く。こんな光景も、早朝だから見られるのだろう。
「まあ、またいつかか」
「そうだな」
「夏合宿打ち上げとやらになるのか」
「あとは、昨日がお前の誕生日だっただけに、うちも後日祝われていいかなとは」
「あれのどこが祝いだ」
「しっかり祝ったじゃないか」
「最終的にお前のワガママ放題だったじゃねえか」
「朝が来たのでリセット。ノーカン」
「そうかよ。俺も出来ることならノーカンにしてえぜ、クソ恥ずかしい」
今から思い返せば、あれは一体何だったのか。七夕の時も然りだけど、雰囲気というものがさせることなのかもしれない。それで、次に会うときには何事もなかったかのようにケロリとしているからその場限りの何かなのか。まあ、誰にでも出来ることじゃないのは確かだ。
「それで、何が恥ずかしいって?」
「そりゃああのゼロ距離が――」
――と、高崎が返そうとして気付く。うちがしている質問じゃない。高崎と目を合わせて、ワケがわからず「うちじゃない」の意味で手を激しく横に振って。と言うか、全くもって嫌な予感しかしません!
「菜月さん、朝帰り? いいね~」
「ふあっ!? ままま、麻里さんオハヨウゴザイマス!?」
「じゃ、俺はこれで――」
「高崎、逃げたらどうなるかわかってるよね」
「いや、授業が」
「帰って二度寝出来るんでしょ? まだ余裕じゃん」
「……麻里さん、いつからいたんすか」
「帰って来た瞬間からだよね」
よりによって、一番見られてはいけない人に見られてしまったのだと察する。火曜日はゴミの日。うちなんかは前日の夜派だけど、早朝にゴミ出しをする人もいるにはいる。そうか、麻里さんは朝派でしたか……。
麻里さんのお顔がとてもつやつやしている。飲み会の時に恋愛事情の尋問をしているときなんかによく見る顔。と言うか、伊東の彼女への口止めが全く意味をなさなくなりましたよね! カンザキ風に言えば、もうどうにでもな~れ!
「確認だけど、2人は付き合って」
「ないっす」
「ないです」
「あっそう。会ってた目的は」
「飯とか近況報告とか」
「ついでに誕生日を」
「ふぅん。で、高崎ですら恥ずかしい“ゼロ距離”とは」
「……言わなきゃダメすか」
「聞きたいなー。正しいことがわかんないと、お姉さん憶測でいろんな人に相談しちゃうかもぉ~。圭斗さんとマーさんに聞いてみないと~」
「それは勘弁してください」
「菜月さんがいたら喋りにくいなら、今度お姉さんと飲みながら話そっか」
「……と言うか高崎、うちの知らないところでいろいろ言われるのもいい気はしないぞ」
「だよな。えっと……ゼロ距離っつーのは――」
麻里さんが思うようなことは実際何もないワケだし、憶測でいろいろ言われるくらいであればさっさと事実を言ってこの出来事を麻里さんだけに留めておくのも手かもしれない。と言うか圭斗と村井サンとかロクでもないことにしかならないじゃないか。
――とか何とか考えていたらくるっと高崎の方を向かされる。これから何が起こるんだと思えば、顔が近付いてきて触れ合う鼻先。一応確認ですけど、外ですね。朝ですね。人前ですね。麻里さんは、キャー、と。
「……と、まあ、こんな感じのことを」
「ちょっ、お前バカなんじゃないのか!」
「言語化する方が恥ずかしいだろ。こんなときは映像化して余計な妄想を膨らまさせないようにするのが一番いい」
「だからってなあ!」
「確認だけど、付き合って」
「ないっす」
「ないです!」
「って言うか、ベッドを人に使わせないことに定評のある高崎でも、さすがに菜月さんを雑魚寝させないでしょ?」
「まあ、上がるなっつっても上がるんで。俺も断固として雑魚寝はしませんけど」
「確認だけど」
「麻里さんに殺されるようなことは何もないっす」
「でもあったことは聞きたいです」
麻里さんの圧に観念したのか、高崎は昨日あったことを一から話し始めた。朝になって我に返れば、聞いているだけで恥ずかしくなってくるようなこと。それでも疚しいことは何もしていないのだから。平気平気……。
「大体これが一部始終っす」
「アレだね、菜月さんの酒癖もありありで。菜月さん、何度でも言うけど高崎じゃなかったら」
「うう……わかってます……」
「でもさ、聞いて思ったけどやってることが完全にスローセックスとかポリネシアンセックスの前戯だよね」
「ちょっ、麻里さん直接的過ぎっす」
「まあ、事情はわかりました! 正直者に免じて圭斗さんとマーさんに共有することはしないでおきましょう」
「ふー……あざっす」
「菜月さん、今日の夜一緒にご飯食べよっかー。お姉さんが美味しいの作ってあげるから」
「はい~……」
一通りの尋問が終わって高崎は疲れた様子で帰って行った。うちも自分の部屋に帰って、来たる夜の延長戦に備えてとりあえずは片付けから始めようかとゴミ袋を手にした。
end.
++++
アウトー! 昨日の夜はいろいろ忘れていちゃいちゃしていた高菜でしたが、ここで一気に現実に引き戻された様子。最悪の形や……
しかし、猫にご飯をあげてる女の子がどこかで見たような感じなんだ! 一軒家で飼ってる猫は一匹だけなんだ! 他は野良なんだ!
と言うか菜月さん部屋が片付いてなかったのね。片付けが得意でないところも某Pと似ているポイントだなあ
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「着いたぞ」
「お邪魔しました」
「今何時だ?」
「7時過ぎかな」
「じゃあ帰って二度寝出来るな」
かけていたアラームより早く目覚めて、ぐだぐだする理由もなかったから予定より早く帰ることにした。通勤や通学で交通量が増える前、早朝のタンデム。昨日の行きと同じように、高崎のビッグスクーターの後ろに乗って来て。
うちのマンションの駐車場を、猫が歩いている。向かいの大きな一軒家から女の子が出て来て、ご飯なんだーと言いながらお皿を地面に置く。すると、猫は家の方に歩いて行く。こんな光景も、早朝だから見られるのだろう。
「まあ、またいつかか」
「そうだな」
「夏合宿打ち上げとやらになるのか」
「あとは、昨日がお前の誕生日だっただけに、うちも後日祝われていいかなとは」
「あれのどこが祝いだ」
「しっかり祝ったじゃないか」
「最終的にお前のワガママ放題だったじゃねえか」
「朝が来たのでリセット。ノーカン」
「そうかよ。俺も出来ることならノーカンにしてえぜ、クソ恥ずかしい」
今から思い返せば、あれは一体何だったのか。七夕の時も然りだけど、雰囲気というものがさせることなのかもしれない。それで、次に会うときには何事もなかったかのようにケロリとしているからその場限りの何かなのか。まあ、誰にでも出来ることじゃないのは確かだ。
「それで、何が恥ずかしいって?」
「そりゃああのゼロ距離が――」
――と、高崎が返そうとして気付く。うちがしている質問じゃない。高崎と目を合わせて、ワケがわからず「うちじゃない」の意味で手を激しく横に振って。と言うか、全くもって嫌な予感しかしません!
「菜月さん、朝帰り? いいね~」
「ふあっ!? ままま、麻里さんオハヨウゴザイマス!?」
「じゃ、俺はこれで――」
「高崎、逃げたらどうなるかわかってるよね」
「いや、授業が」
「帰って二度寝出来るんでしょ? まだ余裕じゃん」
「……麻里さん、いつからいたんすか」
「帰って来た瞬間からだよね」
よりによって、一番見られてはいけない人に見られてしまったのだと察する。火曜日はゴミの日。うちなんかは前日の夜派だけど、早朝にゴミ出しをする人もいるにはいる。そうか、麻里さんは朝派でしたか……。
麻里さんのお顔がとてもつやつやしている。飲み会の時に恋愛事情の尋問をしているときなんかによく見る顔。と言うか、伊東の彼女への口止めが全く意味をなさなくなりましたよね! カンザキ風に言えば、もうどうにでもな~れ!
「確認だけど、2人は付き合って」
「ないっす」
「ないです」
「あっそう。会ってた目的は」
「飯とか近況報告とか」
「ついでに誕生日を」
「ふぅん。で、高崎ですら恥ずかしい“ゼロ距離”とは」
「……言わなきゃダメすか」
「聞きたいなー。正しいことがわかんないと、お姉さん憶測でいろんな人に相談しちゃうかもぉ~。圭斗さんとマーさんに聞いてみないと~」
「それは勘弁してください」
「菜月さんがいたら喋りにくいなら、今度お姉さんと飲みながら話そっか」
「……と言うか高崎、うちの知らないところでいろいろ言われるのもいい気はしないぞ」
「だよな。えっと……ゼロ距離っつーのは――」
麻里さんが思うようなことは実際何もないワケだし、憶測でいろいろ言われるくらいであればさっさと事実を言ってこの出来事を麻里さんだけに留めておくのも手かもしれない。と言うか圭斗と村井サンとかロクでもないことにしかならないじゃないか。
――とか何とか考えていたらくるっと高崎の方を向かされる。これから何が起こるんだと思えば、顔が近付いてきて触れ合う鼻先。一応確認ですけど、外ですね。朝ですね。人前ですね。麻里さんは、キャー、と。
「……と、まあ、こんな感じのことを」
「ちょっ、お前バカなんじゃないのか!」
「言語化する方が恥ずかしいだろ。こんなときは映像化して余計な妄想を膨らまさせないようにするのが一番いい」
「だからってなあ!」
「確認だけど、付き合って」
「ないっす」
「ないです!」
「って言うか、ベッドを人に使わせないことに定評のある高崎でも、さすがに菜月さんを雑魚寝させないでしょ?」
「まあ、上がるなっつっても上がるんで。俺も断固として雑魚寝はしませんけど」
「確認だけど」
「麻里さんに殺されるようなことは何もないっす」
「でもあったことは聞きたいです」
麻里さんの圧に観念したのか、高崎は昨日あったことを一から話し始めた。朝になって我に返れば、聞いているだけで恥ずかしくなってくるようなこと。それでも疚しいことは何もしていないのだから。平気平気……。
「大体これが一部始終っす」
「アレだね、菜月さんの酒癖もありありで。菜月さん、何度でも言うけど高崎じゃなかったら」
「うう……わかってます……」
「でもさ、聞いて思ったけどやってることが完全にスローセックスとかポリネシアンセックスの前戯だよね」
「ちょっ、麻里さん直接的過ぎっす」
「まあ、事情はわかりました! 正直者に免じて圭斗さんとマーさんに共有することはしないでおきましょう」
「ふー……あざっす」
「菜月さん、今日の夜一緒にご飯食べよっかー。お姉さんが美味しいの作ってあげるから」
「はい~……」
一通りの尋問が終わって高崎は疲れた様子で帰って行った。うちも自分の部屋に帰って、来たる夜の延長戦に備えてとりあえずは片付けから始めようかとゴミ袋を手にした。
end.
++++
アウトー! 昨日の夜はいろいろ忘れていちゃいちゃしていた高菜でしたが、ここで一気に現実に引き戻された様子。最悪の形や……
しかし、猫にご飯をあげてる女の子がどこかで見たような感じなんだ! 一軒家で飼ってる猫は一匹だけなんだ! 他は野良なんだ!
と言うか菜月さん部屋が片付いてなかったのね。片付けが得意でないところも某Pと似ているポイントだなあ
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