2018(03)
■作ってナツナツ
++++
「ん! うまー」
今日は土曜日で、カレンダー的には何ら変わったところのないごくごく普通の土曜日だ。昼放送の収録は平常通り午後2時から。ただ一点、問題があるとすれば俺が青女さんに学祭の手伝いとかで出向かなければならなかったこと。
事の発端は、ヒロが啓子さんに勝手に手伝いの約束を取り付けたこと。先週から言い出しっぺのヒロ、それから俺とこーたは青女さんの手伝いに駆り出されていた。そしてそれは今日も。きっと今頃ヒロとこーたはひいこら言いながら大道具の搬入搬出をしていることだろう。
だけど、俺の事情を知っていたのか、青女さんサイドが俺を追い出しにかかったのだ。昼放送の収録と、装飾作業に孤軍奮闘されているであろう菜月先輩の元へ行ってあげてくれと。そして福島先輩から菜月先輩へというケーキを言付かって。
「青女はすごいな、喫茶でこんなのを自前で出して来るとか」
昼放送の収録を終えて、菜月先輩はケーキをうまうまされる。菜月先輩のために持たされたチーズケーキ。俺は机を装飾作業仕様に動かしながら、菜月先輩のティータイムを見守っている。ちなみに、俺は無事午後2時に間に合いました。
「菜月先輩、俺は先日の続きでよろしいでしょうか」
「そうだな。ところで、今日は何時までとかはあるのか」
「いえ、通常の昼放送も実質制限がないような物ですから……菜月先輩が終わると仰るまで俺もやります」
「そうか。ほら、うち月曜日は予定があって延長作業が出来ないから、今日出来るだけやっとこうと思ってて。まあ、とりあえず糊を溶いてくれるか」
「わかりました」
先日、菜月先輩に「何か装飾のお手伝いをさせて下さい」とお願いした結果、俺はMMPというアルファベットオブジェを作る仕事を頂くことが出来た。菜月先輩が段ボールを切り取って作った立体のアルファベットに、100均などで買える柄付きのペーパーナプキンを水溶き糊で貼り付けていくという仕事。
絵筆こそ握るけど、絵の具で色を塗るというワケではないので少し気楽に出来る。水溶き糊をぺたぺたとペーパーナプキンの上に置いて行けば段ボールにくっついてくれるのだ。と言うか、菜月先輩の工作力がカンストしてるよなあ、やっぱり。
「ノサカノサカ、これ、どうかな」
菜月先輩が手にしているのはMMPオブジェと同じように段ボールで作られた星のオブジェ。だけど、真ん中には黒い目線のような穴が開けられている。貯金箱には穴が大きすぎるし、被り物には小さすぎる。まるで目的がわからない。
「星のオブジェですね。ですが、真ん中の穴は何の目的で開けられたのでしょう」
「ここにこうして……時計をはめれば」
「なるほど!」
100均で買って来た簡単なデジタル時計を星の内側にキュッとはめてふたを閉めれば、星型時計の完成だ。柄がまだないから地味だけど、その辺はMMPオブジェが終わったら俺のセンスで適当にやっといてくれと恐ろしい指示を受けてしまった。
「しかし、菜月先輩の工作力は本当に素晴らしいですね」
「そうか? ある物をパーッと組み合わせてるだけだぞ」
「完成した物を見てなるほどと理解することは出来ても、物を見て組み合わせるアイディアはなかなか浮かばないものですよ」
「100均を眺めてると楽しい。自分の部屋に物を増やしたくないからあんまやらないけど。すのこラックくらいならやりたいなとは」
「すのこラック?」
「そのまんま、すのこを組み合わせてラックを作るんだ」
何か、すのこの形状を利用して、ちょっと組み立てただけのラックを作れるんですって! ちなみにめちゃくちゃ簡単で手軽な部類のDIYとかプチプラリメイクって言うそうですよ! グルーガン買ってみようかなーと菜月先輩は言うけど、何が何やら……。
「ナツナツさんパねえ……」
「ん? ナツナツさん?」
「はっ、ついうっかり心の声が…!」
「工作が得意なナツナツさんと、アシスタントのノサリってか」
「自分でネタを振っておいて難ですが、ノサリはパロるにしても若干無理があるかと」
しばしの沈黙。やってしまった。ホント、ナツナツさんはともかくノサリは無理があった。自分でも何を言っているのかわからなくなることってありますよね。反省をしつつ、オブジェにドット柄のペーパーナプキンを貼り付けていく。
「うん、簡易ラック作ろうかな。テントの中で過ごす時間も長いだろうし、収納は大事だ」
「まさかこれから…!?」
「去年も思ってたんだ、荷物で足の踏み場がないなって。荷物を固めとく場所があれば歩きやすくなるだろうし」
「もしや、すのこラックを…?」
「それもいいかもなあ。今日は作業を早く切り上げて買い物に出てもいいな」
もしかしなくても菜月先輩は装飾に関する天才でいらっしゃる。俺を含めたMMPの無能たちでは想像も出来ないことを思いつかれるし、それを作ってしまうのが本当に凄すぎて。食品ブースでスープを売り切った後の準備も必要だよなあ、と呟く菜月先輩のイメージは。
end.
++++
土曜日の作業が始まった菜月さんとノサカです。そうか、今日は出来るところまでやっていくのね
ちなみにノサカは今日も青女には行っていたそうですが、追い出された件は去年かその前にやってたはず。
工作が得意なナツナツさんと、アシスタントのノサリ……うん、無理があるよなあ
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「ん! うまー」
今日は土曜日で、カレンダー的には何ら変わったところのないごくごく普通の土曜日だ。昼放送の収録は平常通り午後2時から。ただ一点、問題があるとすれば俺が青女さんに学祭の手伝いとかで出向かなければならなかったこと。
事の発端は、ヒロが啓子さんに勝手に手伝いの約束を取り付けたこと。先週から言い出しっぺのヒロ、それから俺とこーたは青女さんの手伝いに駆り出されていた。そしてそれは今日も。きっと今頃ヒロとこーたはひいこら言いながら大道具の搬入搬出をしていることだろう。
だけど、俺の事情を知っていたのか、青女さんサイドが俺を追い出しにかかったのだ。昼放送の収録と、装飾作業に孤軍奮闘されているであろう菜月先輩の元へ行ってあげてくれと。そして福島先輩から菜月先輩へというケーキを言付かって。
「青女はすごいな、喫茶でこんなのを自前で出して来るとか」
昼放送の収録を終えて、菜月先輩はケーキをうまうまされる。菜月先輩のために持たされたチーズケーキ。俺は机を装飾作業仕様に動かしながら、菜月先輩のティータイムを見守っている。ちなみに、俺は無事午後2時に間に合いました。
「菜月先輩、俺は先日の続きでよろしいでしょうか」
「そうだな。ところで、今日は何時までとかはあるのか」
「いえ、通常の昼放送も実質制限がないような物ですから……菜月先輩が終わると仰るまで俺もやります」
「そうか。ほら、うち月曜日は予定があって延長作業が出来ないから、今日出来るだけやっとこうと思ってて。まあ、とりあえず糊を溶いてくれるか」
「わかりました」
先日、菜月先輩に「何か装飾のお手伝いをさせて下さい」とお願いした結果、俺はMMPというアルファベットオブジェを作る仕事を頂くことが出来た。菜月先輩が段ボールを切り取って作った立体のアルファベットに、100均などで買える柄付きのペーパーナプキンを水溶き糊で貼り付けていくという仕事。
絵筆こそ握るけど、絵の具で色を塗るというワケではないので少し気楽に出来る。水溶き糊をぺたぺたとペーパーナプキンの上に置いて行けば段ボールにくっついてくれるのだ。と言うか、菜月先輩の工作力がカンストしてるよなあ、やっぱり。
「ノサカノサカ、これ、どうかな」
菜月先輩が手にしているのはMMPオブジェと同じように段ボールで作られた星のオブジェ。だけど、真ん中には黒い目線のような穴が開けられている。貯金箱には穴が大きすぎるし、被り物には小さすぎる。まるで目的がわからない。
「星のオブジェですね。ですが、真ん中の穴は何の目的で開けられたのでしょう」
「ここにこうして……時計をはめれば」
「なるほど!」
100均で買って来た簡単なデジタル時計を星の内側にキュッとはめてふたを閉めれば、星型時計の完成だ。柄がまだないから地味だけど、その辺はMMPオブジェが終わったら俺のセンスで適当にやっといてくれと恐ろしい指示を受けてしまった。
「しかし、菜月先輩の工作力は本当に素晴らしいですね」
「そうか? ある物をパーッと組み合わせてるだけだぞ」
「完成した物を見てなるほどと理解することは出来ても、物を見て組み合わせるアイディアはなかなか浮かばないものですよ」
「100均を眺めてると楽しい。自分の部屋に物を増やしたくないからあんまやらないけど。すのこラックくらいならやりたいなとは」
「すのこラック?」
「そのまんま、すのこを組み合わせてラックを作るんだ」
何か、すのこの形状を利用して、ちょっと組み立てただけのラックを作れるんですって! ちなみにめちゃくちゃ簡単で手軽な部類のDIYとかプチプラリメイクって言うそうですよ! グルーガン買ってみようかなーと菜月先輩は言うけど、何が何やら……。
「ナツナツさんパねえ……」
「ん? ナツナツさん?」
「はっ、ついうっかり心の声が…!」
「工作が得意なナツナツさんと、アシスタントのノサリってか」
「自分でネタを振っておいて難ですが、ノサリはパロるにしても若干無理があるかと」
しばしの沈黙。やってしまった。ホント、ナツナツさんはともかくノサリは無理があった。自分でも何を言っているのかわからなくなることってありますよね。反省をしつつ、オブジェにドット柄のペーパーナプキンを貼り付けていく。
「うん、簡易ラック作ろうかな。テントの中で過ごす時間も長いだろうし、収納は大事だ」
「まさかこれから…!?」
「去年も思ってたんだ、荷物で足の踏み場がないなって。荷物を固めとく場所があれば歩きやすくなるだろうし」
「もしや、すのこラックを…?」
「それもいいかもなあ。今日は作業を早く切り上げて買い物に出てもいいな」
もしかしなくても菜月先輩は装飾に関する天才でいらっしゃる。俺を含めたMMPの無能たちでは想像も出来ないことを思いつかれるし、それを作ってしまうのが本当に凄すぎて。食品ブースでスープを売り切った後の準備も必要だよなあ、と呟く菜月先輩のイメージは。
end.
++++
土曜日の作業が始まった菜月さんとノサカです。そうか、今日は出来るところまでやっていくのね
ちなみにノサカは今日も青女には行っていたそうですが、追い出された件は去年かその前にやってたはず。
工作が得意なナツナツさんと、アシスタントのノサリ……うん、無理があるよなあ
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