2018(03)
■エンジョイハロパ!
++++
「やだ! やーだ! 俺はゼミに出るんだ!」
「いい加減にしなさい飯野! アンタこれまでの出席ボーナス全部持ってるんだから1回出なくたって余裕でしょ!?」
「バカ言うな! 今日出なかったら今日もらえるボーナスがもらえないじゃねーか!」
「前夜祭まで1週間なのにゼミに出てる余裕がどこにあると思ってんの仮にもナンバーツーで現場の責任者が!」
「うるせー! 俺は卒業が危ういんだ! 出席ボーナス全部取った上でゼミにも全部出なきゃ単位貰えるかどうかも怪しいんだぞ!」
「それはアンタがバカだからでしょ!? いーから準備手伝って!」
「や~だ~! 助けてくれ~!」
サークル棟の吹き抜けに響き渡るやり取りに、俺はとにかく存在感を消そうと思った。サークル棟2階通路から1階を見下ろせば、ミイラのコスプレをして浮かれた様子の飯野が大祭実行委員のつなぎの上から黒いハッピを羽織った倉橋にシバかれているところだった。
飯野と倉橋はゼミに出る出ないのことで揉めているらしい。この2人、そして俺が属している社会学部安部ゼミはとても緩い。まあ、書かせる物の量はバカみたいに多いが、通常のゼミを1回潰してパーティーという名のお茶会をやったりすることはザラ。
今日は安部ゼミのハロウィンパーティーが開かれる。ドレスコードは何らかの仮装をしてくること、それからお菓子を持参することという連絡があった。安部ゼミのパーティーの何がオイシイのかと言えば、パーティーに出ると1回分の出席ボーナスが付くのだ。
本来出席ボーナスは就活や実家への帰省、まあ、今の時期なら飯野や倉橋のように大学祭実行委員で忙しい奴向けの制度だ。使い方は当然欠席の補填になる。ただ、俺のように日頃から出席が足りない人間への救済措置としての一面もないことはない。
「どーせお前何だかんだ理由付けて来週も俺のこと拘束すんだろ!」
「当たり前でしょ、アンタが現場責任者なんだから」
「じゃあお前俺が卒業出来なかったら責任取んのかよ」
「それは自己責任でしょ」
「あーほら責任逃れだ! 俺はせめてゼミだけでもしっかりと単位を取っていくスタンスなんですぅ~」
「レポートがゴミクズだから出席でしか取れないんでしょ!?」
「今回のレポートは一味も二味も違うんだ!」
……まあ、元はゴミクズレポートだったものをそれらしくなるようにこの俺が手伝ってやってんだから一味二味どころか全くの別モンになってなきゃいけねえんだけどな。ちなみに俺が問題児と呼ばれるのは出席が足りないということだけで、レポートなどは一番出来ているとは安部ちゃん談。
それはそうと、吹き抜けの下から何となく聞こえていた程度だった声が、徐々に近づいてきているような気がする。気の所為か? いや、全然気の所為じゃねえな。明らかに飯野と倉橋の声が近付いている。嫌な予感しかしねえ。
とりあえず、必要最低限の荷物……財布とケータイ、それからお菓子の袋を手に、表に出てみる。するとどうだ、案の定飯野と倉橋がこっちに来てやがった。俺の姿を見るやいなや、飯野が飛びかかろうとしている。させてたまるか。
「あっ! 逃げやがった!」
「えっ、てか普通2階の通路から飛び降りる!?」
「それが出来るんだよアイツの身体能力だったら。池の幅跳びも楽勝でクリアするんだぞ」
手すりを乗り越え、そのまま細い鉄柱伝いに滑り棒の要領で1階へ。ざまあみろ。俺は飯野に捕まって利用される気も、倉橋に捕まって説教される気もねえ。大体倉橋の奴は人の顔を見る度に来ない癖に成績だけ良いのが腹立つとか何とかってうるせえんだ。悔しかったら俺以上のモンを書けばいいだけの話だろ。
「高崎! もしやお前ハロパ出るつもりか!」
「当たり前だろ! こちとらガチで単位がかかってんだぞ! じゃ、そういうことだからじゃあな」
「クソッ、逃がすか!」
「あっコラ飯野待ちなさい!」
とにかく今は追手を振り切ること。社会学部棟まで多少の距離はあるが腐っても俺は元体育会系、インドア派のゲーマーに追いつかれるようなタマじゃねえ。学部棟に着いたらエレベーターに乗り込み、5階まで一気に上がる。奴らの姿はない。よし。
「ふー。安部ちゃんおざっす」
「あっ、さすが。パーティーの日はちゃんと来るね高崎君。何か、大層な追いかけっこしてたみたいだけど」
「あ、窓から見えました?」
「それはそうと、ドレスコード。仮装してるようには見えないけど」
「パニック映画の市民っつー体で。ミイラと鬼に追われてきたんで十分っしょ」
いつものようにお茶を淹れ、安部ちゃんに出していると外からドタバタと、恐らく連中が近付いてきたようだった。
「おいコラ高崎テメー!」
「あーもー飯野いい加減にしなさい! まだ準備があるの!」
「せっかくここまで来たんだからパーティー出させろよ!」
「ダメ!」
「あらあら、飯野君も倉橋君も大層な出で立ちで。走ってきたら疲れたでしょ。パーティーに出る出ないはともかくお茶でも飲んでったら?」
「そーします。あ、俺は残るんで」
「アタシは準備に戻りますけどいただきまーす」
結局はハロウィンパーティーという名のお茶会だ。このお茶会だって俺や飯野は個人的に呼び出されて好きな時にやってる駄弁りと何ら変わりねえ。まあでも、こんなことでもねえとまともにゼミには来なかっただろうし、これはこれで。うん、今日も緑茶がうめえ。
end.
++++
安部ゼミハロウィンパーティー当日、大学祭実行委員では激しい攻防が繰り広げられていました。
しかし嫌な予感しかしないからって2階の通路の手すりを乗り越えて飛び降りる高崎よ……柱伝いとは言えなかなかやることじゃない
高崎が用意したお菓子はきっと安部ちゃん好みのかりんとうなんやろなあ……
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「やだ! やーだ! 俺はゼミに出るんだ!」
「いい加減にしなさい飯野! アンタこれまでの出席ボーナス全部持ってるんだから1回出なくたって余裕でしょ!?」
「バカ言うな! 今日出なかったら今日もらえるボーナスがもらえないじゃねーか!」
「前夜祭まで1週間なのにゼミに出てる余裕がどこにあると思ってんの仮にもナンバーツーで現場の責任者が!」
「うるせー! 俺は卒業が危ういんだ! 出席ボーナス全部取った上でゼミにも全部出なきゃ単位貰えるかどうかも怪しいんだぞ!」
「それはアンタがバカだからでしょ!? いーから準備手伝って!」
「や~だ~! 助けてくれ~!」
サークル棟の吹き抜けに響き渡るやり取りに、俺はとにかく存在感を消そうと思った。サークル棟2階通路から1階を見下ろせば、ミイラのコスプレをして浮かれた様子の飯野が大祭実行委員のつなぎの上から黒いハッピを羽織った倉橋にシバかれているところだった。
飯野と倉橋はゼミに出る出ないのことで揉めているらしい。この2人、そして俺が属している社会学部安部ゼミはとても緩い。まあ、書かせる物の量はバカみたいに多いが、通常のゼミを1回潰してパーティーという名のお茶会をやったりすることはザラ。
今日は安部ゼミのハロウィンパーティーが開かれる。ドレスコードは何らかの仮装をしてくること、それからお菓子を持参することという連絡があった。安部ゼミのパーティーの何がオイシイのかと言えば、パーティーに出ると1回分の出席ボーナスが付くのだ。
本来出席ボーナスは就活や実家への帰省、まあ、今の時期なら飯野や倉橋のように大学祭実行委員で忙しい奴向けの制度だ。使い方は当然欠席の補填になる。ただ、俺のように日頃から出席が足りない人間への救済措置としての一面もないことはない。
「どーせお前何だかんだ理由付けて来週も俺のこと拘束すんだろ!」
「当たり前でしょ、アンタが現場責任者なんだから」
「じゃあお前俺が卒業出来なかったら責任取んのかよ」
「それは自己責任でしょ」
「あーほら責任逃れだ! 俺はせめてゼミだけでもしっかりと単位を取っていくスタンスなんですぅ~」
「レポートがゴミクズだから出席でしか取れないんでしょ!?」
「今回のレポートは一味も二味も違うんだ!」
……まあ、元はゴミクズレポートだったものをそれらしくなるようにこの俺が手伝ってやってんだから一味二味どころか全くの別モンになってなきゃいけねえんだけどな。ちなみに俺が問題児と呼ばれるのは出席が足りないということだけで、レポートなどは一番出来ているとは安部ちゃん談。
それはそうと、吹き抜けの下から何となく聞こえていた程度だった声が、徐々に近づいてきているような気がする。気の所為か? いや、全然気の所為じゃねえな。明らかに飯野と倉橋の声が近付いている。嫌な予感しかしねえ。
とりあえず、必要最低限の荷物……財布とケータイ、それからお菓子の袋を手に、表に出てみる。するとどうだ、案の定飯野と倉橋がこっちに来てやがった。俺の姿を見るやいなや、飯野が飛びかかろうとしている。させてたまるか。
「あっ! 逃げやがった!」
「えっ、てか普通2階の通路から飛び降りる!?」
「それが出来るんだよアイツの身体能力だったら。池の幅跳びも楽勝でクリアするんだぞ」
手すりを乗り越え、そのまま細い鉄柱伝いに滑り棒の要領で1階へ。ざまあみろ。俺は飯野に捕まって利用される気も、倉橋に捕まって説教される気もねえ。大体倉橋の奴は人の顔を見る度に来ない癖に成績だけ良いのが腹立つとか何とかってうるせえんだ。悔しかったら俺以上のモンを書けばいいだけの話だろ。
「高崎! もしやお前ハロパ出るつもりか!」
「当たり前だろ! こちとらガチで単位がかかってんだぞ! じゃ、そういうことだからじゃあな」
「クソッ、逃がすか!」
「あっコラ飯野待ちなさい!」
とにかく今は追手を振り切ること。社会学部棟まで多少の距離はあるが腐っても俺は元体育会系、インドア派のゲーマーに追いつかれるようなタマじゃねえ。学部棟に着いたらエレベーターに乗り込み、5階まで一気に上がる。奴らの姿はない。よし。
「ふー。安部ちゃんおざっす」
「あっ、さすが。パーティーの日はちゃんと来るね高崎君。何か、大層な追いかけっこしてたみたいだけど」
「あ、窓から見えました?」
「それはそうと、ドレスコード。仮装してるようには見えないけど」
「パニック映画の市民っつー体で。ミイラと鬼に追われてきたんで十分っしょ」
いつものようにお茶を淹れ、安部ちゃんに出していると外からドタバタと、恐らく連中が近付いてきたようだった。
「おいコラ高崎テメー!」
「あーもー飯野いい加減にしなさい! まだ準備があるの!」
「せっかくここまで来たんだからパーティー出させろよ!」
「ダメ!」
「あらあら、飯野君も倉橋君も大層な出で立ちで。走ってきたら疲れたでしょ。パーティーに出る出ないはともかくお茶でも飲んでったら?」
「そーします。あ、俺は残るんで」
「アタシは準備に戻りますけどいただきまーす」
結局はハロウィンパーティーという名のお茶会だ。このお茶会だって俺や飯野は個人的に呼び出されて好きな時にやってる駄弁りと何ら変わりねえ。まあでも、こんなことでもねえとまともにゼミには来なかっただろうし、これはこれで。うん、今日も緑茶がうめえ。
end.
++++
安部ゼミハロウィンパーティー当日、大学祭実行委員では激しい攻防が繰り広げられていました。
しかし嫌な予感しかしないからって2階の通路の手すりを乗り越えて飛び降りる高崎よ……柱伝いとは言えなかなかやることじゃない
高崎が用意したお菓子はきっと安部ちゃん好みのかりんとうなんやろなあ……
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