2018(03)

■僕たちは手を取り合って

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 大学祭だなんだと学内がバタバタしている中、俺たちは同時進行で別のことでもバタバタしていた。社会学部では2年からそれぞれがゼミに所属して本格的な学問を修めることになる。そのゼミを決めるのは今なのだ。
 秋学期が始まった頃、学部ガイダンスで各ゼミの説明会やら見学についてのアナウンスがあった。配られた資料を見ながらここは行ってみる、ここは行かないといった具合に候補を絞りながら。
 社会学部は現代社会学科、メディア文化学科、社会福祉学科という3つの学科に分かれているのだけど、ゼミは別に学科問わず入ることが出来るそうだ。俺はその制度を大いに利用させてもらおうと考えていた。

「そうだね、やっぱり佐藤ゼミが一番良さそうな感じだよね」
「お前は元々メディ文だし何の問題もないじゃん? 問題は俺じゃんな。現社科でしかもオタクですらない体育会系。倍率が高ければ落ちる確率も上がりそうだ」

 秋学期に入って知り合った高木とは、気付いたら被っている授業を一緒に受けたりする仲になっていた。俺とはバイトの同僚である実苑が高木の友達だったらしく、そんなことも作用して話すことが増えていたというのもある。
 高木は根っからのメディ文の学生だ。履修している授業もメディ文という感じだし、所属しているサークルもラジオをやっているMBCCだ。MBCCの名前は慧梨夏サンの彼氏サンがいるサークルとしてちょこちょこ聞いてるし知っていた。

「でも、鵠沼くんなら大丈夫だって。こないだ面談行ったとき好感触だったし」
「まあ、怪訝な目で見られなかったとは思うけど」

 佐藤ゼミは説明会や見学会の他に個別の面談があって、俺はその個別面談にも高木と一緒に行っていた。個別面談で佐藤ゼミ専用エントリーシートというのをもらって、学部棟に最終的なゼミ所属希望を出すときに一緒に付けなければならないらしい。
 佐藤教授が俺と高木の面談をしたときの第一声は「君たちの接点が見えない」だった。正直俺たちに接点はさほどない。同じ授業を取ってたというだけの関係に過ぎないのだから。共通の友達は後から発覚したことだし。
 ただ、接点のない根っからの文化系と根っからの体育会系が一緒に来たということが佐藤教授にはなかなか興味深かったらしい。高木にはラジオの機材についてのことを、俺にはどういう日常生活を送っているのかを聞いて面談は終わった。

「サークルの先輩が佐藤ゼミにいるんだけどさ、佐藤先生て変わった人が好きらしいんだよね」
「まあ、あの人自体が相当な変人じゃん?」
「俺たちが面談に行った後のゼミで「どの学年にもいないゴリゴリの体育会系の子が面談に来たんだよってご機嫌だった」って言ってた」
「それはまあ、俺のことなのかな」
「だろうね。だからそんなに心配しなくて大丈夫だと思う」
「お前はほぼ合格確定だからそんな気楽にいられるんじゃんな」
「ううん、俺は実はそんなに楽観視出来る立場じゃないんだよ」
「何でだよ、MBCCで機材扱ってんなら佐藤ゼミには打ってつけじゃん」
「えっと、成績の方が、ちょっと」
「そっちな」

 MBCCで機材を扱っている。佐藤ゼミはそれだけの理由で合格出来るくらい放送機材の扱いというのが重要視される。高木はMBCCのミキサーとして日々機材を扱っているのだから、それだけの理由で合格するものだと俺は思っている。
 だけど、説明会の時にも佐藤教授が声高らかに宣言していたのは、「成績の悪い学生は取らない」ということだった。高木は機材こそ扱える。ただ、成績に不安を抱えているようだった。ただ、その不安には正直俺もちょっと納得してしまった。

「まあ、授業中あんだけ寝てりゃ成績も不安になるじゃん?」

 ちなみに俺と高木が知り合ったきっかけも、高木が授業中に寝てたからプリントが回ってこなくて、痺れを切らした俺が起こしに行ったという出来事。毎回お前どんだけ寝てんだよって思いながら見てたじゃんな。

「春は寝坊でレポート1コ出せなかったんだよ」
「お前本当に大丈夫か? 1年の春からそれって」
「朝は苦手なんだよね」
「うーん、俺は完全な朝型だから夜型の奴のことはわからないんだけど」
「そうだよね、だって鵠沼くんが地元では早朝からサーフィンしてたって話、先生すごく食いついてたもんね」
「正直あんな話に食いついてくるとは思わなかったじゃんな」
「それに比べて俺なんて地味だとしか言われなかったし。本当にMBCCのミキサーであることくらいしか価値がない無趣味で地味で成績の悪い凡庸な学生で」
「高木、MBCCのブランドを信じろ」

 佐藤ゼミは毎年倍率2倍を超えてくる超人気ゼミだけに、どこまで行っても不安でしょうがない。落ちてしまった場合にどこに行こうということもうっすら考えてはいるけど佐藤ゼミに行くものだという前提で履修も取ったのだ。
 自分達なら大丈夫、面談でやれることはやった。そう言って俺と高木は互いに励まし合いながら、未だ手つかずのゼミ専用エントリーシートにすべてを懸けようとそれを開く。一番困るのは、自由欄。さて、何を書こう。


end.


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ゼミをどうしようか考えているタカ鵠です。タカちゃんが鵠さんを鵠さんて呼ぶようになったきっかけって何だろうなあ
後にヒゲゼミのスーパーエース兼疫病神となるTKGですが、不安要素はやはり成績である。ヒゲさんからも後に「座学が弱すぎる」とダメ出しされるくらいには
何やかんや鵠さんがこの時点で既に保護者の片鱗を見せていたのではないかとうっすら思い始めている

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