2018(03)

■貫く道はひとつだけ

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「学祭前で忙しいところに申し訳ない」
「いや、問題ない。映研としては今回の事態は到底見逃すことは出来ないからな。しっかりと事情は聞いておきたい」

 萩さんから文化会役員室に呼び出された。内装は絨毯張りで、観葉植物が置いてある。俺と山口、それから映研の監崎さんと伏見が集められているようだ。通された先にはふかふかのソファ。さて、と萩さんが話を繰り出す。この面々がここに呼び出されたのは、先にあった事案についてだ。

「繰り返しますが伏見さん、監崎からおつかいを頼まれ放送部の部室……もといミーティングルームに赴いたところ、日高から書類をひったくられそうになり暴行を受けたと」
「はい」

 逐一メモを取りながら萩さんは伏見と監崎さんから事情を聞いている。これも文化会監査としての仕事なのだ。今回のことを一言で言うなら、放送部に書類を届けに来た伏見が、日高から殴打され引っ掻き傷などを作ったという話だ。
 伏見が届けに来たのは部長宛ての書類だ。だが、他所の部活の人間は放送部の部長を部長会に出ている宇部だと思っている。部長宛てということで日高がそれを受取ろうとしたところ、伏見が部長宛てなのでと断ったそうだ。で、それに激高した、と。
 普通に考えれば部長会に出ている人間が部長だと思うし、現に監崎さんも放送部の部長は宇部だと思っておつかいを頼んだそうだ。と言うか、部長が自分だと知られてないのはテメーの日頃の行いじゃねーかと思わざるを得ない。

「そこに通りがかった山口と朝霞が助けてくれた、と」
「はい」
「伏見はそう言っているが、俺はまだ疑っているぞ」
「監督先輩! だから朝霞クンはそんな人じゃないって何度言ったら」
「仮に朝霞君個人が伏見の言うように己の正義を貫く人だとしよう。だけど、放送部の人間である以上部長に忖度してここでの証言を偽る可能性もゼロではない」

 文化会では放送部自体がマークされているとは宇部から聞いていた。上の立場になればなるほど放送部という組織自体を怪しんでいると。監崎さんもこの3年半で放送部の暗部のことを見聞きしているのだろう。放送部の人間だというだけの理由で俺と山口は信用されないのだ。

「確かに俺は放送部の人間です。放送部の体質を知る監崎さんから信用していただけないのも仕方ありません。ですが、この事案の場合伏見は完全に被害者で、悪いのは100%日高だと思っています。俺も山口も、偽りの証言をすることはないとお約束します」
「監崎、俺からも頼む。どうかこの2人のことは信用して欲しい」
「それなら萩、聞くけど。この2人の何がお前にそこまで言わせるんだ」
「この2人は部で立場が悪くなることを恐れず、尚且つ部長からの圧力や妨害などに怯まず活動していることを知っているからだ。理不尽な言いがかりを付けられどんなことをされようとも、愚直にステージの本質ばかりを追い求めている」

 この萩さんの言葉に、わかってくれている人はいるんだなと思った。確かに朝霞班は流刑地なんて呼ばれて扱いが悪い。俺は最近じゃちょっと自信はないけど、山口や源が何か悪いことをしたということは全くない。戸田は前科持ちだからしょうがないにしても。
 朝霞班は部での立場なんかを考えず、ひたすらステージのことだけに目を向けて来た。圧力をかけられても、妨害を受けても、それがどうしたと前に前に突き進んで。部での立ち回りのことばかり考えていていいステージなんか出来っこない。一番大事なのはステージを見てくれる人にどう楽しんでもらうかだ。

「朝霞君たちは、部の上層部とは敵対関係にあると?」
「厳密には違う。日高が一方的に朝霞に私怨を抱いているだけだ」
「ただ、俺の所為で被害が拡大したのには違いありません。伏見が通りかかった俺に助けを求めたときに、日高がこの女はお前の手先かと。俺と関わりを持つと日高から何をされるかわからない。それが今の放送部です」
「あの自称部長は誇大妄想の気があるのか?」
「愚かな男であることは否定しない。現時点で掴んでいる日高並びに日高班の言動を見ても、自己中心的かつ横暴・横柄であると」

 それから、俺と山口はこの件に関して見たことやしたことを率直に証言した。監崎さんもそれを信用してくれたようで、疑って申し訳ないと頭を下げてくれた。だけど、日高相手に起こった事案の場合、疑えることは疑わないと守るべきものは守れない。

「萩、お前はあの自称部長の何をどう掴んでいるんだ」
「両の手では数えられない程の事案をな」
「裕貴さん」
「どうした洋平」
「放送部のステージの枠を一部剥奪したのも、裕貴さんですよね」
「ああ、俺の判断だ。朝霞、一応忠告しておくが、身の回りには気を付けておいた方がいい。日高は夏の妨害が不発に終わったのを根に持っている」
「ありがとうございます」
「監崎、学祭が終わるまでにまた部長宛てに用事があれば、監査の宇部に言ってくれ。宇部が事実上の部長として部を切り盛りしている」

 萩さんはこの件に関する調査書を作成し、改めて日高に事情を聞くという。俺と山口、それから監崎さんと伏見はそれぞれの部活に帰っていく。ここからまた大学祭に向けてスパートを掛けるのだ。


end.


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去年かその前くらいの年度にふしみんが日高から言いがかりを付けられてという話がありました、その話の少し後になります。
今回の洋平ちゃんは置物ですね。証言者サイドは基本的に朝霞Pが代表のような感じでお話してるのかしら
しかし萩さんはお仕事が忙しいようですね。本当はいろいろせなアカンのに余計な仕事を作る放送部であった

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