2018(03)
■praise only a little
++++
大学祭が間近に迫ると、その作業に曜日は関係ない。日曜日だろうとサークル棟は開放されているし、日曜日だろうと作業をしなければ間に合わないのだ。主に必要になるのが、ブースに掲げる看板だ。DJブースと食品ブース用で2枚、それからタイムテーブルに、足元の立て札もある。
如何せんMMPは筆無精が多いと言うか、装飾作業となると全く使えない連中が多い。絵心の有無が問題になってくるのかもしれない。このテの作業は1年の頃から主戦力としてやっていたけど、2年になった頃から独りで黙々とやる物になってましたよね。何故って、誰も出来ないから。
「菜月さん」
「ああ、圭斗か」
ちょうどバイトもなく休みだった圭斗を呼び出していた。1人で作業をするのは苦じゃない。だけど、話し相手くらいはいてもいいだろうと。それに、何かあったときの足としても動いてもらおうと。
「で、僕は何をすればいいのかな」
「待機していてくれ」
「ん、話し相手だね」
「そうとも言う」
言ってしまえば一番絵筆を握らせてはいけないのが圭斗なのだ。1年の時の事故級のやらかしは今でもうちの脳裏にこびり付いている。以来、うちは装飾の責任者として圭斗に筆を握らせたことはないし、本人もそれをそうとして納得している。
「圭斗、明日でいい。黄色の絵の具を買ってきてくれないか」
「黄色だね、わかったよ」
こんなとき、話し相手が会計なのは楽だなと思う。欲しい物を伝えておけば、しっかり買い物をしてくれるからだ。何度でも言うけどこのサークルじゃこの仕事に援軍は期待できない。やれるときにやらないと、終わらないんだ。
待機しているだけではヒマだったのか、圭斗はうちとノサカが打ち出して提出したスープのレシピを見ながら計算を始めた。経費だとか、原価だろうか。その辺の数字の扱いについては敏腕会計サマにお任せだ。
「ところで菜月さん」
「ん?」
「雑記帳を見ていて思ったんだけど、昨日も作業をしていたのかな?」
「どこぞのバカミキサーが1時間半遅れてきたからな。もちろん、それを折り込み済みで金曜のうちに机をズラして帰ったワケだけれども」
「ん、バカミキサーの遅れ方は安定だね」
「で、明日……今日な。明日もやるからって一応言ったら、明日は青女で手伝いがあるなんて言いやがる」
「バカ正直だね」
別に、青女に行くなとは言わない。だけど、その分こっちのことにも気を向けてくれればいいのにとは思う。こっちにの準備にかける労力が少ないのに青女ばかり一生懸命だから納得がいかない。別にいいけど。圭斗がいるし。
食品ブースの背景を赤で塗り潰しながら、圭斗に愚痴を吐き続けた。そうしたら、「菜月さんの塗り広げているその赤が血に見えてきたよ」なんてとんでもないことを言いやがる物だから、手首でも切ってやろうかと思った。言わないし、やらないけど。
考えが大分物騒になってきたところで、いけないラブピラブピと精神を立て直す。それもこれも全部あのバカミキサーが悪いんだ。そうとでも思ってないととても真っ当にはいられなくて、これまで描いた物を全部破ってやろうかという衝動と戦うのに必死だ。
「青女さんの学祭はウチより1週早いし、それが終わればこっちの準備にも目を向けてくれると信じたいけどね」
「どうだか」
「野坂と神崎はヒロに巻き込まれてるような感じらしいし」
「でも、結果的に揚々としっぽ振って下僕を謳歌してるんだろ」
「だね」
「どうせ当日だって下僕勢揃いで青女に行くに決まってるんだ。あーあ、昼放送の収録も別日にすることを検討しないといけないのかな!」
「菜月さん、そう言えばいいんじゃないのかい? 青女ばかり行かずにこっちの準備も手伝ってくれと」
「青女に行くなとはひとつも言ってないぞ。青女に行くのは自由だ。だけど、その前にこっちの準備をするという義務と責任を果たせという話だ」
「確かにね。スープの試作も僕が頼んだこととは言え菜月さんがやってくれたし。僕から一斉送信で全員に伝えることにするよ」
そう言って圭斗は早々にメールを作り始めた。まさか明日のサークルで言うとかじゃなくて今すぐ伝えるとは思わなかったけど、それだけ圭斗も本気なのだろう。下々の民の意見をすぐに掬い上げてもらってちょっと感謝する。
「だけど、装飾に関しては菜月さんが有能すぎるのが僕も含めた無能達が手を出せない原因にもなっていることはお伝えしておきたいね」
「うちの所為だと言いたいのか」
「まあ、半分は。完璧主義なのもあるし」
「いや、今のお前みたくここにいてくれるとか、声をかけてくれるだけでもいいんだぞ。そこまで高度なことはうちも求めないし」
「菜月さんの気持ちを支える仕事だね」
「圭斗」
「何だい?」
「適当でいい。誉めてくれないか」
「お安いご用で」
気持ちをつなぎ止めるための、ちょっとした頼みだった。装飾という仕事はそれこそブースの看板を作る作業なのに、なかなか誉められない。やって当たり前。そうやって3年間やってきた。3年分の積み重ねと、圭斗曰く完璧主義の性質。それらが合わさって限界を迎えようとしていた。
「菜月さん」
「何だ」
「これが終わったら、ラーメンでも食べに行こうか」
「行く」
「それじゃあ、もう少し頑張ろうか」
end.
++++
この時期恒例なのが、菜月さんと圭斗さんの日曜作業ですね。やっぱり菜圭もうまーなんだぞ!
そして毎度お馴染み愉快な下僕達は安定のお出かけであった。しかし、青女って男子禁制だがどこで作業してるんだろう
菜月さんはちょっと物騒な感じなのもうまーよ。ちーちゃんとか美奈に対するきゃっきゃした感じもいいけどね
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大学祭が間近に迫ると、その作業に曜日は関係ない。日曜日だろうとサークル棟は開放されているし、日曜日だろうと作業をしなければ間に合わないのだ。主に必要になるのが、ブースに掲げる看板だ。DJブースと食品ブース用で2枚、それからタイムテーブルに、足元の立て札もある。
如何せんMMPは筆無精が多いと言うか、装飾作業となると全く使えない連中が多い。絵心の有無が問題になってくるのかもしれない。このテの作業は1年の頃から主戦力としてやっていたけど、2年になった頃から独りで黙々とやる物になってましたよね。何故って、誰も出来ないから。
「菜月さん」
「ああ、圭斗か」
ちょうどバイトもなく休みだった圭斗を呼び出していた。1人で作業をするのは苦じゃない。だけど、話し相手くらいはいてもいいだろうと。それに、何かあったときの足としても動いてもらおうと。
「で、僕は何をすればいいのかな」
「待機していてくれ」
「ん、話し相手だね」
「そうとも言う」
言ってしまえば一番絵筆を握らせてはいけないのが圭斗なのだ。1年の時の事故級のやらかしは今でもうちの脳裏にこびり付いている。以来、うちは装飾の責任者として圭斗に筆を握らせたことはないし、本人もそれをそうとして納得している。
「圭斗、明日でいい。黄色の絵の具を買ってきてくれないか」
「黄色だね、わかったよ」
こんなとき、話し相手が会計なのは楽だなと思う。欲しい物を伝えておけば、しっかり買い物をしてくれるからだ。何度でも言うけどこのサークルじゃこの仕事に援軍は期待できない。やれるときにやらないと、終わらないんだ。
待機しているだけではヒマだったのか、圭斗はうちとノサカが打ち出して提出したスープのレシピを見ながら計算を始めた。経費だとか、原価だろうか。その辺の数字の扱いについては敏腕会計サマにお任せだ。
「ところで菜月さん」
「ん?」
「雑記帳を見ていて思ったんだけど、昨日も作業をしていたのかな?」
「どこぞのバカミキサーが1時間半遅れてきたからな。もちろん、それを折り込み済みで金曜のうちに机をズラして帰ったワケだけれども」
「ん、バカミキサーの遅れ方は安定だね」
「で、明日……今日な。明日もやるからって一応言ったら、明日は青女で手伝いがあるなんて言いやがる」
「バカ正直だね」
別に、青女に行くなとは言わない。だけど、その分こっちのことにも気を向けてくれればいいのにとは思う。こっちにの準備にかける労力が少ないのに青女ばかり一生懸命だから納得がいかない。別にいいけど。圭斗がいるし。
食品ブースの背景を赤で塗り潰しながら、圭斗に愚痴を吐き続けた。そうしたら、「菜月さんの塗り広げているその赤が血に見えてきたよ」なんてとんでもないことを言いやがる物だから、手首でも切ってやろうかと思った。言わないし、やらないけど。
考えが大分物騒になってきたところで、いけないラブピラブピと精神を立て直す。それもこれも全部あのバカミキサーが悪いんだ。そうとでも思ってないととても真っ当にはいられなくて、これまで描いた物を全部破ってやろうかという衝動と戦うのに必死だ。
「青女さんの学祭はウチより1週早いし、それが終わればこっちの準備にも目を向けてくれると信じたいけどね」
「どうだか」
「野坂と神崎はヒロに巻き込まれてるような感じらしいし」
「でも、結果的に揚々としっぽ振って下僕を謳歌してるんだろ」
「だね」
「どうせ当日だって下僕勢揃いで青女に行くに決まってるんだ。あーあ、昼放送の収録も別日にすることを検討しないといけないのかな!」
「菜月さん、そう言えばいいんじゃないのかい? 青女ばかり行かずにこっちの準備も手伝ってくれと」
「青女に行くなとはひとつも言ってないぞ。青女に行くのは自由だ。だけど、その前にこっちの準備をするという義務と責任を果たせという話だ」
「確かにね。スープの試作も僕が頼んだこととは言え菜月さんがやってくれたし。僕から一斉送信で全員に伝えることにするよ」
そう言って圭斗は早々にメールを作り始めた。まさか明日のサークルで言うとかじゃなくて今すぐ伝えるとは思わなかったけど、それだけ圭斗も本気なのだろう。下々の民の意見をすぐに掬い上げてもらってちょっと感謝する。
「だけど、装飾に関しては菜月さんが有能すぎるのが僕も含めた無能達が手を出せない原因にもなっていることはお伝えしておきたいね」
「うちの所為だと言いたいのか」
「まあ、半分は。完璧主義なのもあるし」
「いや、今のお前みたくここにいてくれるとか、声をかけてくれるだけでもいいんだぞ。そこまで高度なことはうちも求めないし」
「菜月さんの気持ちを支える仕事だね」
「圭斗」
「何だい?」
「適当でいい。誉めてくれないか」
「お安いご用で」
気持ちをつなぎ止めるための、ちょっとした頼みだった。装飾という仕事はそれこそブースの看板を作る作業なのに、なかなか誉められない。やって当たり前。そうやって3年間やってきた。3年分の積み重ねと、圭斗曰く完璧主義の性質。それらが合わさって限界を迎えようとしていた。
「菜月さん」
「何だ」
「これが終わったら、ラーメンでも食べに行こうか」
「行く」
「それじゃあ、もう少し頑張ろうか」
end.
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この時期恒例なのが、菜月さんと圭斗さんの日曜作業ですね。やっぱり菜圭もうまーなんだぞ!
そして毎度お馴染み愉快な下僕達は安定のお出かけであった。しかし、青女って男子禁制だがどこで作業してるんだろう
菜月さんはちょっと物騒な感じなのもうまーよ。ちーちゃんとか美奈に対するきゃっきゃした感じもいいけどね
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