2018(03)
■圧倒的物量による平和構築の術
++++
「対策委員です」
夏合宿が終わってその活動も一区切りした対策委員は、みんなで集まる頻度もそれまでと比べると格段に落ちていた。まあ、それはみんなそれぞれ大学祭の準備とかで忙しいっていうのもあるんだけど。
それはそうとして、今回の対策委員の議題だ。過去の議事録によれば、夏合宿が終わった後には打ち上げが行われていたそうだ。合宿参加者を対象にした飲み会というヤツが。じゃあ、今年もやりますか。今日はそんな会議だ。
「仮にモニター会にお越しいただいた先輩方に声を掛けたすれば、人数はざっと50人弱ってトコか」
「その規模でやると合宿云々ってよりただのインターフェイスの飲み会だね」
「まあ、それはそれで。とりあえず何か探してみるか」
「そうしましょう」
――と、出て来るのはスマートフォン。全員が思い思いの検索ワードで50人くらいが入れる店を探すのだ。そもそも、50人くらいで宴会が出来る店というだけで件数は絞られる。その中で、予算やなんかと相談をしてあれがいいこれがいいと擦り合わせていく。
「ところでさ、完全に余談なんだけどさ」
「うん」
「こないだ菜月先輩と学祭の食品ブースで出すスープの試作してたんだよ」
「へー、向島はスープなんだね」
「それは別にいいんだけど、菜月先輩が三井先輩に焼肉の一番いい食べ放題コースを飲み放題付きで驕らせたという話を聞いてから俺は無性に焼肉が食べたくて」
「野坂、焼肉にしたら?」
「そんな言ってすぐ食えるようなモンでも」
「そうじゃなくて、打ち上げ。焼肉食べ放題」
果林が貸してくれたスマホには、焼肉食べ放題+飲み放題プランで3500円とある。まあ、これくらいなら飲み会の費用としては妥当なところだろうか。正直俺はかなり肉モードになってしまっている。果林の申し出にはすぐにでもはいと返事をしたい気分ではある。
「はい、議長。今回提案するコースのメリットを紹介します」
「発言を許可します」
「まず、お肉は美味しいです。次、飲み放題メニューもなかなか悪くなさそうです。る~び~はプレミアムモルツ等」
「おっ、モルツいいじゃん果林」
「さすがつばめ、食いついて来た。てかたまには発泡酒じゃなくてちゃんとしたビール飲みたいよね」
「ゴメン、アタシ結構飲んでたわ」
「贅沢者! それから、これが最大の利点なんだけど、食べ放題ということはアタシたちの戦争が起こらず平和的に飲み会が進むということです」
「それだ!」
飲み会は戦場だ。それというのも、四次元だか異次元だかと言われて吸引力の変わらないただひとつの胃袋を持つ果林が場の食糧をとことん食い尽すのだ。果林の歩いた後には葉っぱ1枚、パセリ1本残らない。
そんな事態を許さないのが俺だ。酒豪ゾーン緑ヶ丘は酒があればどうとでもなるけど下戸集団向島はそうはいかない。と言うか食わないと死ぬ。果林に食われる前に食えの精神で目の前の料理を食べるのだ。
いつしかそれが食糧戦争と呼ばれるまでになっていた。俺と果林の戦争によって一般の人々が食いっぱぐれること数知れず。俺も果林もこの件では上の人から死ぬほどお叱りを受けて来ているけど、いざ飲み会の現場に降り立つと、戦争になりますよね。
「確かに、仮にも対策委員主催の打ち上げでその対策委員の議長と委員長が戦争起こしてちゃ面目が立たないよなあ」
「ですよねー。お肉どうこうよりぶっちゃけこれが一番大事じゃない? 食べ物を前にして我慢出来るアタシたちじゃないし」
「それな。あの、みんなから目立った対案や異議申し立てがなければ俺の独断と偏見で焼肉食べ放題にしようと思うんだけど、どうですか」
「早く決めるに越したことはないんじゃない? 大人数だし予約するっていう意味でも」
「なかなかお店の焼肉なんて食べないからね。アタシはいいと思うよ。る~び~にも期待出来そうだし」
男たちは女子がいいならそれでいいんじゃないという軽いスタンスなので、インターフェイス夏合宿全体打ち上げは焼肉食べ放題に決定。焼肉という少し変わったメニューも、議長委員長の顔を思い浮かべていただければ「まあアイツらだもんな」と納得していただけそうだ。
「って言うかさっきの余談。なっち先輩があの人に焼肉奢らせたって?」
「菜月先輩曰くあくまで三井先輩が奢ってくれるというので付き合ってやった、とのことだけど……それでも軽く5000円はするだろうそれをポーンと奢る三井先輩にもその三井先輩を完全に財布としてしか見ていない菜月先輩にも少し引いてしまったというな」
「えっ、アタシも焼肉奢られたい」
「ホントそれ。あー、洋平センパイつついてみるかな」
「って言うかあの人って石油王か何かなの? 普通そんな軽く焼肉なんて奢れなくない?」
「いや、圭斗先輩によればバイト代の半分を菜月先輩に貢いだ月もあったとかなかったとか……基本属性が見栄っ張りだから」
今日決めるべきことは思いがけず早く決まってしまい、各大学で連絡することも早々にまとまってしまったので後は余談か雑談か。しばしのお喋りに移るのだ。ゆったりとした対策委員の空気のまま飲み会に移行するのだ。今回こそ現場を戦場にしてなるものか。
end.
++++
平和とは戦争と戦争の間とかいろいろと言いますが、対策委員の言う戦争の意味も夏に比べると大分軽くなったなと思います
三井サンどうこうの戦争よりも、ノサカ果林の食糧戦争の方が圧倒的に気楽だものね
そして奢り奢られの話になると洋平センパイをつつきに行こうとする安定のつばちゃんであった。
.
++++
「対策委員です」
夏合宿が終わってその活動も一区切りした対策委員は、みんなで集まる頻度もそれまでと比べると格段に落ちていた。まあ、それはみんなそれぞれ大学祭の準備とかで忙しいっていうのもあるんだけど。
それはそうとして、今回の対策委員の議題だ。過去の議事録によれば、夏合宿が終わった後には打ち上げが行われていたそうだ。合宿参加者を対象にした飲み会というヤツが。じゃあ、今年もやりますか。今日はそんな会議だ。
「仮にモニター会にお越しいただいた先輩方に声を掛けたすれば、人数はざっと50人弱ってトコか」
「その規模でやると合宿云々ってよりただのインターフェイスの飲み会だね」
「まあ、それはそれで。とりあえず何か探してみるか」
「そうしましょう」
――と、出て来るのはスマートフォン。全員が思い思いの検索ワードで50人くらいが入れる店を探すのだ。そもそも、50人くらいで宴会が出来る店というだけで件数は絞られる。その中で、予算やなんかと相談をしてあれがいいこれがいいと擦り合わせていく。
「ところでさ、完全に余談なんだけどさ」
「うん」
「こないだ菜月先輩と学祭の食品ブースで出すスープの試作してたんだよ」
「へー、向島はスープなんだね」
「それは別にいいんだけど、菜月先輩が三井先輩に焼肉の一番いい食べ放題コースを飲み放題付きで驕らせたという話を聞いてから俺は無性に焼肉が食べたくて」
「野坂、焼肉にしたら?」
「そんな言ってすぐ食えるようなモンでも」
「そうじゃなくて、打ち上げ。焼肉食べ放題」
果林が貸してくれたスマホには、焼肉食べ放題+飲み放題プランで3500円とある。まあ、これくらいなら飲み会の費用としては妥当なところだろうか。正直俺はかなり肉モードになってしまっている。果林の申し出にはすぐにでもはいと返事をしたい気分ではある。
「はい、議長。今回提案するコースのメリットを紹介します」
「発言を許可します」
「まず、お肉は美味しいです。次、飲み放題メニューもなかなか悪くなさそうです。る~び~はプレミアムモルツ等」
「おっ、モルツいいじゃん果林」
「さすがつばめ、食いついて来た。てかたまには発泡酒じゃなくてちゃんとしたビール飲みたいよね」
「ゴメン、アタシ結構飲んでたわ」
「贅沢者! それから、これが最大の利点なんだけど、食べ放題ということはアタシたちの戦争が起こらず平和的に飲み会が進むということです」
「それだ!」
飲み会は戦場だ。それというのも、四次元だか異次元だかと言われて吸引力の変わらないただひとつの胃袋を持つ果林が場の食糧をとことん食い尽すのだ。果林の歩いた後には葉っぱ1枚、パセリ1本残らない。
そんな事態を許さないのが俺だ。酒豪ゾーン緑ヶ丘は酒があればどうとでもなるけど下戸集団向島はそうはいかない。と言うか食わないと死ぬ。果林に食われる前に食えの精神で目の前の料理を食べるのだ。
いつしかそれが食糧戦争と呼ばれるまでになっていた。俺と果林の戦争によって一般の人々が食いっぱぐれること数知れず。俺も果林もこの件では上の人から死ぬほどお叱りを受けて来ているけど、いざ飲み会の現場に降り立つと、戦争になりますよね。
「確かに、仮にも対策委員主催の打ち上げでその対策委員の議長と委員長が戦争起こしてちゃ面目が立たないよなあ」
「ですよねー。お肉どうこうよりぶっちゃけこれが一番大事じゃない? 食べ物を前にして我慢出来るアタシたちじゃないし」
「それな。あの、みんなから目立った対案や異議申し立てがなければ俺の独断と偏見で焼肉食べ放題にしようと思うんだけど、どうですか」
「早く決めるに越したことはないんじゃない? 大人数だし予約するっていう意味でも」
「なかなかお店の焼肉なんて食べないからね。アタシはいいと思うよ。る~び~にも期待出来そうだし」
男たちは女子がいいならそれでいいんじゃないという軽いスタンスなので、インターフェイス夏合宿全体打ち上げは焼肉食べ放題に決定。焼肉という少し変わったメニューも、議長委員長の顔を思い浮かべていただければ「まあアイツらだもんな」と納得していただけそうだ。
「って言うかさっきの余談。なっち先輩があの人に焼肉奢らせたって?」
「菜月先輩曰くあくまで三井先輩が奢ってくれるというので付き合ってやった、とのことだけど……それでも軽く5000円はするだろうそれをポーンと奢る三井先輩にもその三井先輩を完全に財布としてしか見ていない菜月先輩にも少し引いてしまったというな」
「えっ、アタシも焼肉奢られたい」
「ホントそれ。あー、洋平センパイつついてみるかな」
「って言うかあの人って石油王か何かなの? 普通そんな軽く焼肉なんて奢れなくない?」
「いや、圭斗先輩によればバイト代の半分を菜月先輩に貢いだ月もあったとかなかったとか……基本属性が見栄っ張りだから」
今日決めるべきことは思いがけず早く決まってしまい、各大学で連絡することも早々にまとまってしまったので後は余談か雑談か。しばしのお喋りに移るのだ。ゆったりとした対策委員の空気のまま飲み会に移行するのだ。今回こそ現場を戦場にしてなるものか。
end.
++++
平和とは戦争と戦争の間とかいろいろと言いますが、対策委員の言う戦争の意味も夏に比べると大分軽くなったなと思います
三井サンどうこうの戦争よりも、ノサカ果林の食糧戦争の方が圧倒的に気楽だものね
そして奢り奢られの話になると洋平センパイをつつきに行こうとする安定のつばちゃんであった。
.