2018(03)
■重なり始めた生活
++++
「じゃーん。どう?」
「いいですね、占い師の雰囲気が出てますよ」
「そうでしょ。不思議と落ち着くよねこのローブ」
夏に知り合ったあの子とは、今でも付き合いが続いていた。それどころか、今では俺の家で食事療法の手伝いをしてくれるまでになっていて、何かちょっとずつ仲良くなりつつあった。互いの素性はあまりわかってないままだけど、これはこれで楽しいなって。
今は、俺が学祭の占いの館で着るローブを披露しているところ。自分でも似合ってると思ってたから、さとちゃんにも見て欲しくて。黒のサテン生地で作られた占い師のローブ。フードをかぶれば人相も隠せてそれらしい。こういうの大好きだよね。
「これで、どう占うんですか?」
「水晶玉の下にタブレットを設置して、下にいる黒子が出してくれる画面を水晶玉越しに見ながら俺が話術でそれらしい雰囲気にしていく、的な」
「下にタブレットを仕込むんですね。タブレットの光で水晶玉が光ってるように見せるってことですか?」
「その発想はなかった。それいいね。でも水晶に画面が映り込んだらダメだよね。実際の部屋で検証してみないと」
ローブを着ているのが本当に落ち着くから、しばらくフードをかぶってそのまま。気に入ってるからって着たまんまだと汚しますよと言われれば、仕方なく脱いで。あーあ。代わりにフード付きのポンチョでも買おうかな。
さとちゃんは夕飯を作ってくれながら、俺の話を延々と聞いてくれていた。俺と出会ったことで食事療法のことに興味を持って、大学でもそういうことを中心に学び始めたそうだ。そういうこともあって、俺で実験すればいいんじゃない、と現在に至っている。
簡単で安くて栄養が取れて、というレシピを日頃から考えてくれていて、それを作ってくれている。そのレシピをまとめたファイルがあって、さとちゃんがいない時でも俺が1人で作れるようになっている。入院する前より料理が格段に出来るようになった自覚がある。
「さとちゃんはさ、お菓子づくりが得意でしょ?」
「はい。好きですよ」
「そしたらさ、ハロウィンのお菓子なんかも作るの?」
「いいですね、作りたいです。大学祭も終わってるので余裕がありそうですし。良かったら宏樹さんが食べられる物も作りますね」
「わーい。お菓子をくれなきゃいたずらするぞー」
「ちゃんと作りますよ。待っててくださいね」
「はーい」
ハロウィンと言えば仮装だよね。せっかくだし俺も何かやりたいなあ。でもさとちゃんビックリするの苦手らしいし、かわいい方がいいよね。今の感じだと占い師のローブに近い被り物がいいなあ。とびっきりかわいいヤツで。モッチーに相談してみよう。
「でも、本当に綺麗な水晶玉ですね」
「そうでしょ。ただのガラス玉にしてはこう、引き込まれると言うか。ガラス玉だと思うか水晶だと思うかで意味合いが違って引かれ方も違うんだろうけど」
「月の光に当てたりはするんですか?」
「浄化とか、力を持たせるっていう意味で?」
「はい。パワーストーンとかは、そうやって置いておくって聞いたことがあって」
「一応やるんだけどさ、うちには水晶の台座がなくてみっともない感じだよ。台座は大学に置いたままだから」
「それだったら、作りましょうか? 座布団になっちゃうんですけど」
「え、いいの」
「水晶の座布団くらいだったらすぐにでも出来るので。でも雰囲気を損なわない生地を探す方が大変そうですね」
「あ、生地だったらこれを使って。ローブの残りがあるんだ」
「これだったらいい座布団になりそうですね。少し時間をください。すぐに作りますから」
さとちゃんは裁縫も得意なんだそうだ。気付いたらシャツのボタン付けなんかもやってくれていて、単純に凄いなあって思った。今時いないでしょっていう感じの素朴で家庭的な子。実験台とは言え、親切に甘えすぎているなという思いはちょっと。
「さとちゃん、座布団のお礼がしたいな」
「いいですよ、宏樹さんにはいつも良くしてもらってますし」
「それじゃ俺の気が済まないの。黙ってお礼されてくれないかな」
「わかりました」
「何がいいかな、何でも言って」
「えっと、紅葉を見に行きませんか…? 嵐ヶ丘のもみじまつりに行きたくって」
「そんなのでいいの」
「はい」
「わかった、行こう。車出すし、ドライブも兼ねて」
「嵐ヶ丘のもみじまつりで売り出されるお団子が本当に美味しいそうなんです。お団子だったら宏樹さんも食べられますし、一緒に食べたいなって」
何なのこの子、素でやってる? まあ、そういうので勘違いして思い上がる方じゃないからいいんだけど。だけどそういう善意の積み重ねで勘違いする男もいるからね、気をつけた方がいいよねこの子。俺だから大丈夫なだけで。
「でも、紅葉の前にハロウィンをやらなくちゃ」
「そうですね。レシピ開発頑張りますね! あと、座布団と」
「俺もハロウィンに向けてがんばろーっと」
end.
++++
今年度は長野っち視点が多めな感じで進んでいく長さとのお話。ハロウィンやら大学祭シーズンになるとかぶり物が活発になりますね
そう言えばさとちゃんは夏合宿の頃に小さな座布団をたくさん作ってましたね。何かここに来てまた座布団が出て来てるけど
もしかして今年は長さとで紅葉を見に行こうようツアーをやるような感じですか!?
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「じゃーん。どう?」
「いいですね、占い師の雰囲気が出てますよ」
「そうでしょ。不思議と落ち着くよねこのローブ」
夏に知り合ったあの子とは、今でも付き合いが続いていた。それどころか、今では俺の家で食事療法の手伝いをしてくれるまでになっていて、何かちょっとずつ仲良くなりつつあった。互いの素性はあまりわかってないままだけど、これはこれで楽しいなって。
今は、俺が学祭の占いの館で着るローブを披露しているところ。自分でも似合ってると思ってたから、さとちゃんにも見て欲しくて。黒のサテン生地で作られた占い師のローブ。フードをかぶれば人相も隠せてそれらしい。こういうの大好きだよね。
「これで、どう占うんですか?」
「水晶玉の下にタブレットを設置して、下にいる黒子が出してくれる画面を水晶玉越しに見ながら俺が話術でそれらしい雰囲気にしていく、的な」
「下にタブレットを仕込むんですね。タブレットの光で水晶玉が光ってるように見せるってことですか?」
「その発想はなかった。それいいね。でも水晶に画面が映り込んだらダメだよね。実際の部屋で検証してみないと」
ローブを着ているのが本当に落ち着くから、しばらくフードをかぶってそのまま。気に入ってるからって着たまんまだと汚しますよと言われれば、仕方なく脱いで。あーあ。代わりにフード付きのポンチョでも買おうかな。
さとちゃんは夕飯を作ってくれながら、俺の話を延々と聞いてくれていた。俺と出会ったことで食事療法のことに興味を持って、大学でもそういうことを中心に学び始めたそうだ。そういうこともあって、俺で実験すればいいんじゃない、と現在に至っている。
簡単で安くて栄養が取れて、というレシピを日頃から考えてくれていて、それを作ってくれている。そのレシピをまとめたファイルがあって、さとちゃんがいない時でも俺が1人で作れるようになっている。入院する前より料理が格段に出来るようになった自覚がある。
「さとちゃんはさ、お菓子づくりが得意でしょ?」
「はい。好きですよ」
「そしたらさ、ハロウィンのお菓子なんかも作るの?」
「いいですね、作りたいです。大学祭も終わってるので余裕がありそうですし。良かったら宏樹さんが食べられる物も作りますね」
「わーい。お菓子をくれなきゃいたずらするぞー」
「ちゃんと作りますよ。待っててくださいね」
「はーい」
ハロウィンと言えば仮装だよね。せっかくだし俺も何かやりたいなあ。でもさとちゃんビックリするの苦手らしいし、かわいい方がいいよね。今の感じだと占い師のローブに近い被り物がいいなあ。とびっきりかわいいヤツで。モッチーに相談してみよう。
「でも、本当に綺麗な水晶玉ですね」
「そうでしょ。ただのガラス玉にしてはこう、引き込まれると言うか。ガラス玉だと思うか水晶だと思うかで意味合いが違って引かれ方も違うんだろうけど」
「月の光に当てたりはするんですか?」
「浄化とか、力を持たせるっていう意味で?」
「はい。パワーストーンとかは、そうやって置いておくって聞いたことがあって」
「一応やるんだけどさ、うちには水晶の台座がなくてみっともない感じだよ。台座は大学に置いたままだから」
「それだったら、作りましょうか? 座布団になっちゃうんですけど」
「え、いいの」
「水晶の座布団くらいだったらすぐにでも出来るので。でも雰囲気を損なわない生地を探す方が大変そうですね」
「あ、生地だったらこれを使って。ローブの残りがあるんだ」
「これだったらいい座布団になりそうですね。少し時間をください。すぐに作りますから」
さとちゃんは裁縫も得意なんだそうだ。気付いたらシャツのボタン付けなんかもやってくれていて、単純に凄いなあって思った。今時いないでしょっていう感じの素朴で家庭的な子。実験台とは言え、親切に甘えすぎているなという思いはちょっと。
「さとちゃん、座布団のお礼がしたいな」
「いいですよ、宏樹さんにはいつも良くしてもらってますし」
「それじゃ俺の気が済まないの。黙ってお礼されてくれないかな」
「わかりました」
「何がいいかな、何でも言って」
「えっと、紅葉を見に行きませんか…? 嵐ヶ丘のもみじまつりに行きたくって」
「そんなのでいいの」
「はい」
「わかった、行こう。車出すし、ドライブも兼ねて」
「嵐ヶ丘のもみじまつりで売り出されるお団子が本当に美味しいそうなんです。お団子だったら宏樹さんも食べられますし、一緒に食べたいなって」
何なのこの子、素でやってる? まあ、そういうので勘違いして思い上がる方じゃないからいいんだけど。だけどそういう善意の積み重ねで勘違いする男もいるからね、気をつけた方がいいよねこの子。俺だから大丈夫なだけで。
「でも、紅葉の前にハロウィンをやらなくちゃ」
「そうですね。レシピ開発頑張りますね! あと、座布団と」
「俺もハロウィンに向けてがんばろーっと」
end.
++++
今年度は長野っち視点が多めな感じで進んでいく長さとのお話。ハロウィンやら大学祭シーズンになるとかぶり物が活発になりますね
そう言えばさとちゃんは夏合宿の頃に小さな座布団をたくさん作ってましたね。何かここに来てまた座布団が出て来てるけど
もしかして今年は長さとで紅葉を見に行こうようツアーをやるような感じですか!?
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