2018(03)
■それがどうした
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班長会議から帰ってきた朝霞クンは、難しい顔をしていた。現在星ヶ丘大学放送部では、大学祭に向けたステージの準備をしている。各班に割り当てられた枠の中でやるステージを作り上げて行かなくてはいけない。
学祭でステージをやるということは最初からわかっていること。俺たち流刑地からすれば枠がもらえるのかという心配もちょっとあったけど、それも無事にクリア。学祭に向けて本格的に動き出した9月から朝霞クンはずっと台本を書いていた。
それがどう。ステージの準備をしてる朝霞クンの顔が険しいのはいつもだけど、いつもと悩み方が少し違う。暫定的な台本を引っ張り出してきて、ペンを片手にそれを読み返している。
台本の修正はいつものこと。何なら3日前に全部変わるとかも全然ある。だけど、そういう感じではない。台本とは別に白い紙を取り出して、ザカザカと引いていくのはタイムテーブルかな?
「朝霞クン、ど~したの?」
「枠が10分短くなった。何をどう削ろうか考えてる」
「えっ、短くなるって、ど~して?」
「ウチが流刑地だからとかそういうアレっしょどーせ。幹部のやることじゃねーか。その所為で予算だって少ないし」
「いや、ウチがどうとかじゃない。班長会議で宇部が言うことによれば、文化会からの通達で放送部全体に割り当てられてるステージの枠が削られたそうだ」
「へー、お上が言ってきたのか」
「どうして文化会が?」
「あまり大きな声では言えないが、部自体が文化会から目を付けられているそうだ。部長の素行が余りに悪すぎると。文化会は日高のやってることをある程度掴んでいて、再三の呼び出しにも応じなかったという理由で枠を、こう」
「あのクソの所為かよ。いつだってそうだ、あのクソに迷惑かけられんのは一般の部員じゃねーか」
「こないだの件でも裕貴さん、相当怒ってたっぽかったもんね~」
こないだ、秋学期もよろしくという挨拶も兼ねた文化会の抜き打ち査察があった。放送部にも当然入ってきてて。文化会監査の裕貴さんは放送部のOBということもあって、部屋の入り口での立ち話は少し弾んでいた。
だけど、日高が開いたドアに寄りかかっていたために俺たち朝霞班はブースに閉じこめられ、部に無きものとして扱われたんだ。で、朝霞クンがドアの上から顔を出して裕貴さんに朝霞班の実状を訴えた。俺たちはこういう扱いを受けてるんだって。
朝霞クンの行動に当然日高は激高。だけど裕貴さんもその他に掴んでいた日高の悪行に確信を持ったようで、文化会室に呼び出したんだって。その呼び出しを無視し続けた結果、部全体にペナルティが課されたと。
「まあ、まだ削られたのが最小の10分でよかった。20分削られた班もあるからな」
「さすが宇部P、削り方をわかってる~」
「つかさ、悪いのって日高なんだから日高班の枠を剥奪して他の班に補填すりゃ済む話じゃんな」
「つばちゃん、それはあまり現実的じゃないでしょでしょ」
「ウチは枠の上乗せも大歓迎だが、それが出来ない班もある。枠の増減はあまりない方がPとしては嬉しいだろう。まあ、俺は大歓迎だけど」
ステージの枠の剥奪というのは、その活動を主とする放送部ではかなり大きな処分だと思う。よほどのやらかしがないと、そこまではそうそういかないんじゃないかなって。それでなくても放送部は日高の職権濫用が横行しているのだから、日高班への処分というのは非現実的だ。
10分削ることによって生じる影響を考えながら、朝霞クンは再び台本執筆作業に戻っていった。俺は天地がひっくり返っても変わることはないであろう部分をPに確認して、その部分を詰めていく。つばちゃんとゲンゴローも、必要な物を用意する手を緩めない。
「山口」
「はいは~い。何でしょ」
「ちょっと、目線くれ」
「はいど~ぞ」
「……はい、オッケー」
台本を詰めるときにたまにあるのが、朝霞クンに顔を見せること。見せるというのは、見つめ合うというのに近いかもしれない。台本の軸は朝霞クンの妄想とか想像によって組み立てられるんだけど、最終的にそれをステージ上でやるのは俺。
朝霞クン曰く、書いている段階で俺のイメージをある程度本の中に入れておきたいとのこと。だから、朝霞クンの中に俺をインプットするための、顔。リアルの俺を目から取り込んでアップデートすると、朝霞クンの中にいる俺が新たに動き出すんだそうだ。本当に、デバイスとしての役割を謳歌してるなって。
「つばめ先輩すみません、ちょっと資材のことで相談が」
「わかった。朝霞サン、ゲンゴローと買い出し行ってくるから」
「ああ。気をつけろよ」
「はーい。行ってきまーす」
さて、他に出来ることのないアナウンサーのやることだ。邪魔をしない程度に朝霞クンを見守ることに尽きるんだろうけど。
「朝霞クン、俺ちょっと飲み物買ってくるけど朝霞クンも何か要る?」
「レッドブル。後払いで」
「うん、知ってた~。それじゃ、行ってきま~す」
泣いても笑っても俺たちには最後のステージだから。大人の事情に振り回されたって、やるべきことを全力でやるだけだよネ。
end.
++++
ここのところ緑ヶ丘が気持ち多いような感じでしたが、当然星ヶ丘も大学祭に向けて動いています
どうやら今年は文化会による放送部へのペナルティのような物も課されている様子。これは萩さんの仕事ですね、間違いない
って言うか洋朝は何なの、って言うか朝霞Pは何なの、洋平ちゃんの顔を見て自分の中のイメージをアプデするとか これはアンドロイド
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班長会議から帰ってきた朝霞クンは、難しい顔をしていた。現在星ヶ丘大学放送部では、大学祭に向けたステージの準備をしている。各班に割り当てられた枠の中でやるステージを作り上げて行かなくてはいけない。
学祭でステージをやるということは最初からわかっていること。俺たち流刑地からすれば枠がもらえるのかという心配もちょっとあったけど、それも無事にクリア。学祭に向けて本格的に動き出した9月から朝霞クンはずっと台本を書いていた。
それがどう。ステージの準備をしてる朝霞クンの顔が険しいのはいつもだけど、いつもと悩み方が少し違う。暫定的な台本を引っ張り出してきて、ペンを片手にそれを読み返している。
台本の修正はいつものこと。何なら3日前に全部変わるとかも全然ある。だけど、そういう感じではない。台本とは別に白い紙を取り出して、ザカザカと引いていくのはタイムテーブルかな?
「朝霞クン、ど~したの?」
「枠が10分短くなった。何をどう削ろうか考えてる」
「えっ、短くなるって、ど~して?」
「ウチが流刑地だからとかそういうアレっしょどーせ。幹部のやることじゃねーか。その所為で予算だって少ないし」
「いや、ウチがどうとかじゃない。班長会議で宇部が言うことによれば、文化会からの通達で放送部全体に割り当てられてるステージの枠が削られたそうだ」
「へー、お上が言ってきたのか」
「どうして文化会が?」
「あまり大きな声では言えないが、部自体が文化会から目を付けられているそうだ。部長の素行が余りに悪すぎると。文化会は日高のやってることをある程度掴んでいて、再三の呼び出しにも応じなかったという理由で枠を、こう」
「あのクソの所為かよ。いつだってそうだ、あのクソに迷惑かけられんのは一般の部員じゃねーか」
「こないだの件でも裕貴さん、相当怒ってたっぽかったもんね~」
こないだ、秋学期もよろしくという挨拶も兼ねた文化会の抜き打ち査察があった。放送部にも当然入ってきてて。文化会監査の裕貴さんは放送部のOBということもあって、部屋の入り口での立ち話は少し弾んでいた。
だけど、日高が開いたドアに寄りかかっていたために俺たち朝霞班はブースに閉じこめられ、部に無きものとして扱われたんだ。で、朝霞クンがドアの上から顔を出して裕貴さんに朝霞班の実状を訴えた。俺たちはこういう扱いを受けてるんだって。
朝霞クンの行動に当然日高は激高。だけど裕貴さんもその他に掴んでいた日高の悪行に確信を持ったようで、文化会室に呼び出したんだって。その呼び出しを無視し続けた結果、部全体にペナルティが課されたと。
「まあ、まだ削られたのが最小の10分でよかった。20分削られた班もあるからな」
「さすが宇部P、削り方をわかってる~」
「つかさ、悪いのって日高なんだから日高班の枠を剥奪して他の班に補填すりゃ済む話じゃんな」
「つばちゃん、それはあまり現実的じゃないでしょでしょ」
「ウチは枠の上乗せも大歓迎だが、それが出来ない班もある。枠の増減はあまりない方がPとしては嬉しいだろう。まあ、俺は大歓迎だけど」
ステージの枠の剥奪というのは、その活動を主とする放送部ではかなり大きな処分だと思う。よほどのやらかしがないと、そこまではそうそういかないんじゃないかなって。それでなくても放送部は日高の職権濫用が横行しているのだから、日高班への処分というのは非現実的だ。
10分削ることによって生じる影響を考えながら、朝霞クンは再び台本執筆作業に戻っていった。俺は天地がひっくり返っても変わることはないであろう部分をPに確認して、その部分を詰めていく。つばちゃんとゲンゴローも、必要な物を用意する手を緩めない。
「山口」
「はいは~い。何でしょ」
「ちょっと、目線くれ」
「はいど~ぞ」
「……はい、オッケー」
台本を詰めるときにたまにあるのが、朝霞クンに顔を見せること。見せるというのは、見つめ合うというのに近いかもしれない。台本の軸は朝霞クンの妄想とか想像によって組み立てられるんだけど、最終的にそれをステージ上でやるのは俺。
朝霞クン曰く、書いている段階で俺のイメージをある程度本の中に入れておきたいとのこと。だから、朝霞クンの中に俺をインプットするための、顔。リアルの俺を目から取り込んでアップデートすると、朝霞クンの中にいる俺が新たに動き出すんだそうだ。本当に、デバイスとしての役割を謳歌してるなって。
「つばめ先輩すみません、ちょっと資材のことで相談が」
「わかった。朝霞サン、ゲンゴローと買い出し行ってくるから」
「ああ。気をつけろよ」
「はーい。行ってきまーす」
さて、他に出来ることのないアナウンサーのやることだ。邪魔をしない程度に朝霞クンを見守ることに尽きるんだろうけど。
「朝霞クン、俺ちょっと飲み物買ってくるけど朝霞クンも何か要る?」
「レッドブル。後払いで」
「うん、知ってた~。それじゃ、行ってきま~す」
泣いても笑っても俺たちには最後のステージだから。大人の事情に振り回されたって、やるべきことを全力でやるだけだよネ。
end.
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ここのところ緑ヶ丘が気持ち多いような感じでしたが、当然星ヶ丘も大学祭に向けて動いています
どうやら今年は文化会による放送部へのペナルティのような物も課されている様子。これは萩さんの仕事ですね、間違いない
って言うか洋朝は何なの、って言うか朝霞Pは何なの、洋平ちゃんの顔を見て自分の中のイメージをアプデするとか これはアンドロイド
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