2018(03)

■季節の味覚の最高峰

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 オレンジ色をしたモンブランをお皿に乗せて、それを入れて来た箱を大切に大切に冷蔵庫の中へしまい込む。高崎クンから教えてもらった路地裏カフェでは、季節のケーキを売り出し始めていた。パンプキンパイとカボチャのモンブランを買って、今から食べるのはモンブランの方。
 高崎クンは緑大周辺のカフェというカフェは大体廻っていて、どこの何が美味しいなどとよく教えてくれる。高崎クンの方向感覚って本当に凄い。一度走った道なら大体覚えちゃうんだから。うちは簡単な地図なら描けるけど、道を覚えるには何回かかかるな。

「んん~っ、美味し~!」

 ハロウィンシーズン限定のカボチャ味が本当に美味しい。うちはカボチャが好きだけど、カズはカボチャが苦手だから食卓に上がることは少ない。それでもたまにうちが好きだからっていう理由で煮てくれたりするけど。
 だから今日のケーキはうちが1人で楽しむためのもの。いつもなら大体カズのも買って帰るんだけど、食べた事実自体を無くしちゃえばという考え。うちだけ美味しくケーキをいただくのも少し心苦しい。でも、美味しい物は美味しいから仕方ない。

「慧梨夏、いるんだろ。ちょっと、ジャガイモが手に入ったから置きに来たんだけど」
「ん」

 あ、バレた。ジャガイモを持って来たカズとバッチリ目が合う。うーん、今日は来ないと思ってたから完全にやっちゃいましたね。フォークを銜えたまま、目をぱちくりとあからさまに動かしてみる。

「ケーキ食ってたのか」
「えっと、某所路地裏カフェのカボチャのモンブランが美味しいって高崎クンから教えてもらって、はい」
「あー、高ピー情報ならガチなヤツだな。美味いか?」
「うん、美味しい。あの、ゴメンね? 今回カズの買って来てなくって」
「いいよ、元々今日は来る予定じゃなかったし。紅茶だけ飲むし」

 そう言ってカズは台所でお茶の準備を始めた。紅茶に入れる砂糖はスティック半分。多分うちが使った残りを使ってくれてるはず。2人で飲むとちょうど1本使う計算なんだよね。意外に思われるけど、紅茶は甘すぎない派です。
 マグカップを手にカズが戻って来て、うちの真ん前に陣取る。最近じゃ秋=ハロウィンみたいになっててお菓子でも何でもカボチャ推しなのがしんどいわ、なんて言いながらケーキを頬張るうちの顔を眺めてる。
 何度も言うけどうちはカボチャが好きだし、このカボチャのモンブランは本当に美味しいと思う。だから自然と顔も綻んで、幸せを感じる。きっとカズには理解出来ないんだろうけど、そういうのはしょうがないよね。好き嫌いは個人差のあることだから。

「まあでも、もし俺がカボチャ食えてたら、今頃バカの一つ覚えみたいにカボチャのお菓子ばっかり作ってたと思うんだよ」
「あ、わかる。でも、カズの作ったお菓子も食べたかったな」
「俺が食えないから味見しにくいのがなー」
「味見ならいくらでも担当するのに」
「作っても結果食えないじゃんな俺が」
「ですよねー。って言うかホントにゴメンね、嫌いな物目の前でおいしそうに食べてて」
「それは全然問題ねーよ。俺だって普通にナスの天ぷらとか麻婆ナスとか食ってるじゃんか」
「まあね」
「好き嫌いなんか今更じゃんな」

 確かにそれは今更なんだよね。うちはナスが苦手なんだけど、カズのためだけの天ぷらとか麻婆ナスとか確かに出て来てた。その辺は趣味と同じかもしれない。互いのそれを理解することは出来ないけれど、押し付けることもなく、否定するでもなく。

「うーん、俺も季節のお菓子でも作ってみるかな。スイートポテトとか芋パンとか」
「食べたい!」
「ケーキも出来るかな。おからパウダーと合わせれば普通のお菓子よりも体のことは気遣えると思う」
「今おからもおからパウダーも手に入らないみたいよ。アヤちゃんが悲鳴上げてた、朝ごはんが作れないって」
「大丈夫だ、そんなこともあろうかと買い込んである。お菓子作りにも有用とあれば買い込まない理由はない」
「さすがカズ」
「あ、もしアヤさんが本当に困ってるようだったら少し分けるけどどうするって聞いてみて」
「わかったよ」

 アヤちゃんに送るメッセージを作りながら、うちはカズが提案してくれる季節のお菓子のラインナップにあれが食べたい、これは食べ過ぎちゃいそうなどと口を挟む。
 好き嫌いを熟知して苦手な物に対する配慮もいいけど、どうせなら互いの好きを一緒に楽しみたい。それに、一緒に歳を重ねていくうちに好き嫌いも変わるかもしれない。うちはナスを克服するかもしれないし、カボチャが食べられなくなる可能性もある。

「カズ、アヤちゃんからレスが来た。実にシンプル。「定価で買います」って」
「じゃ、アヤさんの分今度持ってくるし渡しといて」
「了解です」
「ところで慧梨夏」
「なに?」
「サツマイモは俺が買った鍋たちとの相性もめっちゃいいんだよ。手始めにさつまいもプリンなんてどうだろう」
「食べたい!」
「明日作ってみるかー」
「やったー!」

 ダメだ、これはカズが何とかの一つ覚えみたいに美味しい物ばかり作ってくれちゃって、うちが丸々となっちゃうヤツ!


end.


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いちえりちゃんです。慧梨夏がモンブランをうまうましてるだけの話がやりたかったのでこんな感じに。
高崎はカフェ巡りをしてるみたいな話は遠い昔のイシカー兄さん&ユノ先輩の話でチラリと語られていました。
そしてカナコのおからパウダー。しかし今は手に入らないみたいですね! 通販で買おうとするとすっごい高騰してるみたいだぜ!

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