2018(03)
■ナンバーツーの職権
++++
「――というワケで、これがコーナーの進行表。また細かい打ち合わせは後日ってことで」
「練習とかもあるんだろ」
「一応練習は2~3回見てる」
「わかった。日程が決まったら連絡してくれ。じゃ、俺は次行かなきゃなんねえから先出るわ」
「かーっ、さすが天下の高崎サマはご多忙なようで」
「あ? 大祭実行のナンバーツーが何言ってやがんだ」
今日は大祭実行さんとMBCCの間で打ち合わせが行われていた。経緯は話せば長くなるけど、大祭実行はMBCCにブースの場所と安定した電源を保障する代わりに、MBCCは大祭実行のステージイベントを手伝うという取り決めがあるのだ。
大祭実行のナンバーツー・飯野君と高ピーは同ゼミの友達らしくて、話し合い自体はあれよあれよと言う間に進んで行った。MBCCに不利になりそうになったらすかさず高ピーが「レポート」とか「出席」とかっていう単語を使って脅すもんなあ……さすがだぜ!
高ピーが次の用事のために退室すれば、ようやく俺と飯野君の間で直接会話が始まるとか、そんなレベル。まあ、友達が間にいたらそうなるよね。そしてペコリとぎこちなく会釈をする。改めましてMBCC機材部長の伊東ですと。
「伊東クン聞いてたっすよね。高崎とかいう鬼畜にレポートだのなんだのを餌に奢らされまくってんすよ俺」
「まあでも、高ピーは出せば出すだけ働いてくれますよね」
「だから余計憎たらしい」
さて、俺にはここでひとつ飯野君に確認しておかなくてはならないことがあった。大祭実行のナンバーツーということは、この大学祭に関係することにはある程度精通しているはずだ。あわよくば、何らかの力を借りられないかとすら思っている。
だけど俺は高ピーみたく「MBCCのために」とは淀みなく言えない。完全に自分の私利私欲……とはちょっと違うな。仕返しとか、復讐というのがこの場合正しいのかもしれない。学内を歩いていてふと目に入った看板について聞こう聞こうと思っていたんだ。
「飯野君、ちょっと内密に相談があるんですけど」
「えっと、MBCCのブース絡みで?」
「あっ、そういうんじゃないです。MBCCとはあんま関係ないんですけど、ちょっと。大祭実行ナンバーツーの飯野君にぜひ聞いて欲しくて」
「聞くだけ聞きますよ。どうしたんすか」
「看板見ました、ミスター緑大コンテストの。土曜日にやるヤツ」
「おー! マジすか! あれは女装ミスコンに並ぶ今回の学祭の目玉企画で――って、伊東クン出るんすか?」
「あームリムリ」
「えー、伊東クンイケメンじゃないっすか」
「えっと、エントリーは、俺じゃなくて高ピーの名義でやれないかって」
完全に私怨ですよね! 機材欲しさに俺のことを女装ミスコンに売ったと真正面から言われて、あまりの淀みなさに俺もついうっかりやりますって返事しちまったけどさ! でもさ、後から考えたらやっぱ俺だけ体張るのって違くね? ……的な!
「かくかくしかじかな事情でこんなことになってまして」
「それで仕返しに高崎をミスターコンに秘密裏に出すってワケすか」
「そういうことですね、はい。話が早くて助かります」
「ここだけの話、ミスターコンのエントリー締め切りが今日の正午だったんすよ」
「うわー、マジか! 今が4時過ぎだから……あ~もうちょっと早かったら!」
エントリー締め切りの概念はなかったぁー! そっか、そりゃそうだよな。大祭実行さんも忙しいもんな。スケジュールだって1分1秒単位で管理してるだろうし。マジでもっと早く気付いてりゃよかったぜちきしょい!
「伊東ク~ン、俺を誰だと思ってんすか。大祭実行ナンバーツーっすよ?」
そう言って飯野君は俺に名刺を差し出す。受け取ったそれにはつらつらと長い役職名が記されていた。“緑ヶ丘大学大学祭実行委員会副実行委員長兼運営局長”という長い役職名が。これに振るルビが「ナンバーツー」だ。
余談だけど俺も“向島インターフェイス放送委員会委員長兼機材管理担当兼会計”と、長い役職名になってしまっている。こちらもルビは「ナンバーツー」。最初は委員長だけだったはずなのになー、おかしいなー。いつの間にか機材管理と会計まで圧し掛かってましたよね!
「そんな面白い話、捻じ込まないワケないっすよね!」
「マジすか!」
「あと、マジな話をするとあんま映えるエントリーがなかったんで高崎クラスの奴を捻じ込めると助かると言うか。何だかんだ男前じゃないすかアイツ」
「イベントの企画運営側としての目線ですね」
「そうっすね。女装ミスコンが絶対盛り上がるじゃないすか。なのにミスターコンがコケたら面白くないっすし」
「ですねえ。ちなみに賞品って」
「優勝賞品が焼肉店の商品券、2位が缶ビール2ダースなんで、一応アイツを釣れそうな感じではあるんすよ」
「あ、うん。好きなヤツだねこれ」
「あっ、適当な紙に参加者の氏名、学部、学年やらの必要事項を記入してもらって――」
本来は身長やら体重、趣味やらまで書く欄があるそうだけど、相手が高ピーだけに飯野君が大体わかっているそうだ。俺で埋められない欄はそっちで処理してもらうことに。何はともあれこれでエントリーが出来た。権力の使い方というヤツですよね。
「ちょっと、MBCCの機材部長さんと連絡を取り合うという意味合いでラインとか」
「そうですねー、俺も高ピー経由じゃなくて自分で大祭実行さんとやり取り出来た方がいいですもんねー」
「別に高崎がラインやってないから漏洩はないよなーとか思ってないですしー」
「ですよねー」
end.
++++
いち氏の逆襲が始まったぞ! どうやら自分を売った高崎にちょっと仕返しがしたかったようで、ミスターコンテストに高崎名義でエントリーしたようです。
何気にいち氏と飯野ってナンバーツー同士でしたね。そんでもって高崎の他には朝霞Pがいましたね、共通の友人は。本人たちは知らんけど。
今回は飯野の職権濫用が激しかったワケですが、日頃職権濫用が激しいキャラなのがインターフェイスのナンバーツーであるいち氏でした
.
++++
「――というワケで、これがコーナーの進行表。また細かい打ち合わせは後日ってことで」
「練習とかもあるんだろ」
「一応練習は2~3回見てる」
「わかった。日程が決まったら連絡してくれ。じゃ、俺は次行かなきゃなんねえから先出るわ」
「かーっ、さすが天下の高崎サマはご多忙なようで」
「あ? 大祭実行のナンバーツーが何言ってやがんだ」
今日は大祭実行さんとMBCCの間で打ち合わせが行われていた。経緯は話せば長くなるけど、大祭実行はMBCCにブースの場所と安定した電源を保障する代わりに、MBCCは大祭実行のステージイベントを手伝うという取り決めがあるのだ。
大祭実行のナンバーツー・飯野君と高ピーは同ゼミの友達らしくて、話し合い自体はあれよあれよと言う間に進んで行った。MBCCに不利になりそうになったらすかさず高ピーが「レポート」とか「出席」とかっていう単語を使って脅すもんなあ……さすがだぜ!
高ピーが次の用事のために退室すれば、ようやく俺と飯野君の間で直接会話が始まるとか、そんなレベル。まあ、友達が間にいたらそうなるよね。そしてペコリとぎこちなく会釈をする。改めましてMBCC機材部長の伊東ですと。
「伊東クン聞いてたっすよね。高崎とかいう鬼畜にレポートだのなんだのを餌に奢らされまくってんすよ俺」
「まあでも、高ピーは出せば出すだけ働いてくれますよね」
「だから余計憎たらしい」
さて、俺にはここでひとつ飯野君に確認しておかなくてはならないことがあった。大祭実行のナンバーツーということは、この大学祭に関係することにはある程度精通しているはずだ。あわよくば、何らかの力を借りられないかとすら思っている。
だけど俺は高ピーみたく「MBCCのために」とは淀みなく言えない。完全に自分の私利私欲……とはちょっと違うな。仕返しとか、復讐というのがこの場合正しいのかもしれない。学内を歩いていてふと目に入った看板について聞こう聞こうと思っていたんだ。
「飯野君、ちょっと内密に相談があるんですけど」
「えっと、MBCCのブース絡みで?」
「あっ、そういうんじゃないです。MBCCとはあんま関係ないんですけど、ちょっと。大祭実行ナンバーツーの飯野君にぜひ聞いて欲しくて」
「聞くだけ聞きますよ。どうしたんすか」
「看板見ました、ミスター緑大コンテストの。土曜日にやるヤツ」
「おー! マジすか! あれは女装ミスコンに並ぶ今回の学祭の目玉企画で――って、伊東クン出るんすか?」
「あームリムリ」
「えー、伊東クンイケメンじゃないっすか」
「えっと、エントリーは、俺じゃなくて高ピーの名義でやれないかって」
完全に私怨ですよね! 機材欲しさに俺のことを女装ミスコンに売ったと真正面から言われて、あまりの淀みなさに俺もついうっかりやりますって返事しちまったけどさ! でもさ、後から考えたらやっぱ俺だけ体張るのって違くね? ……的な!
「かくかくしかじかな事情でこんなことになってまして」
「それで仕返しに高崎をミスターコンに秘密裏に出すってワケすか」
「そういうことですね、はい。話が早くて助かります」
「ここだけの話、ミスターコンのエントリー締め切りが今日の正午だったんすよ」
「うわー、マジか! 今が4時過ぎだから……あ~もうちょっと早かったら!」
エントリー締め切りの概念はなかったぁー! そっか、そりゃそうだよな。大祭実行さんも忙しいもんな。スケジュールだって1分1秒単位で管理してるだろうし。マジでもっと早く気付いてりゃよかったぜちきしょい!
「伊東ク~ン、俺を誰だと思ってんすか。大祭実行ナンバーツーっすよ?」
そう言って飯野君は俺に名刺を差し出す。受け取ったそれにはつらつらと長い役職名が記されていた。“緑ヶ丘大学大学祭実行委員会副実行委員長兼運営局長”という長い役職名が。これに振るルビが「ナンバーツー」だ。
余談だけど俺も“向島インターフェイス放送委員会委員長兼機材管理担当兼会計”と、長い役職名になってしまっている。こちらもルビは「ナンバーツー」。最初は委員長だけだったはずなのになー、おかしいなー。いつの間にか機材管理と会計まで圧し掛かってましたよね!
「そんな面白い話、捻じ込まないワケないっすよね!」
「マジすか!」
「あと、マジな話をするとあんま映えるエントリーがなかったんで高崎クラスの奴を捻じ込めると助かると言うか。何だかんだ男前じゃないすかアイツ」
「イベントの企画運営側としての目線ですね」
「そうっすね。女装ミスコンが絶対盛り上がるじゃないすか。なのにミスターコンがコケたら面白くないっすし」
「ですねえ。ちなみに賞品って」
「優勝賞品が焼肉店の商品券、2位が缶ビール2ダースなんで、一応アイツを釣れそうな感じではあるんすよ」
「あ、うん。好きなヤツだねこれ」
「あっ、適当な紙に参加者の氏名、学部、学年やらの必要事項を記入してもらって――」
本来は身長やら体重、趣味やらまで書く欄があるそうだけど、相手が高ピーだけに飯野君が大体わかっているそうだ。俺で埋められない欄はそっちで処理してもらうことに。何はともあれこれでエントリーが出来た。権力の使い方というヤツですよね。
「ちょっと、MBCCの機材部長さんと連絡を取り合うという意味合いでラインとか」
「そうですねー、俺も高ピー経由じゃなくて自分で大祭実行さんとやり取り出来た方がいいですもんねー」
「別に高崎がラインやってないから漏洩はないよなーとか思ってないですしー」
「ですよねー」
end.
++++
いち氏の逆襲が始まったぞ! どうやら自分を売った高崎にちょっと仕返しがしたかったようで、ミスターコンテストに高崎名義でエントリーしたようです。
何気にいち氏と飯野ってナンバーツー同士でしたね。そんでもって高崎の他には朝霞Pがいましたね、共通の友人は。本人たちは知らんけど。
今回は飯野の職権濫用が激しかったワケですが、日頃職権濫用が激しいキャラなのがインターフェイスのナンバーツーであるいち氏でした
.