2018(03)
■mutual produce
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10月第1土曜日、今期もまた今まで通りの土曜日を迎えることになり、俺は死ぬ気で暗黙の待ち合わせ時間である午後2時目掛けてサークル室へと向かった。何せ昼放送の初回収録日。初回から粗相があってはならない。
ペアの相手は3期連続で菜月先輩に決まった。MMPの人数の少なさと履修の都合でそんな形になっている。俺としては非常に嬉しいので何期でも……とはいかないのだ。泣いても笑っても、3年生の先輩がいらっしゃるのはこの秋学期まで。番組が出来るのもあと11回。
「菜月先輩、おはようございます」
「うわ、奇跡か」
「今期もどうぞよろしくお願いします」
午後2時ちょうど、サークル室に入ると菜月先輩が。「奇跡か」と言われるのも無理はない。これまで1年間やってきた中で、遅刻せずに来れたことが本当に数えるくらいしかなく、1時間2時間という遅刻もやらかしている。反省は死ぬほどしているけど、結果が伴わない。
「本日は、先日頂いた通りのテーマと曲で収録を――」
「それはいいんだけど、ちょっと考えてたことがあって」
「いかが致しましたか」
「今回の番組のことじゃないんだ。今回以降やれたらいいなって思ってることがあって。せっかく時間に余裕があるんだし、ちょっと聞くだけ聞いてくれないか」
「ええ、ぜひ聞きたいです」
「1回30分の番組を、今は2人で話し合って作ってるだろ」
「はい」
「それをこう、番組と相手を完全に1人がプロデュースすると、どういう色になるのかなーと思って」
今の俺たちは、ごくごく基本に忠実な番組構成で、言ってしまえば淡々とした進行の番組を作っている。遊びも何もない。と言うか物理的にも精神的にも遊ぶ余裕はない。それでも菜月先輩のトーク力で面白くしてもらっていて、聞ける物になっているのだ。
だけど実のところ菜月先輩は遊び好きなのだ。普通にやってたんじゃ面白くないという考えも持っていて、その結果が全力で遊んだ構成でまとめた夏合宿4班の番組だ。この相互プロデュースという案も、俺の知る限り記録にも記憶にもない。
「プロデュースと言うと、具体的にはどのような形で」
「まずはテーマを決めるだろ。で、曲を持ってくる。その曲をどこでどう切るとかも組み立てたいよなせっかくやるなら。BGMもテーマに沿った感じにしてもいいかもな」
「なるほど。しかし、枠組みを考えるだけならともかく、実際トークをされるのは菜月先輩ですよね?」
「そうだな。これは外せないっていうポイントやデータなんかをくれればそのように話すことは出来るぞ。いつもはうちが1人でテーマを決めて曲を用意してもらってるけど、この曲を使いたいからこういうテーマで喋ってくれとかも全然アリだ」
「ふむ」
「うちらはペアを組んで3期目、これまで丸1年組んで来た。相手がどういうことを出来て、何が好きで、みたいなこともある程度は頭に入ってるだろう。相手を最大限生かすためのプロデュース。これをやってみたいし、されてみたいんだ。そしたら、通常回にも生かせるんじゃないかと」
技術や嗜好など、相手をある程度わかっているからこそのプロデュース。確かに、これをやることで相手はこういうことがやりたいんだなあというのを見ることが出来るし、自分もやりたいことを前面に押すことが出来るということか。面白そうだ。
「わかりました、やりましょう」
「よーし。さすがに番組を構成するのに時間がかかるだろうから、11月を目途にしようか」
「そうですね」
「一応言っておくけど、今やってることに不満はないんだ」
「……でしたら安心しましたが。改めてお聞きしますが、何故そのようなことをしようと思われたのですか?」
「単純だ。夏合宿みたいな……悪く言えば寄せ集めの班でもいろんなことが出来るんだから、お前とだったらもっといろんなことが出来る。ただ普通にやって終わるのは勿体ないなって思ったんだ」
菜月先輩の口から具体的に終わりという言葉が出てきた瞬間、俺はその想いにミキサーとして今までよりもさらに強く、具体的に応えていかなくてはならないのだと思った。
3年生にとっては集大成となる大切な学期に、そういうことをしたいと言っていただけること自体が名誉だ。だけど、そこに俺個人の考えや技術を乗せて、菜月先輩1人では出来ないものを作らなければ意味はないのだとも思った。
アナウンサーとミキサーは2人でひとつ。ミキサーは最も近いリスナー。それを再確認するために、俺は全力で菜月先輩をプロデュースするのだ。
「この話はこんな感じで、今回の番組の話をしようか」
「はい、そうしましょう」
こうしてまた、今まで1年間そうしてきたように、ごくごく普通の番組を作るための話し合いが始まった。イントロが何秒だとか、どこで曲を下げるとか、学食のフェア情報なんかを確認して。
「ノサカ、もし収録が上手くいって早く上がれたら、ケーキでも食べながらいろんなことを話さないか」
「はい。ぜひご一緒させてください」
「早く終われたらの話だぞ」
end.
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そういう話をやりたいなあと思い、ナツノサで真面目な放送計画のお話。相互プロデュースだって
しかし何よりこの話のポイントはあのノサカがちゃんと遅刻せずに待ち合わせに間に合っていることである。奇跡だ。
高菜年である今年度は、菜月さんにとってのノサカはあくまで番組の相方として頼れる後輩という位置付けであった
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10月第1土曜日、今期もまた今まで通りの土曜日を迎えることになり、俺は死ぬ気で暗黙の待ち合わせ時間である午後2時目掛けてサークル室へと向かった。何せ昼放送の初回収録日。初回から粗相があってはならない。
ペアの相手は3期連続で菜月先輩に決まった。MMPの人数の少なさと履修の都合でそんな形になっている。俺としては非常に嬉しいので何期でも……とはいかないのだ。泣いても笑っても、3年生の先輩がいらっしゃるのはこの秋学期まで。番組が出来るのもあと11回。
「菜月先輩、おはようございます」
「うわ、奇跡か」
「今期もどうぞよろしくお願いします」
午後2時ちょうど、サークル室に入ると菜月先輩が。「奇跡か」と言われるのも無理はない。これまで1年間やってきた中で、遅刻せずに来れたことが本当に数えるくらいしかなく、1時間2時間という遅刻もやらかしている。反省は死ぬほどしているけど、結果が伴わない。
「本日は、先日頂いた通りのテーマと曲で収録を――」
「それはいいんだけど、ちょっと考えてたことがあって」
「いかが致しましたか」
「今回の番組のことじゃないんだ。今回以降やれたらいいなって思ってることがあって。せっかく時間に余裕があるんだし、ちょっと聞くだけ聞いてくれないか」
「ええ、ぜひ聞きたいです」
「1回30分の番組を、今は2人で話し合って作ってるだろ」
「はい」
「それをこう、番組と相手を完全に1人がプロデュースすると、どういう色になるのかなーと思って」
今の俺たちは、ごくごく基本に忠実な番組構成で、言ってしまえば淡々とした進行の番組を作っている。遊びも何もない。と言うか物理的にも精神的にも遊ぶ余裕はない。それでも菜月先輩のトーク力で面白くしてもらっていて、聞ける物になっているのだ。
だけど実のところ菜月先輩は遊び好きなのだ。普通にやってたんじゃ面白くないという考えも持っていて、その結果が全力で遊んだ構成でまとめた夏合宿4班の番組だ。この相互プロデュースという案も、俺の知る限り記録にも記憶にもない。
「プロデュースと言うと、具体的にはどのような形で」
「まずはテーマを決めるだろ。で、曲を持ってくる。その曲をどこでどう切るとかも組み立てたいよなせっかくやるなら。BGMもテーマに沿った感じにしてもいいかもな」
「なるほど。しかし、枠組みを考えるだけならともかく、実際トークをされるのは菜月先輩ですよね?」
「そうだな。これは外せないっていうポイントやデータなんかをくれればそのように話すことは出来るぞ。いつもはうちが1人でテーマを決めて曲を用意してもらってるけど、この曲を使いたいからこういうテーマで喋ってくれとかも全然アリだ」
「ふむ」
「うちらはペアを組んで3期目、これまで丸1年組んで来た。相手がどういうことを出来て、何が好きで、みたいなこともある程度は頭に入ってるだろう。相手を最大限生かすためのプロデュース。これをやってみたいし、されてみたいんだ。そしたら、通常回にも生かせるんじゃないかと」
技術や嗜好など、相手をある程度わかっているからこそのプロデュース。確かに、これをやることで相手はこういうことがやりたいんだなあというのを見ることが出来るし、自分もやりたいことを前面に押すことが出来るということか。面白そうだ。
「わかりました、やりましょう」
「よーし。さすがに番組を構成するのに時間がかかるだろうから、11月を目途にしようか」
「そうですね」
「一応言っておくけど、今やってることに不満はないんだ」
「……でしたら安心しましたが。改めてお聞きしますが、何故そのようなことをしようと思われたのですか?」
「単純だ。夏合宿みたいな……悪く言えば寄せ集めの班でもいろんなことが出来るんだから、お前とだったらもっといろんなことが出来る。ただ普通にやって終わるのは勿体ないなって思ったんだ」
菜月先輩の口から具体的に終わりという言葉が出てきた瞬間、俺はその想いにミキサーとして今までよりもさらに強く、具体的に応えていかなくてはならないのだと思った。
3年生にとっては集大成となる大切な学期に、そういうことをしたいと言っていただけること自体が名誉だ。だけど、そこに俺個人の考えや技術を乗せて、菜月先輩1人では出来ないものを作らなければ意味はないのだとも思った。
アナウンサーとミキサーは2人でひとつ。ミキサーは最も近いリスナー。それを再確認するために、俺は全力で菜月先輩をプロデュースするのだ。
「この話はこんな感じで、今回の番組の話をしようか」
「はい、そうしましょう」
こうしてまた、今まで1年間そうしてきたように、ごくごく普通の番組を作るための話し合いが始まった。イントロが何秒だとか、どこで曲を下げるとか、学食のフェア情報なんかを確認して。
「ノサカ、もし収録が上手くいって早く上がれたら、ケーキでも食べながらいろんなことを話さないか」
「はい。ぜひご一緒させてください」
「早く終われたらの話だぞ」
end.
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そういう話をやりたいなあと思い、ナツノサで真面目な放送計画のお話。相互プロデュースだって
しかし何よりこの話のポイントはあのノサカがちゃんと遅刻せずに待ち合わせに間に合っていることである。奇跡だ。
高菜年である今年度は、菜月さんにとってのノサカはあくまで番組の相方として頼れる後輩という位置付けであった
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