2018(03)
■揚げに上げたい大会議
++++
「これより、GREENs大会議を始めます! 陣頭指揮は私、宮林慧梨夏が執り行います!」
「いよっ、隊長絶好調! ……で、何の会議ですか?」
威勢のいい掛け声を飛ばした三浦が一瞬できょとんとしていたけど、これが何の会議なのかは実際俺もわかっていない。突然会議をすると言われて20人くらいしか入らない小さい教室に集合させられたじゃんな。
黒板にカツカツと慧梨夏サンが文字を書いていく。それによれば、今日の会議は「大学祭のブースについて」とのこと。大学祭の季節だなと思うのは、学内を歩いていても立て看板がそこらじゅうにあるなと気付いたときだ。
大祭で出すブースの幹事が慧梨夏サンなのも納得だ。GREENsではイベントやお祭りごとの企画運営を、気付いたら大体慧梨夏サンがやってしまっている。根っからのイベンター体質なのだと伊東サンは言う。
「慧梨夏、例によって唐揚げなのだろう」
「ですね。ブースの場所に恵まれればブース賞も狙えるし、ブースの場所に恵まれなくてもお肉パワーである程度は売れる安定の唐揚げですね」
「ならば、下手に変えずとも去年と同じ感じでいいのでは」
「サトシ、甘い。いかにクオリティを上げつつ原価を下げて、あの唐揚げハンパないってGREENsの名前をキャンパスに轟かせるかでしょ? 去年と同じで満足してちゃ進歩はない!」
例年、話し合いは基本的に3年生を中心に行われるそうだ。隊長は自然に慧梨夏サンが就任していたけど、その慧梨夏サンを支えるポジションにはサトシさんが就くことになっていたそうだ。それを4年生は見守り、俺たち1・2年は見上げているのだ。
「慧梨夏サン、ブースの場所ってそんなに大きい要素なんすか」
「よく聞いてくれた鵠っち! これが大きいよ」
スーッ、カッカッカと慧梨夏サンがキャンパスマップを黒板に描いていく。大きく分けると、バス停からメインステージに伸びる大通りと、二股に分かれてサブステージに向かう細い道がある。大通りの中でも情報棟前は最も売り上げが期待できる場所だそうだ。
一方、サブステージに向かう方の道はやっぱり大通りに比べると人は少なくなるし、落ち着いて学祭を回りたい人には向いているけどガンガン稼いで行くには不利な場所。ブース申し込みはもう済んでるし、あとは運次第。当然、慧梨夏サンは大通りを取りに行きたいそうで。
「こうね、大人の事情だけどMBCCが本当に! ズルい!」
「MBCCって慧梨夏サンの彼氏さんがいる放送サークルすよね」
「だね」
「大人の事情って?」
「昔、MBCCのDJブースと大祭のステージの音がケンカしてどっちも大事故になっちゃったんだって。で、一番音がケンカしない場所だからって理由で毎年MBCCは情報棟前にブースをもらえてるの。情報棟から電気も引っ張ってきてるし」
「え、マジすか。密約じゃん?」
「あ、一応MBCCの名誉のために言っておくとブース場所の代わりに大祭実行のステージ運営の手伝いもしてるし、食品ブースの電気はちゃんと500円で借りてるから」
――という事情も慧梨夏サンがMBCCに彼氏がいるから知っていることであって、それを知らなければズルいの一言で終わっちまいそうな話だ。まあ、今はMBCCの話じゃなくて、自分たちの唐揚げの魅力で儲けを取りに行くための話じゃんな。
「ブース場所は運次第だ。今は措いとくとして、唐揚げのレシピと練習、当日の運営だな。まあ、今年は康平の部屋をベース基地として食材などを置いておけるのは大きいが。レシピは慧梨夏がまたお母さんに聞いてくれるのだろう?」
「そうだね。レシピはうちが聞いときます」
「ん?」
「鵠っち、また何か気になった?」
「つかサトシさん、今ナチュラルに俺の部屋をベース基地にするとかって言わなかったすか?」
「言ったな。大学に近い部屋の宿命だ。悪いが、しばらく頼む」
クールでドライに見えるし実際そうなんだけど、サトシさんもこういうイベントが案外嫌いじゃないっぽいんだよな。この話し合いでも積極的に慧梨夏サンと意見を交わしてるし。
「せっかく慧梨夏に人脈があるのだから、MBCCに宣伝を頼めばどうだろうか。あの立地で宣伝してもらえれば大きい」
「頼む価値はありそうだけど、MBCCのトップが大祭のブースに関しては鬼みたいな人でねえ」
「では、GREENsメンバーが無配券を各2枚ずつ程友人などに配り、足を運んでもらうというのは。唐揚げ自体を広告にする」
「って言うかサトシ、ガツガツ来るね、珍しい」
「こう見えて経済学部だ。どうすれば売れるのかには興味がある」
完全に頭脳のサトシさん、アクションの慧梨夏サンみたいな構図が完成していた。俺は部屋をベース基地として提供することが決まったところで、他の1・2年にも役割がどんどん割り振られていった。
「では! さっそく行動を開始しましょう! というワケでちょっと実家行ってきます!」
「えっ、直接行くんすか!? メールとか、ラインとか」
「顔を合わせて話すことで生まれるアイディアもあるの」
end.
++++
GREENsの唐揚げ会議です。思いがけずサトシがベラベラと喋っていて、お前誰だ状態になりつつあります。嫌いではないそうなのでね。
で、例によって近いからという理由でベース基地にされた鵠さんのお部屋である。この時期のコムギハイツ民はみんな通る道なのかしら。
GREENsが荒らした結果、鵠さんの部屋にいろんな道具が増えていってそうですね。七輪やかき氷のきょろちゃんも多分鵠さんの部屋に置いたまんまだろうし
.
++++
「これより、GREENs大会議を始めます! 陣頭指揮は私、宮林慧梨夏が執り行います!」
「いよっ、隊長絶好調! ……で、何の会議ですか?」
威勢のいい掛け声を飛ばした三浦が一瞬できょとんとしていたけど、これが何の会議なのかは実際俺もわかっていない。突然会議をすると言われて20人くらいしか入らない小さい教室に集合させられたじゃんな。
黒板にカツカツと慧梨夏サンが文字を書いていく。それによれば、今日の会議は「大学祭のブースについて」とのこと。大学祭の季節だなと思うのは、学内を歩いていても立て看板がそこらじゅうにあるなと気付いたときだ。
大祭で出すブースの幹事が慧梨夏サンなのも納得だ。GREENsではイベントやお祭りごとの企画運営を、気付いたら大体慧梨夏サンがやってしまっている。根っからのイベンター体質なのだと伊東サンは言う。
「慧梨夏、例によって唐揚げなのだろう」
「ですね。ブースの場所に恵まれればブース賞も狙えるし、ブースの場所に恵まれなくてもお肉パワーである程度は売れる安定の唐揚げですね」
「ならば、下手に変えずとも去年と同じ感じでいいのでは」
「サトシ、甘い。いかにクオリティを上げつつ原価を下げて、あの唐揚げハンパないってGREENsの名前をキャンパスに轟かせるかでしょ? 去年と同じで満足してちゃ進歩はない!」
例年、話し合いは基本的に3年生を中心に行われるそうだ。隊長は自然に慧梨夏サンが就任していたけど、その慧梨夏サンを支えるポジションにはサトシさんが就くことになっていたそうだ。それを4年生は見守り、俺たち1・2年は見上げているのだ。
「慧梨夏サン、ブースの場所ってそんなに大きい要素なんすか」
「よく聞いてくれた鵠っち! これが大きいよ」
スーッ、カッカッカと慧梨夏サンがキャンパスマップを黒板に描いていく。大きく分けると、バス停からメインステージに伸びる大通りと、二股に分かれてサブステージに向かう細い道がある。大通りの中でも情報棟前は最も売り上げが期待できる場所だそうだ。
一方、サブステージに向かう方の道はやっぱり大通りに比べると人は少なくなるし、落ち着いて学祭を回りたい人には向いているけどガンガン稼いで行くには不利な場所。ブース申し込みはもう済んでるし、あとは運次第。当然、慧梨夏サンは大通りを取りに行きたいそうで。
「こうね、大人の事情だけどMBCCが本当に! ズルい!」
「MBCCって慧梨夏サンの彼氏さんがいる放送サークルすよね」
「だね」
「大人の事情って?」
「昔、MBCCのDJブースと大祭のステージの音がケンカしてどっちも大事故になっちゃったんだって。で、一番音がケンカしない場所だからって理由で毎年MBCCは情報棟前にブースをもらえてるの。情報棟から電気も引っ張ってきてるし」
「え、マジすか。密約じゃん?」
「あ、一応MBCCの名誉のために言っておくとブース場所の代わりに大祭実行のステージ運営の手伝いもしてるし、食品ブースの電気はちゃんと500円で借りてるから」
――という事情も慧梨夏サンがMBCCに彼氏がいるから知っていることであって、それを知らなければズルいの一言で終わっちまいそうな話だ。まあ、今はMBCCの話じゃなくて、自分たちの唐揚げの魅力で儲けを取りに行くための話じゃんな。
「ブース場所は運次第だ。今は措いとくとして、唐揚げのレシピと練習、当日の運営だな。まあ、今年は康平の部屋をベース基地として食材などを置いておけるのは大きいが。レシピは慧梨夏がまたお母さんに聞いてくれるのだろう?」
「そうだね。レシピはうちが聞いときます」
「ん?」
「鵠っち、また何か気になった?」
「つかサトシさん、今ナチュラルに俺の部屋をベース基地にするとかって言わなかったすか?」
「言ったな。大学に近い部屋の宿命だ。悪いが、しばらく頼む」
クールでドライに見えるし実際そうなんだけど、サトシさんもこういうイベントが案外嫌いじゃないっぽいんだよな。この話し合いでも積極的に慧梨夏サンと意見を交わしてるし。
「せっかく慧梨夏に人脈があるのだから、MBCCに宣伝を頼めばどうだろうか。あの立地で宣伝してもらえれば大きい」
「頼む価値はありそうだけど、MBCCのトップが大祭のブースに関しては鬼みたいな人でねえ」
「では、GREENsメンバーが無配券を各2枚ずつ程友人などに配り、足を運んでもらうというのは。唐揚げ自体を広告にする」
「って言うかサトシ、ガツガツ来るね、珍しい」
「こう見えて経済学部だ。どうすれば売れるのかには興味がある」
完全に頭脳のサトシさん、アクションの慧梨夏サンみたいな構図が完成していた。俺は部屋をベース基地として提供することが決まったところで、他の1・2年にも役割がどんどん割り振られていった。
「では! さっそく行動を開始しましょう! というワケでちょっと実家行ってきます!」
「えっ、直接行くんすか!? メールとか、ラインとか」
「顔を合わせて話すことで生まれるアイディアもあるの」
end.
++++
GREENsの唐揚げ会議です。思いがけずサトシがベラベラと喋っていて、お前誰だ状態になりつつあります。嫌いではないそうなのでね。
で、例によって近いからという理由でベース基地にされた鵠さんのお部屋である。この時期のコムギハイツ民はみんな通る道なのかしら。
GREENsが荒らした結果、鵠さんの部屋にいろんな道具が増えていってそうですね。七輪やかき氷のきょろちゃんも多分鵠さんの部屋に置いたまんまだろうし
.