2018(03)
■せめて誠意を積み上げて
++++
世間では働き方改革とか人手不足とか何やかんや言ってるし、俺たち学生ですら就活云々のことを考えるときには福利厚生や休日のことを重視しているってのに。外は大荒れ、台風がやってきているにも拘わらず、俺たちは人に働いてもらうことを望んでしまった。
テーブルの上にはピザ屋のチラシ。最近は俺の部屋にいることが多かったから、慧梨夏の部屋の食料が限りなく底をついていたのだ。デートが終わってそのまま慧梨夏の部屋に転がり込んだら、こうですよ。だけど今から外に出るのも危ないかなあ、などと。
「ピザデリー」
「……高ピー、お疲れ様です」
申し訳なさを抱えたまま玄関のドアを開けると、ずぶ濡れのデリバリースタッフさん……と言うか高ピーがギロリと睨みを利かせた。客商売をしているとは到底思えない凶悪な表情をしているのは、届けた相手が俺と慧梨夏だったからだ。
「3520円」
「まさか原付で?」
「脅されて車の鍵盗られた。クソが、ぶっ殺す」
「あ、えっと~……ご愁傷さまです」
「大体よ、てめェがいるなら食うモンくらい用意してねえのか。わざわざこんな日にピザなんか頼みやがって」
「うん、台風なのに悪いなって思いながら待ってた」
「あー……そういや昨日宮ちゃんの誕生日だったな。デートから帰ったその流れで家事をサボってんのか」
「すみません。俺の部屋ならともかく、慧梨夏の部屋は買い物に行くところからスタートだってことを忘れてて」
「ったく、浮かれてんじゃねえぞ。お前明日覚えとけよ」
「はい、すみません。来ていただいてありがとうございます」
拳悟が言うにはこういう不機嫌そうな顔が中学時代の高ピーのデフォルトだったそうだけど、今の無気力系の顔に強い恨みを足したような感じで怖いですよね正直。台風なのに注文したことは本当に悪いと思ってるんだけど!
大雨とか台風とか、そういう悪天候の時はピザ屋への注文が増えて来るそうだ。外に出たくないというのはわかる。だけど、働く人だって外には出たくないと思う。そういう仕事だからって諦めもあるかもしれないし、稼ぎ時だって思う人だっているかもしれないけど。
「言っちまえば、来てやってもいいが金を積めというだけの話だ。飲食店ですら深夜料金が発生するのに、ピザ屋には荒天料金が発生しない。何故だ」
「俺は積んでいいと思う方だけどなあ」
「ピザはそれ自体が高いからっつーのは理由にはならねえ。店がこっちに台風手当を積んではくれてるが、客が払う金は一切変わらねえんだぞ」
レジの人に優しく出来るのはレジ経験のある人間だっていうのも聞くけど、デリバリーの人に優しく出来るのもデリバリーの人なんだと思う。そもそも、その苦労をわかる人は多分こんな日に注文しない。雨に濡れて相当冷えるのか、高ピーはくしゃみをひとつ飛ばした。
「高ピー、寒そうだけど大丈夫?」
「あー、何だ。とりあえず顔と髪だけ拭きてえ」
「タオルだね」
「サンキュ。ま、一歩外に出ちまえば無意味なんだけどよ。拭いたのと拭かないのとじゃ体感温度が段違いなんだ」
「それは俺もバイク乗りだしわかるよ」
ガシガシと髪を拭いたタオルを受け取り、愚痴にも似た高ピーの話を受け止め続ける。そりゃこんな時だもんなあ。愚痴くらい出るだろうし寒いだろうからなかなかもう1回外に行くぞっていう気にはならないよね、友達の家に来ちゃったなら尚更だ。
そして高ピーはお金などが入った黒いカバンの中をごそごそと漁って、手の平にすっぽり収まるくらいの透明な袋をくれた。丁寧に梱包された袋の中身はちょっとしたお菓子。もうそういう時期だっけ、とカレンダーを想う。
「一応イベント事はひと月前からっつー体だからな。ハロウィンって10月末だろ」
「そうだね。トリックオアトリートってヤツだね」
「あーあ、何かの間違いでお前が焼いたクッキーでも出てこねえかな」
「残念ながらここじゃ用意出来ないね。俺の部屋だったらすぐにでも作り始められたんだけど」
「あ、あんま長居してるとサボってんのがバレるな。人がせっかく焼きたてのを濡らさずに持って来てんだから冷めないうちに食えよ」
「うん、本当にありがとね高ピー」
高ピーが帰っていくのに玄関のドアを開けただけで、玄関から部屋までを風が通り抜ける。一瞬でこうだから、この中を原付で走るのは相当辛いだろう。いやホント、客側からもお金取っていいと思うよこれだけのことをお願いするんだから。
「慧梨夏、せっかくだし食うか」
「長かったねカズ」
「ホントね、高ピーマジ偉いと思う。あとこれ。ハロウィンのお菓子だって」
「ちょうど甘いの欲しかったー!」
玄関先での立ち話があったとは言え、ピザはまだまだ熱々を保っていた。こんな時に働いてくれている人への感謝を胸に、合掌。
とりあえず、誠意を積むのは自分の部屋に帰ってから。帰ったら、高ピーのリクエスト通りにクッキーを焼こうと思う。今日はこのまま慧梨夏の部屋にいるだろうから、明日以降になるのかな。目先のクッキーと、12日のオクトーバーフェストで。
end.
++++
例によって台風などの荒天時には高崎の酷使が始まるような感じのナノスパであった。今回はみなもちゃん宅でなく慧梨夏の部屋ですね
そういや最近MBCCとか緑ヶ丘が続いてる感じがする……まあいいか。やれるときにやっとかんと油断すると影が薄くなるからなあMBCCは
そしていち氏にクッキーを催促する高崎であった。これは帰ってすぐ焼かざるを得ない! いっちークッキー配布の時間だああああ
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世間では働き方改革とか人手不足とか何やかんや言ってるし、俺たち学生ですら就活云々のことを考えるときには福利厚生や休日のことを重視しているってのに。外は大荒れ、台風がやってきているにも拘わらず、俺たちは人に働いてもらうことを望んでしまった。
テーブルの上にはピザ屋のチラシ。最近は俺の部屋にいることが多かったから、慧梨夏の部屋の食料が限りなく底をついていたのだ。デートが終わってそのまま慧梨夏の部屋に転がり込んだら、こうですよ。だけど今から外に出るのも危ないかなあ、などと。
「ピザデリー」
「……高ピー、お疲れ様です」
申し訳なさを抱えたまま玄関のドアを開けると、ずぶ濡れのデリバリースタッフさん……と言うか高ピーがギロリと睨みを利かせた。客商売をしているとは到底思えない凶悪な表情をしているのは、届けた相手が俺と慧梨夏だったからだ。
「3520円」
「まさか原付で?」
「脅されて車の鍵盗られた。クソが、ぶっ殺す」
「あ、えっと~……ご愁傷さまです」
「大体よ、てめェがいるなら食うモンくらい用意してねえのか。わざわざこんな日にピザなんか頼みやがって」
「うん、台風なのに悪いなって思いながら待ってた」
「あー……そういや昨日宮ちゃんの誕生日だったな。デートから帰ったその流れで家事をサボってんのか」
「すみません。俺の部屋ならともかく、慧梨夏の部屋は買い物に行くところからスタートだってことを忘れてて」
「ったく、浮かれてんじゃねえぞ。お前明日覚えとけよ」
「はい、すみません。来ていただいてありがとうございます」
拳悟が言うにはこういう不機嫌そうな顔が中学時代の高ピーのデフォルトだったそうだけど、今の無気力系の顔に強い恨みを足したような感じで怖いですよね正直。台風なのに注文したことは本当に悪いと思ってるんだけど!
大雨とか台風とか、そういう悪天候の時はピザ屋への注文が増えて来るそうだ。外に出たくないというのはわかる。だけど、働く人だって外には出たくないと思う。そういう仕事だからって諦めもあるかもしれないし、稼ぎ時だって思う人だっているかもしれないけど。
「言っちまえば、来てやってもいいが金を積めというだけの話だ。飲食店ですら深夜料金が発生するのに、ピザ屋には荒天料金が発生しない。何故だ」
「俺は積んでいいと思う方だけどなあ」
「ピザはそれ自体が高いからっつーのは理由にはならねえ。店がこっちに台風手当を積んではくれてるが、客が払う金は一切変わらねえんだぞ」
レジの人に優しく出来るのはレジ経験のある人間だっていうのも聞くけど、デリバリーの人に優しく出来るのもデリバリーの人なんだと思う。そもそも、その苦労をわかる人は多分こんな日に注文しない。雨に濡れて相当冷えるのか、高ピーはくしゃみをひとつ飛ばした。
「高ピー、寒そうだけど大丈夫?」
「あー、何だ。とりあえず顔と髪だけ拭きてえ」
「タオルだね」
「サンキュ。ま、一歩外に出ちまえば無意味なんだけどよ。拭いたのと拭かないのとじゃ体感温度が段違いなんだ」
「それは俺もバイク乗りだしわかるよ」
ガシガシと髪を拭いたタオルを受け取り、愚痴にも似た高ピーの話を受け止め続ける。そりゃこんな時だもんなあ。愚痴くらい出るだろうし寒いだろうからなかなかもう1回外に行くぞっていう気にはならないよね、友達の家に来ちゃったなら尚更だ。
そして高ピーはお金などが入った黒いカバンの中をごそごそと漁って、手の平にすっぽり収まるくらいの透明な袋をくれた。丁寧に梱包された袋の中身はちょっとしたお菓子。もうそういう時期だっけ、とカレンダーを想う。
「一応イベント事はひと月前からっつー体だからな。ハロウィンって10月末だろ」
「そうだね。トリックオアトリートってヤツだね」
「あーあ、何かの間違いでお前が焼いたクッキーでも出てこねえかな」
「残念ながらここじゃ用意出来ないね。俺の部屋だったらすぐにでも作り始められたんだけど」
「あ、あんま長居してるとサボってんのがバレるな。人がせっかく焼きたてのを濡らさずに持って来てんだから冷めないうちに食えよ」
「うん、本当にありがとね高ピー」
高ピーが帰っていくのに玄関のドアを開けただけで、玄関から部屋までを風が通り抜ける。一瞬でこうだから、この中を原付で走るのは相当辛いだろう。いやホント、客側からもお金取っていいと思うよこれだけのことをお願いするんだから。
「慧梨夏、せっかくだし食うか」
「長かったねカズ」
「ホントね、高ピーマジ偉いと思う。あとこれ。ハロウィンのお菓子だって」
「ちょうど甘いの欲しかったー!」
玄関先での立ち話があったとは言え、ピザはまだまだ熱々を保っていた。こんな時に働いてくれている人への感謝を胸に、合掌。
とりあえず、誠意を積むのは自分の部屋に帰ってから。帰ったら、高ピーのリクエスト通りにクッキーを焼こうと思う。今日はこのまま慧梨夏の部屋にいるだろうから、明日以降になるのかな。目先のクッキーと、12日のオクトーバーフェストで。
end.
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例によって台風などの荒天時には高崎の酷使が始まるような感じのナノスパであった。今回はみなもちゃん宅でなく慧梨夏の部屋ですね
そういや最近MBCCとか緑ヶ丘が続いてる感じがする……まあいいか。やれるときにやっとかんと油断すると影が薄くなるからなあMBCCは
そしていち氏にクッキーを催促する高崎であった。これは帰ってすぐ焼かざるを得ない! いっちークッキー配布の時間だああああ
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