2018(03)
■増えるルーティンの相談
++++
「うーん」
慧梨夏の左薬指には、さっき観覧車の上ではめたシルバーの指輪。今日は慧梨夏の誕生日で、そのサプライズプレゼントとして用意したセミオーダー品だ。9月の誕生石のブルーサファイアが埋め込まれたシンプルなデザイン。
今日のデートコースは水族館からの観覧車といういかにもな感じで、今は串カツを食べている。席にフライヤーがあって、自分たちで揚げるスタイル。もうちょっと雰囲気のある店を調べておけば良かったんだろうけど、慧梨夏が串カツにテンション上がってたんで、結果オーライです。
で、最初ははめた指輪を眺めてはにかんでいた慧梨夏だったけど、ついさっきからふいに難しい顔に変わったんだ。俺は串を揚げながらそんな慧梨夏の様子を観察してたんだけど、これは何か問題でも発生したか?
「慧梨夏、どうかしたか?」
「あっ、ううん。大したことじゃないんだよ」
「それならいいけど、何かマズかったかなと思ってビビってるから」
「違う違う、本当に大したことじゃないんだよ。指輪は本当に嬉しい。でも、サークルの時は外さなきゃなって気付いちゃって」
「あ、そっか。全然気付かなかった。悪い」
バスケサークルGREENsで今も現役バリバリでやっている慧梨夏は、ちょっとした手の感覚にも敏感だ。爪がちょっと伸びるだけで指先の引っかかりが変わって来て、力や回転がボールに上手く伝わらなくなるとか。それがスリーポイントシューターには本当に大事なことで。
当然、プレイ中に指輪なんかしようものならそれが原因でこれまで体に刻み込んで来た感覚がズレるだろうし、そもそも指輪なんかしてコートに立ってる奴はそうそういないだろう。サークルの時は外さなくちゃいけない。そういう考えに俺は至っていなかったのだ。
「つけたり外したりを繰り返すと、そのうちどっか転がってっちゃいそうで怖いなって」
「じゃあ、いっそサークルの日は最初から外に付けて行かないとか」
「それは嫌」
「あっそう」
「だって、“Reserved”だよ? うちは目に見える形でもずっとカズのものでありたいし」
ちきしょい、我が彼女ながら可愛すぎかよ知ってた! あーもう、もうちょっとしたらガチなヤツ贈りますんで! 出すところでは出すのを厭わないことに定評のある俺だ、その時のためにしっかり今からお金の管理をしておかないと。ちなみにReservedは指輪の内側の刻印です。
ただ、割と現実問題として指輪に関するトラブルとしては上位にあると思うんだ、紛失って。少しでもそのリスクを減らすための対策は練っておかなくちゃなとは思う。近々リングホルダーでも買いに行くか?
「慧梨夏、とりあえずさ、サークルで外す時は財布とか、チャックついてるところにしまっとくのが一番現実的じゃないかと思うんだよ」
「チャックついてるのって小銭入れでしょ? 何か小銭臭くなっちゃいそうだね」
「あ、わかる。あと小銭と擦れて傷付きそう」
「携帯出来るケースみたいのがあればいいのかな」
「そうだろうなあ」
「でも今日はもう雑貨屋さんとか閉まっちゃうだろうから、今度探してみるよ。ネットで下調べしてもいいかもね」
「今チラ見してみるか」
「そうだね。あっ、うちので見ます。カズは串をお願いします」
そう言って慧梨夏がスマホを取り出して画面を立ち上げたその時。また顔が変わったのだ。
「ちょっとカズ、すっごい」
「どうした」
「美弥子サンからライン入ってたんだけど、エスパー?」
姉ちゃんから慧梨夏へのラインは、誕生日プレゼントの確認だった。姉ちゃんは人とのダブりを避けるのとその人の希望に沿った物を贈る目的で、プレゼントを渡す前に本人や周りの人に相談する。で、慧梨夏への確認として入っていたのが……。
「携帯用ジュエリーポーチとか! ねえカズ、タイムリー過ぎない!?」
「姉ちゃん神かよ……」
「あれっ。って言うかカズが指輪くれることも全部読まれてたみたいな?」
「その辺はまあ、姉弟だからということにしとくわ」
慧梨夏の誕生日に指輪を贈ろうと思うんだ、という話は1人にしかしていない。あの野郎、姉ちゃんに漏らしやがったな。まあ、今回は姉ちゃんの機転に免じて許してやろう。割とマジで助かりました。
実際、指輪を外すシチュエーションがあるとわかっているのは同じサークルで日頃から一緒にやってる姉ちゃんだからこそだ。財布の小銭入れとかじゃなくてちゃんとした可愛いポーチで。その辺は女心なのか、さすがです。
「美弥子サンに即返信するでしょこれ」
「あの、俺からも助かりますって送っといて」
「了解」
「ちなみに慧梨夏、お前姉ちゃんの誕生日に何あげてたっけ」
「ネギの種とプランター。あと土と肥料」
「そうだった」
少しツメは甘かったけど、何はともあれプレプロポーズ的なことには成功したし後は今後どうするかだ。今後っていうのは、ガチなプロポーズのこと。タイミングなんだよな。はてさて、どうしたものか。
end.
++++
「君に捧ぐブルーサファイア」に関連するいちえりちゃんのお話。指輪の扱いをどうしようっていうお話でした。
多分慧梨夏は慣れるまではいろいろな意味でそわそわするだろうし、手の違和感と言うか、異物と言うか、そんなような物との付き合い方もこれから大事になるのかしら
でwww どこからか美弥子サンに情報が漏洩していた件www いち氏がそんな大事な話を事前に相談する相手なんて1人しかいないんだよなあ……
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「うーん」
慧梨夏の左薬指には、さっき観覧車の上ではめたシルバーの指輪。今日は慧梨夏の誕生日で、そのサプライズプレゼントとして用意したセミオーダー品だ。9月の誕生石のブルーサファイアが埋め込まれたシンプルなデザイン。
今日のデートコースは水族館からの観覧車といういかにもな感じで、今は串カツを食べている。席にフライヤーがあって、自分たちで揚げるスタイル。もうちょっと雰囲気のある店を調べておけば良かったんだろうけど、慧梨夏が串カツにテンション上がってたんで、結果オーライです。
で、最初ははめた指輪を眺めてはにかんでいた慧梨夏だったけど、ついさっきからふいに難しい顔に変わったんだ。俺は串を揚げながらそんな慧梨夏の様子を観察してたんだけど、これは何か問題でも発生したか?
「慧梨夏、どうかしたか?」
「あっ、ううん。大したことじゃないんだよ」
「それならいいけど、何かマズかったかなと思ってビビってるから」
「違う違う、本当に大したことじゃないんだよ。指輪は本当に嬉しい。でも、サークルの時は外さなきゃなって気付いちゃって」
「あ、そっか。全然気付かなかった。悪い」
バスケサークルGREENsで今も現役バリバリでやっている慧梨夏は、ちょっとした手の感覚にも敏感だ。爪がちょっと伸びるだけで指先の引っかかりが変わって来て、力や回転がボールに上手く伝わらなくなるとか。それがスリーポイントシューターには本当に大事なことで。
当然、プレイ中に指輪なんかしようものならそれが原因でこれまで体に刻み込んで来た感覚がズレるだろうし、そもそも指輪なんかしてコートに立ってる奴はそうそういないだろう。サークルの時は外さなくちゃいけない。そういう考えに俺は至っていなかったのだ。
「つけたり外したりを繰り返すと、そのうちどっか転がってっちゃいそうで怖いなって」
「じゃあ、いっそサークルの日は最初から外に付けて行かないとか」
「それは嫌」
「あっそう」
「だって、“Reserved”だよ? うちは目に見える形でもずっとカズのものでありたいし」
ちきしょい、我が彼女ながら可愛すぎかよ知ってた! あーもう、もうちょっとしたらガチなヤツ贈りますんで! 出すところでは出すのを厭わないことに定評のある俺だ、その時のためにしっかり今からお金の管理をしておかないと。ちなみにReservedは指輪の内側の刻印です。
ただ、割と現実問題として指輪に関するトラブルとしては上位にあると思うんだ、紛失って。少しでもそのリスクを減らすための対策は練っておかなくちゃなとは思う。近々リングホルダーでも買いに行くか?
「慧梨夏、とりあえずさ、サークルで外す時は財布とか、チャックついてるところにしまっとくのが一番現実的じゃないかと思うんだよ」
「チャックついてるのって小銭入れでしょ? 何か小銭臭くなっちゃいそうだね」
「あ、わかる。あと小銭と擦れて傷付きそう」
「携帯出来るケースみたいのがあればいいのかな」
「そうだろうなあ」
「でも今日はもう雑貨屋さんとか閉まっちゃうだろうから、今度探してみるよ。ネットで下調べしてもいいかもね」
「今チラ見してみるか」
「そうだね。あっ、うちので見ます。カズは串をお願いします」
そう言って慧梨夏がスマホを取り出して画面を立ち上げたその時。また顔が変わったのだ。
「ちょっとカズ、すっごい」
「どうした」
「美弥子サンからライン入ってたんだけど、エスパー?」
姉ちゃんから慧梨夏へのラインは、誕生日プレゼントの確認だった。姉ちゃんは人とのダブりを避けるのとその人の希望に沿った物を贈る目的で、プレゼントを渡す前に本人や周りの人に相談する。で、慧梨夏への確認として入っていたのが……。
「携帯用ジュエリーポーチとか! ねえカズ、タイムリー過ぎない!?」
「姉ちゃん神かよ……」
「あれっ。って言うかカズが指輪くれることも全部読まれてたみたいな?」
「その辺はまあ、姉弟だからということにしとくわ」
慧梨夏の誕生日に指輪を贈ろうと思うんだ、という話は1人にしかしていない。あの野郎、姉ちゃんに漏らしやがったな。まあ、今回は姉ちゃんの機転に免じて許してやろう。割とマジで助かりました。
実際、指輪を外すシチュエーションがあるとわかっているのは同じサークルで日頃から一緒にやってる姉ちゃんだからこそだ。財布の小銭入れとかじゃなくてちゃんとした可愛いポーチで。その辺は女心なのか、さすがです。
「美弥子サンに即返信するでしょこれ」
「あの、俺からも助かりますって送っといて」
「了解」
「ちなみに慧梨夏、お前姉ちゃんの誕生日に何あげてたっけ」
「ネギの種とプランター。あと土と肥料」
「そうだった」
少しツメは甘かったけど、何はともあれプレプロポーズ的なことには成功したし後は今後どうするかだ。今後っていうのは、ガチなプロポーズのこと。タイミングなんだよな。はてさて、どうしたものか。
end.
++++
「君に捧ぐブルーサファイア」に関連するいちえりちゃんのお話。指輪の扱いをどうしようっていうお話でした。
多分慧梨夏は慣れるまではいろいろな意味でそわそわするだろうし、手の違和感と言うか、異物と言うか、そんなような物との付き合い方もこれから大事になるのかしら
でwww どこからか美弥子サンに情報が漏洩していた件www いち氏がそんな大事な話を事前に相談する相手なんて1人しかいないんだよなあ……
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