2018(03)
■かーさんを中心に回る世界
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放送サークルABCのサークル室に、今日もカタカタカタとミシンの走る音がする。お世辞にも綺麗だとは言えない部屋も、その一角だけは綺麗に整頓されていて、窓から差し込む光もそこを聖域のように照らしている。
多分この時期はどこの大学さんもだと思うけど、青女も例外になく大学祭に向けて動き出していた。青女の学祭は10月最終週の週末。あと1ヶ月でアタシたちはステージと喫茶店の準備をしなくちゃいけない。
「さとちゃん、そろそろ休んだら?」
「ありがとうございます。でも、もう少しでキリが良くなるのでそこまで行ったら少し休みます」
「そう。無理はしないでね。家でもやってくれてるんでしょ?」
「家でもやってますけど、大丈夫ですよ」
ABCの衣装担当は、生活科学部……平たく言えば家政科のさとちゃん。被服の分野が得意で、これまでもステージ衣装をその都度作ってくれていた。今回の学祭ではステージ衣装の他に喫茶店で着るメイド服を作ってくれることになっている。
「紗希先輩、よかったらおやきつまんでくださいね」
「ありがとう。でも、おやきなんてどうしたの?」
「ちょっと、おやきの粉っていうのをもらったので作ってみたんです。中身は野沢菜の他にもいろいろアレンジしてみたんですけど」
「じゃあ、いただきます」
さとちゃんお手製のおやきを半分に割ると、中から出てきたのはカボチャあん。これは食事と言うよりおやつタイプの味なのかな。おやきなんて向島じゃなかなか食べないけど、腹持ちがよさそうだし美味しい。さすがさとちゃん。
「おはよーございまーす」
「あーっ! 何か美味しそうなのがあるー! このおまんじゅうもしかしてさと先輩ですかー!?」
「さすがサドニナ、挨拶もそこそこに食べ物に食いつく」
「うるさいよユキ! じゃあユキの分はありませーん」
「サドニナの決めることじゃありませーん」
1年生は今日も元気があって大変よろしい。夏を経てABCからはミラが脱退したけど、あれからミラはお隣の手芸サークルに入って楽しくやっていると聞いた。そしてその穴を埋めるようにと言うのも変だけど、秋の初回に見学の子も来てくれた。まだまだ活気が生まれそう。
「さとかーさん、おまんじゅうくださいな」
「くださいなー」
「おかーさんて言う子にはあげませんよ」
「さと先輩くださいな」
「あたしは言ってないけどさと先輩くださいなー」
「はいどうぞ」
「やったー!」
「いただきまーす」
「あと、これは厳密にはおやきっていって、長篠の郷土料理の一種で――」
「さとちゃん、サドニナもユキちゃんも解説聞いてないよ」
「ええっ!? ユキちゃん、郷土食関係の授業取ってない?」
「とってないでーす」
さとちゃんの解説もそこそこにおやきに食いつくサドニナとユキちゃんがハイエナかピラニアかって勢いだし、解説をスルーされたさとちゃんはしょんぼり。ユキちゃんはさとちゃんと同じ生活科学部だけど、衣食住の住メインだから食の授業はあまり履修してないみたい。
この一連の流れの間に手を止めていたからと、さとちゃんは再びミシンを走らせる。それが興味深いのか、それとも自分の衣装だったらいいなと思っているのかサドニナとユキちゃんが取り囲む。言ったら怒られそうだけど、“さとかーさん”っていうのもわからないでもない。
「て言うかさと先輩急におやきなんて、そんな授業でも取ってたんですか?」
「ううん、長篠の人からおやきの粉っていうのをもらったから作ってみたんだよ」
「へー、地域が違えばいろいろあるんですね」
「スーパーとかでホットケーキミックス感覚で買えるみたいだよ」
「ミドリに聞いてみようかなあ、おやきの粉知ってるかって」
「あっ、そうだ。ミドリ君も長篠だったよね」
ユキちゃんは本当にメールを作り始めたし、そのメールに添付するのかおやきの写真を撮っている。サドニナは相変わらず衣装の周りをぐるぐると回っていて、そのうちバターになるんじゃないかな。
「そう言えばさとちゃん、Kちゃんと直クンは?」
「執事服を見てくるって言ってました」
ちなみに今回の喫茶店では1・3年生のメイドと2年生の執事さんがお出迎えします。あっ、でもさとちゃんは執事という柄じゃないのと本人の希望で皿洗いなどのキッチン担当です。メインは延々とクッキーを焼くお仕事。お察しでしょうが、ABCのイベントはさとちゃんで回ってるよね。
「そうそうさとちゃん。アヤネちゃんがね、実家のブドウジュースを格安で入荷してくれるそうなんだよね。採用する?」
「えっ、それはみんなで話し合ってですけど私は採用したいです」
「サドニナ、ユキちゃん。アヤネちゃんちのブドウジュースは果汁100%で本当に美味しいの」
「紗希先輩、あたしたちアヤネさんと面識ないです」
「えっ、そしたらもしかしてヒメちゃんとも面識ない?」
「ないですね」
これがもしかしてジェネレーションギャップ…? そっか、確かにこの部屋では2人と会ってなかったかも。まあいいや。とりあえず今はブドウジュースの件をヒビキたちが来たら話し合う準備をしておいて、っと。
「あ、ミドリ。おやきの粉普通にあるって」
「そんな話してたねそう言えば」
end.
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ABCの秋初回です。さとちゃんが糸魚川呉服店としてのお仕事に邁進しています。そしておやきです。長野っちからもらったんやろなあ。
ABCのイベントは確かにさとちゃんで回ってるんですね。衣装だとかクッキーだとか、目に見えて大事なところ。ステージは啓子さん担当です。
そういやレオンの名前は久々に出てきたけど高菜過激派はご無沙汰である。はっ……そういや今年は高菜年。過激派の出番だああああ
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放送サークルABCのサークル室に、今日もカタカタカタとミシンの走る音がする。お世辞にも綺麗だとは言えない部屋も、その一角だけは綺麗に整頓されていて、窓から差し込む光もそこを聖域のように照らしている。
多分この時期はどこの大学さんもだと思うけど、青女も例外になく大学祭に向けて動き出していた。青女の学祭は10月最終週の週末。あと1ヶ月でアタシたちはステージと喫茶店の準備をしなくちゃいけない。
「さとちゃん、そろそろ休んだら?」
「ありがとうございます。でも、もう少しでキリが良くなるのでそこまで行ったら少し休みます」
「そう。無理はしないでね。家でもやってくれてるんでしょ?」
「家でもやってますけど、大丈夫ですよ」
ABCの衣装担当は、生活科学部……平たく言えば家政科のさとちゃん。被服の分野が得意で、これまでもステージ衣装をその都度作ってくれていた。今回の学祭ではステージ衣装の他に喫茶店で着るメイド服を作ってくれることになっている。
「紗希先輩、よかったらおやきつまんでくださいね」
「ありがとう。でも、おやきなんてどうしたの?」
「ちょっと、おやきの粉っていうのをもらったので作ってみたんです。中身は野沢菜の他にもいろいろアレンジしてみたんですけど」
「じゃあ、いただきます」
さとちゃんお手製のおやきを半分に割ると、中から出てきたのはカボチャあん。これは食事と言うよりおやつタイプの味なのかな。おやきなんて向島じゃなかなか食べないけど、腹持ちがよさそうだし美味しい。さすがさとちゃん。
「おはよーございまーす」
「あーっ! 何か美味しそうなのがあるー! このおまんじゅうもしかしてさと先輩ですかー!?」
「さすがサドニナ、挨拶もそこそこに食べ物に食いつく」
「うるさいよユキ! じゃあユキの分はありませーん」
「サドニナの決めることじゃありませーん」
1年生は今日も元気があって大変よろしい。夏を経てABCからはミラが脱退したけど、あれからミラはお隣の手芸サークルに入って楽しくやっていると聞いた。そしてその穴を埋めるようにと言うのも変だけど、秋の初回に見学の子も来てくれた。まだまだ活気が生まれそう。
「さとかーさん、おまんじゅうくださいな」
「くださいなー」
「おかーさんて言う子にはあげませんよ」
「さと先輩くださいな」
「あたしは言ってないけどさと先輩くださいなー」
「はいどうぞ」
「やったー!」
「いただきまーす」
「あと、これは厳密にはおやきっていって、長篠の郷土料理の一種で――」
「さとちゃん、サドニナもユキちゃんも解説聞いてないよ」
「ええっ!? ユキちゃん、郷土食関係の授業取ってない?」
「とってないでーす」
さとちゃんの解説もそこそこにおやきに食いつくサドニナとユキちゃんがハイエナかピラニアかって勢いだし、解説をスルーされたさとちゃんはしょんぼり。ユキちゃんはさとちゃんと同じ生活科学部だけど、衣食住の住メインだから食の授業はあまり履修してないみたい。
この一連の流れの間に手を止めていたからと、さとちゃんは再びミシンを走らせる。それが興味深いのか、それとも自分の衣装だったらいいなと思っているのかサドニナとユキちゃんが取り囲む。言ったら怒られそうだけど、“さとかーさん”っていうのもわからないでもない。
「て言うかさと先輩急におやきなんて、そんな授業でも取ってたんですか?」
「ううん、長篠の人からおやきの粉っていうのをもらったから作ってみたんだよ」
「へー、地域が違えばいろいろあるんですね」
「スーパーとかでホットケーキミックス感覚で買えるみたいだよ」
「ミドリに聞いてみようかなあ、おやきの粉知ってるかって」
「あっ、そうだ。ミドリ君も長篠だったよね」
ユキちゃんは本当にメールを作り始めたし、そのメールに添付するのかおやきの写真を撮っている。サドニナは相変わらず衣装の周りをぐるぐると回っていて、そのうちバターになるんじゃないかな。
「そう言えばさとちゃん、Kちゃんと直クンは?」
「執事服を見てくるって言ってました」
ちなみに今回の喫茶店では1・3年生のメイドと2年生の執事さんがお出迎えします。あっ、でもさとちゃんは執事という柄じゃないのと本人の希望で皿洗いなどのキッチン担当です。メインは延々とクッキーを焼くお仕事。お察しでしょうが、ABCのイベントはさとちゃんで回ってるよね。
「そうそうさとちゃん。アヤネちゃんがね、実家のブドウジュースを格安で入荷してくれるそうなんだよね。採用する?」
「えっ、それはみんなで話し合ってですけど私は採用したいです」
「サドニナ、ユキちゃん。アヤネちゃんちのブドウジュースは果汁100%で本当に美味しいの」
「紗希先輩、あたしたちアヤネさんと面識ないです」
「えっ、そしたらもしかしてヒメちゃんとも面識ない?」
「ないですね」
これがもしかしてジェネレーションギャップ…? そっか、確かにこの部屋では2人と会ってなかったかも。まあいいや。とりあえず今はブドウジュースの件をヒビキたちが来たら話し合う準備をしておいて、っと。
「あ、ミドリ。おやきの粉普通にあるって」
「そんな話してたねそう言えば」
end.
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ABCの秋初回です。さとちゃんが糸魚川呉服店としてのお仕事に邁進しています。そしておやきです。長野っちからもらったんやろなあ。
ABCのイベントは確かにさとちゃんで回ってるんですね。衣装だとかクッキーだとか、目に見えて大事なところ。ステージは啓子さん担当です。
そういやレオンの名前は久々に出てきたけど高菜過激派はご無沙汰である。はっ……そういや今年は高菜年。過激派の出番だああああ
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