2018(03)
■22センチのステップスツール
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折り畳み式の踏み台を手に、高崎先輩はずんずん進んでいく。置いて行かれないように早足でついて行くと、普段は入っていくことのない建物の裏側の細い道にいた。軽い感じのドアが開き、失礼しますと高崎先輩が入っていく後ろをハナも失礼しますと恐る恐る歩を進めた。
通路では、白衣を着た人たちがバタバタと銀色の車を引いている。奥の方の隙間からは、流れるレーンの上をお皿がすーっと動いていくのが見える。そう、ここは緑ヶ丘大学第1食堂の事務所。入って来たのは裏口でした。
MBCCでは通年で昼放送をこの第1食堂でやらせてもらっている。学期が始まる時と終わった時に、高崎先輩やカズ先輩が食堂の店長さんに挨拶をしに来てるんだって。で、今日はその挨拶に何故かハナも連れて来られて。
「――ということで、秋学期もよろしくお願いします」
「はい。またよろしくお願いします。ちなみに10月からのフェア情報がこれ」
「ありがとうございます」
ちなみにこの間ハナは高崎先輩の後ろで大人しくしてました。しょぼーん。
「ハナ、これがフェア情報だ」
「カレーフェアいいですねー」
「で、その次が中部うまいもんフェアだな」
「高崎先輩、ソースカツ丼ですって!」
「俺が好きなのはキャベツの上にカツが乗ってる長篠式で、こっちじゃねえんだよな。つかお前こそ、緑風のラーメンもあるじゃねえか」
「このラーメン辛いからご飯と一緒に食べないといけないんですよ。炭水化物オン炭水化物とかしょぼんじゃないですか」
「てめェ俺にケンカ売ってんのか」
「売ってないですけど、ハナはラーメン8号派なので」
「あー、何か菜月も言ってたな。何でもかんでも色系ラーメンにすりゃいいってモンじゃねえとか」
「それですよ! さすがなっち先輩ですよ! 緑風魂です!」
夏合宿の時に少し話したんだけど、なっち先輩はラーメン8号の野菜塩らーめんが好きなんだそうだ。Cセット派らしい。ハナは小さなAセット派。これはわかる人だけわかってくれれば問題ないローカルネタです。
って言うか高崎先輩は炭水化物オン炭水化物の権化とも言えるんだった……ハナがバイトしてるパン屋のラインナップでも、ザ・炭水化物って感じの惣菜パンが好きだもんね。例外はメープルくるみカステラ。甘いとか重いとか恋愛かよって感じです、しょぼーん。
「で、お前を連れて来た本題だ」
「あっ、そうでした! どうしてハナは店長への挨拶に連れて来られたんですか!」
「これが昼放送で使う機材になるワケだが――」
普段は有線放送を流している機材にポータブル機を基本的には2台繋いで放送をするという仕組みなんだって。BGM用とM用に機材を分けるミキサーさんが多いみたい。で、アナウンサーはマイクの位置関係上壁に向かってトークをする、と。キューシートは壁に貼るんだって。
「ハナ、ちょっとマイクの前に付いてみろ」
「えっ、って言うかマイクこれです? 高さが全然合わなくてしょぼんなんですけど」
「あー……やっぱ高すぎたか」
ちなみにハナの身長は143センチ。高崎先輩が言うには、身長が160センチ前後でまあ何とかそれらしいマイクポジションに出来るそうだけど……とのこと。なるほど、ハナがチビだからまず下見に来させたのね。
「角度もこれ以上下向きにはならねえしな。しょうがねえ、コイツの出番か」
「あっ、踏み台!」
「これで高さが22センチある。お前身長いくつだ」
「143です」
「だったら165くらいにはなるのか。ついでだしエージのシミュレーションもしとくか」
ハナは踏み台に乗ったまま、マイクに向かって真っすぐ立っているだけの仕事。高崎先輩が脇でマイクのセッティングをしてくれて、大体こんな感じかなと確認をしてくれている。って言うかこの踏み台ハナ用だったんだ。
「ま、こんなモンか。店長すみません、この踏み台事務所に置かせてもらうことって出来ますか」
「大丈夫だよー。僕も上の方の資料取ったりするのに使っていい?」
「どうぞ。難ならMBCCから事務所に寄贈しましょうか。で、ウチも半永久的に使わせてもらう感じで」
「ありがとう、助かるよ。欲しかったんだこういうの。今まで回転イスに上って資料取ってたでしょ。歳を取ると危なくてさ」
あれよあれよと高崎先輩と店長の間で商談成立。踏み台は食堂事務所の所有になったけど、MBCCも昼放送で必要になった場合は自由に使っていいということになりました。
「これで万事解決だな」
「そうですねー……って! えっ、これハナ秋学期の昼放送内定してるってことでいいんですか!」
「ま、そういうことだな。曜日とペアは今日のサークルで正式に発表する。お前用に踏み台買ったの無駄にしないように精進しろよ」
「ありがとうございまーす、しょぼーん」
end.
++++
高崎といち氏の間でハナちゃんの身長についての話をしていた記憶があります。で、踏み台を買って来ました。
挨拶の様子を見ていたことがいつか何かの役に立つかしら、ハナちゃんら1年生の代になったときなんかに
ちなみに160センチ前後でそれらしくなるということは、エイジとゴティ先輩も何気に厳しかったりするんですね
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折り畳み式の踏み台を手に、高崎先輩はずんずん進んでいく。置いて行かれないように早足でついて行くと、普段は入っていくことのない建物の裏側の細い道にいた。軽い感じのドアが開き、失礼しますと高崎先輩が入っていく後ろをハナも失礼しますと恐る恐る歩を進めた。
通路では、白衣を着た人たちがバタバタと銀色の車を引いている。奥の方の隙間からは、流れるレーンの上をお皿がすーっと動いていくのが見える。そう、ここは緑ヶ丘大学第1食堂の事務所。入って来たのは裏口でした。
MBCCでは通年で昼放送をこの第1食堂でやらせてもらっている。学期が始まる時と終わった時に、高崎先輩やカズ先輩が食堂の店長さんに挨拶をしに来てるんだって。で、今日はその挨拶に何故かハナも連れて来られて。
「――ということで、秋学期もよろしくお願いします」
「はい。またよろしくお願いします。ちなみに10月からのフェア情報がこれ」
「ありがとうございます」
ちなみにこの間ハナは高崎先輩の後ろで大人しくしてました。しょぼーん。
「ハナ、これがフェア情報だ」
「カレーフェアいいですねー」
「で、その次が中部うまいもんフェアだな」
「高崎先輩、ソースカツ丼ですって!」
「俺が好きなのはキャベツの上にカツが乗ってる長篠式で、こっちじゃねえんだよな。つかお前こそ、緑風のラーメンもあるじゃねえか」
「このラーメン辛いからご飯と一緒に食べないといけないんですよ。炭水化物オン炭水化物とかしょぼんじゃないですか」
「てめェ俺にケンカ売ってんのか」
「売ってないですけど、ハナはラーメン8号派なので」
「あー、何か菜月も言ってたな。何でもかんでも色系ラーメンにすりゃいいってモンじゃねえとか」
「それですよ! さすがなっち先輩ですよ! 緑風魂です!」
夏合宿の時に少し話したんだけど、なっち先輩はラーメン8号の野菜塩らーめんが好きなんだそうだ。Cセット派らしい。ハナは小さなAセット派。これはわかる人だけわかってくれれば問題ないローカルネタです。
って言うか高崎先輩は炭水化物オン炭水化物の権化とも言えるんだった……ハナがバイトしてるパン屋のラインナップでも、ザ・炭水化物って感じの惣菜パンが好きだもんね。例外はメープルくるみカステラ。甘いとか重いとか恋愛かよって感じです、しょぼーん。
「で、お前を連れて来た本題だ」
「あっ、そうでした! どうしてハナは店長への挨拶に連れて来られたんですか!」
「これが昼放送で使う機材になるワケだが――」
普段は有線放送を流している機材にポータブル機を基本的には2台繋いで放送をするという仕組みなんだって。BGM用とM用に機材を分けるミキサーさんが多いみたい。で、アナウンサーはマイクの位置関係上壁に向かってトークをする、と。キューシートは壁に貼るんだって。
「ハナ、ちょっとマイクの前に付いてみろ」
「えっ、って言うかマイクこれです? 高さが全然合わなくてしょぼんなんですけど」
「あー……やっぱ高すぎたか」
ちなみにハナの身長は143センチ。高崎先輩が言うには、身長が160センチ前後でまあ何とかそれらしいマイクポジションに出来るそうだけど……とのこと。なるほど、ハナがチビだからまず下見に来させたのね。
「角度もこれ以上下向きにはならねえしな。しょうがねえ、コイツの出番か」
「あっ、踏み台!」
「これで高さが22センチある。お前身長いくつだ」
「143です」
「だったら165くらいにはなるのか。ついでだしエージのシミュレーションもしとくか」
ハナは踏み台に乗ったまま、マイクに向かって真っすぐ立っているだけの仕事。高崎先輩が脇でマイクのセッティングをしてくれて、大体こんな感じかなと確認をしてくれている。って言うかこの踏み台ハナ用だったんだ。
「ま、こんなモンか。店長すみません、この踏み台事務所に置かせてもらうことって出来ますか」
「大丈夫だよー。僕も上の方の資料取ったりするのに使っていい?」
「どうぞ。難ならMBCCから事務所に寄贈しましょうか。で、ウチも半永久的に使わせてもらう感じで」
「ありがとう、助かるよ。欲しかったんだこういうの。今まで回転イスに上って資料取ってたでしょ。歳を取ると危なくてさ」
あれよあれよと高崎先輩と店長の間で商談成立。踏み台は食堂事務所の所有になったけど、MBCCも昼放送で必要になった場合は自由に使っていいということになりました。
「これで万事解決だな」
「そうですねー……って! えっ、これハナ秋学期の昼放送内定してるってことでいいんですか!」
「ま、そういうことだな。曜日とペアは今日のサークルで正式に発表する。お前用に踏み台買ったの無駄にしないように精進しろよ」
「ありがとうございまーす、しょぼーん」
end.
++++
高崎といち氏の間でハナちゃんの身長についての話をしていた記憶があります。で、踏み台を買って来ました。
挨拶の様子を見ていたことがいつか何かの役に立つかしら、ハナちゃんら1年生の代になったときなんかに
ちなみに160センチ前後でそれらしくなるということは、エイジとゴティ先輩も何気に厳しかったりするんですね
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