2018(02)
■今日を戦うための金棒
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映研では学祭で公開する短編映画の撮影に入っていて、秋学期が始まるまでが撮影の勝負時。あたしは今回の作品の脚本家として、毎日出て来て監督先輩と話し合う日々。
制作が立て込むと徹夜になることもある。それは別にいいんだけど、それよりも大きな問題があって。今回はエキストラの人にも出てもらっている。外部からも募集をして、幅広く。そのエキストラさんが、ちょっと。
背が高くてイタリア系の男の人が、やたらあたしに絡んで来る。綺麗な女の人にナンパしてたから、監督先輩に言われて注意したらあたしがその人を好きなことにされて。しかも脚本にもケチをつけて来るし。特別に教えてあげていいよとか言われても、結構ですって感じだし。
「は~……監督せんぱぁい、あの人本当に何とかしてください」
「何遍言っても聞かないしな」
「は~……休憩してきていいですか」
「行って来い。その死んだ顔を何とかしろ」
そりゃ顔も死にますよね。監督先輩と話し合っているところにまでやって来て、僕と彼女(ナンパしていた綺麗な女の人)を主演に据えれば画面が映えるからそうしろーなんて言って来るし。
甘い物でも飲もうと自販機か購買に向かっていると、放送部の大きい方の部室から人が出て来た。肩にかかったカーディガンは、間違いなく朝霞クンだ。朝霞クンも大学に来てたんだ。ちょっとラッキー。
「お、伏見」
「朝霞クン――ってクマすごっ! えっ、徹夜明け?」
「ちょうど作品出展のラジオドラマが完成して、その報告を監査にだな。お前は映研の撮影か?」
「うん」
「そうか、学祭に向かってんだなどこも。ウチはこれからだ」
「あ、そうだ。こないだのお土産、伏見家とハルちゃんとちーで美味しくいただきました」
「お粗末様でした。秋学期もよろしくお願いします」
朝霞クンとはゼミの友達で、個人研究とは別に課せられているペア研究の相方でもある。だけど春学期のペア研究はほとんどあたしがひとりでやってましたよね! 朝霞クンは夏のステージで忙しかったし。
その罪滅ぼしと言うかお詫びなのか、帰省から戻って来た朝霞クンはあたしに地元のお土産をくれた。美味しいお菓子だったなあ。そこでもしっかり学祭が終わるまではよろしくお願いしますと念押しを。
「と言うか、お前も人のこと言えない顔してるぞ。目付きが凶悪だ」
「エキストラの人がねー。それで息抜きに散歩と言うか、甘いものを調達する旅に」
「ああ、例のか。甘い物だったら、これやるよ」
「えっ、懐かしい。ココアシガレットって」
煙草のパッケージを模した紺色の箱に入った砂糖菓子のアレ。朝霞クンも自分のそれを銜えてぷらぷらとしている。あたしも後で食べよう。確かココアの他にもコーラとかソーダとかいろいろあったよね。
「それより朝霞クンは寝なくて大丈夫なの? 顔ヤバいよ」
「今日はさすがに普通に寝る。でもその前にちゃんとした飯を食わなきゃな。何食べようかな。ビールも飲みたいし」
「最近朝晩は涼しくなってきたもんね。あったかい物でもいいかもね。ロールキャベツとか」
「ああー…! いいな、ロールキャベツ。でも自分じゃ作れないから買うか食いに行くかしないとな」
「今時はコンビニでも買えちゃうもんね。おひとり様サイズのお惣菜とかもあるし」
「でも、独りでレトルトをあっためて、それをもそもそ食ってんのって侘しいモンだぞ」
「レトルトあっためてご飯の支度してる朝霞クンを想像したら、何か可愛い」
「何だよお前、どうせ俺は1人暮らししてんのに料理すら出来るようになってねーよ」
「あはは、ゴメンって! あたしで良かったらいつでもご飯付き合いますよ?」
あーっ! 話の勢いで思わず言っちゃったけど、えっ、どうしよう急に恥ずかしくなってきた! でっ、でもご飯くらいね。誰とでも……は行かないけど、朝霞クンは普通に友達だし、ペア研究の相方なんだから一緒にご飯を食べるくらい普通です普通!
「伏見、俺に妙案があるんだが聞いてくれるか」
「聞きます」
「伏見はロールキャベツを俺の部屋で作る、または作った物を持って来る」
「うん」
「それを食いながら、お前の溜め込んでる物を全部吐き出してくれれば、それはもう周りが呆れるくらいバッサリと斬ってやる。例のエキストラのことでもペア研究のことでも何でも。あ、ペア研究は大体俺が悪いのか」
「恋愛のことでもですか!」
「ああ、何でもな」
って言うか、ペア研究に関してはともかく、恋愛に関しては全く自覚がないみたいですね! 言ってないから伝わってないのは当たり前だけど、それでこそ朝霞クンですよね!
「て言うかそれって朝霞クンがロールキャベツ食べたいだけなんじゃ。あ、作る分には全然オッケーです」
「出来れば明日か明後日がいいな。それ以降は俺がモードに入るから」
「了解です。じゃあ明日行くよ」
「部屋片しとく。じゃ、俺はそろそろ帰ります。撮影、頑張れよ」
「ありがと。お疲れでーす。朝霞クン自転車気を付けてね!」
もらったココアシガレットの箱をジッと見て。これは頑張れるなー。エキストラの人が何て言って来ても関係ないって思える力になる。明日を楽しみにあたしは今日を乗り切ろう。
end.
++++
朝霞Pがチャリ通をしていることが明らかになった回。確かに寝不足の状態でチャリンコは何気に危なっかしい。
しかし、片付けが苦手な朝霞Pが人を部屋に招くからという理由でどこまで片付けが出来るのか! ラジドラやってたんなら悲惨なことになってるはずだが
あと、ココアシガレットの出所はどこだったんだろうね。砂糖菓子だから頭回りそうって理由でポリポリしてたのかしら
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映研では学祭で公開する短編映画の撮影に入っていて、秋学期が始まるまでが撮影の勝負時。あたしは今回の作品の脚本家として、毎日出て来て監督先輩と話し合う日々。
制作が立て込むと徹夜になることもある。それは別にいいんだけど、それよりも大きな問題があって。今回はエキストラの人にも出てもらっている。外部からも募集をして、幅広く。そのエキストラさんが、ちょっと。
背が高くてイタリア系の男の人が、やたらあたしに絡んで来る。綺麗な女の人にナンパしてたから、監督先輩に言われて注意したらあたしがその人を好きなことにされて。しかも脚本にもケチをつけて来るし。特別に教えてあげていいよとか言われても、結構ですって感じだし。
「は~……監督せんぱぁい、あの人本当に何とかしてください」
「何遍言っても聞かないしな」
「は~……休憩してきていいですか」
「行って来い。その死んだ顔を何とかしろ」
そりゃ顔も死にますよね。監督先輩と話し合っているところにまでやって来て、僕と彼女(ナンパしていた綺麗な女の人)を主演に据えれば画面が映えるからそうしろーなんて言って来るし。
甘い物でも飲もうと自販機か購買に向かっていると、放送部の大きい方の部室から人が出て来た。肩にかかったカーディガンは、間違いなく朝霞クンだ。朝霞クンも大学に来てたんだ。ちょっとラッキー。
「お、伏見」
「朝霞クン――ってクマすごっ! えっ、徹夜明け?」
「ちょうど作品出展のラジオドラマが完成して、その報告を監査にだな。お前は映研の撮影か?」
「うん」
「そうか、学祭に向かってんだなどこも。ウチはこれからだ」
「あ、そうだ。こないだのお土産、伏見家とハルちゃんとちーで美味しくいただきました」
「お粗末様でした。秋学期もよろしくお願いします」
朝霞クンとはゼミの友達で、個人研究とは別に課せられているペア研究の相方でもある。だけど春学期のペア研究はほとんどあたしがひとりでやってましたよね! 朝霞クンは夏のステージで忙しかったし。
その罪滅ぼしと言うかお詫びなのか、帰省から戻って来た朝霞クンはあたしに地元のお土産をくれた。美味しいお菓子だったなあ。そこでもしっかり学祭が終わるまではよろしくお願いしますと念押しを。
「と言うか、お前も人のこと言えない顔してるぞ。目付きが凶悪だ」
「エキストラの人がねー。それで息抜きに散歩と言うか、甘いものを調達する旅に」
「ああ、例のか。甘い物だったら、これやるよ」
「えっ、懐かしい。ココアシガレットって」
煙草のパッケージを模した紺色の箱に入った砂糖菓子のアレ。朝霞クンも自分のそれを銜えてぷらぷらとしている。あたしも後で食べよう。確かココアの他にもコーラとかソーダとかいろいろあったよね。
「それより朝霞クンは寝なくて大丈夫なの? 顔ヤバいよ」
「今日はさすがに普通に寝る。でもその前にちゃんとした飯を食わなきゃな。何食べようかな。ビールも飲みたいし」
「最近朝晩は涼しくなってきたもんね。あったかい物でもいいかもね。ロールキャベツとか」
「ああー…! いいな、ロールキャベツ。でも自分じゃ作れないから買うか食いに行くかしないとな」
「今時はコンビニでも買えちゃうもんね。おひとり様サイズのお惣菜とかもあるし」
「でも、独りでレトルトをあっためて、それをもそもそ食ってんのって侘しいモンだぞ」
「レトルトあっためてご飯の支度してる朝霞クンを想像したら、何か可愛い」
「何だよお前、どうせ俺は1人暮らししてんのに料理すら出来るようになってねーよ」
「あはは、ゴメンって! あたしで良かったらいつでもご飯付き合いますよ?」
あーっ! 話の勢いで思わず言っちゃったけど、えっ、どうしよう急に恥ずかしくなってきた! でっ、でもご飯くらいね。誰とでも……は行かないけど、朝霞クンは普通に友達だし、ペア研究の相方なんだから一緒にご飯を食べるくらい普通です普通!
「伏見、俺に妙案があるんだが聞いてくれるか」
「聞きます」
「伏見はロールキャベツを俺の部屋で作る、または作った物を持って来る」
「うん」
「それを食いながら、お前の溜め込んでる物を全部吐き出してくれれば、それはもう周りが呆れるくらいバッサリと斬ってやる。例のエキストラのことでもペア研究のことでも何でも。あ、ペア研究は大体俺が悪いのか」
「恋愛のことでもですか!」
「ああ、何でもな」
って言うか、ペア研究に関してはともかく、恋愛に関しては全く自覚がないみたいですね! 言ってないから伝わってないのは当たり前だけど、それでこそ朝霞クンですよね!
「て言うかそれって朝霞クンがロールキャベツ食べたいだけなんじゃ。あ、作る分には全然オッケーです」
「出来れば明日か明後日がいいな。それ以降は俺がモードに入るから」
「了解です。じゃあ明日行くよ」
「部屋片しとく。じゃ、俺はそろそろ帰ります。撮影、頑張れよ」
「ありがと。お疲れでーす。朝霞クン自転車気を付けてね!」
もらったココアシガレットの箱をジッと見て。これは頑張れるなー。エキストラの人が何て言って来ても関係ないって思える力になる。明日を楽しみにあたしは今日を乗り切ろう。
end.
++++
朝霞Pがチャリ通をしていることが明らかになった回。確かに寝不足の状態でチャリンコは何気に危なっかしい。
しかし、片付けが苦手な朝霞Pが人を部屋に招くからという理由でどこまで片付けが出来るのか! ラジドラやってたんなら悲惨なことになってるはずだが
あと、ココアシガレットの出所はどこだったんだろうね。砂糖菓子だから頭回りそうって理由でポリポリしてたのかしら
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