2018(02)
■フェイク・ダンス・ダンス
++++
「芹ちゃーん、いるー?」
「おう、どうした和泉」
「今日はねえ、ちょっと紹介したい子がいるんだ~」
大学祭に向けて活動を始めたブルースプリングというバンドは、グダグダながらも何となく動き始めていた。学祭の中夜祭でライブをやるというのが目的で、基本的には春山さんの気紛れで動くことになっている。
今日はスタジオ練習日。先に来ていたオレと春山さんが青山さんを迎え入れようとすると、その後ろからは見知らぬ女の影。この女は容姿端麗と言うのが適しているだろう。今は青山さんの後ろからこちらを窺っているようだ。
「何だ和泉、お前の女か。そーかそーか、ようやくお前にも」
「違いますぅー」
「じゃあ何だ」
「俺が今演劇部の新しい舞台の音楽監修をしてるって話はしたでしょ?」
「あー……何か聞いた気もするけどよく覚えてない」
「じゃあ今しました。彼女は演劇部の看板女優さんで、俺が音楽監修をしてる舞台でも主演を務める綾瀬香菜子ちゃん」
「演劇部の綾瀬です」
「で? その看板女優サンがこの現場に何の用事で?」
「俺が連れ回してるの。香菜子ちゃんの話を聞いてると、ブルースプリングとはきっと相性がいいと思って」
「ふーん」
――などと話を聞きながらも、春山さんは綾瀬という女に対する警戒を全く解いていない。青山さんの紹介だから一応身分ははっきりしているのでは、と聞けば、青山さんの紹介だからこそ警戒しなければならないのだと。
そもそも、青山さんという人はいかにもな好青年のような顔をしながらとんでもない変態であるということがわかってきた。そもそも、あの春山さんを芹ちゃんなどと珍妙な呼び方をする時点で察するべきであったが。
曰く、春山さんとは恋人関係にあったとのこと。友人の時と特に付き合い方が変わらなかったことから関係は解消したようだが、都合のいいときに肉体関係を持つなど自堕落な関係を続けているそうだ。
それとは別に、音楽や映画関係のトピックについては純粋に話が合うのだ。どういった名前の関係であろうとあっさりとした付き合いを続けているのは、趣味や嗜好の合う同士のような物だからだろう。
ともかく、青山さんの偏愛の対象となっている春山さんからすれば、青山さんの一挙手一投足に裏があるように思えるそうだ。確かに、春山さんとよく似た娘を作るとか言う人がまともな神経をしているとは到底思えん。
「そういうことだから、今日は香菜子ちゃん見学で~。ねっ、いいでしょ芹ちゃんリン君」
「それは別に構いませんが。好きにしてください」
「いや、お前が連れてきたからにはただ座らせとくつもりもねーんだろ。どうせ後からネタバラしすんなら最初にやれ」
「あっさすが芹ちゃんわかってる。実はね、香菜子ちゃんは歌って踊れる女優さんなんだよ。古き良きミュージカル映画も少しやれるから、どうかなーと思って」
「マジか! えっ、Singing in the Rainは!?」
「Good Morningならすぐにでも出来ます」
「わかってるじゃねーか! ウェーイ、やるぞー!」
唐突に始まる演奏。これはオレも乗らねばならんのか? ……まあいい、やっておこう。いろいろ小道具や場所が足りないのは勘弁してくださいと綾瀬から断りが入ったところで、歌の男性パートは青山さんがドラムを叩きながら歌っている。
圧倒的な歌唱力に、ダンスにもキレがある。何より春山さんが演奏をしながらご機嫌だということは相当な完成度なのだろう。青山さんが面白いと言って連れてきた理由が少しわかったような気がしないでもない。
「はー、楽しかった! お前やるな!」
「ありがとうございます」
「ね? 芹ちゃん、香菜子ちゃん面白いでしょ?」
「いーや、まだだ。お前がそれだけの理由で連れてくるワケねーもんな。カワイイ面して何か酷い性癖があるとか、ジャガイモが欲しいとか何かまだ裏があるはずだ」
「芋欲しさかどうかはともかく、裏の顔については同感です。青山さんほどの変人が、よほどの同類でもない限り春山さんに会わせる理由はありませんからね」
「リン君言うねえ」
「カナコ、次はもうちょっと衣装を何かしようぜ。とりあえず、ギリギリまでスリットの入ったドレスだな。あとはあれだ、モンローのアレを」
「風はどう調達するんです?」
「私が扇風機で下からこう」
「アンタも大概ではないか」
春山さんがやいのやいのと好き放題言っているが、それを聞いている綾瀬もまんざらでもなさそうな様子なのが不気味だ。演劇や表現に対してはどういう扱いでも構わんというタイプの変態か?
「ええと、春山さんは女性の方……ですよね…?」
「一応な」
「……チラッ」
「おお~、いいねえ~。もう1回!」
「チラチラッ」
「清楚系の皮をかぶった変態だな~、いいね~」
何やら服の隙間から胸元を見せていたようだが、オレと青山さんからは見えないように行われていたことなので、春山さんが喜ぶ様から推測する他にない。ただ、少なくとも綾瀬はそれなりの変態であることが確定した。
「……それで青山さん、今後はどうするんです?」
「なるようになるんじゃない?」
end.
++++
ブルースプリングにカナコをお披露目しないと情報センターにいる理由もないよなあと思い出した結果です
リン春さんにはカナコをとりあえず青山さんの知り合いだからというだけの理由でボロクソに言っていてほしい
そしてカナコは相変わらず先輩さんの影響が強く及んでいるらしい。古き良き作品を摂取するようになったのは先輩さんの影響だ!
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「芹ちゃーん、いるー?」
「おう、どうした和泉」
「今日はねえ、ちょっと紹介したい子がいるんだ~」
大学祭に向けて活動を始めたブルースプリングというバンドは、グダグダながらも何となく動き始めていた。学祭の中夜祭でライブをやるというのが目的で、基本的には春山さんの気紛れで動くことになっている。
今日はスタジオ練習日。先に来ていたオレと春山さんが青山さんを迎え入れようとすると、その後ろからは見知らぬ女の影。この女は容姿端麗と言うのが適しているだろう。今は青山さんの後ろからこちらを窺っているようだ。
「何だ和泉、お前の女か。そーかそーか、ようやくお前にも」
「違いますぅー」
「じゃあ何だ」
「俺が今演劇部の新しい舞台の音楽監修をしてるって話はしたでしょ?」
「あー……何か聞いた気もするけどよく覚えてない」
「じゃあ今しました。彼女は演劇部の看板女優さんで、俺が音楽監修をしてる舞台でも主演を務める綾瀬香菜子ちゃん」
「演劇部の綾瀬です」
「で? その看板女優サンがこの現場に何の用事で?」
「俺が連れ回してるの。香菜子ちゃんの話を聞いてると、ブルースプリングとはきっと相性がいいと思って」
「ふーん」
――などと話を聞きながらも、春山さんは綾瀬という女に対する警戒を全く解いていない。青山さんの紹介だから一応身分ははっきりしているのでは、と聞けば、青山さんの紹介だからこそ警戒しなければならないのだと。
そもそも、青山さんという人はいかにもな好青年のような顔をしながらとんでもない変態であるということがわかってきた。そもそも、あの春山さんを芹ちゃんなどと珍妙な呼び方をする時点で察するべきであったが。
曰く、春山さんとは恋人関係にあったとのこと。友人の時と特に付き合い方が変わらなかったことから関係は解消したようだが、都合のいいときに肉体関係を持つなど自堕落な関係を続けているそうだ。
それとは別に、音楽や映画関係のトピックについては純粋に話が合うのだ。どういった名前の関係であろうとあっさりとした付き合いを続けているのは、趣味や嗜好の合う同士のような物だからだろう。
ともかく、青山さんの偏愛の対象となっている春山さんからすれば、青山さんの一挙手一投足に裏があるように思えるそうだ。確かに、春山さんとよく似た娘を作るとか言う人がまともな神経をしているとは到底思えん。
「そういうことだから、今日は香菜子ちゃん見学で~。ねっ、いいでしょ芹ちゃんリン君」
「それは別に構いませんが。好きにしてください」
「いや、お前が連れてきたからにはただ座らせとくつもりもねーんだろ。どうせ後からネタバラしすんなら最初にやれ」
「あっさすが芹ちゃんわかってる。実はね、香菜子ちゃんは歌って踊れる女優さんなんだよ。古き良きミュージカル映画も少しやれるから、どうかなーと思って」
「マジか! えっ、Singing in the Rainは!?」
「Good Morningならすぐにでも出来ます」
「わかってるじゃねーか! ウェーイ、やるぞー!」
唐突に始まる演奏。これはオレも乗らねばならんのか? ……まあいい、やっておこう。いろいろ小道具や場所が足りないのは勘弁してくださいと綾瀬から断りが入ったところで、歌の男性パートは青山さんがドラムを叩きながら歌っている。
圧倒的な歌唱力に、ダンスにもキレがある。何より春山さんが演奏をしながらご機嫌だということは相当な完成度なのだろう。青山さんが面白いと言って連れてきた理由が少しわかったような気がしないでもない。
「はー、楽しかった! お前やるな!」
「ありがとうございます」
「ね? 芹ちゃん、香菜子ちゃん面白いでしょ?」
「いーや、まだだ。お前がそれだけの理由で連れてくるワケねーもんな。カワイイ面して何か酷い性癖があるとか、ジャガイモが欲しいとか何かまだ裏があるはずだ」
「芋欲しさかどうかはともかく、裏の顔については同感です。青山さんほどの変人が、よほどの同類でもない限り春山さんに会わせる理由はありませんからね」
「リン君言うねえ」
「カナコ、次はもうちょっと衣装を何かしようぜ。とりあえず、ギリギリまでスリットの入ったドレスだな。あとはあれだ、モンローのアレを」
「風はどう調達するんです?」
「私が扇風機で下からこう」
「アンタも大概ではないか」
春山さんがやいのやいのと好き放題言っているが、それを聞いている綾瀬もまんざらでもなさそうな様子なのが不気味だ。演劇や表現に対してはどういう扱いでも構わんというタイプの変態か?
「ええと、春山さんは女性の方……ですよね…?」
「一応な」
「……チラッ」
「おお~、いいねえ~。もう1回!」
「チラチラッ」
「清楚系の皮をかぶった変態だな~、いいね~」
何やら服の隙間から胸元を見せていたようだが、オレと青山さんからは見えないように行われていたことなので、春山さんが喜ぶ様から推測する他にない。ただ、少なくとも綾瀬はそれなりの変態であることが確定した。
「……それで青山さん、今後はどうするんです?」
「なるようになるんじゃない?」
end.
++++
ブルースプリングにカナコをお披露目しないと情報センターにいる理由もないよなあと思い出した結果です
リン春さんにはカナコをとりあえず青山さんの知り合いだからというだけの理由でボロクソに言っていてほしい
そしてカナコは相変わらず先輩さんの影響が強く及んでいるらしい。古き良き作品を摂取するようになったのは先輩さんの影響だ!
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