2018(02)

■趣味とお金と秋の足音

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 コンビニでおでんを売り始めた。そう来たらやることはもちろん晩酌。おでんと焼酎を調達して乗り込んでいたLの部屋に、ちょうど暇だったらしくついでに招集した伊東も到着した。その手には、オレンジの鍋。

「来たよー。お酒飲むだろうから慧梨夏に送ってもらったし、それだったら鍋ごと行けるかなって作ってきたよ」
「何だこれ」
「あっ、まだ開けちゃダメ。調理中だから」
「これで調理が出来んのか」
「真空保温調理鍋っていうんだけど、容器の中に鍋を入れとけば余熱で調理できる的なヤツ」
「あー、これか、宮ちゃんが言ってた何かすげえ鍋とかいうの」
「あ、慧梨夏から聞いてた?」
「電気圧力鍋と真空ナントカに4万出したとか何とか」

 オレンジの鍋の方はまだ調理中ということで、前後不覚にならないよう伊東はオレンジジュースで乾杯。そう、伊東が最近台所関係でデカい買い物をしたという話はチラッと宮ちゃんから聞いていたのだ。
 と言うか、このバカップルの場合元々台所は伊東の独壇場だし好きにさせりゃいいんじゃねえかと。俺が言うまでもなく宮ちゃんもそれを分かっていて、圧力鍋と真空保温調理器について語る伊東は程よくスルーしているそうだ。熱量が凄すぎてついていけないんだと。

「カズ先輩てホント趣味に金出すの惜しみませんよね。こないだもワールドカップのためにテレビ買い替えてませんでしたっけ」
「レコーダーも買ったよな」
「つかお前散在するイメージないけど今年はめっちゃ使ってんな」
「そりゃもちろんやりくりはしてるよ。鍋も2つで4万出したっつってるけど本当はポイント使ってるし」

 伊東は基本的に金遣いは荒くないが、出すところには一切惜しまないという印象だ。テレビとレコーダーの件にしても、今回の鍋の件にしても。もっと先まで遡れば、空気清浄機なんかが挙げられるだろう。除湿・加湿・サーキュレーター機能付きの空気清浄機だっけか。

「え、てか高ピーもLも趣味にお金使わない?」
「俺は先行投資型だな。最初にドンと出して後はそこまで」
「高崎先輩の場合それってベッドの話じゃないすか……」
「いや、今気になってんのはクリーニング屋のシステムでよ」
「えっ、なになに」

 ダウンジャケットやらベストやらを出す関係でたまにクリーニング屋からハガキが来るのだ。そこに書いてあることによれば、布団を家から発送したらクリーニングして、真空パックした状態で送り返してくれるそうだ。
 収納するときに場所を取らないし、真空パックから出した瞬間ふかふかになるとか。これはぜひ一度試す価値はあるんじゃねえかと密かに思っている。布団に掛ける金は惜しくない。人生の何分の一をそこで過ごすと思ってんだ。

「あっ、そろそろいいかな」
「おっ、御開帳か」
「上手く出来てるかなー。そいっ!」
「うわ、めちゃいい匂いじゃねえか」
「いいっすねー、炊き込みご飯すか」
「ここにバターをひとかけ入れて……はい、完成です! バター醤油味のキノコごはんです!」
「伊東お前飯作って来るとか最高かよ」

 真空(略)鍋の中には美味そうなキノコごはん。なるほど、こういうのがちょっと火を入れた後は放置で出来るっつーのは確かにちょっと魅力的だ。部屋には、しばらく放置していたとは思えないほどの湯気と、キノコごはんの美味そうな匂い。
 煮込み料理からデザートまで、いろんなことが出来るんだよと言いながら伊東はキノコごはんを俺たちによそってくれる。電気圧力鍋もあるし、伊東の調理の幅はどんだけ広がってるんだと。次回伊東宅で開催される無制限飲みが楽しみ過ぎる。

「あ、そうそう。高ピー主催のL宅の飲みで白いご飯がないワケないかなーと思って食べるラー油も持って来てみたよ。昨日作ったんだけど、餃子もあるかなと思って」
「お前こんなのまで作るのかよ」
「せっかくカズ先輩のラー油ありますし、餃子やります? 今材料あるんで一応出来ますけど」
「いいじゃねえか、やろうぜ」
「いいね! 俺も手伝うよ」

 何か結局いつも通りの飲みに落ち着いてしまうのだ。ちなみに、コンビニのおでんはとっくの昔に瞬殺されていた。キノコごはんと焼酎もいいが、いつも通りに餃子とビールってのもやっぱり最高だ。秋のビールも売り出され始めたしな。

「あ、つか伊東」
「なに?」
「29日って何曜日だ」
「土曜日だよ。どうかした?」
「いや、その頃になると秋学期も始まってるだろうし、サークルにお前がいるのかいないのかっていう出欠確認的な」
「ご心配どうも。土曜日だから普通に休みだし、俺はそこに向けて一応再節約を始めました」
「宮ちゃんの誕生日プレゼントだのデートプラン等々のアレな」
「真空保温調理器をフル活用することによりガス代の節約にもならないかなーみたいな淡い期待だよ」


end.


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いち氏が先日買ったお鍋やら何やらをフル活用し始めたようです。買ったんだから使わないとね!
高崎とLがコンビニおでんをつついて飲んでるとかいう秋の始めの風物詩になりそうなところに、キノコごはんといち氏を投入。
そういや慧梨夏の誕生日はデート優先なのでサークルもお休みだということを高崎はわかってるんですねw

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