2017

■暴君の抗議許可

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 潰れてしまった伊東をベッドに寝かせ、やれようやく本番だと俺たちは改めて酒の準備をする。少し話を聞いたくらいで伊東の憂さが晴らせたとは思わないが、一人で溜め込むよりはマシだろう。

「ホント、何様なんだろうね三井は」
「今回は付箋と雑記帳以外に被害がなくて良かったと思うしかないな」

 事の発端は日曜日。サークル室に用事が出来てふらりと入ったときのこと。サークル室の中には無尽蔵に付箋が貼り付けられていた。内容はダメ出しの嵐。筆跡は俺の知る限りMBCCの奴ではなかった。
 やれMDストックの保管状況だの、やれ防音対策だの、的外れなことをつらつらと並べ立てられていた。もちろん、付箋はMBCCの備品。俺は何かヒントがないかと雑記帳を開く。すると、土曜日の日付と「三井参上!」の文字。
 向島の三井がウチのサークル室に不法侵入してやがったのだ。確かに合鍵の場所は長年変わっていない。抜き打ち検査のつもりだったのだろう。
 幸い金や付箋以外の備品に被害はなかったが、伊東がキレる寸前。たまたま集まった3年で急遽Lの部屋に乗り込み伊東の憂さを受け止める会的な物が開かれた。

「何か、憶測でしか物事を見られなくてかわいそうですよねあの人」
「だな」
「使えもしない高性能の機材を買ってるのはMBCCじゃなくてヒゲなんですけどねー」

 今回は対策委員で三井のやらかしていることを岡崎と武藤にも聞かせようと果林もこの会に召集した。ウチがヒゲゼミからもらっている機材にもいちゃもんをつけられたことに、果林は呆れた顔をして豆菓子を貪る。

「なに、機材にも文句付けられた?」
「高性能の物を買ってるのに使ってないんだとか、使ってないのはMBCCに技術がなくて使えないからだとか、ウチは少ない機材でもいろいろ出来るけど、緑ヶ丘は金をかけたところで何も出来てない的なことをだな」
「うわ、引くわ。カズもドン引きだったっでしょ?」
「まあな」
「イクに関する物に被害はなかった?」
「今更コイツが絡むモンなんか残ってねえからな。その辺は問題ない。何かの間違いでコートでも置いてあったらズリネタになってたかもしんねえけど」
「ちょっ、高崎ふざけんな!」
「可能性の話をしてんだろうが」

 ちなみに三井はインターフェイスでかなり有名な告り魔だ。武藤からボロクソにフられたのに始まり連敗街道まっしぐら。女と目が合うだけでその女は惚れられるとかはザラらしい。それでいて根底では菜月をキープしてるとかしてないとか。
 武藤を恋愛対象に出来る変態だ、何があったって不思議じゃねえ。伊東にだって宮ちゃんとの夜や体のことばっかり言ってたのもある(それで最終的に伊東がキレたのは思い出すのも恐ろしい事案だ)。

「非童貞が妬ましいのか」
「武藤、お前が一発ヤらせたら少しは大人しくなるんじゃねえのか」
「何でアタシがアイツの筆おろしに協力しなきゃいけないんだ」
「デカくてムケてるってのがアイツの自慢らしいじゃねえか」
「お得意の見栄じゃないの?」
「高崎、そんなことにイクは出せないね」
「って言うか、あの人の場合それでさらに調子に乗りそうじゃないですか?」

 ですよねー、と3年生3人分の声が揃う。三井がイキってるのはヤるヤらないの問題ではなかった。ただ、少し前にも星ヶ丘の女にフられたとか何とかという話を風の噂で聞いた。次はどこが狙われるのか。

「とにかくだ。鍵の場所は変えなきゃいけねえし、物理的に攻めてこられた以上俺は断固抗議する。圭斗に恨みはないが、アイツが向島のトップでインターフェイスのトップだ。アイツにも話を通す必要がある」
「よっ、暴君高崎!」
「あ? 武藤てめェ誰が暴君だ」
「そーゆートコっしょ。はー、自覚ないってこれだからー」
「もう、高崎もイクも。今は仲間割れしてるときじゃないでしょ。L、高崎とイクの気を合わせるヤツ作ってくれる?」
「ビアスプリッツァとかすか」


end.


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会場がLの部屋なのでひっそりとLはいました。ただ、やっぱりLなので存在感は控えめ。ベッドはいち氏に取られるし大変だ。
普段は犬猿の高崎と育ちゃんですが、酒のある現場なので今回は休戦。3年生が4人揃う現場ってーのは何気にめちゃくちゃレアだったりする。5人はもっと揃わないぞ!
そして三井サンのやらかしで高崎から抗議される圭斗さんが完全にとばっちりである。圭斗さん何も悪くないんや……

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