2017

■もしもの窓口

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「どうしたコシ、急に呼び出して」
「いや、ちょっとな。洋平から相談されてて」
「山口がどうしたって?」

 コシから久し振りに飲みながら話でもしないかと呼び出されて出てきた星港市内某所居酒屋。ただ、コシから出てきた名前と俺とはなかなか結びつかないはずだけど、まずは話を聞いてみてからだ。

「洋平がこないだバイト中に聞いちまったんだって、ダイさんと、馬場ちゃんって呼ばれてた人の密会の内容。アイツは基本店の中で聞いたことは黙ってる方なんだけど、内容が内容だけにただ黙ってることも出来なかったらしい」
「ダイさんと馬場さんとか。内容がちょっと読めた。初心者講習会のことじゃねーの?」
「ああ。さすがマー、話が早い」
「で、山口は何を聞いたんだって?」

 手元のビールを煽りながら、コシは聞いたことをゆっくり思い出すようにポツリポツリと言葉を紡ぐ。俺もビールをちびちびと飲んで、それをゆっくり受けていく。

「馬場さんて人が、どうして対策委員が自分のところに来ないんだって不審がってる感じだったって」
「ああ、何か全部三井が窓口になってる感じらしいね」
「どうせやるなら心から望まれてやりたいのにどんな子たちかもわからないし、挙句今のインターフェイスの悪い情報しか入ってこないから気持ちが前向きにならないっていうようなことを」
「あーはいはい、いかにも三井が言いそうなことですよ。今のインターフェイスはやる気ないとかたるんでるとかって言ってんでしょうね」

 山口が見聞きしてしまったという話の内容は、いかにもそれらしい。山口も前対策委員だけにちょっとその件に関しては口を挟みたかったけど、あくまで自分は店の従業員だし仕事中ということで我慢していたようだ。
 話を掻い摘むと、対策委員には馬場さんのことが伏せられているし、馬場さんには対策委員のことが伏せられている。依頼する側とされる側、双方のことをわかっているのは三井だけという状況で、どっちも不安がっているということだ。
 山口によれば、それでなくても三井が首を突っ込んできていることで対策委員の雰囲気が最悪になっているとつばめが言っているそうだ。似たようなことは菜月からも聞いた。三井のおかげで議長の野坂が病み始めている、と。

「――かと言って、定例会でも空気だった俺にはどうしようも出来ないし。だからマーに聞いてもらおうと思って」
「いンや。コシ、俺も今更口出し出来る立場じゃねーのよ」
「わかってる。だけど、何かな。一人で抱えてることも出来なくて。俺よりもお前の方が何かあったときにこの話を生かせるだろうし。口出ししろとは言ってない。ただ、聞いて欲しかったんだ」
「まあ、そうね。俺ならダイさんにもアプローチ出来るし、菜月経由で野坂をフォロー出来る可能性もあるわな。最悪三井をどうにかすることも」
「馬場さんて人、結構怒ってるっぽかったぞ。直接話聞かせてもらえないし、顔も名前も伏せられて、それで当ての外れた講習をしようものなら現役も得しないし自分の名前も傷つくし。二者の間に三井がいても誰も得しないって」

 三井は「対策委員の子たちは人の話を聞かないし、話をしたところで分からないから自分が間にいる」というようなことを言っているそうだけど、俺からすればお前それ特大ブーメランだろと言いたくなる。
 もちろん馬場さんだけじゃなくて現役だって三井の言動に怒りを隠せなくなっている。特に果林・啓子さん・つばめの三人娘がヤバイらしい。つばめが三井に殴りかからないか気が気じゃないって山口が心配してたそうだ。

「向島的には殴ってもらっても構わんよ」
「いや、戸田がそれをやると謹慎どころじゃ済まないしな。戸田がいなくなったら朝霞がショック死する」
「コシ、サンキューね。山口には、最悪の場合村井おじちゃんが裏で動きますって言っといてくれれば」
「ああ、悪いマー。ところで、講習会って3日だよな」
「いや、俺は菜月から10日って聞いてる」
「あれっ、そうだっけ。まあ、菜月の方が確かか。あれっ? 洋平からさ、10日に結婚式がどうとかでおめでとうございます~って枝豆サービスしたとか何とかって聞いたけど」


end.


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村井サンとこっしーさんの密会。情報はどんぶらこっこと村井おじちゃんのところにやってくるようです。
そしてお仕事中の洋平ちゃんである。さすがのダイさんでも4コ下の他校の子まではパッと見でわからないようです。
三井サンの暴走で対策委員の面々が相当キているようだけど、大人の人たちも頭を抱える事態になっているようですね

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