2018(02)
■独自路線の防衛線
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さて、今現在僕の抱える悩み事で一番大きいのは、どうやって増量しようかという話だ。向舞祭が終わって少し実家に戻ったら、母からこう宣告されましたよね。体重50キロを割ったらアパートを引き払ってこの家から大学に通えと。
それだけ僕はこの夏の間にやつれてしまっていたし、体の調子がよくないということも自覚していた。だけど僕は城を失いたくはないのだ。決して実家から大学には通えない距離ではないのだけど、近いとも言えないからしんどいですよね。
「考えようによっては痩せすぎの方が不健康なんだ」
「そうだよね」
「圭斗は見るからに不健康なんだ」
バイト先の同僚に少し相談してみる。痩せすぎの方が不健康、僕は見るからに不健康だと分かり切っていた現実を改めて突きつけられるとまたしんどい物があるね。だけど、僕は何としても太らなければならないのだ。
この同僚、須賀星羅さんは星ヶ丘の薬学部だ。僕よりも健康問題については詳しそうだし、相談する相手としては間違いではないかもしれない。如何せん僕の周りは「量食って解決しろ」という脳筋ばかりだから。
「何とかして過食以外の方法で太りたいんだよ」
「過食までは行かないにしても、食べないと体重は増やせないんだ」
「あ、せっかくだし筋肉をつけてみるのもいいかもしれないね。筋トレで見た目をゴツくすれば少しは誤魔化せないかな」
「筋肉をつけるにもエネルギーが要るんだ! 結論を言えば、食べないと太れないんだ。食べる量が少ないと良くないことはいろいろあるんだ。圭斗が知りたいなら説明するんだ」
「よろしくお願いするよ」
食べる量や摂取カロリーは1日で換算しないといけない。朝食を抜いたり過度に少ない量しか食べていないと、その分を補うのに昼と夜でたくさん食べないといけなくなる。これでは食べる負担が増えてしまうし、空腹の時間に分泌される胃酸で胃腸が弱ってしまうそうだ。
そしてこれがさらなる問題だったりするんだけど、空腹の時間が長くなるとエネルギーを補うために筋肉が分解されてしまうそうだ。僕が見た目からやつれている風に見えてしまっていたのはそういうことなのだろうと納得がいった。元々少ない筋肉がさらに分解されていたのかと。
いや、ちょっと待て。どこぞの某鬼のプロデューサーはステージの準備が切羽詰まって来るとゼリー飲料だけで生きるようになるという話を聞いているぞ? なのに僕よりも痩せ方に悲壮感がないってどういうことなんだ!? 解せぬ。
「早く太りたいんだけど」
「今50キロあるなら長い目で見ればいいと思うんだ! バランスの悪い食事をしていると病気になるんだ。ちなみに、圭斗は胃腸が強い方なんだ?」
「あまり強くはないかもしれないね。今は調子が良くないよ」
「だったら食べてもちゃんと吸収されてないかもしれないんだ。胃腸の調子を整えるにも発酵食品を食べるといいんだ。ヨーグルトとか納豆とか」
「納豆食っときゃ死なない説は万能じゃないか……さすが僕だ、やはり正しい」
「よく噛んで食べるのも胃腸の負担を減らせるんだ。でも、圭斗の場合は満腹中枢を刺激しすぎてもいけないから程々がいいんだ」
これまでの連中が本当にもう「ひたすら食え」みたいな解決方法しか提示してこなかったのに対して星羅のこの説得力だよ。朝食からしっかり食べるとか、納豆やヨーグルトを食べるとか、そんなことなら僕にもすぐに始められそうな感じで素晴らしいじゃないか。
確かにその気になれば量を食べることは出来なくない。三井が完食したことのないたなべの満腹セットだって僕は食べきったことがある。だけど、普段は人並みの量しか食べないし、今はさらに食が細くなっている。いきなり食べるのは苦行でしかないんだよ。簡単なことから始めよう。
「とりあえず、今日はバナナとかヨーグルトを買って帰ればいいんだ」
「こんな時、バイト先がドラッグストアだと最低限の買い物が出来ていいね」
「近頃のドラッグストアはお薬だけじゃなくてみんなの生活に寄り添ってるんだ」
うちの店も例に漏れず、生鮮食品やなんかも売っているタイプのドラッグストアだ。今星羅が言っていたようなバナナや納豆、ヨーグルトはしっかりと揃う。社割も少し利くし寄り道をして帰るのも面倒だからここで買い物をして帰ろう。何度でも言うけど、僕は城を失いたくはないんだ。
これまでにもいろんな人のいろんな食事の仕方を真似してみたけど、これという物がなかったんだ。僕には僕に合う方法がきっとあるに違いないからね。あと、全く運動をしないよりは体を動かした方がいいと星羅先生が仰ったので、たまには自転車に乗ろうと思うよ。
「ところで圭斗はあの子とはどうなってるんだ?」
「ん、まあ、もうすぐ付き合うところまで行きそうだよ。ただ、最近は僕の体力的な問題であまり会えていないんだけど」
「それなら尚更しっかり体を作るんだ!」
end.
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夏は屍と化す圭斗さんですが、ここ最近の年度は50キロを割ると実家へ強制送還ということを本文中で言ってなかったと思うの
というワケでこれまでの年度でいろんなことを試した圭斗さんでしたが、どれも合わなかったようで今年は星羅に相談してみました。
星羅はこういう話には親身になってくれそうですね。でも、興奮してくるとウキウキした話が長くなってくるんだろうなあ!
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さて、今現在僕の抱える悩み事で一番大きいのは、どうやって増量しようかという話だ。向舞祭が終わって少し実家に戻ったら、母からこう宣告されましたよね。体重50キロを割ったらアパートを引き払ってこの家から大学に通えと。
それだけ僕はこの夏の間にやつれてしまっていたし、体の調子がよくないということも自覚していた。だけど僕は城を失いたくはないのだ。決して実家から大学には通えない距離ではないのだけど、近いとも言えないからしんどいですよね。
「考えようによっては痩せすぎの方が不健康なんだ」
「そうだよね」
「圭斗は見るからに不健康なんだ」
バイト先の同僚に少し相談してみる。痩せすぎの方が不健康、僕は見るからに不健康だと分かり切っていた現実を改めて突きつけられるとまたしんどい物があるね。だけど、僕は何としても太らなければならないのだ。
この同僚、須賀星羅さんは星ヶ丘の薬学部だ。僕よりも健康問題については詳しそうだし、相談する相手としては間違いではないかもしれない。如何せん僕の周りは「量食って解決しろ」という脳筋ばかりだから。
「何とかして過食以外の方法で太りたいんだよ」
「過食までは行かないにしても、食べないと体重は増やせないんだ」
「あ、せっかくだし筋肉をつけてみるのもいいかもしれないね。筋トレで見た目をゴツくすれば少しは誤魔化せないかな」
「筋肉をつけるにもエネルギーが要るんだ! 結論を言えば、食べないと太れないんだ。食べる量が少ないと良くないことはいろいろあるんだ。圭斗が知りたいなら説明するんだ」
「よろしくお願いするよ」
食べる量や摂取カロリーは1日で換算しないといけない。朝食を抜いたり過度に少ない量しか食べていないと、その分を補うのに昼と夜でたくさん食べないといけなくなる。これでは食べる負担が増えてしまうし、空腹の時間に分泌される胃酸で胃腸が弱ってしまうそうだ。
そしてこれがさらなる問題だったりするんだけど、空腹の時間が長くなるとエネルギーを補うために筋肉が分解されてしまうそうだ。僕が見た目からやつれている風に見えてしまっていたのはそういうことなのだろうと納得がいった。元々少ない筋肉がさらに分解されていたのかと。
いや、ちょっと待て。どこぞの某鬼のプロデューサーはステージの準備が切羽詰まって来るとゼリー飲料だけで生きるようになるという話を聞いているぞ? なのに僕よりも痩せ方に悲壮感がないってどういうことなんだ!? 解せぬ。
「早く太りたいんだけど」
「今50キロあるなら長い目で見ればいいと思うんだ! バランスの悪い食事をしていると病気になるんだ。ちなみに、圭斗は胃腸が強い方なんだ?」
「あまり強くはないかもしれないね。今は調子が良くないよ」
「だったら食べてもちゃんと吸収されてないかもしれないんだ。胃腸の調子を整えるにも発酵食品を食べるといいんだ。ヨーグルトとか納豆とか」
「納豆食っときゃ死なない説は万能じゃないか……さすが僕だ、やはり正しい」
「よく噛んで食べるのも胃腸の負担を減らせるんだ。でも、圭斗の場合は満腹中枢を刺激しすぎてもいけないから程々がいいんだ」
これまでの連中が本当にもう「ひたすら食え」みたいな解決方法しか提示してこなかったのに対して星羅のこの説得力だよ。朝食からしっかり食べるとか、納豆やヨーグルトを食べるとか、そんなことなら僕にもすぐに始められそうな感じで素晴らしいじゃないか。
確かにその気になれば量を食べることは出来なくない。三井が完食したことのないたなべの満腹セットだって僕は食べきったことがある。だけど、普段は人並みの量しか食べないし、今はさらに食が細くなっている。いきなり食べるのは苦行でしかないんだよ。簡単なことから始めよう。
「とりあえず、今日はバナナとかヨーグルトを買って帰ればいいんだ」
「こんな時、バイト先がドラッグストアだと最低限の買い物が出来ていいね」
「近頃のドラッグストアはお薬だけじゃなくてみんなの生活に寄り添ってるんだ」
うちの店も例に漏れず、生鮮食品やなんかも売っているタイプのドラッグストアだ。今星羅が言っていたようなバナナや納豆、ヨーグルトはしっかりと揃う。社割も少し利くし寄り道をして帰るのも面倒だからここで買い物をして帰ろう。何度でも言うけど、僕は城を失いたくはないんだ。
これまでにもいろんな人のいろんな食事の仕方を真似してみたけど、これという物がなかったんだ。僕には僕に合う方法がきっとあるに違いないからね。あと、全く運動をしないよりは体を動かした方がいいと星羅先生が仰ったので、たまには自転車に乗ろうと思うよ。
「ところで圭斗はあの子とはどうなってるんだ?」
「ん、まあ、もうすぐ付き合うところまで行きそうだよ。ただ、最近は僕の体力的な問題であまり会えていないんだけど」
「それなら尚更しっかり体を作るんだ!」
end.
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夏は屍と化す圭斗さんですが、ここ最近の年度は50キロを割ると実家へ強制送還ということを本文中で言ってなかったと思うの
というワケでこれまでの年度でいろんなことを試した圭斗さんでしたが、どれも合わなかったようで今年は星羅に相談してみました。
星羅はこういう話には親身になってくれそうですね。でも、興奮してくるとウキウキした話が長くなってくるんだろうなあ!
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