2018(02)
■班長って難しい
++++
準備はあれだけバタバタしていた夏合宿も、当日の2泊3日は終わってみれば本当に一瞬だったように思う。反省会や会計処理を終えてようやく落ち着いたから、夏合宿の同録でも作るかーと大学にやって来た。
と言うか、未だに番組の同録はMDでコピーすんのってどうなんだろ。同録をコピーするにはその時間だけトラックを再生し続けなければならない。つまり、あと5枚分アタシは3班の番組を聞き続けなければならないのだ。
ウチの部で占拠しているミーティングルームに来てみると、部屋の鍵が開いていた。普段は歩くことのない部屋をぐるりと回ってみる。しっかりと整頓された監査席の上には「部室にいます」と書置きがされてあった。
いや、マジかよ。アタシ同録コピーしたいんですけど。まあ、ぶっちゃけ部室じゃなくたっていいんだけどね。最悪局でパパーッとやっちゃえばいいんだし。こんなとき、バイト先がラジオ局だとラクだわ。
――ってそうじゃないそうじゃない。宇部恵美が部室にいるのか。めんどくせー……でも、どっちにしたって対策委員の活動報告を入れなきゃうるさいしな。どうせなら今のうちにやっとくか。
「宇部恵美、いる?」
「あら、戸田さん」
「ってか何やってんの?」
相変わらず埃っぽい部室で、宇部恵美は電気も付けずに何かを聞いているようだった。ラジオ番組だろうか。よくよく聞けばそれはマリンの声だとわかる。
「浦和さんが夏合宿の同録を持って来たから、それを聞いているところよ。あなたが機材を使いたいのであればすぐに退くわ」
「機材は使うけど、別に急がないから。マリンのパートってことはあと30分もないし。ついでだから対策委員の活動報告していい? 合宿も終わったことだし」
「そうね、それなら報告は今受けるわ」
5班の番組をBGMに、対策委員の活動報告が始まった。内容は、8月末に2泊3日の日程で行われた夏合宿での講習内容やモニター会について。それから、現場で放送部の部員はどんな様子だったかというようなこと。
言ってしまえばインターフェイスはこの腐った部活みたくアホみたいなことは本当に数えるくらいしかない。強いてそれを言うとすればアタシの班がそうだったくらいで、他の班は至極平和で建設的だったと思う。
「浦和さんはどんな様子だったかしら」
「監査サマ、自分トコの班員の様子だけ特別に聞く? 情報料、高いよ」
「最初に私を呼び捨てたのを見逃してあげるわ」
「何だ、言わないからいいのかと思った。マリンの様子なら、番組聞きゃわかるっしょ?」
「ええ。この夏合宿でいろいろな物を得たようね。出してよかったと思うわ」
最初は浦和茉莉奈という扱いに困る1年が幹部系の班なのに出て来るのかと困惑はした。だけど、最終的にインターフェイスに馴染んでたし、番組を聞く限りまあまあよくやってたんじゃないかなと思う。野坂が上手く扱ってたんだよね。
「あなた自身はどうだったのかしら。三井というインターフェイスの爆弾を抱えて」
「とりあえず、班の副班長と一緒に青女さんに謝りに行って来た」
「何かあったのね」
「……それ終わったらこれ聞いて。聞いたらわかるから」
本来は自分の口で報告をしなければいけない。だけど、経緯を一から話すのはしんどいと言うか。だから、同録を宇部恵美に託した。聞けば多分、この人なら察するだろうから。
あの後、ミラは青女のサークルを辞めることにしたそうだ。その話を啓子さんから聞いて、青女の偉いサン……紗希サンとヒビキさんにそこに至るまでの経緯だとかを話した。結局、アタシはミラを守れなかった。それを謝りに行って。
基本アタシは押せ押せのスタイルだし、クソみたいな3年には慣れてたけど守り方は知らなかったのだ。いつだってアタシは自分の知らないところで誰かから守られてばかりいたから。守られてたから好き放題やって来れてたことを今になって知ったワケで。
「班長って難しいわ」
「あら、珍しいわね。あなたがそんな弱気だなんて」
「うるせーよ。この件はアタシの中でまだ解決してねーんだ」
「この件を引き摺るのもあなたの自由だけど、2ヶ月先のことも少しずつ考え始めることをお勧めするわよ」
「学祭のステージね。はいはい。枠くれんならな」
「その後の話よ。あなたもブレないわね。さすが朝霞班と言ったところかしら」
「バカにしてんの?」
「いいえ。でも、本格的な準備期間に入ったら、あなたの班長は先のことなんか考えさせてくれないわよね」
ステージのことだけ考えろというのが班長の口癖みたいなモノで。Pからの要求に応えようとすれば、それ以外のことを考える隙も暇も与えられないと言う方が正しい。2ヶ月先。ステージの後のこと。多分だけど、アタシが先頭に立つであろう班のこと。
「って言うか、既にラジドラの音源探すよう言われてんだよな作品出展の」
「台本も提出していないのに、気が早いわね相変わらず」
班員のことや自分の考え、それから周りとの兼ね合い。そんなような物を見ながらバランスを取って、かつ突き進むことの難しさはよーくわかった。同じ過ちは繰り返すまい。いずれ来るその日に刻め。
end.
++++
夏合宿が終わり、監査の宇部Pがつばちゃんの味方であるのもここまで。星ヶ丘の日常に戻っていきます
つばちゃんは朝霞Pなりうお姐なり、行く先々にいる人から守られて現在のような感じでいられているのです
3年生の引退で洋朝がいなくなって、いざ自分が班を背負って立つことになったとき、つばちゃんは何をどう考えるのでしょうか
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準備はあれだけバタバタしていた夏合宿も、当日の2泊3日は終わってみれば本当に一瞬だったように思う。反省会や会計処理を終えてようやく落ち着いたから、夏合宿の同録でも作るかーと大学にやって来た。
と言うか、未だに番組の同録はMDでコピーすんのってどうなんだろ。同録をコピーするにはその時間だけトラックを再生し続けなければならない。つまり、あと5枚分アタシは3班の番組を聞き続けなければならないのだ。
ウチの部で占拠しているミーティングルームに来てみると、部屋の鍵が開いていた。普段は歩くことのない部屋をぐるりと回ってみる。しっかりと整頓された監査席の上には「部室にいます」と書置きがされてあった。
いや、マジかよ。アタシ同録コピーしたいんですけど。まあ、ぶっちゃけ部室じゃなくたっていいんだけどね。最悪局でパパーッとやっちゃえばいいんだし。こんなとき、バイト先がラジオ局だとラクだわ。
――ってそうじゃないそうじゃない。宇部恵美が部室にいるのか。めんどくせー……でも、どっちにしたって対策委員の活動報告を入れなきゃうるさいしな。どうせなら今のうちにやっとくか。
「宇部恵美、いる?」
「あら、戸田さん」
「ってか何やってんの?」
相変わらず埃っぽい部室で、宇部恵美は電気も付けずに何かを聞いているようだった。ラジオ番組だろうか。よくよく聞けばそれはマリンの声だとわかる。
「浦和さんが夏合宿の同録を持って来たから、それを聞いているところよ。あなたが機材を使いたいのであればすぐに退くわ」
「機材は使うけど、別に急がないから。マリンのパートってことはあと30分もないし。ついでだから対策委員の活動報告していい? 合宿も終わったことだし」
「そうね、それなら報告は今受けるわ」
5班の番組をBGMに、対策委員の活動報告が始まった。内容は、8月末に2泊3日の日程で行われた夏合宿での講習内容やモニター会について。それから、現場で放送部の部員はどんな様子だったかというようなこと。
言ってしまえばインターフェイスはこの腐った部活みたくアホみたいなことは本当に数えるくらいしかない。強いてそれを言うとすればアタシの班がそうだったくらいで、他の班は至極平和で建設的だったと思う。
「浦和さんはどんな様子だったかしら」
「監査サマ、自分トコの班員の様子だけ特別に聞く? 情報料、高いよ」
「最初に私を呼び捨てたのを見逃してあげるわ」
「何だ、言わないからいいのかと思った。マリンの様子なら、番組聞きゃわかるっしょ?」
「ええ。この夏合宿でいろいろな物を得たようね。出してよかったと思うわ」
最初は浦和茉莉奈という扱いに困る1年が幹部系の班なのに出て来るのかと困惑はした。だけど、最終的にインターフェイスに馴染んでたし、番組を聞く限りまあまあよくやってたんじゃないかなと思う。野坂が上手く扱ってたんだよね。
「あなた自身はどうだったのかしら。三井というインターフェイスの爆弾を抱えて」
「とりあえず、班の副班長と一緒に青女さんに謝りに行って来た」
「何かあったのね」
「……それ終わったらこれ聞いて。聞いたらわかるから」
本来は自分の口で報告をしなければいけない。だけど、経緯を一から話すのはしんどいと言うか。だから、同録を宇部恵美に託した。聞けば多分、この人なら察するだろうから。
あの後、ミラは青女のサークルを辞めることにしたそうだ。その話を啓子さんから聞いて、青女の偉いサン……紗希サンとヒビキさんにそこに至るまでの経緯だとかを話した。結局、アタシはミラを守れなかった。それを謝りに行って。
基本アタシは押せ押せのスタイルだし、クソみたいな3年には慣れてたけど守り方は知らなかったのだ。いつだってアタシは自分の知らないところで誰かから守られてばかりいたから。守られてたから好き放題やって来れてたことを今になって知ったワケで。
「班長って難しいわ」
「あら、珍しいわね。あなたがそんな弱気だなんて」
「うるせーよ。この件はアタシの中でまだ解決してねーんだ」
「この件を引き摺るのもあなたの自由だけど、2ヶ月先のことも少しずつ考え始めることをお勧めするわよ」
「学祭のステージね。はいはい。枠くれんならな」
「その後の話よ。あなたもブレないわね。さすが朝霞班と言ったところかしら」
「バカにしてんの?」
「いいえ。でも、本格的な準備期間に入ったら、あなたの班長は先のことなんか考えさせてくれないわよね」
ステージのことだけ考えろというのが班長の口癖みたいなモノで。Pからの要求に応えようとすれば、それ以外のことを考える隙も暇も与えられないと言う方が正しい。2ヶ月先。ステージの後のこと。多分だけど、アタシが先頭に立つであろう班のこと。
「って言うか、既にラジドラの音源探すよう言われてんだよな作品出展の」
「台本も提出していないのに、気が早いわね相変わらず」
班員のことや自分の考え、それから周りとの兼ね合い。そんなような物を見ながらバランスを取って、かつ突き進むことの難しさはよーくわかった。同じ過ちは繰り返すまい。いずれ来るその日に刻め。
end.
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夏合宿が終わり、監査の宇部Pがつばちゃんの味方であるのもここまで。星ヶ丘の日常に戻っていきます
つばちゃんは朝霞Pなりうお姐なり、行く先々にいる人から守られて現在のような感じでいられているのです
3年生の引退で洋朝がいなくなって、いざ自分が班を背負って立つことになったとき、つばちゃんは何をどう考えるのでしょうか
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